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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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魔王復活 三

「プロローグ」の前に「人物紹介」を追加しました。
 王女様の協力を得て最初にやったことは、醤油顔の処刑だった。

 まさか延々と牢屋で暮らす訳にはいかない。王女様の合意が得られたところで、当然のように脱獄させて頂いた。しかしながら、牢屋から姿が消えては問題である。早々に指名手配を受けると共に、自分と関わり合いにあった面々へ、多大なる迷惑をかける可能性が非常に高い。

 そこでいっそのこと、死んだことにしようと決めた。

 王女様に提案したところ、二つ返事で快諾を頂戴した。なんでも名のある貴族が他所の国へ亡命する際の常套手段だそうだ。流石はペニー帝国、この手のイベントには事欠いていない。おかげで手筈は知れたもの。王女様の手引により支度は強引且つ早々に行われて、タナカ男爵は処刑イベントの最中にある。

 ただし、普通は身代わりのソックリさんを使うべきところ、今回に限っては本物だ。

「これよりタナカ男爵の処刑を執り行うっ!」

 メルセデスちゃんが声を張り上げる。

 今、我が身は首都カリスの広場、断頭台の上に晒されている。

 首は木製の板で固定されており、その両側には同じく木製の柱が縦に伸びる。これに挟まれる形で金属製の断頭刃が控えている。刃には縄が括られており、縦に伸びた柱の脇、地面に打たれた杭へとピンと張って結び付けられている。

 メルセデスちゃんの手には抜身の剣が握られており、これで縄が切断されるに応じて、落下する刃が醤油顔の頭部を切断される、といった塩梅だ。自身もまた歴史の教科書に眺めたそれと、大差ない作りをしている。

「覚悟は良いなっ!」

 広場にはブサメンの晴れ姿を一目拝もうと、大勢の市民が詰め掛けている。

 平民から貴族に取り立てられて十数週ばかり。早々に処刑の憂き目を見ようという異国人の扱いは、娯楽に乏しい彼ら彼女らにとって、随分と興味を引かれる催しであったよう。朝早い時間だというに、広場を埋め尽くす勢いだ。

「男爵を処刑台へっ!」

 メルセデスちゃんが吠える。

 応じて傍らに控えていた、王女様配下となる男たちの手により、醤油顔の首は断頭台にセッティング。本件に関わる皆々には、遠慮無く殺っちゃって下さいとお願いしてある。ただ、処理後は可及的速やかに、首から下へ布などを掛けて欲しいとお願いをした。

 これまでの経験から、決して死ぬとは思わない。

 ただ、ここ最近になって急速に勢いを増しつつある治癒の行程が、群衆の面前で披露されては堪らない。処刑どころの話ではない。完全に人外認定の上、ペニー帝国に居場所は失われてしまうだろう。

 これで見た目が美しい少女だったりしたのなら、無実の罪に処刑されるも、神の寵愛から蘇りし聖女系ルートとか、断然ありだった。しかしながら、奇しくも我が身はブサメンである。殺しても死なない平たい黄色のクリーチャー扱いが関の山だ。

「タナカ男爵、最後に言葉を許してやろう」

 メルセデスちゃんが言う。

 どんなことを喋れば良いのだろう。

 一応、辞世の句になる訳だし、格好の良い台詞がいいよな。

「近いうちに魔王が世界を攻め滅ぼすべく動き出すでしょう。これに抗するは唯一、西の勇者様に他なりません。大聖国の言葉に惑わされてはいけません。西の勇者様こそが、この世界を、我々を救って下さる、真なる勇者様なのですっ!」

 職務を全うしている感を演出しつつ、西の勇者さまをヨイショだ。

 完璧じゃん。

「以上か?」

「はい、以上でございます」

 こんなもんで良いだろう。

 こういう些末な努力が、後々効いてくるのだよ。たぶん。

 なんて考えていたら、不意にメルセデスちゃんの傍ら、王女様が。

「なお、この度は処刑を確実なものとする為、ギロチンの刃にはバジリスクの毒が塗られています。僅か肌に触れた限りであっても、その命を奪うほどの猛毒です。タナカ男爵、貴方は分不相応な願いを持ちました。故にこの場で自らの失態を悔い改め、その行いを恥じながら地獄へ落ちると良いでしょう」

