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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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魔王復活 四

人物紹介のページを更新いたしました。

飯野まこと先生、ありがとうございます。
【ソフィアちゃん視点】

 観念したメイドは、全てを白状致しました。

 それはもうゲロゲロと吐かせて頂きました。当然、執務室の床に土下座です。必至に頭を下げました。お粉を大聖国で手に入れましたこと。それをドラゴンシティに持ち帰りましたこと。最後にこれを紛失してしまいましたこと。

 同時に覚悟を決めまして、エルフさんとゴンザレスさんの目前、お母さん状態のドラゴンさんに事情の確認を行わせて頂きました。彼女もまたメイドの不手際の被害者なのです。罪悪感が恐怖に勝った次第です。

 すると一つだけ、ほんの一つだけ、良いニュースがございました。

 ドラゴンさんにお腹の中のお子さんのお父さんを確認したところ、タナカさんのお名前が出てきたのです。良かったです。首の皮一枚繋がりました。もしもどこの誰とも知れない男性の子供であったのなら、メイドは間違いなく極刑でした。

 ただ、それはそれで問題なのが昨今のドラゴンシティです。

「本当にあの者の子供なのかっ!?」

 エルフさんが吠えております。

 お顔が真っ青です。

 対するドラゴンさんはとても幸せそうです。

 ほっぺをプニプニとさせながら答えます。

『ふふ、ふふふ、そうだぞ? アレとのこどもだなのだぁ』

「ぐっ……」

 なのだぁ、です。

 ドラゴンさん、なのだぁ、です。

 お粉、危険です。

 ドラゴンさんでさえ、この有様です。

 場所は変わらず応接室、テーブルの上にはドラゴンさんから回収されたお粉があります。残量こそ大したものではございませんが、真偽を判断するには十分な量でした。博識なエルフさんにご確認願ったところ、間違いないとのお達しです。

 かなり上等な品だそうです。

 恐らくドラゴンさんは、出発前のタナカさんと致してから、本日まで塔の上、お一人で拾ったお粉を楽しんでいたのでしょう。何故ならばメイドがお粉を紛失したのは、タナカさんが出発して以降となります。その点も既にお伝えさせて頂きました。

 おかげで首の皮一枚、メイドの生命は繋がりました。

「あの、ド、ドラゴンさんのような方でも、こういった薬というのは……」

「酒と同じだ。自ら望めば如何様にでも楽しめる。散らすことも然り。このドラゴンにとっては都合の良いものであったのだろう。でなければ、こうまでも見事に惚けることあるまい。まあ、わ、私も若いころに手を出したことはあるから、分かる」

「そ、そうなのですね……」

 エルフさん、とてもお詳しいです。

 また一つ勉強になりました。

 やっぱり誰しも一度は興味を持たれるのですよ、お粉。

 大丈夫です、私はまだ普通です。

「そう気にするもんじゃねぇよ、嬢ちゃん。この手の薬なんて、うちのクランでも隠れてヤッてる連中はいる。それに薬を紛失したのは旦那が発ってからなんだろう? だったら町長の腹の具合も、本人たちの合意の上ってやつだろう」

「……あの、そ、そういうものでしょうか?」

「たままあ、今回限りにしておくべきだと俺は思うぜ? 若い内はな」

「は、はひぃっ」

 ゴンザレスさんに慰めと戒めのお言葉を頂戴いたしました。

 ありがとうございます。

 これほど誰かからの気遣いに喜んだことはございません。

「にしても随分と幸せそうな顔をしてるじゃねぇか。こんな町長は初めて見るぜ」

「幸せだろうが何だろうが、こ、このままというのも問題だ!」

「しばらくすりゃあ薬の効果も切れるんじゃねぇのか? こうして自分の足で塔から降りてきたんだ。一晩も寝かせれば、すぐに元の町長に戻るだろうよ。薬も混ぜモノの少ない上等なもんだ。そう後を引くもんじゃねぇ」

「も、も、問題は子供の方だっ!」

 エルフさんの表情が極めて厳しいです。

 珍しくもゴンザレスさんが気圧されております。

「だめだ! が、我慢ならん! 奴に直接確認しにいくっ!」

「おいおい、流石にそれは……」

『行くー……?』

「全員だ! 全員でいくぞぅっ!」

『こどもー……こどもがいるからー……あんまり動くのはー……あぅおおあ!?』

 エルフさんがドラゴンさんを魔法で浮かべました。

 かと思えば、次の瞬間、周囲の光景が一変しました。多分、空間魔法と呼ばれる魔法でしょう。縦ロールさまのお付のイケメンさんが、割と日常的に利用されているので、私も覚えがございます。

 気がつけば、我が身はお空に浮かんでおります。

 遥か眼下に町並みが広がっております。

 覚えのある建物の並びは間違いありません、首都カリスです。

 あぁ、どうしましょう。

 段々と話が大事になっていってしまっております。



◇◆◇



 王女様が用意した馬車に乗り込み、一路、飛空艇の乗り場へ。

 共連れは彼女の他、メルセデスちゃん、ノイマン氏の二名である。可能であれば、姫ビッチ伯爵令嬢にもお声掛けしようかと思った。ただ、本人の所在が知れない昨今、姫さま経由でご連絡を入れるに控えておいた。後で個別に対応しよう。

 そんなこんなで我々は貴族街を馬車に揺られている。

 ちなみに席の配置はと言えば、近衛レズと王女様、醤油顔とノイマン氏のペアで横並び。これが互いに向かい合わせとなる形だ。王族仕様の馬車は豪華なもので、席と席の間にはテーブルなど設けられており、綺麗な花など飾られている。

「タ、タナカ、確認したいことがあるのだが……」

 醤油顔に声を掛けるノイマン氏。

 チラリチラリ、王女様に視線など送りつつのこと。

「なんでしょうか?」

「貴様は処刑されたのではなかったのか? 数日前、私もあの広場に居たのだ。そ、そちらにいらっしゃる近衛騎士様の手により、首を跳ねられた貴様の姿を、私はこの目で確かに見たのだ」

