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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。 作者:夢・風魔

バーション1.01【始まり】

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115/124

115:株式会社AQUARIaの中の人達その4

 東京、某ビル内。

「ジャックが成仏しました」
「ぶふぉっ――」
「うわっ、チーフ汚いっすっ。俺のマイマシーンがぁぁ」
「や、すまんすまん」

 午前五時半。
 出勤してきたばかりのチーフが、スタッフから聞いた最初の報告である。
 まさかの報告に、眠気覚ましに飲もうとしていたブラックコーヒーを盛大にぶちまけてしまったのだ。
 慌ててポケットからハンカチを取り出し、丁寧に拭き取っていく。
 そのハンカチ、タオル生地で、水分を拭き取るのには適していた。
 吹き終わったハンカチは、どこから取り出したのか、ビニール袋に入れて再びポケットへ。そして別ポケットから別のハンカチを取り出し、汗を拭き取る。

「チーフ。ハンカチ何枚持ってるんですか?」
「スーツに四枚。カバンの中にもう五枚入れてある。予備を用意しておくと便利だぞ」

 いや、予備多すぎだろ――と、周囲のスタッフは皆思った。

「で、話を戻すが、ジャックが成仏したって、あの海賊ジャックか?」
「まぁ他にジャックと名前の付くNPCは、現時点で三人いますが、そのジャックです」
「いや、成仏システムがあるのは、海賊ジャックだけだろう。誰も他のジャックの話なんかしてないから」

 まったく一言余計なスタッフだ――とチーフは思った。

 海賊ジャック――裏切られた海賊頭ジャック。
 ゲームスタート時の時代から百五十年ほど前に生きていた、という設定のレアボスモンスターだ。
 もちろん、百五十歳以上なんて事はないので、アンデッド化している。

 裏切られたのなら、裏切り者も必要ですよね?

 開発時、誰かがそんな発言をした。
 これによって『裏切り者の海賊副頭バルーンボ』が生まれた。
 更に二人が出会う隠しイベントなども用意されたが、さまざまな条件が揃わなければ出現しないようにしていたのだ。

 だが――

「海賊ダンジョンの攻略パーティーはいくつだ?」
「一つです」
「ぶふぉっ」

 再びブラックコーヒーを口に含んだチーフだったが、またもや吹き溢す事となった。
 三枚目のハンカチ登場である。

「海岸のほうの洞窟を通ってダンジョンに入ったパーティーは結構いたんですがね、お互いに潰しあって、奥のほうまで進めたのが一組だけだったんですよ」
「しかし、海岸から入った場合、ジャックイベントは発生しないだろう。あれは隠れ里から入らねば、絶対発生しないギミックにしていたはず」
「はい。隠れ里から入ったパーティーが一組います」

 いたのか。と、肩を落としたチーフ。
 隠れ里は高い岩山に囲まれ、ワールドマップを開いても村は見れないようになっていた。寧ろ岩山の内側がくり抜かれた構造になっていることさえ、マップでは描かれていないのだ。
 よっぽどロッククライミングがしたくて仕方が無い、そんなプレイヤーが居ない限り、暫くは見つからないだろうとスタッフの誰もが思って居たに違いない。

「やはりロッククライミングの技能か?」

 とチーフは報告を行った男に尋ねる。
 が、男は首を左右に振る。

「テレポです」
「テレポートかぁぁぁ。盲点だったな。……いや、登るのはいいが、テレポでは下りれないだろう。上手くそうなるよう、座標設定されているはずだし」
「飛び降りたのが二名、残り一名は自作スキルで瞬間移動キャンセル技を使ってましたね」
「うへぇ。飛び降りるとか、VRで十五メートルの高さからダイブするのは案外怖いんだけどなぁ」

 と、別のスタッフが口を開く。
 まったくだ。VRでなくても十五メートルの高さなど、まっぴら御免である。

「いやいや、MMOの時代からずっと、奇抜なネタプレイをするプレイヤーというものは、一定数は確実に存在しているのだ。高い所から飛び降りるぐらいで驚くのは甘いぞ」

 そういうチーフはついさっき、部下の報告を聞いて盛大にブラックコーヒーを溢した張本人だ。
 説得力がまったく無い。

「そうか……ジャックは成仏してしまったのか……。バルーンボはどうしている?」
「元気ですよ」
「そうか。じゃあ海賊ダンジョン第二幕のスタートだな。しかし、実装後わずか五日でジャックが成仏してしまうとは。もう少し生きてて欲しかった」
「チーフ、ジャックは最初から死人ですから」
「わ、分かっているっ。次、何か報告はあるか?」

 今度こそと、チーフはブラックコーヒーを口に含む。
 既に最初の量から半分近くが、喉を通る事無く消えている。なんとしてでも飲みたい。これを飲まないと頭がスッキリしないのだ。
 だが二度ある事は三度ある。お約束は決して忘れないチーフだ。

「町内をパンツ一丁で走るプレイヤーへの苦情は殺到しています。主に苦情を言っているのはNPCでして」
「ぶふぉっ」
「ちょ、またっすか!?」
「あ、いや、本当にすまん」

 四枚目のハンカチ登場である。
 ブラックコーヒーを拭き取った後のハンカチは、これまた一枚目、三枚目のハンカチが収められたビニール袋へと投入される。
 もちろん、持ち帰って洗濯するためだ。

 残り僅かとなったブラックコーヒーを見つめ、チーフは本日最初の深い溜息を吐いた。

「何故そんな事になっているのだ。状況は把握できているのか?」
「もちろんです。自警団NPCに尋問されたプレイヤーは、全員、合成が原因でして」
「はぁ……早期に合成が流行し始めた結果、やはりこうなったか」
「そうですね……。予定では呪いアイテムが量産され始めてからこうなるはずだったんですが」

