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ファンタジー集

その時が来たら、お願い

作者:榎木ユウ
なんちゃってファンタジーです。
 これが最期だと分かったのは、彼が今まで見た中で、一番幼かったからだ。それでも彼だと分かったのは、彼の瞳の色がいつもと変わらない美しい朱色だからだ。
 朱い瞳というものが、不気味でも恐いものでもなく、ただ、ただ、美しいと知ったのは、彼の瞳を見たからだ。

「おばちゃん、誰?」

 鏡の中に彼がいる。
 何の変哲もない只の姿見。
 だけど、唯一、私と彼を繋ぐ鏡。

 彼は不思議そうに私を見た。朱い瞳に似合う榛色の髪は、幼い今は、まだ金髪のように薄い色だった。

 確か彼が初めて私と会ったのは、5歳の時だと言った。
 ならば、この彼は5歳なのだろう。
 私はニッコリと彼に微笑みかける。
「私は朱音。あかねと言うんだよ。アズの目の色と同じ色を名前に持っているんだよ」
「どうして僕の名前がわかるの?」
「大きくなったアズに会ってきたからね」

 ずっと。

ずっと、人生の節目事にアズと会ってきた。
 生まれてきた時から、ずっと鏡を通して、わたしはアズという異世界の男と、人生の節目事に、会う。
 まるでそれが定められた運命みたいに。


 母親が死んだ日、初めてアズに会った。家の姿見で。
 アズにとっては最愛の王妃を失った日でもあった。王妃はアズを庇って死んだらしい。私の母も私を庇って事故で死んだ。
 その時、私が5歳で、彼は55歳。
 今から50年先の彼は、私同様、酷く憔悴しきっていたが、涙を零す私を、一生懸命慰めてくれた。


 10歳の時、初潮がきた。
 トイレの鏡で途方に暮れていた私の顔が急にアズの顔になる。
 二回目の出会いにして、どこの鏡であっても彼と、必ず時期が来たらこうして鏡を通して会うのだと理解した。
 50歳のアズには何故だか素直に初潮のことを言えた。アズは少し複雑そうな顔をしながら、「おめでとう」と言ってくれた。


 15歳の時、父が再婚した。
 部屋のクローゼットに取り付けられた鏡に、45歳のアズが写る。
 私は心から喜んだけれど、自分の居場所のなくなるような寂しさを感じた。アズはそんな私を見ながら、アズの側が私の場所だと言ってくれた。とても嬉しかった。


 20歳の時、成人式の日にアズはまた姿見の中にいた。振袖を着た私を見て、少し眩しそうな顔をアズはしていた。彼は40歳。その時の私にはいくつの彼も同じ年齢のおじさんにしか思えなかった。


 25歳になった私は、結婚したばかりの夫の不倫を知ってしまい、実家に帰っていた。その時は、何もかもうまく行かない自分の人生が滑稽だと笑う私に、35歳のアズは、姿見の中で、少し不満そうな顔をしていた。
「もう少し結婚を待てば良かっただろう」と。
「あなたは結婚したの?」
と泣きながら問えば、5年前にしたと言う。
 周囲の反対を押し切っての恋愛結婚だったそうだ。
「その内、必ずお前も幸せになれる」
 強く断言されて、少しだけ勇気づけられた。


 30歳の時、丁度お互いの歳が同じになった。
 会社のトイレの鏡で。
 もう、彼のことはおじさんに思えなかった。


 何の悪戯なんだろう? 誰が私の世界と彼の世界を繋げたのだろう?
 訳も分からず、ただ、お互いの若返る姿だけを、私達は鏡を通して見ていく。


 35歳の時、25歳の彼を見た。
 彼は鏡を見ずに眠っていた。政務で疲れているのだろう。
 何も言わずに、手鏡を私は机にしまった。


 40歳になった時、手鏡の中に美しい20歳のアズが映った。
 だけど、彼から見れば私はおばさんで、私は苦笑いを浮かべつつ、彼に素敵ね、とだけ言った。


 45歳の時、手鏡の向こう側のアズは15歳で、王子として日々迷いながら生きている時期だった。
 私は彼の母親の様に彼を励ました。だって、私は彼がどんなに素敵な王になるか知っていたから。


