僕の家族のコッコさん つヴぁいッ!(56/70)PDFで表示縦書き表示RDF


サブタイトル・プロローグ。
見ての通り間奏です。お楽しみください。
僕の家族のコッコさん つヴぁいッ!
作:田山歴史



間奏 常夏の日・緩々な日


 永遠なんてない。
 楽園なんてない。
 ずっと続くことなんて何一つない。
 どんなに足掻いても、終焉はやってくる。


 間奏:常夏の日・緩々な日。


 嫌なコトはたくさんあったけれど、その日ほど嫌だったことはなかった。
 ぼくは彼女に助けられた。……けれど、ぼくを助けた彼女は、ぼくの顔を見るなり泣き出してしまった。
 どうしたらいいのか分からずに途方に暮れて、ぼくは泣きそうになっていた。
「……泣かないで」
 彼女に抱きかかえられて、僕はそんなコトを口にした。
「泣かないで」
 どうして泣いているのか分からずに、なんで泣いているのかも分からずに、それでも僕は彼女を泣き止ませたかった。
「……大丈夫だから。ぼくはここにいるから」
 だから……言った。
 本当は心の底から好きになった女の子にしか言っちゃいけない言葉を、口にした。

「守るから。……ぼくが、コッコさんを守るから」

 泣きそうになりながら、ぼくは彼女を強く抱き締める。
 言葉は当てにならないことを知っていたのに。ぼくは気休めを口にした。
 気休めであることが分かっていたのに、ぼくは守ると言い切った。
 いつか壊れる意地であっても、ぼくは少しでもコッコさんに笑っていて欲しかった。
 本当に、理由なんてただそれだけで、他にはなんにもなかった。
 守ると誓ったのに、なんにもなかったから、終わってしまった。


 セミが鳴いている。何匹いるのか、どんな種類なのかまでは分からない。
 日差しは強く、気温は高い。蒸し暑さを感じながらも、僕は桶に入れた水に足を浸しながら縁側でゆったりとスイカを食べながら本を読んでいた。
 本を読みながら、人に話を聞かせていた。
 その人はしわくちゃのおばあちゃんで、若い頃はとても美人だったんじゃないかと思わせるような若々しさが特徴で……まぁ、つまり僕にとってはお祖母ちゃんという人に当たる、偉大なる先人だった。
 ばーちゃんは微笑んで話を聞きながら、僕の隣に座っていた。
「……てっちゃんも、やっぱり男の子なんだねぇ。昔はししょーししょーって娘の親友にべったりだったから色々と心配してたんだけどねぇ」
「ばーちゃん。それは三歳の頃の僕です。今は高校二年生ですから」
「やってるこたぁあんま変わらんけどねぇ。てっちゃんはにっちもさっちもいかなくなるとばあちゃんの所に来るから」
「……迷惑かな、やっぱ」
「ンなこたぁないよ。……ただ、ばぁちゃんだっていつまでもこっちにいられるわけじゃないからねぇ」
 そう言って、ばーちゃんはいつも通りに快活に笑う。
 僕がばーちゃんと出会った時のように、いつも通りに笑っていた。
「思い残すことはね、あんまりないんだァね。織が嫁に行くところもちゃんと見れたし、てっちゃんの顔も見れたし、のぞちゃんの顔も見れた。……あとは、曾孫の顔が見れればきっと誰にだって誇れる人生になるだろうケドねェ」
「……それは、望に期待した方がいいかもしれないけどね」
「好いてる女子おらんの?」
「いるよ」
 わりとたくさん。
 ……それを言うのは、最低人間の証明みたいだったから口には出さなかった。
 ばーちゃんはなぜかうきうきしながら、僕の顔を覗き込んできた。
「で、何人くらいいんの?」
「……普通一人じゃないのかな。好きな人って」
「なに言ってん。てっちゃんのじーちゃんなんて、私を選ぶまで遊びたい放題遊んでたさ。私と結婚してからはせんようになったように見えたケド、ありゃあ絶対どっかで遊んでたに違いなかったねェ」
「でも、じーちゃんはばーちゃんが好きだったから結婚したんでしょ?」
「そらそうよ。でも、人間ってのはたくさんの人を好きになれる生き物だからねぇ」
 ばーちゃんを微笑みながら、ほんの少し遠い目をした。
「でも、人が守れる範囲は自分の周囲1メートルが限界だから、みんな仕方なく一番好きな人だけ守ってるんだよ」
 そうなんだろうと思う。ばーちゃんの言うコトはきっと正しい。
 だから……僕がやっていたことも、きっと分不相応だったんだと思える。
「……じゃあ、母さんみたいな例外を除いて、みんな誰か一人か二人くらいしか守れないんだね」
「ンなこたないよ?」
「え?」
「自分が守れるのは周囲1メートルが限度だけど、人は手を繋ぐことができるじゃない。……問題なのはね、手を繋いだ相手を丸ごと自分のものにしたくなるから、おかしくなるんだよ。人の好き嫌いっていうのは、結局はそういうコトだからねぇ」
 ばーちゃんは、なんだか微妙な顔でそんなコトを言った。
 僕は、ばーちゃんがなにを言いたいのかよく分からずに、スイカを口に運ぶことしかできなかった。
「てっちゃんも気をつけなや? 女の子は嫉妬深いから」
「……僕は気をつけてるつもりだけど、なんだかやけに殴られるかな」
「殴られてるなら大丈夫よ。女の子が本当に怖いのはね、喧嘩したのにも関わらず何事もなかったかのように振舞っている時だから」
 おっかねぇ言葉だった。肝に銘じて今後二度と忘れないようにしたい。
 男は根暗だが女は性悪と、昔誰かが言っていたような気がするけど、まさにそんな感じだった。
 そんな会話を交わしつつ、僕は空を見上げる。
 抜けるような真っ青な青空に、セミの鳴き声がやかましく響いていた。
「……なぁ、ばーちゃん」
「ん?」
 しゃくしゃくとスイカを齧りながら、僕はポツリと呟いた。