 え、なにそれ、事前の打ち合わせにないんだけど。

 それとなく視線を向ければ、メルセデスちゃんも戸惑ってる。

 だたまあ、毒の一つや二つ、ちょっと飲みにくい青汁みたいなもんだ。

「承知いたしました。地獄の底で自らの罪を悔い改めたいと思います。ですが、どうか何卒、王族として首都カリスの平穏をお守り下さいませ。魔王の発起は目前に迫っております。どうか、我が国の民をお守り下さいませ」

「っ……」

 気にせず粛々と頷いてみせると、王女様の瞳が驚愕に見開かれた。

 おかげで理解する。

 どうやら今この瞬間、彼女は醤油顔に絶望を期待したのだろう。

 こちらが何かしら、魔法的な手段を用いて死んだふりをすることは伝えてある。だから安心してギロチンの刃を落として欲しいとも。これを事前に封ぜられて、本当に死に逝かねばならなくなったブサメンの絶望を期待したに違いあるまい。

 堪らないな。

 ここ最近は失われて久しいロリゴンの腹パン並みに、ゾクゾクとしてしまうぞ。

 構わずメルセデスちゃんに顎をしゃくる。

「で、では……断頭を行うっ!」

 メルセデスちゃんが吠えた。

 いつぞやぺぺ山でのクリスティーナ戦を目の当たりにしていた近衛レズだから、その腕は多少の躊躇はあったものの、周囲から不審に思われる猶予を与えることもなく動いた。手にした剣が、断頭台の上部、今まさに落下を待つ断頭刃に繋がった縄を切る。

 シャラシャラと頭上から刃の滑り落ちてくる音が響く。

 正直、あまり心地の良い感覚ではない。

 痛いものは痛い。

 数瞬の後、万全の状態で待ち受ける醤油顔の首に衝撃。

 意識は暗転した。



◇◆◇



 広場の断頭台から場所を移して、我々は首都カリスに所在する貴族街、その界隈でも取り立てて王城に近い位置へ設けられた、豪奢なお屋敷の応接室に居している。なんでも王族の名義で運用されている、数多あるゲストハウスの一つだという。

 伊達に王族所有などと銘打たれていない。些末な調度品一つ取っても、非常に高価そうだ。エステルちゃんの実家と比較しても遜色ない。見る者を映すほどに光沢を放つ木製家具など、ベニヤ板の三段ロッカーが生涯の友であった社畜には余りにも眩しい。

 そうした場所にあって緊張も露わ、訴えてくるのが王女様である。

「まさか、本当に甦るとは思いませんでした」

「もう一度、試してみますか?」

 対面のソファーに腰掛けた彼女へ、余裕を見せつけるよう語ってみせる。

「……貴方は本当に人間なのですか?」

「ええ、貴方と同じ人間ですよ。ただ少しばかり頑丈なもので」

「…………」

 納得がいかない、訴えんばかりの表情だった。

 ただ、事実として醤油顔の生首は首都カリスの広場に晒されており、一方で無事に治癒した首から下は、今まさに王女様と場を共にしている。その生命を否定することは如何に王族であったとしても不可能だ。

 今更ではあるが、気づいた。

 獄中にあった平たい黄色の進言に彼女が耳を傾けたのは、偏に先刻の一件を前提でのお話であったのだろう。元よりこちらの言葉に耳を傾けたつもりなどなく、牢屋の中でも平静を保っていた醤油顔に対する追撃が全て。結果的に現在、彼女を追い詰めている。

「私が絶望する時は、恐らく貴方の絶望する時ですよ。王女殿下」

「……分かりました。当面は協力しましょう」

「ありがとうございます」

 絶対に嘘だな。

 隙あらば襲い掛かってくるに違いない。

 当面は自分以外へその意識が向かないよう、注意しなければならない。ロリゴンが大人しくなって、ゴッゴルちゃんも無茶をしなくなり、身の回りが落ち着いてきたかと思った矢先にこれである。どれだけ毛根があっても足りないわ。