 50歳になった時、やはり手鏡の向こう側で、10歳のアズはいた。キラキラとしたとても素直な子供で、私は暫し彼とお喋りをして、時間を過ごした。


 その時、その時で、思えば彼は私の人生の岐路を見てきた。

 と言っても鏡の向こう側の世界は、こちらとは時間の進み方が逆行するらしく、会う度に若返る彼に何とも言えない複雑な気持ちになったが、それはアズも同じだろう。

 いつ、どこで、
 私達が出会うかは分からない。
 それでも、出会った意味はあるのだと、今なら分かる。


 私は手鏡に手を寄せると、5歳の彼に言う。

「もし、もし、その時が来たら、迷わず私をそちらに連れて行ってね。あなたはただ、手を伸ばしてくれればいい」

「?」

「私が何と言おうとも、私はあなたが大好きよ」


 初めて会った時から、きっと、ずっと、好きになっていた。
 今は、55歳のおばちゃんだけど、私にずっと寄り添ってくれたのは、彼だけだ。
 私にとって、父の様であり、恋人のようであり、我が子のようであり。
 愛しい、愛しい、ただひとりの人。


 鏡を机の中に戻すと同時に、扉をノックする音。
「王妃様、お時間です」
 宰相の声に、私は「はい」と返事をし、部屋を出て行く。

 今日は王であるアズの55歳の誕生日。
 まだ彼は5歳の私と会っていないと言う。
 それはそうだろう。

 彼は王妃を亡くしたその日に、5歳の私と会うからだ。

 その事に気付いたときは、既に時遅く。幼い彼に私から言えることはない。
 だって、何を言えばいい?
 いつ起こったのかさえ分からないこと。しかも、その理由が王を庇っての死だと言う。
 私が庇わなければ、アズはどうなるの?

 5歳のアズに言えることは、例えどんな未来であっても、私はアナタの元に在りたいということだけだから。

 そして5歳の私にも、アズは何も言えないのだ。だって、5歳の私も母を亡くしたばかりで、どうしようもなく落ち込んでいた。
 彼は私を慰めながら、己も慰めたのだから。

 
 誰が仕組んだのか。
 それとも誰も仕組んでないのか。

 ただ、これが運命なのだとは分かる。


 王の生誕祝いに、私達は連れ立ってバルコニーへと向かう。
 年老いた王。
 年老いた私。

 それでも30歳のあの日、あなたの手をとったことに後悔はない。


「アズ、私をここに連れてきてくれてありがとう」
「いきなりどうした?」
 アズは微笑みながら、私にキスをする。
 私はそんな彼の頬に自分の鼻をすりよせながら言う。

「私、幸せよ。あなたと共に生きて」
「まるでもう死ぬみたいな言い方をするな」
 そんなこと思ってもいない彼の横で、私は艶やかに笑う。

 覚えていて。
 忘れないで。

「5歳の私に伝えて。
 その時が来たら、お願いって」

 きっと5歳の私に、彼は言わない。言えない。
 私はその時、彼からは慰めの言葉しか聞いていないから。
 そして彼は、その時なんて来てほしくないと願うだろうから。


 あぁ、鏡の向こう側が逆行する時間で良かった。
 巻き戻せない時間で良かった。

 だから、こうしてあなたの命を救えるの。



「お願いね」


 繰り返されることのない時間。
 それでも繰り返された逢瀬の奇跡に、私は願う。


 もう一度、5歳のあなたに。

 必ず、私をこの世界に連れてきて、と。


 そして、今の私に。

 必ず、この最愛の人を救わせて、と。



 バルコニーに出ると、大きな歓声。
 盛大な祝祭。




 そして。


 その時が来たらーーー。
逆行する時間軸と、鏡という設定で書いてみたかったので。そんな異世界もあると思います。
どうして異世界に行けたのかとかは、運命の神様の思し召しってことで。色々すいません。

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