挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

狐憑き

作者:ぼっち球
 さて、ここに私の実体験をつらつらと書いていこうと思う。実体験と言えども、中々に怖い話だろうと思っている。
 夏のホラー企画ということで、多くの方が読むだろう。とても良い機会だ。
 もしかすると退屈かもしれないが、是非とも最後まで読んでもらいたい。


 * * *


 これは私の高校時代から今にかけて続いている恐怖だ。
 当時、私の学校ではコックリさんが流行っていた。学校のそこかしこで「コックリさん、コックリさん」と、声が聞こえたものだ。
 休み時間や放課後にひっそりと集まって、鳥居の描かれた紙の上に十円玉を走らせる。
 本当に十円玉が動く恐怖が、先生には見つかってはいけないというスリルが、かえって私達を突き動かした。

 最初の頃こそ『誰々が成功した』だの『先輩が呪われた』だのといった話題が主だったのだが、次第に話題の内容は技術的なものへと移っていった。
 『紙ではなく布を使った方が強力だ』『十円玉は賽銭箱から盗んだものを』『鳥居や文字に血を混ぜた墨で』……といったように。
 もちろん真偽は知れない。けれど、それらの話題がコックリさんという儀式をエスカレートさせたのは確かだ。

 私や私の友人達もコックリさんに夢中だった。
 特に、オカルトに詳しかった友人は嬉々として新しい方法を模索していた。ここでは彼をA君としておこうか。
 A君は、何処から仕入れるのか、犬の血液や亡くなった方の顔に掛けた後の白布などを私達に見せてはニヤニヤと笑う、そんな奴だった。
 もちろん、それらを用いて私達はコックリさんをしていた。今にして思えば、なんとも気持ちの悪い遊びだ。


 さて、前置きが長くなってしまった。ここから、私を襲う恐怖の発端になった事件について語っていこう。

 先に書いたように、コックリさんが私の学校で流行っていた。
 そんなある夏の日、A君はいつものように口の端を吊り上げた笑みを浮かべながら、私達にある提案をした。

 それは“人の身に狐の霊を降ろそう”というものだった。


 そして、A君の提案から数日後の土曜日の昼間。
 私やA君を含む四人は学校の旧校舎へと訪れた。教室に入るや私達を襲った、不快な熱気やカビ臭さは今でも憶えている。
 そんな私達を尻目に、A君は淡々と儀式の準備を始めた。今回行う狐の降霊は、A君が独自に考え出したものらしい。
 A君が汗を流しながら準備を進めている間、残った私達三人は雑談をして時間を潰した。

「おい、完成したぞ」

 三十分程経った頃、嬉しそうにA君が私達のもとへ来た。
 チラリとA君の後ろへ目をやると、二列に並べられた蝋燭や円形に置かれた縄が見える。

「やっと出来たのか。で、どうやって狐を降ろすんだ?」

 そう口を開いたのは、お調子者のB君だ。
 しかしA君は「まあ、そう焦るなよ」と言い、儀式の説明を嬉々として始めた。A君は自分の知識を披露するのが好きなのだ。


 A君曰く、コックリさんとは“狐狗狸さん”と書くように、霊的な力の強い動物霊の事なのだそうだ。今まで行ってきたコックリさんは、その広い括りの中からランダムに選ばれた霊を十円玉に降ろしていた。
 今回の降霊もベースはコックリさんと同じだ。違いは霊を狐霊に絞り、十円玉ではなく人間の男へ降ろす事。
 では、どのようにして狐霊に絞るのか。A君が着目したのは“言葉”だった。

「“狐の嫁入り”って言葉があるだろ?
 天気雨や数㎞にも及ぶ怪火の列を指す言葉なんだけど、今回それを利用する」

 並べた蝋燭は怪火のつもりなのだろう。
 教室の中を見回したB君が、ここで「そこの縄は何だ?」と口を挟んだ。
 円形に設置されたボロボロの荒縄。何処にでもあるような縄だ。そして、やはりA君も「普通の縄だ」と言う。

「大事なのは形だ。そして、その形がこの儀式の核なんだよ」

 やや芝居がかった口調のA君はさらに説明を続ける。

「端と端とを合わせて円を描いているだろ?
 円と縁を掛けているんだよ」

 B君が嘲るように「駄洒落かよ」と言ったが、A君はやはりニヤニヤと口角を上げるばかりだ。

「“言葉”を使うって言っただろ?
 例えば初詣とかで賽銭箱に五円玉を投げるだろ。“御縁”と“五円”を掛けてるんだよ。
 つまり、この縄の形は狐霊とCとの縁、すなわち繋がりを強めるためのものだ」