「なるほど」

「だというに、な、何故にその貴様が騎士様と、更には王女殿下と……」

「細かいところを省いて説明すると、王女殿下とは協力関係にあります。近衛である彼女とも然り。一時的なものではありますが、当面は共に行動することとなりました。処刑に関しては、一種のヤラセだと思って頂ければ」

「……そ、そうだったのか」

 もしかしてノイマン氏、心配してくれていたのだろうか。

 だとしたら、なんかメッチャ嬉しいぞ。

「勝手に色々と進めてしまい、申し訳ない限りです」

「いや、い、いいのだ。そういうことであれば」

「当面は我々の街に戻り、様子を見ることとなります。魔王からの攻撃が一段落するまで、守りに入るつもりです。ノイマンさんにもお声掛けしようと思っていたので、王女殿下が連れて来て下さったのは幸いでした」

「あら、そうだったのですね? それは良いことをしましたわ」

「ありがとうございます」

 ノイマン氏は未だに納得の行かなそうな顔をしている。ただ、王女様の目前、それ以上の追求は及ばなかった。細かな点に関してはドラゴンシティに戻り次第、ゴンちゃんやソフィアちゃん、ロリゴンを交えてご説明させて頂こう。

「それにしても顕著なものだな……」

 馬車の窓から街を眺めつつ、メルセデスちゃんが呟いた。

「というと?」

「この時間帯ならば、普段ならもう少し賑やかなものなのだが」

「プッシー共和国の件は、貴族の間では既に周知なのですね」

「機微に優れた商人の類を伝い、数日後には市井にも話が流れ始めるだろう。そうなると人口の多い首都カリスがどうなるのか、流石に想像がつかん。逃げ出すべく動くか、これをチャンスだと考えて他に手を打つか」

「過去にこのような事はなかったのですか?」

「そのような話は聞いたことがないな。あっても御伽話の出来事だ」

 なるほど。

 そりゃ確かにどうなるか分からない。

 未曾有の出来事ってやつだ。

「……あら、あれはなんでしょう?」

 適当を語りあう醤油顔とメルセデスちゃん。その傍らで王女様が口を開いた。馬車の窓から、外を眺めてのことである。なんだろう。我々もまた自然と釣られて、彼女の指し示す方向に視線を向ける。

 すると意識が向かった先には、おい、ちょっと待てよ。

「なっ……」

 首都カリスの中央。

 お城の上空に浮かび上がる、巨大な魔法陣の姿があった。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 場所を首都カリスの上空に移して直後、私たちは異変に気づきました。

「お、おい、嬢ちゃんたち、ありゃなんだっ!?」

 最初に声を上げられたのはゴンザレスさんです。

 その指先が指し示す先、首都カリスの中央に所在するお城の上空、空の一面に巨大な魔法陣が浮かび上がっております。真っ赤な輝きに彩られたそれは、お城全体を飲み込んで有り余るほどの大きさです。

「なっ……」

 応じて、エルフさんのお口からうめき声が上がりました。

「え? あのっ、な、なにかっ……」

 メイドは戸惑ってしまいます。

 魔法にお詳しいエルフさんですから、そんな彼女が驚かれるほどの凄い代物なのでしょう。いえ、見れば分かると言われれば、その通りだと思います。とても大きくて、禍々しいまでに真っ赤な魔法陣なのですから。

「おいおい、こりゃあなんの騒ぎだ?」

 ゴンザレスさんの表情も強張って思えます。

 それでも口調に余裕を見せているのは、恐らく彼が大勢の仲間を率いる大規模クランのリーダーだからでしょう。どういったときも他者から見られることを意識した立ち振舞い、とても格好が良いです。

「城が落ちるぞっ!? あれが発動したら、我々も無事では済まん!」

「本当かっ!? エルフの嬢ちゃんっ!」

「極大魔法だっ! どこの誰だっ! 国の中枢を吹き飛ばすつもりかっ!?」

「まさか、タ、タナカの旦那かっ!?」

「いやまさかっ! あの魔法陣は恐らく、魔族によるものだ」

 メイドは聴き逃しません。

 このままでは私たちもまた危険だそうです。そうと分かれば、すぐにでも離脱するべきでしょう。しかしながら、エルフさんの魔法により空に浮かんだ現状、メイドは手も足も出ません。自らの力では動くことすら侭なりません。

「み、見ただけで、分かるものなのか?」

「構造を読み解けば、多少は見えてくるものがある」

「す、すげぇな、アンタ……」

 ゴンザレスさんがエルフさんを見なおしていらっしゃいます。

 思い起こせばへっぽこなところばかり露見していた彼女ですから。

「あの魔法陣は構造からして、十中八九で超長距離からの行使だ。ヤツの言葉が正しいのならば、蘇った魔王からの攻勢と考えるのが無難なところだろう。恐らく、遠方から人の里を焼いて、戦力と戦意を削ごうという算段だろうな」

「当代の魔王様は随分と慎重じゃねぇか」

「結果として城が落ちたのでは堪らないだろう」

「なんとかならないのか?」

「なんとかしたいところではあるが……」

 ゴンザレスさんとエルフさんの間で、格好の良いお話が交されております。メイドとしてはこれ以上、悠長にお話などしている場合ではないと思うのですが。ああ、でも、首都に所在する実家を思うと、ちょっと複雑な気持ちになってきました。

 もしかして、被害はお城以外にも及ぶのではないかと。

 そうこうする内に、お空に浮かんだ魔法陣の輝きが強さを増してゆきます。その表面では無作為に光が走ると同時、ぱちぱちと火花のようなものが迸っております。時折、面から離れたそれが、地上に飛沫を散らしては城壁や地面をえぐります。

