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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。 作者:夢・風魔

バーション0.00【オープンベータテスト】

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29/124

29:マジとロビースタッフの共同制作。

 朝六時。
 時計のアラームで目が覚めた。
 久々のVRで昨晩は興奮していたけれど、案外すぐに眠れたな。

 ベッドから起き上がり、一階に降りて顔を洗って歯を磨いて――

「よし、支度は全て済んだ。朝ログイン!」

 三十分程度で朝飯まで済ませると、あとは部屋に戻ってログイン準備だ。
 もちろん、便所も済ませてある。





『おはようございます、彗星マジック様』
「あぁ、おはよう」
『ふふ……』

 ぐ……つい条件反射で挨拶をしてしまった。
 い、いや。相手がNPCだからって挨拶を返してはならないなんて事もないんだし、そもそも挨拶されたら返すのが礼儀だよな。うん。

 しかし、酒場で「おはよう」というのも、なんかだらしない大人の日常みたいでアレだな。
 ここの背景は彼女が自由に変えれるようだし、思いきってリフォームを頼むか。

「なぁ、ここの背景を酒場以外にしないか? 俺、未成年だし、なんか馴染めないんだよな」
『まぁ、気が付きませんで、申し訳ありません。ではどのような内装にいたしましょうか?』
「うーん、そうだなぁ」

 逆に質問されると困るんだよな。

「ファンタジーっぽい建物がいいな。床も壁も木製で、大きな本棚があったりとか。あー、あと、これからゲームの世界にダイブするぞ的な、なんかそういうのあったら面白そうだな」
『なるほど、演出でございますね。ではこういうのは如何でしょうか?』

 女NPCが手を一振りすると、酒場のバーが一変して図書館のようになった。それも古い図書館だ。
 見渡す限り本棚、本棚、本棚、本棚。
 左右に本棚が建ち並ぶ細い通路はどこまでも続いている……。

「いや、これさすがに多すぎだろ。この通路、何メートル続いてるんだよ」
『はい。五百メートルほどにしてみました。その先に扉がありまして――』
「どんだけ広いログインロビーなんだよ! もっとこじんまりしたのでいいんだよ。本棚も一つで十分だ。それにテーブルと椅子、古めかしい暖炉とランタン。こんな感じで頼む」
『そうやって最初から具体的に言っていただければ、直ぐに出来ましたのに』

 ぐっ……しれっと俺のせいにしやがったなこいつ。
 昨日のゲーム終了直前に見せた笑顔のせいで、NPC変更は止めてやろうとか思ったけど、やっぱり――

 そんな事を考えていると、再び景色が一変する。
 俺の部屋より少し広いぐらいの、八帖か十帖ぐらいだろうか。壁も床も天上も全てが板張りで、床には薄い青の絨毯が敷かれ、壁には天井まで届く本棚が一つ備えつけられてある。本棚には大小さまざまな本がびっしり並んでいて、背にも作品タイトルであろう文字が刻まれてあった。尚、俺には読めない幾何学文字だ。
 天井に電気はなく、壁にランタンが飾られてある。別の壁には暖炉もあって、くべられた薪に火が付いていた。

「暖炉が欲しいって言ってなんだが、今はさ、夏だし。火はいらないよ」
『注文の多い方ですね』

 彼女がさっと手を振ると、火は一瞬にして消え、新品の薪に取り替えられた。
 サラっと愚痴られたがまぁいい。イメージした物とばっちりだしな。

 ただ一つ気になるとしたら、窓が無い事。

「窓欲しいな」
『はい』

 窓が出来た。
 出来たが……

「おい、窓の外が亜空間になってるぞ」
『電子空間ですね。ある意味間違っておりません』
「いや、なんか背景も作ってくれよ……」
『ご注文は?』

 ウエイトレスかよ。
 えーっと……それじゃあ……





「こんなもんでどうだ!」
『作ったのはワタクシでございます。こんなもので如何なものでしょうか?』

 ……アイデアは全部俺じゃないか!