 Cとは私の友人だ。この儀式に参加した四人目であり、この儀式の生贄であり、今現在において私を恐怖させる存在がCだ。
 彼はいつもオドオドした、気の小さい男だった。お調子者のB君から、よく弄られていた。

「……僕、大丈夫なんだよね?」

 Cは消えるような声でA君に尋ねた。ただでさえ狐を降ろすための生贄に選ばれた上、さらにその繋がりを強めるとA君に宣言されたのだ。
 もし私がCと同じ立場だったとしたら、不満の声をあげるだろう。しかし、Cは気の小ささ故にそれが出来ないようだ。
 現に私の隣でA君の説明を聞くCは沈痛な面持ちだ。

「大丈夫かどうかは知らない。なにせ人に降ろすのは初めてだからな」

 A君がCの不安を煽るように言った。それを聞いて呆然と目を見開くCの姿は悲壮に満ちていた。

「さて、そろそろ時間だ。
 Cは三時になったら、あの縄の中に立って北東の方角を向くんだ。黒板がちょうど真東だから、黒板の左端と窓との間が北東だ」

 Cの向く北東、窓と黒板との間から教室の中心に設置された縄までの間には蝋燭の炎が二列、ぬらぬらと揺れている。

「あと、これを持って行ってくれ」

 ここでA君はポケットから小さな巾着を取り出してCに渡した。中には泥の付いた米が入っているのだという。

「よし、三時五分前だ。Cは円の中に立て。俺達は後ろ側の出入口の外に立つぞ」

 A君の指示通りに動いた時、B君が不満を漏らした。何故なら後ろ側の出入口はちょうどCの真後ろにある。ここからではCの怖がる顔が見えないのだ。
 いつもCをからかうB君としては、その表情を見ておきたいのだろう。

「いや、それはダメだ。俺達三人の位置にも意味があるんだからな。
 Cの向く北東は鬼門の方角だ。そして俺達の立つ位置は南西、これは人門と呼ばれる方角なんだよ」

 円形の縄で縁という言葉を表したように、人門の方角に人間が立つ事で方角の意味を強めるのだそうだ。
 結局、B君は渋々と従った。

 そして遂に三時を迎えた。

 教室の中心、縄の円の中に立つCが、あらかじめA君に教えられていた文言を唱える。その小さく震える声が明瞭に聞こえる程、私達は固唾を飲んでCを見つめていた。


「…………何も、起こらないぞ」

 時間の止まったかのような静寂を破ったのはB君だった。その一言に、まるで金縛りが解けたように時計を確認すると三時一分を示している。たった一分とはいえ、呼吸すら忘れる程緊張していた私は大きく息を吐いた。


 それは安堵の吐息だった。
 失敗した。A君も所詮はオカルト好きの高校生。そんな彼が組み上げた儀式だ。成功するはずも無い。
 だが、もしも成功したら……
 その恐怖心が少なからずあったのだ。そして今の吐息は、その恐怖から解放された故の安堵から生まれた。
 私の隣で失敗に対して苦笑いし合うA君とB君。

 一夏の馬鹿げた心霊実験。何を怖がっていたのだろう。ホラー映画の見すぎだ。
 安堵の吐息を皮切りに、そんな想いが浮かぶ。
 小心者のCも、さぞや胸を撫で下ろしていることだろう。

「C?」

 そこで違和感を感じた。私達四人の中で一番小心者のCが、未だ金縛りから解けないように棒立ちしているのだ。いつもなら、すぐに私達の元へ駆け寄ってきそうなCが、だ。
 その違和感に隣の二人も気付いたようだ。しかし安堵した手前、再び緊張することは無いのかB君がCへ足を向けた。
 B君の後にA君が続く。だが、私だけは再び恐怖による緊張に包まれていた。

 そして、その恐怖が正しかった事はすぐに証明された。

 名前を呼んでも反応の無いCに、無視されていると思ったのだろう。B君が乱暴にCの肩を引き寄せ、こちら側を向かせた。
 再び時間が停止した。Cの顔が狐のように変貌していたのだ。