 準備している最中でもこの有様です。

 ズドンと来たら、どうなってしまうのか。

『こ、こどもがー……こどもがいるのに……こんな……こんな……』

 ふと、視界の隅でドラゴンさんがプルプルと震えていらっしゃいます。

 とても大切そうにお腹を抱えていらっしゃいます。そのお顔は今にも泣き出しそうです。きっと、お腹の中のお子さんを気遣っているのでしょう。この上なく母性を刺激される光景です。どうにかして守りたくなります。

『うぅ……こどもぉ……わたしのこども……こどもぉ……』

 とても困った様子です。

 右を見て、左を見て、おろおろとされています。

 今すぐにでも抱きしめてあげたい衝動に駆られました。

 ただ、しばらくを震えたところで、ふいに動きが止まりました。

 お顔が伏せられます。

 どうしたのでしょう。

 私の他にエルフさんやゴンザレスさんも、彼女の動向に注目です。

 ややあって、その顎がクイ勢い良く上がりました。

 そのお顔は伏せられた際とは異なり、強い意志の感じられるものでした。なにやら決意して思われるものでした。大切そうに両手でお腹を抱きながら、それでもキッと鋭い眼差しで、空の一角を見つめていらっしゃいます。

 悲痛な面持ちが、一変して覚悟を決めた母親の顔というやつです。

 そして、ドラゴンさんが注目する先、そこには真っ赤な魔法陣があります。

『こども……かわいい……こども……まもらないと……』

「……あ、おい」

 ドラゴンさんに変化が訪れました。

 それは非常に顕著なものでした。

『こども……わたしの……たいせつな……こども……たすけないと』

 お身体がキラキラと輝き始めました。

 空に浮かんだ魔法陣にも増して、煌々と光を発し始めたのです。

 まるで日の光の源が、地上へ落ちて来たようでした。皆さん、あまりのまばゆさに目を細めます。当然、メイドも両手で頭を抱えて、身を守るように背中を丸めます。

 そこでふと、目の前の現象に疑問を覚えました。メイドはこの光景に覚えがございます。過去にも同じように、ドラゴンさんを正面にして目を瞑ったことがありました。

 輝きはしばらく続きました。

 やがて、多少ばかりを過ごし、瞼越しに感じる白が遠退いてゆきます。

 もしかしたら。

 そんな思いと共に目を開きます。

 すると、そこには想像したとおりの光景がございました。

『グルルルルルルルルルルル』

 ドラゴンさんです。

 ドラゴンの姿をした、ドラゴンさんがいらっしゃいました。

 とても久しぶりに思えます。

 ここ最近はずっと人の姿をしていらっしゃったので。

「お、おいっ! 何をするつもりだっ!?」

 エルフさんが叫ばれました。

 しかしながら、彼女の声はドラゴンさんに届いた様子がありません。

 ドラゴンさんの顎が大きく開かれました。人間どころか眼下に並べる大きな建物ですら、丸飲みにしてしまいそうな、とても大きな顎です。ズラリと並んだ歯の一本一本が、私たちの身体よりも大きいから、もう、迫力であります。

『わたしの、こどもっ、こ、こ、こどもっ……たいせつな、こどもっ……』

 ドラゴンさんの正面に黄金色の魔法陣が浮かび上がりました。

 今し方に開かれたお口の正面です。お城の上に浮かんだ真っ赤な魔法陣に対して、その平らな面を向ける形でしょうか。中央では同じ黄金色の光が集まり、球となり、段々とその大きさを膨らませてゆきます。

「お、おい、町長っ!?」

「くっ、まさか相殺するつもりかっ!? 不可能だっ!」

 ゴンザレスさんとエルフさんも大慌てです。

 しかし、如何に慌てようとも、母性に目覚めたドラゴンさんは止まりません。

 やがてその時は訪れました。

 お城の上に浮かんだ魔法陣が一際強く、ドクンと脈打つように輝きました。

 直後、表面から真っ赤な光の奔流が溢れ出します。

 よもやこれまでかとメイドは放尿であります。

 いざ、プシッとみずみずしい感触が太股を伝わらんとした瞬間のこと、ドラゴンさんにも反応がありました。真っ赤な魔法陣の変化に合わせて、大きく開かれていた彼女の巨大な顎が、殊更に開かれます。

 同時に耳を劈くほどの咆哮が走りました。

『わたしのこどもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

 母親の愛が、子供を慈しむ心が、発せられました。

 それは彼女のお口の正面に設けられた魔法陣から撃ち放たれて、巨大な光の奔流となり、お城の上空に浮かんだ真っ赤な魔法陣へ向かいました。

 対して同所には、今まさに撃ちだされた赤い輝きが。

 その全てをドラゴンさんの元より放たれた、黄金色の輝きが真横から飲み込むよう、凄まじい勢いで浚ってゆきます。

 ビリビリと大気が震えております。

 これを眺めるメイドのお腹の内側まで震えてきます。

 今まさにお城やその周辺へ伸びた赤い輝きは、しかし、目的とする地点まで辿り着くことなく、一切合財がドラゴンさんの黄金色に吹き飛ばされました。

 真っ赤な輝きが、明後日な方角へ散らされていきます。

 すごいです。

 ドラゴンさん、すごいですよ。

「こ、これがエンシェントドラゴンのブレスかっ……」

「おい町長っ! ま、まさか城まで壊したりしないよなっ!?」

 エルフさんとゴンザレスさんも驚愕でしょうか。

 赤い光は本懐を達するべく荒れ狂っております。バチバチと火花を散らして、その輝きを地上へ達するべくもがき苦しんでいるようにも思えます。

 その全てをドラゴンさんの発した輝きは、尽く飲み込んでゆきました。

 ただただ、圧倒的な光景でした。



◇◆◇



 魔法陣だ。巨大な魔法陣がお空に浮かんでいる。

 詳しいところは知れないけれど、魔王様の脅威が首都カリスまで至ったのは間違いなかった。プッシー共和国の首都を襲った極大魔法というのが、今まさにペニー帝国を襲うべく起動したのだろう。