 しかしそれでも、こちらの王女様の後ろ盾は、どうしても欲しいのだよ。

「そ、それで、これからどうするのだ?」

 同じソファー、隣に腰掛けたメルセデスちゃんが問うてくる。

「大聖国へ向かおうと思います」

「おぉっ! やはり行くのだなっ!?」

 間髪を容れず近衛レズの表情が輝いた。

「まさか私にも同行を願うつもりですか?」

「駄目ですかね?」

「…………」

 色々と考えたけれど、最短ルートを目指すならば西の勇者さまを担ぐのが一番だ。その為には彼と対になる東の勇者様を叩く必要がある。彼のスポンサーは大聖国の聖女様であるから、効率良く進めるには、彼女こそが当面の目標だろう。

 ペニー帝国の王女様という権力の拠り所が見つかった今ならば、聖女様を叩くにも意義を見いだせる。王女様の名前で大聖国の不正を公表して、大聖国のトップを聖女様から西の勇者様にすげ替えるのだ。

 状況が退っ引きならない状況まで進んだところで、ペニー帝国の王様を巻き込む。親馬鹿で有名な我らが陛下であれば、まず間違いなく娘を守るよう動くだろう。ここまで事態が進めば、後は暴力で解決可能だ。我が身はペニー帝国で男爵へ咲き戻る。

 待っていて下さい、ノイマン氏。醤油顔は絶対に成功して見せますぞ。

「やっぱり、面白くないです」

「……というと?」

「貴方の絶望する顔が見たいです」

「おっしゃいますね」

 その為には、この危険な性癖を備えた王女様のお守りだってなんのその。道中では個人的な性欲をそこはかとなく満たしつつも、楽しい旅にしてやるぜ。なんせ相手はエステルちゃんを超えるロイヤルビッチなのだから。絶対にビラビラ大きい。

「見たいのです」

「絶望とは幸福の裏返しですよ、王女殿下」

「……だったらなんだというのですか?」

「今の私はそれほど幸福ではない。どちらかと言えば、こうして貴方と言葉を交わす裏側では酷く焦り、そして、生き急いでいる。そこに余裕などはなくて、ただただ、緩い絶望が常に流れているようなものでしょう」

「…………」

「絶望が欲しいのであれば、先に幸福を与えるのが良いと思います」

「……私を抱きますか?」

「それで私は幸福になりますか?」

「っ……」

 忌々しげに王女様の顔が歪む。

 突いた先に膜がなければ、童貞は幸せになれないのだよ。

「そもそも、どれだけ他人の感情の起伏に触れたところで、それは全て他人のものです。貴方のものではないのですよ。故に貴方の欲望は未来永劫、決して満たされることはないでしょう。どれだけ凄惨な絶望を目の当たりとしたところで、傍から見ている限りでは」

 効果の程は知れないが、多少はプッシュしておこうと思う。

 相手が相手だし。

 調子に乗られて、あれこれ周りにちょっかい出されても大変だ。

「……随分と語りますね、タナカ男爵」

「言葉が過ぎました。申し訳ございません、王女殿下」

「ただ、貴方の言葉には一理あります」

 しばらくを悩んだところで、彼女は頷いて応じた。

 思い起こせば彼女もまた、過去に生死の境を彷徨った経験があった。それも身体が段々と動かなくなり、やがて確実に絶命するという、人の世においても指折りの代物だ。

 それで尚も、原因となったライフワークを改めないというのだから、彼女の欲望は想像した以上に深い。病気と称しても過言ではない。

「分かりました。約束は約束です、大聖国まで同行しましょう」

「ありがとうございます」

「ここで頷いておかねば、私の命が危うい状況です」

「まさかまさか、そのようなことは決してございませんよ」

「ですが、今すぐに発つことはできません。旅路の支度とお父様の説得に数日ほど時間が必要です。それでも飛空艇を利用すれば、地上を馬車で過ごすよりは、幾分か早く到着することができるでしょう」

 おう、スルーされた。

 まあいいや。こちらとしては都合が良い。

「それが可能なのですか?」

「タナカ男爵が無茶をしてくださったおかげで、大聖国のペニー帝国に対する扱いを思えば、出国の理由には事欠きません。国の行く末を憂いた第一王女が自ら、主犯の首を片手に聖女の下へ謝罪に向かう。などとすれば、許可を得ることは難しくないと思います」