「やっぱり俺……スイカ作って暮らしたらいかんかなぁ?」

 なんとなく、ずっと昔から思っていたこと。
 のんびりと野菜でも作りながら暮らしたい。朝は早く起きて野菜の世話をして、昼は太陽の下で汗を流しながら野菜の研究をして、夜は夕飯を食べて風呂に入ってさっさと寝る。……そんな、現代人が絶対に嫌がるような生活に、僕は憧れていた。
 そのための努力は一切してこなかったから、絶対に無理だってことは重々に分かっていたし、現実がそんなに甘くないってことも分かってる。
 分かっているのに……どうして僕は、そんなコトを言ったのか。
 僕の考えを見透かしたのか、ばーちゃんはほんのちょっとだけ苦笑した。
「いかんよ、てっちゃん」
「……やっぱり、ダメかな?」
「ダメってェことはないけど、楽しみは後に取っておきんさい」
「………………」
「今は、なんでも頑張り。勉強でも運動でも他の事でもなんでもええ。努力と工夫に終わりはないんだから、腐るほど頑張って飽きたら楽しいことやればいいんさ」
 ばーちゃんらしい言葉だった。
 素直に頑張れと言わないところが、なんていうか母さんの血筋っぽい。
 とりあえず頑張って、飽きたら他の事をやれってあたりも。
(……それでいいのかな)
 守りたいものも守れなかった。
 守ると誓ったのに守れなかった。
 あの屋敷を守ると誓ったのに、守ることはできなかった。
 納得なんてできはしない。後悔もたくさんした。
 それでも……仕方ないかな、という思いもある。
 終わらないことなんてないし、章吾さんがいなくなってからは限界も感じていた。
 それに、みんなと完全にお別れってわけでもない。
 そもそも、僕が守りたかったのは、『屋敷』そのものじゃない。
 屋敷で暮らすみんなの日々を守りたかっただけだった。
(……なんてね、全部言い訳っぽいけど)
 苦笑しながら立ち上がって、僕は猫のプリントの入ったエプロンを身につける。
「ばーちゃん、昼ご飯はなにがいい?」
「洋風の卵料理ならなんでもいいかねぇ」
「了解」
 僕はにっこりと笑って、昭和の日本を思わせる台所に向かった。
 さばいたばかりの鶏がこちらを睨んでいたけれど、ここではいつもの光景だったので気にも止めない。
 さくっと卵を割ってオムライスを作ることにした。


 ………………。
 …………。
 ……。

 第四十一話『社員旅行とみんなの気持ち(上)』
 第四十二話『社員旅行とみんなの気持ち(下)』
 第四十三話『Good by My World(上)』
 第四十四話『Good by My World(下)』
 最終話前編『足掻きと叫び』
 番外編終章『空倉陸の告白』
 最終話中編『さよなら■■■さん』
 最終話後編『■■■■■■■■■■■』

 以上を持ってこの物語は終局となり、以下が至る終局の可能性となる。
 BとAの終局では、誰かが確実に不幸になる。
 この物語が物語としての意義を果たすためには、死力が必要となる。
 そう、選ぶ権利があるのは、死力を尽くした貴方である。

 終局1『つながれた小指』(Aランクエンド・■)
 終局2『バックスクリーン直撃弾』(Aランクエンド・■■)
 終局3『貴方のいるせかい』(Aランクエンド・■■)
 終局4『今、ここにいるばか』(Aランクエンド・■)
 終局5『続くもの置いていくもの』(Bランクエンド・■■■)
 
 
 これより以下が終局6となる。
 ■■■『唯たる我等・無双の主従』(Sランクエンド・■■編)
 ■■■『インペリアル・クリーム』(Sランクエンド・■編)
 ■■■『そらとぶきつねのはなし』(Sランクエンド・前説)
 ■■■『■■■■■■■■■■■』(Sランクエンド・本説)
 ■■■『■■■■■■■■■■■』(Sランクエンド・おまけ)

 この物語は、ある目的のために描かれ始めた物語。
 ただそれだけで終わるかどうかは、まだ分からない。




 なぜならば、


君がいて、みんながいて、僕がいた。
居場所はなくなってしまうけど、きっと僕はそれを忘れない。
そう、願っていた。

次回、『社員旅行とみんなの気持ち(上)』

みんなと一緒に、いたかったんです。






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