 これはまた想像した以上である。

「すみません、あれの対応に向かいます!」

 大慌てで空に飛び立つ。

 ただ、飛び立った後で思い出す。

 何が飛び出してくるか分からない魔法陣を相手に、自身が取り得る手はどの程度あるだろうか。まさかファイアボールを呼び出したところで、どうにかなるとも思えない。下手をしたら被害は増大だ。

 だからといって、回復魔法で対応できるとも思えない。

 怪我人を癒やすのであれば十分な威力があるけれど、恐らく空に浮かんだあれは、こちらに被害者の治癒を許すだけの猶予を与えないだろう。喰らったが最後、肉の一欠片も残らない気がする。それでは意味が無い。

 つまり、新しいスキルを覚える時が来たわけだ。

 スキルウィンドウだ。スキルウィンドウ、カモン。



パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax

 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv125
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55
 土木魔法:Lv10

残りスキルポイント:105



 よし、来てる。

 こいつを――。

 何某か防御的な魔法へ投入すべく意識したところだった。

 不意に空の一角から眩い輝きが放たれた。

 何事かと意識を向ける。

 すると、そこには巨大なドラゴンが浮かんでいた。

「なっ……」

 覚えがある姿だ。

 もしかして、ロリゴンだろうか。

 たぶんそうだろう。

 こんなにでっかいドラゴン、他に知らない。

 しかし、何故に彼女がここにいるのだ。

 あれこれ疑問に思ったところ、先方に反応があった。何をするつもりだと身構えたところ、その巨大な口が開かれた。併せて正面、彼女の大きな肉体に迫る規模で魔法陣が生み出された。それも金ピカの。

 まさか、対処するつもりだろうか。

 疑問に思ったのも寸毫のこと、間髪を容れず咆哮が発せられた。

『こどもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

 鼓膜が破れるかと危ぶまれるほどの声量だった。

 思わず両手に耳を抑えてしまった。

 同時、彼女の口元から金色の輝きが発せられた。それは空に浮かんだ真っ赤な魔法陣に向かい一直線で突き進む。もしも地上に放たれたのならば、首都カリスに立ち並んだ貴族たちの屋敷を、幾つも纏めて飲み込んでしまえるほどの規模だ。

 子供という響きが若干気になる。

 子連れだったのだろうか。

 もしかして、魔導貴族とヤッちゃった系だろうか。

 分からない。

 だた、そうだとすれば、ちょっと悔しい。

 いいや、めちゃくちゃ切ない。

 ただ、それ以上に気になるのは赤と金の交わる先だ。

「おぉ……」

 ロリゴンの放った一撃は、見事に魔王様の魔法を捉えていた。

 今まさに首都カリスで荒ぶるべく発せられたところが、尽く根っこの部分で彼女の魔法により吹き飛ばされていく。防壁魔法を張るべく考えていた醤油顔だが、クリスティーナが選択した方法は、より効率的な代物であった。

 それは正しく問答無用だった。

 ロリゴン、すげぇ。

 思い切りの良さが功を奏してだろう。

 しばらくして、真っ赤な魔法陣は輝きを失っていった。

 その些末な飛沫の最後が失われるに応じて、ロリゴンから発せられていた魔法もまた勢いを落としてゆく。目を瞑りたくなるほどの光と光のぶつかり合いは、数分ばかりを経たところで完全に収束を見せた。

 お城の上空にあった魔法陣が消え失せる。

 これを見届けたところで、ロリゴンの身体にも変化が。

 その巨漢が眩い輝きに包まれた。

 かと思えば、次の瞬間、音もなく消失する。

 恐らくは幼女モードに戻ったのだろう。

 目を凝らしてみると、そこに全裸のロリータが確認できた。

 流石に遠くて、スージーまでは見えない。

 万が一にも負傷していたり、前後不覚になっていたりしたら大変だ。わざわざドラゴンシティを発って、首都カリスに出張ってきた理由も気になる。

 急いで彼女の下へ向かわないと。



◇◆◇



 地上に向かい落ちゆくロリゴン。

 彼女の下へ急ぎ身を飛ばせたところ、向かう先、エディタ先生の姿が現れた。どこからともなく現れたのだ。キモロンゲの転移魔法を髣髴とさせる瞬間移動である。そして、今まさに地上へ向けて落ちゆくをロリゴンを見事キャッチする。

 折角の見せ場を先生に奪われてしまったぜ。でも、全然悪い気がしないのは、ロリがロリを抱くビジュアルが素晴らしいからだ。意識を失って思えるロリゴンの存在も相まって、先生の凛々しさが三割増し。

 エディタ先生がクリスティーナをお姫様抱っことか、貴重過ぎるじゃんね。

 思わず見惚れていると、少し離れたところから、ゴンちゃんとソフィアちゃんがフヨフヨと漂ってきた。二人とも魔法の類は使えない筈なので、恐らくは先生が操作しての移動と思われる。

「本当に相殺するとは、流石はエンシェントドラゴンといったところか……」

 今の今まで魔法陣が浮かんでいた辺りを眺めて、エディタ先生が呟く。

 酷く驚いた様子だ。

 とりあえず、その下まで飛んでゆこう。

 すると、面々はすぐに接近するブサメンに気づいた。

「お、旦那じゃねぇかっ!」

 最初に気づいたのはゴンちゃんだ。

 今の今までエディタ先生と同じ方を見ていた彼だが、こちらの顔を確認したところで、ニカッと景気の良い笑みを浮かべては、朗らかに声を掛けてくれる。どんな時でも笑みと余裕を忘れないイケメンだよ。