「なるほど」

 それはありがたい。

 思ったより大々的に出発できそうだ。

「日程が決まるまで、貴方はこちらの屋敷で過ごしていると良いでしょう。既に貴方は死んだことになっています。下手に街を彷徨いては支障となります。身の回りの世話にはメルセデスを残しましょう」

「承知しました。どうぞ、よろしくお願いします」

 そんなこんなで今後の予定が決定だ。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 ここ数日、身体と心の調子がよろしくありません。

 如何様によろしくないかと申しませば、お粉が欲しくて堪りません。大聖国より持ち帰った品を紛失してしばらく。一度でも身近に感じてしまった快楽は、何気ない日々の傍ら、メイドの欲求をチクチクと刺激します。

 おかげで書類仕事に集中できません。

 心と身体がお粉を求めてしまい、目の前の数字を追いかける余裕がないのです。

 これが噂に効く依存性というものなのでしょう。

 想像した以上です。

「……嬢ちゃん? おい、嬢ちゃん?」

「え? あ、は、はいっ! なんでしょうかっ!?」

 気づけばゴンザレスさんからお声掛けを頂戴しておりました。

「大丈夫か? なんだか疲れてるみてぇだけどよ」

「いえ、大丈夫ですっ! ぜんぜん平気ですっ!」

 どうやったら誰にも知られず、お粉を手に入れることができるだろう。あれこれと思いを馳せておりました。気づいたら傍らにゴンザレスさんが立っていらっしゃいました。これは良くないですよ。完全にハマってしまった人ではありませんか。

 実際に経験したのは、たった一度にも関わらずです。

「あんまり無理はすんなよ? 身体を壊しちゃ大変だぜ」

「はい、だ、大丈夫です。本当に大丈夫ですっ!」

「そうか? だったら良いけどよ……」

 心配されてしまいました。

 申し訳ない限りです。

 メイドは決して疲労などではなく、邪な思いから職務を滞らせているのであります。なんて悪い娘でしょう。タナカさんにお給料を上げて頂いたばかりだというのに、このような、このような行い、到底許されるものではありません。

「…………」

「…………」

 ですが、それでもメイドは、お粉が恋しゅうございます。

 お粉をクンクンとやりながら、自分を慰めとうございます。

「……嬢ちゃん? 今日のところは休んだらどうだ?」

「いえ、だ、大丈夫です。もう少し頑張りますっ」

 そうこうしていると、執務室のドアがノックされました。

 ゴンザレスさんが応えるに応じて、すぐさま開かれます。

 すると、そこにはエルフさんのお姿が。

「仕事中すまないが、二人とも町長のヤツを見なかったか?」

「いいや、見てねぇなぁ」

 どうやらドラゴンさんをお探しの様子です。

 ここ数日、エルフさんはファーレン様と一緒に、ポーションの研究をされていらっしゃいます。お話を伺ったところ、なんでも偶然から、ライフポーションの元となり得る代物が、街のお風呂で発見されたのだそうです。

 そんなものまで見つかってしまうとは、ここは凄いところですね。

「ソフィアはどうだ? 見なかっただろうか?」

「いえ、あの、私も見てないです」

「……分かった。忙しいところを済まなかった」

 多少ばかり言葉を交わしたところで、エルフさんは踵を返します。

「まったく、どこへ行ったのだ、あのドラゴンは……」

 そして、ブツブツと呟きながら、歩みも早く執務室を後とされます。

 閉じられたドアの向こう側、足音は早々に聞こえなくなりました。

 これを見送ったところで、ボソリ、ゴンザレスさんが呟かれました。

「そう言えば、ここんところ見てねぇな、町長」

「そ、そうですね……」

 言われてみれば、私も一昨日くらいから見ておりません。これまでであれば、一日に数度は執務室に足を運ばれておりました。また、朝と晩にはご本人から、見回りをしてくるとの旨、お散歩のご報告を頂戴しておりました。それもここ数日ありません。