 森に囲まれた小さな丸太小屋。そこが俺の、ゲームにログインするためのスタート地点だ。
 まずログインしたら小屋の前に現れ、俺は小屋の中に入ってNPCの案内でゲーム内に――

「演出はどうするんだ?」
『はい。こちらの――』

 そう言って彼女は部屋の奥にある扉におれを案内した。
 小屋としてのただのオブジェ的な意味での扉だと思ったが――

『この扉を開きますと、前回ログアウトした場所へと続きます。開けてみて下さい』

 言われて扉を開くと、その向こうにどこかの路地が見えた。
 ログアウトした場所の風景とかあんまり覚えてないけど、町中でログアウトしたのは確かだ。

『向こうからこちらは見えないようになっておりますし、彗星マジック様以外は通れませんのでご安心ください。例え裸踊りを披露されても、誰にも迷惑をお掛けする事もございませんよ』
「例えがおかしいだろ。それにここにはお前がいるんだし、俺が全裸とかになったら困るだろ?」
『いえ、寧ろ――なんでもございません』

 言わんとしていたことが手に取るように解る。しかも嬉しくない。
 せめて表情があって、冗談だと解るようだといいんだけどな。
 今だって、一貫して真顔で言うもんだから、冗談なのか本気なのか解ったもんじゃないし。

「はぁ……まぁいいや。ロビー制作で結構時間掛かったし、そろそろログインするわ」
『十五分五十一秒かかりましたね。ログイン前にお一つ』
「なんだ?」

 執務室というか書斎というか、そういうのをイメージした室内には古めかしい机と椅子、あとは壁際にソファーが一つ置かれている。
 彼女が椅子に座ると、可視化された大きなウィンドウが現れた。

『予定通り、本日十五時にオープンベータテストは終了させて頂きます。そして同日二十時より正式サービス開始となりますので、その間はメンテナンス時間となり、ログインが出来なくなります。予めご了承ください』
「あ、そういえば公式サイトに日程あったな」
『はい。継続してプレイをなさる場合には、プレイ料金を支払って頂く事となりますが、本日より十日間は正式サービス開始感謝期間として無料でお楽しみ頂けます。その後の継続プレイ時には、課金が必要となりますのでご注意ください』
「解った。十日間遊んで面白かったら課金するよ」

 まだ序盤も序盤。
 どう転ぶか解らない常態でもあるしな、無料期間があるならもう少し様子をみよう。

『それでは、いってらっしゃいま――、あ、お送りは致しませんので、彗星マジック様のお好きなタイミングで扉からご出発ください』
「そうだったな。自分の足でゲーム内に行けるんだった』

 扉の向こうはゲーム――異世界。そんな演出だ。
 うん、これはなかなかいいと思う。

「じゃあ、行ってくるよ」
『はい、行ってらっしゃいませ彗星マジック様』

 ぺこりと綺麗に斜め四十五度のお辞儀を見せるNPC……NPCって呼ぶのもなんか違和感があるな。
 扉に一歩踏み込もうとしたところで俺は留まった。

「なぁ」
『はい?』

 きょとんとした顔――ではない真顔で首を傾げ、こちらをじっと見つめてくる彼女。

「名前、ないのか?」
『ございません。識別コードでしたらございますが』

 番号かなんかだろ? それで呼ぶのもなぁ……。

「名前、なんか考えといてくれよ。呼ぶときに困るだろ」
『はぁ……では、彗星マジック様がお考えになってくださいませんか?』

 何故そうなる。考えてくれって言ったのに、そこでなんで俺になるんだ。

『ワタクシといたしましては、響きのよい清涼感のある、且つ知的で美しい印象を与える名前を希望いたします』
「具体的なのか抽象的なのか解らない要望だな。というかそこまで希望があるならお前が――」

 お前が自分で考えろよと言いたいが、じぃーっと見つめられたら嫌とは言いづらい。

『名前、何か思いつきますでしょうか?』
「い、いや、待ってくれ。そうすぐに思いつくものでもないし……はっ、そうだ! ゲームしながらリラックスすれば、何か思いつくかもしれない」
『左様でございますか。それでは今すぐ、行ってらっしゃいませ』
「あ、ああ。行ってくる」

 こうして俺は逃げるようにしてゲーム内に出発するのだった。
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