「無事でしたか? まさか、昨日の今日でペニー帝国にまで攻勢が及ぶとは思いませんでした。こちらの想定より、当代の魔王は勢いがあるのかもしれません」

「やはり今のは、当代の魔王による一撃か?」

「ご存じないかもしれませんが、実は同じものがプッシー共和国の首都を直撃しております。際しては王城が一撃で粉砕されたのだとか」

「おいおい、流石にそりゃ洒落にならねぇだろ」

「ですから私も大急ぎで街に戻ろうとしていた最中、この有様です」

 自然と意識が向かった先は、エディタ先生に抱かれたロリゴンだ。

「クリスティーナさんは大丈夫でしょうか?」

 先生に抱かれたまま、グッタリとしてピクリとも動かない。もしかして、今し方のは命をかけた渾身の一撃とかだったりするのだろうか。だとすれば、なんだろう、こう、無性に申し訳ない気持ちと愛しい気持ちとが溢れてくるのだけれど。

 無性に抱きしめたい。

「い、いや、恐らくは薬の摂り過ぎだろう。気持ちが良くなって、気分任せに暴れて、プツンと切れたように思われる。たぶん、一眠りすれば回復するだろ……ん?」

「薬というと?」

 予期せぬ単語に自然と口が動いた。

 ただ、そうしたこちらの言葉も間々ならぬ様子で先生が吠えた。

「おい、は、腹が凹んでいるぞっ!?」

 その視線はロリゴンの腹部に注目している。

 別に凹んではいない。

 平素からの美しきロリゴンぽんぽんだ。

 イカっ腹気味の先生と比較して、幾分か引き締まって思える。

「おいおい、流産かっ!? 流石にそれは笑えねぇぞ!」

 しかしながら、ゴンちゃんもまた酷く驚いているから、さて、どうしたものか。とても真剣な眼差しである。まさか冗談の類ではないだろう。

 っていうか、流産ってなんだよ。

「あの、まるで話が見えてこないのですが……」

 情報の共有をお願いしたい。

 だが、それすらも惜しい状況にあるらしい。

 皆々の意識はロリゴンから離れて地上へ向かう。

「こ、子供を探すぞっ! ドラゴンの生命力があれば、あるいはっ!」

「おうっ! さっさと地上へ降ろしてくれっ! エルフの嬢ちゃん!」

「貴様も手伝えっ! 父親だろうっ!?」

 戸惑っていたら、先生に吠えられてしまった。

 父親ってなんだよ。疑問に思ったところで、確認する暇もない。勢い良く地上へ向かってゆくエディタ先生とゴンちゃん。非常にアウェイ感あるんだけれど。説明とかして欲しいんだけれど。

 ただまあ、危機的状況であることは理解した。

 よく分からないけれど、急いでいるならば仕方がない。よく分からないヤツはよく分からないなりに、回復魔法とか撃っておこう。今ならできるかもと調子に乗ったところ、首都カリス全域を範囲に一発、景気良くヒールしてから先生に続いた。



◇◆◇



 地上に降り立って直後、先生にお尋ねした。

 ゴンちゃんとソフィアちゃんは既に何処へとも駆けて行ってしまった。共に酷く真剣な表情であったから、多分、相応にシリアスな局面を迎えているに違いない。だからこそ、置いてけぼりは寂しいと思うんだわ。

「少し説明が欲しいのですけれど、父親とはなんですか?」

「そ、そんなの父親は父親にきまっているだろうっ!?」

「いえ、ですから私が父親というのは……」

 キッとこちらを鋭い眼差しに見つめてくれる金髪ロリムチムチ先生。

 向けられた表情は、出会って間もないころの彼女を髣髴とさせる。そこに想像した以上の距離感を感じて、今更ながら思い知らされる。これはあれだ、ほら、親しき仲にも礼儀ありというヤツなのだろう。

 ここ最近、随分と仲良くして頂いておりましたが故、醤油顔は距離感を見誤っておりました。童貞の癖して、少しばかり調子に乗っておりました。馴れ馴れしくしておりました。ついにやってしまいましたとも。

「あ、いえ、なんでもありません。少し自分で考えて……」

「父親は父親だ! あのドラゴンをは、は、孕ませた父親だっ!」

「……え」

 なんだそれ。

 ロリゴン孕んでたのか?

 初耳なんだけど。

 っていうか、誰の子だよ。

「彼女は婚姻していたのですか? というか、お相手は……」

「そ、そんなこと私が知るかっ、相手は貴様だろうにっ!」

 マジか。

 童貞に子供が出来たのか。

 いや、流石にそれは不可能だろ。

「そんなことより今は子供だっ、貴様も探すのを手伝えっ! 恐らく魔法の行使に際して、その衝撃に耐え切れず流れてしまったのだろう。ヤツが本当にエンシェントドラゴンであるならば、救える可能性は十分にある。回復魔法に優れる貴様なら尚更だ!」

「ちょっと待って下さい、私が彼女の父親というのはどういうことですか?」

「ま、まさかっ、今更になって認知しないつもりかっ!?」

「いえ、ですから……」

「ええい、幼い命が危機的状況にあるのだっ! 貴様には構っていられんっ!」

 醤油顔とのトークに痺れを切らした様子で、エディタ先生は会話を中断。焦った表情をそのままに、大慌てで飛空魔法に身を浮かせる。かと思えば、何かを探すよう、地上数メートルの地点を凄まじい勢いで飛んでいった。

 彼女の言葉を信じるのであれば、既に姿の見えないソフィアちゃんやゴンちゃんも、同様にロリゴンの子供を探しに行ったのだろう。ちなみに当のロリゴンはと言えば、先生に抱かれていたので、これもまた然り。

 残されたのは自分だけだ。

「…………」

 よく分からないけれど、ロリゴンの子供がピンチらしい。

 しかも、流産らしい。

「……とりあえず、あれだな」

 父親が誰かはさておいて、ロリゴンの子供に大事があったら大変だ。

 近隣一体を照準として、濃い目の回復魔法を繰り返し撃たせて頂こう。捜索は先生たちに任せて、醤油顔はまだ見ぬベイビーの延命に尽くすスタイルだ。その救助を確実なものとするのであれば、理想的な分担だと思われる。