 ちょっと寂しいです。

 もしかして体調など崩されているのでしょうか。

「明日も見なかったら、クランの連中に探させるとするか」

「あ、は、はい」

「まあ、あの町長だ。滅多なことはねぇと思うがな……」

 私もそう思います。

 なんたってドラゴンさんは、それはもうお強い方なのですから。



◇◆◇



 予期せず手に入ったのは数日の休暇だ。

 その間を醤油顔は王族御用達のゲストルームで、他に何をするでもなく暇に過ごしていた。身の上が死人扱いであるから、下手に外へでることも叶わず、家のなかでメイドさん相手にボードゲームの類に興じるのが精々といったところ。

 おかげで予期せず最高に充実した休暇を得ている予感。

「……参りました」

 今まさに静々とテーブル越し、頭を下げるのがメイドさん。

 王女様付きの人物だという。

 彼女の正面、卓上には攻防の極まったアナログゲームが置かれている。

「お強いですね。とても始められて数日とは思えません」

「似たようなゲームが私の故郷にもございまして」

「なんと、そうだったのですね」

 年の頃は二十代後半ほどだろうか。落ち着いた黒髪ショートのクールビューティーである。既にお子さんが二人いらっしゃるとのことで、童貞野郎も落ち着いて対応することができる。おっぱいや太股をチラチラする頻度も控えめだ。

 姿格好がクラシカルなロングスカート仕様のメイド服である点も大きい。体型こそグラマラスではあるが、肌の露出も少ない出で立ちは、中年童貞の子作り衝動を低減させる効果がある。そこに二児の存在が加われば我々はパーフェクト紳士だ。

「お茶のお代わりをお持ちします。少々お待ち下さい」

「あ、はい。どうもありがとうございます」

 椅子を立ったメイドさんは、部屋の隅に設けられたバーカウンターに向かってゆく。

 もしも彼女に牙があるとすれば、それは後ろ姿に他ならない。スカートの生地越しに浮かび上がる尻のシルエットだ。全てをそこに集約したかのような、尻肉一点豪華主義。あまりにも凶悪な肉付きは、二児の母という背景さえをも武器に変える。

 背面から尻肉を眺めることで、人は視界より消えた正面の乳房に思いを馳せる。

 やっぱりセックスしたいかもと。

「…………」

 現在、我々が居するのはゲストハウスの二階に設けられた遊技場と思しき一室である。三十畳ほどの空間に、色々と室内で遊べるゲームの類が並べられている。電子ゲームの類が存在しない剣と魔法のファンタジーであるから、ラインナップは極めてレトロ。

 自分が知っているその手の遊具と比較して、大まかには似ているようで、どこかしら異なっているから、これが見ているだけでも飽きない。あれこれとメイドさんに説明して頂いては、都度試してと繰り返しているうちに数日が経過していた。

 未だ王女様からの連絡はない。

「どうぞ」

「すみません、頂きます」

 淹れたてのお茶を一口啜ったところで、ハァと穏やかに一息。

 熟女の尻を眺めてから頂くお茶も、なかなか悪くないじゃないの。おっかなびっくりが標準装備のソフィアちゃんも悪くないけれど、たまには物静かなプロメイドのお世話になるのも良いと思います。

 とかなんとか、まったりとしている最中の出来事であった。

「タナカっ!」

 部屋のドアをバァンと勢い良く押し開けて、近衛レズが登場だ。

 相変わらず人の楽しみを奪うのが上手い。

「どうしました? そんなに息を荒げて」

「魔王が動いた!」

「なんと、それは本当ですか?」

 とても刺激的なお話だ。

 寛ぎ気分も吹っ飛ぶわ。

 グッバイ、熟成尻肉。

「プッシー共和国がやられた。昨晩、魔王本人からの声明と共に極大魔法が放たれた。狙われたのは首都だ。一撃で城が吹き飛んだという話だ。現地に魔王の姿は見られず、超長距離からの一撃というのが識者の見解になる」

「城が一撃ですか……」

 思ったより被害は甚大。

 万が一にも連発された日には、数日で人口半減とか余裕じゃないか。城が一撃というと、いつぞや紛争の折に確認したロリゴンの光柱魔法だとか、学園都市で誤発注した醤油顔の超巨大ファイアボールだとか、ああいった類のものだろう。

