姉妹の会話
コナンと哀が皐月と顔を会わせた数日後、3人の姿は阿笠邸にあった。この日皐月は、妹の面倒を見ている博士に挨拶しに来たのであった。
「始めまして、志保の姉である明美です。今は黒岩皐月と言います。」
「御丁寧にどうも、阿笠博士じゃ。」
とりあえず2人とも型通りの挨拶をした。
「いやしかし、新一から聞いたときは驚いたが、まさか本当に生きていたとは。」
「信じられなくて当然です。私自身最初は信じられない思いをしましたから。」
皐月が苦笑しながら言う。
「しかし、その貴方を生き返らせた方とお会い出来ないのは残念ですな。」
博士が残念そうに言った。皐月を甦らせた父親(戸籍上)の城太郎は、この研究を現在は封印している。また皐月は組織のことを始めとして自分の過去は語っていない。だから、博士が会って話しあおうとしても面倒くさいことになるのは目に見えていた。
「まあそれはさておき、とにかく生きていたことはめでたい事じゃ。今日はゆっくりしていって下さい。」
「ありがとうございます。」
皐月が博士に向かって頭を下げた。
「さ、灰原。お茶とかは俺が持っていってやるから、先に皐月さんと一緒に上に行けよ。」
コナンが哀にそう勧めた。上と言うのは哀の部屋だ。
「え!?私がするからいいわよ。」
「いいから、先に行けよ。」
そこで哀は気付いた。これがコナンからの気遣いだと。
「わかったわ。じゃあお願いね。」
「ああ。」
すると哀は微笑み、皐月の手を引っ張った。
「お姉ちゃん、私の部屋に案内するわ。」
そして2人は仲良く2階へと上がって行った。
「あんなに嬉しそうな哀君は始めてみたのう。」
「ああ。嬉しくて当然だろうな。死んだと思っていた実のお姉さんが生きていたんだから。俺だってほっとしてるんだ。」
コナンが博士の言葉に同調して言う。
「しかし新一。あの娘を甦らせた人たちの行為についてだが、つまりは・・・・そのなんだ・・・」
博士は先に続く言葉を考えられず、途中で口篭ってしまった。
「わかってるって。死体損壊罪ってことだろう。それに死人を生き返らせる行為は倫理上の問題もあるだろうな。」
コナンは博士の言わんとしていることを察していた。
「なんじゃ、わかっとったのか?」
「ああ。というか俺も皐月さんから話を聞いた時から考えていたことなんだ。」
「で、新一はどう思うんじゃ?」
すると、コナンはバツの悪そうな顔をした。
「正直俺にもわかんねえ。確かに死体を傷つけたことや、死んだはずの人間を甦らせた事は問題だと思う。けど、灰原のあんな嬉しそうな顔を見ちまうとな。」
先ほど博士が言ったとおり、明美が生きているとわかってからの哀の表情は心なしか明るい物となっていた。そして皐月と直接会うと、今までにない笑顔をするようになった。
それを見ていると、コナンからは自然と彼女を生き返らせたことが罪という考えが薄れていった。
「とにかく、もうしばらく考えてみるよ。さ、お茶の準備しなきゃな。」
「そうじゃな。」
2人はお茶の準備をするために、台所へと向かった。
2階の哀の部屋では、久しぶりに姉妹が水入らずで話をしていた。
「本当に何年ぶりかしらね?こんな風に誰かの視線を気にすることなく、あなたと話をするなんて。」
「そうね。わざわざお膳立てしくれた工藤君には感謝ね。」
この会話だけで、2人が如何に今まで縛られた生活を送ってきたかわかるというものだ。
哀の部屋は彼女の性格を反映してか、必要な物以外特に見当たらない。今2人はその最低限の調度品の一つであるベッドに腰掛けて話をしていた。
「だけど、あなたも小さくなっているなんてね。しかも工藤君と一緒だなんて。まるで私達は何かの糸で繋がっているみたいね。」
「そうかもしれないわね。」
微笑みながら言う皐月に対して、哀も笑いながら答えた。
「それにしても、あなたどうして工藤君の所へ逃げ込もうと思ったの?何か理由でもあったの?」
皐月が哀に聞く。先日黒岩家でした会話で、彼女は哀がコナンの所へと逃げ込み、今は一緒に暮らしているということは聞いた。だがその先の理由に付いては、あの後まもなく母親の京子が帰ってきたために聞けなかった。だから皐月は今聞くことにした。
そして哀は最初数秒ほど黙り込んだが、すぐにそれについて語り始めた。
「私が組織に反抗して閉じ込められて、その後APTX4869を使って脱出したのは前に話したわよね。あの時、私はどうしようか困ったわ。私には組織以外に行き場所なんかなかったんだもん。」
哀の瞼には、あの雨の日幼児化して特に行き先もなくただとにかく歩いた時の記憶が甦ってきた。
約3ヶ月前。宮野明美がジンに射殺されてから3週間ほどしたころ、その妹である宮野志保は雨の中途方に暮れていた。
APTX4869の副作用で組織からの脱出には成功できたものの、彼女に行く宛などどこにもなかった。家族は既に全員死んでいるし、親戚のことなど全く知らなかった。例えいたところで、組織の息がかかっているのは確実だった。そんな所へ行ったら最後、処刑されて解剖されること間違いなしだった。
薬を飲む直前は冷静に死のうとさえ考えていたのに、いざ逃げ出すと生への執着心が心の中で生まれるから不思議であった。
一体自分はどこへ行くべきなのか?誰を頼るべきなのか?志保は自問自答した。そして彼女の脳裏に1人の人間の名前が浮かび上がった。
「それが工藤新一だったわけ。彼はAPTXを投与された人間で唯一死亡確認がなされていなかったの。実験段階でAPTXの副作用として幼児化する可能性があるってわかっていたから、私はもしかしたらって思ったわ。それに組織が工藤君の家に派遣した調査チームの調査でも、子供用の服がごっそりなくなっているのがわかっていたから。もしかしたら工藤新一は幼児化して生きているかもしれない。私はそれにかけてみたの。彼なら、私の事を理解してくれるかもしれない。助けてくれるかもしれないって。」
そこで一端彼女は言葉を区切った。
「私は曖昧な記憶を頼りに米花町の工藤君の家まで歩いたわ。そしてようやく辿り着けた。私の記憶にあるのはそこまで。私はそこで気絶したの、そして気付いたら博士の家のベッドで寝かされていた。」
「そうだったの・・・あなたも随分と苦労したみたいね。」
皐月がそう言うと、哀が首を振った。
「ううん。お姉ちゃんに比べたら私なんて・・・」
その時、部屋の扉がノックされた。
「灰原、皐月さん。入りますよ。」
コナンの声がした。
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