 しかし、なんだ。

 誰だよ。我らが町長を孕ませてくれちゃったヤツは。



◇◆◇



 しばらくして、先生が戻ってきた。

 その表情は芳しくない。ベイビーと思しき姿も窺えない点から、どうやら成果を挙げることはできなかったようだ。意気消沈した面持ちで、こちらに向かい来る様子は、なんだろう、とても痛々しいものである。

「……どうでしたか?」

「見ての通りだ。このとおり母親しか抱いていない」

「そうですか……」

 困ったな。

 先程耳とした流産という単語が、酷く危うい状況を示唆する。

 今日は徹夜で回復魔法だろうか。

 まあ、ロリゴンの為ならば、そう大した手間ではないけれど。

「貴様はどうして、身重であるコイツの元を離れたんだ!? 父親であるならば、腹を膨らませた妻の傍ら、その身を気遣うのが甲斐性というものだろう! それが子供の存在すら認知していないとは、どうしたことだ!? ありえんっ!」

「父親は私であると、クリスティーナさん本人が仰ったのですか?」

「当然だっ!」

 もしかして、ドラゴンの受胎方法は人とは異なるのだろうか。

 気づかない内に妊娠させていた説が急浮上。手を繋いだら妊娠とか、視線を合わせたら妊娠とか。相手は人外だし、ここは剣と魔法のファンタジーだし、処女受胎とか、その手の類のイベントが存在したとしても不思議ではない。

 そう。

 不思議ではないぞ。

 奇跡的に脱童貞の予感。

「一つ確認したいのですが、エンシェントドラゴンを妊娠させるには、どのような行為に挑めば良いのでしょうか? 人のそれとは異なるのですか? 他に方法などがあるようなら教えて頂きたいのですが」

「あぁっ? き、貴様はなにを言っているんだっ!?」

「いえ、ですからエンシェントドラゴンを妊娠させる方法です」

「馬鹿っ! そ、そ、そんなこと、何故に聞くっ!?」

「事情を確認する為ですが」

「じょ、情事を確認する為だとっ!?」

 エディタ先生と醤油顔の間で繰り返される問答。

 先生、ちょっとパニクッてる。

 段々と響きを増してゆく前者の声色を受けてだろうか。それとも連打される回復魔法を受けてだろうか。先生の腕の内に変化が訪れた。今の今まで意識を失い、ぐったりとしていたロリゴンが身動ぎをしたのだ。

 ややあって、その瞼がピクリ、ピクリ、震える。

 自然と我々もまた、口を閉じて視線を向ける。

 皆々の注目が向かう先、ゆっくりとクリスティーナの瞳が開かれた。

「め、目が冷めたか……」

 ビクリ、肩を震わせると共に呟く先生。

 そんな彼女に対して、ロリゴンはと言えば。

『っ!?』

 目と鼻の先に相手の顔を見つけたところで驚愕。

挿絵(By みてみん)

 かと思えば、熱いモノにでも触れたよう、反射的に逃げ出した。ぴょんと勢い良く飛び上がって、先生の腕から脱する。同時に数メートルばかり距離を取り、こちらに向かい身構える。まるで人に慣れない野生動物のような反応だ。

『ぐるるるるるる』

 当然のように喉を鳴らし始める。

「おいっ、だ、大丈夫なのか? 身体の具合は……」

『な、なにをしたっ!?』

 気遣いの声を掛ける先生に対して、緊張もそのままに吠えるロリゴン。

 声を掛けた側は、困惑の表情だろうか。

「いやその……こ、子供が……貴様の子供がだな……」

 修羅場だ。

 心が痛いぜ。

『こ、子供? なんの話だ? わたしは知らない。な、なにも知らないっ』

「落ち着いて腹を見てみろ。残念ながら、き、貴様の子供が流産となり……」

『…………』

 自らの腹部を確認するロリゴン。

 どうやら先生は、そのお腹が膨らんだ様子を確認していたらしい。ドラゴンシティを出発する前日までは普通だったと記憶している。つまり、ここ数日で急に大きくなったということなのだろう。ドラゴンの生態は驚きが一杯だな。

『……別になにも変わりはないっ! ふつうっ!』

「いやしかし、今し方まで膨らんでいた腹が……」

『ね、寝ぼけてるのか? どうして私の腹が膨らむんだっ!?』

「…………」

 一瞬、流産のショックで心が壊れてしまったのかと思った。しかしながら、先生と言葉を交わすロリゴンにはおかしいところが感じられない。むしろ、こうして眺めていると、先生の方がちょっと変だぞ。

 一つ確認だ。

「エディタさんは心配しているのだと思います。クリスティーナさんが妊娠しており、先程、魔王からの一撃を相殺するに差し当たり、そのお子さんを流産してしまったのだと。今の今まで、必至に貴方の子を探していらっしゃいました」

『だ、だから、どうして私の子供なんだっ!? 意味がわからないっ!』

「なんだとっ!? あんな大切そうに、膨らんだ腹を撫でていたじゃないか!」

『そんなの知るかっ! 私は妊娠なんてしてないぞっ!?』

「…………」

 声も大きく主張するロリゴン。

 これには先生も続くところを失った。

 訳が分からない、といった表情だ。

 そうこうする内に、ソフィアちゃんとゴンザレスが戻ってきた。共に手ぶらであって、それらしい成果はなさそうだ。我々の傍らに自らの足で立つクリスティーナを発見しては、駆ける勢いも増してパタパタと。