 呪いアイテム。
 決して破損しないため、合成からの分解、そして再び合成が可能となる画期的なアイテムだ。
 難点があるとすれば、呪われているという事。
 自分のプレイスタイルに合った――というか、呪いの種類がプレイに支障がない物を選んで所持することで合成の敷居を下げるという、救済アイテムだったのだが……。
 その呪いのアイテムをドロップする、現段階では数少ないモンスターがジャックだったのだ。
 だが彼はもうこの世に――このゲームには居ない。
 発見技能によって見つける事が出来るお宝も、彼の成仏と共に冥土へと送られる設定になっている。
 余計な設定を作るんじゃなかったと、今更ながらチーフは思った。


 尚、この呪いのアイテム。
 教会で呪いを解除出来れば、ただのゴミアイテムになるという罠付きである。

 他にも問題なのは、ファクトの町だけに配置された合成屋に取って代わり、ダークエルフがあちこちで合成屋を始めたこと。

「NPCにはある程度の自由度を与えていたが、まさか店を開くようになるとはな」
「それもあるプレイヤーの入れ知恵なんですよ」
「あるプレイヤー?」

 ここでチーフは、止せばいいのに残ったブラックコーヒーを口に含んだ。

「彗星マジックですよ」
「ぶぐっ――ゲホゲホッ。ゲホゲホゲホゲホッ」
「チーフ……四度目だからって、わざと気管に入れなくても」
「だ、れがゲホゲホ、わざゲフ、とゲーホゲホゲホッだ!」

 チーフはいたって真剣である。
 咽ながら彼は思った。

 またか!?

 確か称号イベントで『騒々しい海のキュカンバー』が出てきた際にも、いち早く攻略法を見出した人物であったはず。
 更に声無しNPCの一部に声が実装されていったのも、システムが彼の助言を採用した事によるものだ。
 材木クエストが発生したのもそうだ。
 それによってシステムが自動でクエストや追加システムを構築するが、最終的なチェックは人力によるものである。
 それが仕事とはいえ、まさかこれほど早期にこのような事例が多々発生しようとは……正直、しんどい――と、一部スタッフは思っているだろう。

 彗星マジック……なんて運営泣かせなプレイヤーなんだ!!

 いや、彼等運営兼開発陣が『そう出来る』ように作ったのが、そもそもの原因である。
 今更システムを変更する事も出来ないし、出来たとしてそれを行えば、十中八九、不具合が多発するであろう。
 意外と世間での評判もよく、サービスが開始されてまだ六日目ではあるが好調と言える。
 課金者も当初の予想より僅かだが多い。
 新規ユーザー登録者数も右肩上がりだ。
 尤も、サービス開始直後で右肩上がりにならないオンラインゲームなど、ゴミでしかない。

 チーフは速やかに次の手を打つ。 

「早急に呪いアイテムの代用品を見繕わなければな」
「どのコースで行きますか? 一番楽なのは――」
「もちろん、課金コースに決まっているだろう」
「そうですよね。楽だし、会社が儲けて万々歳ですし」

 そうと決まれば早速アイテムモールのレイアウト更新である。
 追加される商品は『装備デザイン抽出剤』と、『装備デザイン定着剤』、そして『モザイク衣装』の三種類である。
 抽出剤で自身の好きな装備の外見を抽出コピーし、そのデザインをモザイク衣装に定着ペーストするのだ。
 こうすることで自分好みのアバター衣装が簡単に作成可能に!
 当然、合成によってパンツ一丁になろうと、これを着れば問題解決なのだ。

 尚、抽出剤も定着剤も消耗品である。幸い失敗する事は無い。
 だが、モザイク衣装は一度定着剤を使用すれば、上書きなどが出来ない仕様になっている。
 故に、お着替えをしたくなったら、その都度購入しなければならないのだ!

 初お目見えとなる商品なので、初日だけは二割引で客引きをしようかと考えるチーフ。
 案外あくどい人物だ。

 朝のミーティングと、チーフのブラックコーヒーぶちまけ騒動が終わった後、先日の社内会議の報告がされた。
 オープンベータからのプレイヤーと、正式サービス後からのプレイヤーとでは、プレイ時間に対しての技能レベルの上がりやIMP総量に差が出ているという内容だ。
 その事に対し、多くのオープンベータテストプレイヤーから不満の声が上がっている。
 最初から予想されていた事ではあったが、要望や意見などが気軽に送れるシステムを採用したのが裏目に出たのか、不満の声はダイレクトに、そして相当数にも及んだ。

「結論だけ言おう」

 そう言いながらチーフはゲームマスタールームの出口へと向って歩き始める。
 そしてドアノブに手を掛けてから、

「次のメンテまでに全ベータテストプレイヤーの技能レベル、及びIMPの修正をしてくれ」

 それだけ言うと、彼はルームを後にした。
 もちろん、扉越しに聞こえる絶叫から逃れるためである。

「また土日返上かよおおおぉぉぉぉっ」
「ギブミー休日!」
「鬼ぃーっ。人でなしぃぃぃっ。禿げぇぇぇぇぇぇぇ」

 俺はまだ禿げていない!
 っと心の中でチーフは反論する。
 が最近、枕にこびりつく抜け毛の本数が増えたように思える。

(週末はまた、アパートに帰れそうにないな。ま……一人身だし、帰れなくても誰も悲しまないんだがな)

 チーフ。
 寂しい独身貴族であった。
+注意+
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