 普段のCからは想像できない糸目の奥から冷徹な視線を感じる。表情の抜け落ちた顔が、徐々に歪み、三日月のような口になった。
 狐の顔だ。不気味に笑う狐の顔が、Cの顔にあった。

 そのCがゆっくりと手前で固まるB君の首に両手を伸ばした。私達の身体は動かない。恐怖が脳内を白く染め上げ、逃げるという選択肢を塗り潰していたのだ。

「ぎ」

 首を締められたB君は声とも分からない音を喉から出した。バタバタと暴れるB君を、私の双眸は茫然と見つめるばかり。
 やがてB君の手が抵抗を止めて、だらりと力無く垂れ下がった。Cが首から離すと、糸の切れた操り人形が崩れ落ちるように、B君の身体が生々しい音と共に教室の床に倒れる。
 赤紫色のB君の顔は、口元に広がるぬらりとした涎も相まって、まさしく鬼の形相だった。


 死んだ。
 その事実が、ようやく私に時間を引き戻した。


 死んだ。B君が死んだ殺された。やばい怖いCB君死んだ。やばい死ぬ殺されるやばい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
 混乱する頭とは裏腹に、私の身体はいつしか本能のままに走っていた。
 一歩でも遠く、Cから、B君の残骸から逃れたかった。
 教室にA君を残してきた事すら、その時は頭に無かった。死への恐怖ばかりが私を闇雲に走らせ続けていた……



 どれくらいの間、駆けていたのだろうか。
 いつしか私は道端で倒れていた。夕焼けに染まる空は、少なくない時間、私が恐怖心と疲労から気を失っていたのかを告げている。
 そして、私を覚醒させたのは降り注ぐ雨だった。
 夕焼けに染まる大きな雲は彼方先。私の真上の空に雲は無い。
 しかし、私は雨に打たれている。

「…………狐の、嫁入り」

 霞がかった脳内から、その単語が口を突いた。
 夕暮れ時の空は移ろい易い。茜色だった空は、いつしか赤黒く染まり、ぽつりと零れた私の言葉を呑み込んでしまった。


 B君の死体が発見されたのは、その日の夜。見回りをしていた先生によってだった。
 A君は私と同様に逃げ延び、件のCは行方不明。
 私とA君は狐に憑かれたCへ怯えながらも、解決法を探し回った。有名な霊能者を訪ねたり、古今東西の呪術を試したりした。

 しかし、そんなA君も数年前に死んだ。殺されたのだ。
 凄惨な最期だった。両目を刳り貫かれ、その眼球はそれぞれ耳のあるべき場所に埋め込まれていた。血の涙を流し恐怖に彩られた顔は胴体の上に乗せられていた。
 実際に見たわけではない。深い怨恨によって形作られたA君の死体を撮った写真が、県外に引っ越した私の部屋に投函されていたのだ。

 次こそは私の番だ。
 これが、私が今なお感じている恐怖。スッキリとしない終わり方だが、実体験なのだから許してもらいたい。


 * * *


 ここまで読んでくださった方々に感謝を伝えたい。そして同時に、この話を投稿した意図を伝えたい。


 A君がまだ生きていた頃。上に書いた通り、私達は生き延びる術を探し回っていた。
 実はB君とA君の死の間に、他にも三人が死んでいる。まず一人は私の母、そしてA君の姉だ。Cと関わりの無い二人が何故殺されたのか。
 A君と私は、一つの仮説を立てた。私達に縁のある人間もCに狙われるのではないか、と。
 そして不幸にも私達に実験台として選ばれたのが、殺された三人目だ。あなた方と同じように当時の事を教えたところ、Cの顔すら知らない三人目の彼も惨殺されてしまった。

 私は死にたくない。だから、この話を投稿したのだ。
 一人でも多くの人がこれを読み、Cに狙われれば、そのぶんだけ私は生き長らえる事ができるはずなのだ。

 くだらない話だと思ってくれても構わない。
 だが、気づいているだろうか、タイトルが回文(・・)であることを。回文とは言葉の端と端を繋げた、言葉の円だ。あなた方と私とを結ぶ縁だ。

 何故、登場人物は男だけなのか。
 何故、名前がABCとアルファベットなのか。
 くだらない話と思う前に考えてみてほしい。
 他にもあなた方と私との縁を強めるための仕掛けを施している。きっと、何人か死ぬはずだ。死んでもらわなければ困る。

 袖振り合うも多生の縁だ。
 再度、この話を読んで、生贄となって下さった方々に感謝を言いたい。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