「いきなり立ったりして、だ、大丈夫なのかっ!? 身体は平気か?」

 その下へ辿り着くと同時、ゴンちゃんから気遣いが飛ぶ。

 しかし、これに応えるロリゴンは相変わらず。

『大丈夫だ! ぜんぜん大丈夫! なんら問題ないっ!』

 一貫して妊娠の事実を否定である。

 ただ、そんな彼女に構わず、ゴンちゃんは思案顔で続ける。

「こうなったらクランの連中を呼び出すか。いや、先んじて首都界隈で活動する奴らを集めた方がいいな。エンシェントドラゴンの赤ん坊となれば、他の連中が黙っていねぇ。そいつらより先に見つける必要が……」

『ぐるるるるるるるるる』

 あれこれ考え始めたゴンちゃんの手前、喉を鳴らすロリゴン。

 どうにもこうにも機嫌が悪そうだ。

 なんかちょっと、すれ違いがあるような。

「クリスティーナさん、一つ確認させて下さい」

『……なんだよ』

「エディタさんから妊娠していたと聞いたのですが、それは本当ですか? 更に今し方、そのお子さんを流産してしまったとも聞きました。もしも本当なら、我々も出来る限り貴方の力になりたいのですが」

『だから、ど、どうして私が子を孕んだことになってるんだっ!?』

「なっ……」

 ロリゴンの頑なな否定に対して、酷く驚いて見せる先生。

 信じられない、言わんばかりの態度である。

 それとなく様子を窺えば、他二名もまた同様の反応を示している。

「そ、それならば、貴様の膨れていた腹はっ! あの腹はなんだったのだっ!?」

『腹なんて膨れてないっ! 貴様の目は節穴かっ!? ぺたんこだ!』

「今は確かに膨れていない。だが、先程までは確かに膨れていたっ!」

『膨れてないっ! 膨れてないだろっ!? ぜんぜん膨れてないっ!』

「他の誰でもない貴様自身が、自らの子供だと、そこの男との間に出来た子供だと言っていたではないか! その手で愛おしそうに腹を撫でていたではないかっ!」

 そこの男とはブサメンを指してのことだろう。

 一連の会話の流れから、そこの男扱いが、ちょっと切ない。

『ど、ど、どうして、そいつが出てくるんだっ!? 子供なんて知らない!』

 一向に終わりの見えない問答だ。

 個人的にはエディタ先生の主張に疑問を感じる。ただ、ゴンちゃんが行動を共にしていた点から、何かしらロリゴンの身に疑う余地があったのは、きっと確かなのではなかろうか。この男が相応の理由も無しに動くとは思えない。

 などとあれこれ考えていた最中のこと、不意にソフィアちゃんが呟いた。

「あの……つ、つかぬことをお伺いしますが……」

 おっかなびっくり、手に汗握りながらのご意見である。

『……なんだよ?』

「お、お、お薬の影響は……大丈夫でしょうか?」

『……薬?』

「わ、わたしが落としたお薬のせいで、とても大変なことになってしまって、も、も、申し訳ありませんでした。た、たた、大変なご迷惑を、お掛けてしまって……」

 今にも倒れてしまいそうな勢いでガクブルしながらの謝罪。

 汗に濡れたメイド服の両脇が、その色を濃く変えている様子は、まるで良く晴れた秋の一日、何気なく眺めた窓の外、そこに一面の紅葉を発見したような喜びがある。メイドさんの脇の下が、今まさに秋分している。

 しかし、お薬とはなんだろう。

 疑問に思ったところで、不意にロリゴンの瞳が開かれた。

『あっ……』

 ソフィアちゃんの言葉を受けて、何かに気づいた様子だ。

 或いは納得を得たのか。

『もしかして、ふわふわの原因はそれかっ!? 部屋に落ちてた白い粉っ!』

 これにエディタ先生がツッコミを一つ。

「……ふわふわとは何だ?」

『っ……』

 すると、面白いほど顕著な反応があった。

 ビクリと大仰にも震えたロリゴン。

 その姿を目の当たりとしたところで、皆々の意識が彼女に集中する。いやもう本当にふわふわってなんだよ、みたいな。少なからず事情を知るだろうエディタ先生でさえ困惑している。おかげで彼女より情報に劣る醤油顔には、何が何やらサッパリである。

「ふわふわとは何だ?」

『ぐ、ぐるるるるるるる』

 このドラゴン、言い難いことがあると、いつも喉を鳴らすよな。

 一方で先生は今し方に語られたお薬について、少なからず話を聞いているようだ。警戒の色を強めるロリゴンに対して、ふと、何かに気づいた様子だ。幾らか口調を穏やかなものとして、落ち着いた態度で問い掛ける。

「一つ確認したいのだが、腹が膨れていた最中の意識は確かだったのか? そう多く言葉を交わした訳ではないが、それでも薬の影響が多分にあったように見受けられた。一方で今現在の覚醒は、その男の回復魔法を受けた為だろう。違うか?」

『ぐるるるるるるるるっ』

「私でよければ力になるが……」

『知らない! わ、わたしは何もしらないぞっ!? ああ、しらないな!』

 クリスティーナを気遣う先生の優しさ。

 一方で我関せずを貫くのがロリゴン。

 その対象的な振る舞いからは、なんだろう、後者に疑念が膨らむ。

「ソフィアさん、すみませんが確認させて下さい。お薬というのは?」

「っ……」

 とりあえず、お薬とやらが気になった。

 だので、お話の出元であるメイドさんにお尋ねたところ、どうしたことか。ピシリとソフィアちゃんが固まった。それはもう見事に固まってみせた。

 出会って数ヶ月ながら、それなりに苦楽を共としてきた間柄だから分かる。

 分かってしまいますわ。

 このメイドさん、絶対に何か隠しているぞう。



◇◆◇



 あれこれお伺いしたところ、ソフィアちゃんが全てを白状した。

 どうやらロリゴンは、彼女が大聖国から勝手に持ち帰った秘密のお薬を摂取して、ハッピー状態となっていたらしい。それがつい先刻までの出来事。そして、エディタ先生が仰るには、その間にここ数日でお腹を大きくしていたのだという。