 それを現地に赴くことなく撃てるとか、本格的に反則だわ。核ミサイルを現地にテレポートさせて爆発させるようなものだものな。使用に対する制限がどれほどのものかは知れないが、そう簡単にポンポンと撃たれた日には堪ったものじゃない。

「ドリスさんのご家族は大丈夫でしょうか?」

「流石にそこまでは分からん。現地は相応に混乱していることだろう」

「……そうですよね」

「正直、魔王がここまでのものとは思わなかった」

「ええ、私もです」

「他の誰でもない、貴様が危惧していたのも頷ける」

「ありがとうございます」

 口を開けばセックスセックスのメルセデスちゃんから、この手の話題が上がるほどである。世間が受けた影響は大したものだろう。プッシー共和国が射程に収められた点を鑑みれば、ペニー帝国を始めとした周辺各国も決して他人事ではない。

「それで、どうする?」

「そうですね……」

 どうしよう。

 やっぱりドラゴンシティへ戻るべきだろうか。

 もたらされたところを思うと、他所へ出向いて聖女様をどうこうしている場合じゃない気がする。早急にノイマン氏を回収して、ドラゴンシティへ逃げ込むのが、今一番大切なことのような気がしてきた。

 ドラゴンシティなら、きっと大丈夫だ。

 魔王からの遠距離魔法に抵抗し得る存在が、自分を含めずに二人いる。

「ところで、当代の魔王はメスなのだな」

「え? あぁ、はい。そのようですね」

「何故に教えなかった?」

「…………」

 何故に近衛レズが魔王様の性別を知っているのだろう。

 まあいいや。

「いずれにせよドラゴンシティへ戻った方が良さそうですね」

「……王女殿下との話はどうするのだ?」

「今の報告を聞く限り、陛下より許可を得ることは難しいでしょう。恐らくですが我々の確保したかった飛空艇は、彼女の疎開の為に利用されることになると思います。まさか、これを脇から攫う訳にもいかないでしょう」

「確かにそうだろうな。しかし、良いのか? 身を立てる必要があるのだろう?」

「それは魔王からの攻撃を凌いでからでも遅くはありません。万が一にも親しい方が巻き込まれたのでは、私も冷静ではいられません。この国で身を立てるのは、魔王からの攻勢に対して、何かしら目処が経ってからでも遅くないと思います」

「分かった。では、そのように動こう」

「お願い致しま……」

 あ、今ちょっと、大変なことを思い出した。

 エステルちゃんの領地の廃坑に魔法陣あったよな。キモロンゲが管理してたヤツが。魔族的には魔王様の回収用って話だけれど、あれを魔王様とその仲間たちに利用されたら、大変なことになるのではなかろうか。

 なんせ通じている先が、暗黒大陸の割と深いところにある。そこいらを徘徊しているモンスターを適当に見繕って送られた限りであっても、近隣の町や村など壊滅的な被害を受ける。いつぞやのトリさん一匹でも大惨事だ。

「…………」

 しかも最寄りで大きめな街って、どこだよ。

 おう、トリクリスとドラゴンシティじゃん。

「……どうした?」

「直ちにドラゴンシティへ戻ります!」

「あ、あぁ、分かった」

 こうしちゃおれんだろ。



◇◆◇



 メルセデスちゃんを伴い屋敷から飛び出す。

 王女様には悪いけれど、今は街の安全を優先させて頂こう。ノイマン氏の為にペニー帝国で成功することも大切だけれど、それは他の面々の生命に優先する訳にはいかない。何事も命あっての物種だ。

 すると、偶然にも玄関先で見知った相手を発見だ。

「これはノイマンさん、調度良いところに」

「タナカ、ほ、本当にこのような場所にいたのかっ」

 探す手間が省けたぜ。

 今まさに正面へ付けられた馬車より降り立ったのが彼だった。更に続くところ、ステップを降りてきたのは王女様。彼女は玄関先に醤油顔の姿を確認して、ニコリ、朗らかな笑みを浮かべてみせる。

「タナカ男爵、決して偶然などではありませんよ」

「まさか王女殿下が?」

「貴方に代わり動く手足が必要なのでしょう?」

「……お手数をおかけしました。ありがとうございます」

「いえいえ、良いのですよ」

 王女様、絶対に醤油顔を陥れる為にノイマン氏を見つけてきたな。

 だってこちらは彼のことを一言も伝えていない。宮中で能動的に、こちらの弱いところを探った成果だろう。王女様という肩書にらしくないフットワークの軽さである。魔導貴族のそれと比肩するのではなかろうか。

