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よみがえった少女
作:山口多聞



運命が交わる時


 夏休みである8月も終わって、月は9月となった。各小学校では2学期がスタートするわけだが、それは帝丹小学校でも同じである。そしてその3年の教室に、黒岩皐月と名を変えた宮野明美の姿があった。

「今日からこのクラスに加わる黒岩皐月さんです。」

 担任の女教師が黒板に彼女の名を書く。

「黒岩皐月です。よろしくお願いします。」

 皐月はペコッとお辞儀をした。すると生徒たちがパチパチと拍手をする。

(今日からここで勉強するんだ。変な気分。)

 本当なら小学校で学ぶ事など2度とないはずであった。しかし、数奇な運命は彼女をこの場に(いざな)った。あの後、黒岩夫妻は一体どうやったか知らないが、短期間で彼女の戸籍など、日常生活をする上で必要な公文書を全て手に入れ、そして帝丹小学校への転入手続きをした。ちなみに、3年への転入となったのは、授業内容でなるべく暇しないようにという黒岩夫妻の配慮だった。

 とにかく、こうして彼女は十数年ぶりにランドセルを背負って、小学生としての新しいスタートを切ったのである。

「それじゃあ黒岩さんの席は窓側の一番後ろね。」

「は、はい。」

 担任に指示され、彼女は席に座った。木の机に木の椅子、窓から見える運動場の風景。全てが懐かしいようで、また新鮮だった。

(前はどんな時でも組織の監視がついていたけど、今はそれに気兼ねすることなく生きていけるのね。)

 それが彼女にとってはもっとも嬉しい事だった。後ろに視線がない、それだけで彼女の心は大いに弾む。ちなみに彼女はコナンの用に組織を潰そうなどとは微塵も考えていない。というかそんな事は彼女1人で出来る筈がないし、それに自分を娘として迎えてくれた黒岩夫妻を巻き込むのも気が引けていたからだ。

(そういえば、ここにはあのコナン君がいるのよね。出会ったら本当にどうしよう?)

 コナンが工藤新一であると言う事はしっかりと記憶に残っている。感の鋭い彼なら例え小学生の姿の自分でもすぐに気付くかもしれない。

(会わないのが無難かしら。)

 彼女はそんなことを考えていた。

 その日は転入生とあって、彼女は質問攻めとなった。「どこから来たの?」「得意な勉強は?」「好きな事は?」etc。それらを1つ1つ答えながら、彼女は小学校1日目を乗り切った。そしてこの日はコナンに無事(?) 会う事なく終わった。

 翌日からは授業が本格的に始まった。小学校3年レベルの勉強は、彼女にとって暇なものと暇でない物に区っきりと色分けされた。厳密に言えば暇な物が国語、算数で、暇でない物が理科、社会である。前者は元々彼女自身が大人であったからわかって当たり前であるが、後者は長年勉強していないことで、忘れている事などもあったから有意義な勉強となった。

 そんな感じで1週間、彼女は小学生としての生活を無難にこなして行った。いじめに遭うような事もなく、勉強などもしっかりとこなし日々忠実していた。そして最大の変化と言えるのが、友人が出来た事であった。

 最初の2日間こそ生徒たちの興味の対象となった皐月であったが、3日もたつと子供たちは興味を失い、彼女は生徒の1人としてクラスに溶け込む事が出来た。そんな中で、熱心に彼女に接してきたのが菊地直江だった。

 皐月から見て右に2つ隣の彼女は、別に浮いていると言う程ではないが、クラスの中では他人との交流が少ない人間だった。そういうわけか、彼女は明美に積極的に接近してきた。

 最初は少し煩わしいとも思えた皐月だったが、直江のある点に惹かれ、その後良く会話をすることとなった。

 皐月が惹かれた直江のある点、それは彼女の好きな物が科学であったことだ。そんな彼女に、皐月は妹の姿を重ね合わせたのであった。

 それが始まりで、今は途中まで一緒に帰るほど仲が良くなった。皐月にとっては人生で初めて心の底から交流できる友人であった。

 そして帝丹小学校に転入して10日ほどした頃、2人が帰り道にお喋りしながら歩いていると、直江があることを話題に上げた。

「そう言えば、うちの学校には有名な子がいるんだよね。」

「誰よ?」

「1年生の江戸川コナン君と灰原哀ちゃんよ。」

 その名を聞いて皐月の心に動揺が走ったが、なんとか表情には出さず、聞き返した。

「どんなことで有名なのよ?」

「2人とも1年生にしちゃやたら勉強が出来て、しかも雰囲気が大人っぽいわね。私も一度全校集会で見たことあるけど、確かに(ただ)ならぬ感じはしたわね。」

(まあコナン君は工藤新一だからね。)

 皐月は心の中でそんなことを考えた。

「あとコナン君っていったら、今世間を騒がしている怪盗キッドから宝を何回も守った事で勇名ね。それにあの毛利名探偵の家に居候していて、一緒に色々な事件を解決しているって聞いたわ。他にも何人かで少年探偵団って言うのを作って、何件も事件を解決したって言うし。」

「へえ、そうなんだ。」

(そんな目立つような行動して、大丈夫なのかしら?)

「もう1人の灰原哀って子はどんな子なの?」

「彼女もコナン君と同じで勉強が凄く出来るらしいの。それと、赤みがかった茶髪がとっても似合ってる可愛い子だったわ。」

(赤みがかった茶髪?)

 それは妹の特徴であった。しかし、そんな髪の人間世界中にいくらでもいるだろう。すぐに自分の妹と繋げるのは短絡的であった。

「そう。・・・そんな凄い子達なら私も一度見てみたいわね。」

 皐月はそう言ってお茶を濁した。そして話題を変えた。

「ところで・・・」

 しかし、彼女が言ったセリフは翌日には現実の物となるのであった。

 翌日、掃除当番の交代で、彼女を含む班の担当は1年生の教室に近い特別教室の掃除となった。掃除事態は別に特別なことではなく、短時間で終わらせられる物であった。皐月達も手早く掃除を終えると、さっさと教室へと戻り始めた。

 そんな時、同じ班になっていた直江が皐月の袖を引っ張った。

「皐月ちゃん、昨日言ってたコナン君たちがあそこに居るけど。」

「え!?」

 皐月は少し驚きながら、言われた方向へと顔を向けた。するとそこには、コナンを含む男子3にん、女子2人の1年生グループがいた。しかし、皐月は女子の1人を見て凍り付いてしまった。

(嘘!?)

 皐月が見つめた先にいる少女は、赤みがかった茶髪で、少しばかり鋭い感じの目元をしていた。子供の姿であるが、それは間違いなく妹の宮野志保であった。

(どうして、どうして!?)

 皐月が驚きのあまり固まっていると、その少女も皐月の方に気付いた。そして、彼女も皐月と同じように表情が凍りついた。まるで幽霊でも見ているかのように。

「どうしたの皐月ちゃん?」

 固まった彼女に不審を抱いた直江が声を掛け、それによって皐月は正気を取り戻した。

「あ!ごめん。」

「そろそろいかないと帰りの会に遅れるわよ?」

「そうね。」

 2人はその場を足早に立ち去った。コナンと哀はそれを追いかけようとしたが、探偵団のメンバーに阻まれた。

 運命の再会は、授業終了後の下校時間に持ち越された。


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