 つまり、キメセクしてしまった訳だ。

 更にできちゃった訳だ。

 最終的には流産を経由しての社会復帰である。

 ヤバイな。

 メンタルのダメージ半端ないわ。

 童貞には耐えられない展開だわ。

 お相手は誰だろう。魔道貴族だろうか。それならまだ、まあ、ギリギリで許容できる。ただ、お薬の勢いで見ず知らずの相手と取っ替え引っ替え、とか言われたら、もう耐えられない。無理だわ。

 ドラゴンシティにさよならバイバイだよ。俺はゴッゴルちゃんと旅に出るぞ。

 童貞とは性に対して、非常にセンシティブな生き物なのだ。

「なるほど、私が留守の間にそのようなことが……」

「本当に貴様の子供ではないのだな?」

 再三に渡り、先生から子作りチェックが入る。

 当然、答えはノーだ。

「エンシェントドラゴンにとっての繁殖行為が、人間と同じだという前提の上での回答になりますが、彼女と行為に及んだことはありません。こういうことを本人の前で言うのは失礼かと思いますが、一応、この場でハッキリさせておきます」

「そ、そうか……」

 素直にお伝えさせて頂いた。

 すると、途端にどこかソワソワとし始めたのが先生。

 一方で顔をしかめるのがゴンちゃん。

「おいおい、それじゃあ町長は誰の子供を身籠ってたんだ?」

『…………』

 流石にそこまでは分からないだろ。

 というか、その辺はロリゴンのプライベートだし、触れてやるなよ。

 可哀想じゃん。

「色々と思うところはあると思いますが、この話題は終えませんか? 誰しも他人に言えないことは色々とあるでしょう。彼女が妊娠していないと説明したのですから、我々はこれを信じるのが良いのではないでしょうか?」

 ドラゴンという生き物は、随分と簡単に腹を膨らめるものなのだとも驚きだ。

 ドラゴンシティを出発する前夜まではぺたんこだった。それが僅か数日で他人が見ても分かるほどまで膨らんだというのだから、なかなか大したものだろう。

 養鶏などは数日でお腹の中に卵を形作るというから、ドラゴンもまたそういうものだと言えば、その通りなのかもしれないが。

 あぁ、人の形を取っていることが影響している可能性とかあるのかも。

「いやまあ、本人がそれで良いっていうなら良いけどよ? でも、子供の命が今まさに失われている最中とあっちゃぁ、放ってはおけないだろ。ドラゴンの幼生なんて、人間からすれば商品以外の何物でもねぇよ」

「その点に関しては、ええ、ゴンザレスさんの仰るとおりですが……」

『…………』

 当の本人が乗り気でない。

 っていうか、ロリゴンって実態はドラゴンだよな。

 卵生と胎生、どっちなんだろう。

 大きな卵をオマンコから産卵するロリゴンとか超見たい。

 顔を赤くして、頑張って踏ん張る感じの絵が最高に――。

「…………」

 あ、気づいたかも。

 ブサメン、気づいてしまったかも知れない。

「クリスティーナさん、このようなことを人前で確認するのは、非常に申し訳ないのですが、もしかしてエンシェントドラゴンは卵生なのではないですか?」

『っ……』

 ビクリ、ロリゴンの肩が震えた。

 この感触、もしかせずとも正解ではなかろうか。

「なるほど、無精卵の排出か!」

 間髪を容れず、エディタ先生からも声を上がった。

「ここ最近、ずっと人間の姿をしていたから、完全に見落としていた。なるほど、そういうことであれば、腹の膨らみに納得がいかないこともない。だが、ドラゴン種を筆頭とした大型の生き物は、そうおいそれと排卵することはない筈だが……」

「そうなのですか?」

「うむ。レッドドラゴンなどは発情を機会に排卵が始まると……」

 ツラツラと説明を語り始めたところ、ふと先生の口が止まる。

 どうやら何かに気づいた様子だ。

 醤油顔も今の説明で、おうふ、少しばかり気づいてしまったぞ。

 キーワードは二つ。お薬と発情。

「貴様、薬の影響で発情して……」

『べ、べ、別にいつ排卵しようと、わ、私の勝手だろっ!? 発情とか関係ない!』

 この反応、ドンピシャだ。

 なるほど。

 良かった。

 救われた。

 主に童貞のセンシティブな心が救われた。

『ぐるるるるるるるっ!』

 皆の生暖かい視線が、ロリゴンに向かう。

 対する当人はといえば、顔を真っ赤として、喉を鳴らすばかり。エディタ先生に限らず、醤油顔やゴンちゃん、ソフィアちゃんを含めて、あっちを見ては威嚇、こっちを見ては威嚇。怒りと羞恥にまみれた表情で喉を鳴らす排卵ドラゴン。

「つまりあれか? 薬に狂った貴様は、種の入っていない卵を後生大事に抱えて……」

『黙れエルフっ! 殺すっ! 殺すぞっ!? それ以上言ったら、殺すっ!』

「っ……や、や、やるか!? やるのかっ!? 今の私は、前までの私とは違うぞっ!? 最強で無敵で、ぜ、ぜ、全能なのだからなっ! 相手がエンシェントドラゴンだろうと、け、決して怯むことなく勇敢にっ……」

 良かった、キメセクから妊娠、流産を決めたドラゴンなんて居なかったんだ。

 先程垣間見た魔王様の魔法より尚の事、手に汗握っていた自らを発見だ。

 いやぁ、良かった。

 本当に良かった。

 排卵を恥ずかしがるロリゴンも見れたし、ソフィアちゃんグッジョブだろ。

 本当に良い仕事をするメイドさんだ。

 これはボーナスを弾まざるをえない。

 想像妊娠いとおかし。

 おかげで醤油顔は、こちらの世界にまた一つ新しい可能性を得た。卵生のロリータにエッチなお薬を処方すれば、男を知らない身体であっても、ポテ腹が楽しめるのだ。

 これはもうイエスがキリストしてしまうかもしれないな。
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