 相手の立ち位置も含めて、ロリゴン以上の強敵を予感させる。

 どんだけ他人を貶めたいんだよって。

「しかし、お出かけとは関心しませんね。タナカ男爵」

 しかも若干、管理主義の気質ありだ。

 束縛するタイプなのだろう。

 これで処女だったら、甘んじて騙されるのも楽しかったろうに。

 本当に世の中ままならないものだ。

「状況が変わりました」

「というと、メルセデスあたりから聞いたのでしょうか?」

「ええ、そうです」

 どうやら王女様もプッシー共和国の件はご存知のようだ。

「そういうことなら、私からの話も理解できると思います。以前約束した件ですが、お父様の許可を得ることはできませんでした。代わりに南方の別荘へしばらく、急用に出かける運びとなりました」

「そうでしょうね」

 ドンピシャだ。伊達にプッシー共和国は王城を狙われていない。

 ペニー帝国において、今最も危険な場所が首都カリスなのだ。恐らく彼女のような王族に限らず、足の早い貴族たちは早々に動き出していることだろう。そして、これは我らがペニー帝国に限らず、世界各国で見られる反応だと思われる。

「私も街に戻ろうと思います」

「いいえ、それは許されません」

「というと?」

「貴方が管理していた領地はフィッツクラレンス公爵領となりました。そして、タナカ男爵は死亡したのです。貴方はこれより私と共に、別荘へと移動してもらいます。そちらで状況が落ち着くまで、少し長めのバカンスとなりましょう」

「私が頷くとでも?」

「まったく思いません」

「……何をおっしゃいたいので?」

「飛空艇が飛び立ってしばらくしたら、行き先を貴方の街に改めます」

「なるほど」

 陛下と違って柔軟性に富んだお姫様である。

 こういうとき、やりやすくて良い。

 一方で王女様が傍らに立っている為か、ノイマン氏は極めて静かである。奥さんを怨敵に寝取られて、自暴自棄になっているかかと思ったのだけれど、どうやら理性で押さえ込んでいるようだ。クールな男だぜノイマン。

「あそこほど安全な場所が他にありますか?」

「どうやら王女様は元タナカ男爵領のことをよくご存知のようで」

「貴族として復興したいのでしょう? 不本意ですが、協力を約束します」

「承知しました」

 当初の予定通り、ドラゴンシティへ全力前進である。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 その日、ドラゴンシティに衝撃が走りました。

 どのような衝撃かと申しますと、生命の息吹にございます。命とは尊いものです。たとえ瑣末な羽虫の類であろうとも、そこには命がやどり、日々を精一杯に行きております。これを否定することなど、同じ命にすぎない我々にはできません。

 ですから、今まさにメイドが目の当たりとする光景も、誰も否定出来ないのです。

『ぅあぁー……あぁー……こどもー、わたしのーこどもー……』

 執務室には数日ぶりにドラゴンさんの姿があります。

 なんでも今まで塔の上の方にいらっしゃったそうです。

 ソファーに腰掛けた彼女は、ご自身のお腹を撫でていらっしゃいます。最後に見かけた時と比較して、幾倍にも膨らんだお腹です。その振る舞いは酷く穏やかでありまして、自ら語られるとおり、親が子を慈しむようであります。

『こどもぉー……ふ、ふふふー……こどもぉー……』

 とても幸せそうなお顔です。

 こんなドラゴンさん、初めて見ました。

「……おい、嬢ちゃん。町長はどうしちまったんだ?」

「そ、そもそも誰の子供なんだ?」

 同所には他にゴンザレスさんとエルフさんの姿があります。お二人もまたドラゴンさんの姿を目の当たりとしては、酷く驚いた様子でございます。起床後、身支度を整えまして、お仕事に臨むべく執務室を訪れたところ、遭遇した次第にございます。

「もも、も、申し訳ありません。私にもサッパリでして……」

『こどもぉー……かわいい……かわいい……わたしの、こども、かわいい……』

 ドラゴンさん、あまりにも幸せそうです。

 どうしましょう。

 見ているこちらが幸せになってしまいそうなほどです。

 もしかして妊娠の報告の為に、塔から降りてきたのでしょうか。

「本当にあれは町長なのか? 逆に恐ろしいぞ」

 エルフさんのお言葉は尤もです。こんな優しそうな表情のドラゴンさん、ドラゴンさんではありません。まるで人が変わってしまったようです。母とはこうあるべきと魅せつけられた気分であります。

「悪いが嬢ちゃん、ちょっと確認してもらねぇか?」

「ひっ!? いえ、あの、わ、私もそんなっ……」

 そんなの無理ですよ。

 皆でチラチラと様子を伺いながら、あれやこれやとお話でしょうか。

 そこでふと、メイドは気付きました。

 ドラゴンさんのドレスに何やら汚れが見受けられます。如何様な汚れかといいますと、白い粉でも擦り付けたような、そんな汚れにございます。知らないものが見たのなら、調理粉でも付着したと考えるでしょう。私も一瞬、そのように思いました。

 しかしながら、その傍ら、ソファーの上に見慣れた紙包みが。

 更に今この瞬間、ドラゴンさんの手がそちらに伸びました。そして、袋の内側に差し入れられた指先。そこには白いお粉が付着しており、彼女はおもむろにこれを腔内へと差し入れてペロペロと。ペロペロペロと。

「っ……」

 メイドの脳裏へ、ふと蘇る記憶がございました。

 これはいけません。

「ま、待ってくださいっ! それは駄目ですっ!」

『んー?』

「そのお粉は駄目ですっ! お口にしたら駄目なんですよっ!」

『どーしてだ? きもちい……これ、きもちい……』

「お腹の子供に良くないのですっ! だから絶対に駄目ですよぉっ!」

『ぁー……うん。こどもに良くないなら、やめる……やめないと』

「あ、ど、どうもです」

 思ったより素直にお粉を差し出して下さいました。

 母の子を思う力は偉大です。

 自らもまた経験したので覚えがあります。お粉を服用したことでやって来る、その凶悪な依存性は。にも関わらず、ドラゴンさんは即答でございました。

 おかげで自らの不甲斐なさに、とても情けない気持ちでございます。私はなんて心の弱い人間なのでしょう。ドラゴンさんの心の強さに感銘です。

 残念ながら、お粉はほとんどペロペロされておりました。

『こどもー……かわいいぃー……こどもーこどもー……わたしのこどもー……』

「…………」

 それにしても、ええ、やはり子供とは良いものですね。

 私もいつか生むのでしょう。

 少なからず意識させられてしまいます。

 同時にまだ見ぬ旦那様の姿を妄想でしょうか。

 などと、混乱状態にあるメイドが少しばかり現実逃避をしたところで、しかし、時間は立ち止まってくれません。一連のやり取りを目の当たりとしたゴンザレスさんから、お声掛けを頂戴しました。

「おい、嬢ちゃん、どうした? 何か知っているのか?」

「いえ、あ、あっ、あのっ、別に私はっ、ななな、なにもっ……」

 そうですよね。

 無かったことにはできませんよね。

 反射的に声が裏返ってしまいました。

「……ソフィア、何か知っているのか? その粉はなんだ?」

 エルフさんにも問われてしまいました。

 流石にこの状況で言い逃れはできません。

「それは、そ、その……」

 そもそも僅か数日で、ここまで大きくお腹が膨らむものなのでしょうか。鳥類の中には数日で卵を為す種もあると聞いたことがあります。しかしながら、それとドラゴンさんを比較するのはどうなのでしょう。大きさとか全然違います。サッパリ分かりません。

 ただ、事実として彼女のお腹はぽっこりなのです。

 まさか嘘は付けません。大きく膨らんだドラゴンさんのお腹が、それを決して許しません。子を為すにはあまりに幼い彼女の外見に加えて、穏やかにも我が子を慈しむ仕草と相まっては、罪悪感がビンビンに刺激されてしまいます。

 思い起こされるのは、お粉を手に入れたお部屋の刺激的な光景でしょうか。

 あぁ、メイドはとんでもないことをしてしまいました。
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