大和撫子〜妖を束ねる者(1/2)縦書き表示RDF


創作の雰囲気を出す為に、歴史上の人物をモデルとしたキャラクター名が登場しますが、それはあくまでも参考であり年齢・活躍時期等も創作です。
各関係者様等には無関係です。ご了承下さい
大和撫子〜妖を束ねる者
作:小忍



遭遇


「人狼が出たというのはこの辺りか?」
西暦一八六七年、慶応三年ーーー時は百二十一代孝明天皇の治世
文明開化の前年、冬
雪に覆われた大鞍馬山に陰陽師大和操は居た

「ああ!よくいらして下さいました陰陽師様!どうぞこちらでございます」
麓の寒村の村長は京の都から呼び寄せた陰陽集団に愛想良く話しかけた
「その人狼は食料を奪いに人里に降りてきてーーーまた子供を攫おうとするという話だったが・・・」
巫女装束の二十代後半の女が村長に問う。女に侍っているのは三人の水干姿の年配の男。彼等は担いでいる荷物から何やら和紙のようなものを出している。そしてその背後には小さな紅い輿があった
「はい。去年からお役人様にこの大鞍馬山の開墾を申し付けられまして、かなり上まで開墾作業をしていた所全身黒い体毛に覆われた七尺(約210cm)はある怪物に遭遇したのです。あの化け物はワシ等の小屋を壊したり折角せき止めた川の堤防を滅茶苦茶にしたり・・・全くやりたい放題なんです。何せ物凄い怪力で大木を倒し大岩を担ぎ上げて・・・恐ろしくて恐ろしくて・・・!お役人様にご相談申し上げた所化け物や妖怪を祓うには京の陰陽師にお頼みするのが一番だとーーー」
大和操は鬱蒼と茂る木々の間から空を見上げる。雪がちらつく曇天はもうそろそろ日が暮れかかっているーーー周囲の茂みが雪の重みでか、ガサリと揺れた
「でも陰陽師なんて古いものがまだあるなんて・・・!あっ・・・も、申し訳ありません・・・」
水干姿の男達が自分を睨みつけてきたのを察して、村長は慌てて口ごもった
「ご当主様・・・操様。もうじき日も暮れましょうし雪もちらついております。明日に致しますか?」
大和操は腰まで届く長い黒髪を持った色の白い美しい女だった。しかしその頬はこけ、その一重の切れ長の黒い瞳に生気は無かった
「・・・陰陽師身の上知らず・・・明天すらもどうなるか分からぬ身・・我等陰陽寮も同じこと・・・時代は変わるものじゃ・・・そして我が身も・・・」
そう細い声で呟くと、ふっと後方の紅い輿に視線を移す。三人の男達もその動作に続いた
「・・・操様・・・済んだことでございます。ああ・・アレを何故土蔵より出されたのでございます?ああ・・それより何故生き延びていたのだ・・・生まれてから、赤子のまま一年も閉じ込めていたというのに・・・」
「おやめ!」
打って変わった操の鋭い叱責の口調に男達は身を硬くした
「言うでない・・・済んだことと言うたのはお主等であろうが・・・」
その光景を大木の上から見詰めている二つの金色の瞳ーーー俯き激しく心を乱している操は気配に気付いていない
「あ、あの・・・」
村長は張り詰めた雰囲気に怯えつつも雪を払いながら声を掛けた
「・・・分かっておる。さあ行くぞーーー恐らくこれが最後の仕事であろう。そう、陰陽師としての・・・そして妾の命もーーー妾の命が尽きればアレを遮るものは何も無いのじゃ。アレが世に出れば・・・そうじゃ、だからアレを土蔵から出したのじゃ。この山の妖を駆除した後ーーーアレを孕まされたこの忌むべき山に妾の最後の法力(陰陽師の超能力)でアレを封じ込めてやろうぞ。卑しくも千年続いた陰陽師最後の当主大和操の最後の意地じゃ・・・!」
ーーーカタン
操の言葉に反応するように後方の紅い輿が微かに揺れ、チリン・・・という鈴の音が響いた
「!そんな・・・アレは目も耳も口も塞ぎ身動き出来ぬように術を掛けておるのじゃ!動ける筈が・・・」
ーーーーーザッ!
草を掻き分けるような音が一瞬聞こえたと思った瞬間、供の一人が首筋から血を噴出しゆっくりと地に倒れた
「何者・・・!」
声を荒げた操の目の前に黒いものが迫った
「操様!」
素早く後方に反転し顔を上げた操の視界には、七尺を越えるような黒い大男がいた。いや、ボロボロの、雪や泥に塗れた着物から覗いている野太い手足は獣のような体毛でびっしりと覆われーーー首から上はおよそ人ではなかった
「ーーー人狼!」
それは人の肉体と狼の顔と牙を併せ持つ、半人半妖の化け物だった。狼の父親と人間の母親の間に生まれるとされ神通力(神に通じる能力・妖怪などの超能力)こそは無いが途轍もない怪力と頑健な体躯を持つとされる妖怪。その金色に光る細い虹彩は村長をギッと睨んだ
「う、うわあっ!出たあっ!陰陽師様!ああ早く退治して下さい!あいつは村人を何十人も殺している恐ろしい化け物なんです!」
村長は全身から汗を噴出し叫んだ。役人に金を積み川をせき止め木々を開墾し、この何も無い山に製銃と製糸工場を造ろうとやっと着工したというのに、あの化け物が工人達を襲い建物を破壊し続け工人達は怯え切って工事はまるきり進んでいないのだ。猟師に銃で狙わせても槍で突かせても殆ど効果が無く、余計に凶暴になって死体の山が築かれていく
「人狼如きが・・・!陰陽師たる妾に逆らうか!」
操は胸の前で指を不思議な形に結びーーーその動作に人狼は反応し操に飛び掛って行く
「火は水に克ち火は木に克つ!」
操がそう唱えると地から無数の蔦が出現し、飛び掛ってきた人狼の巨体に巻きつきーーーその蔦から激しい炎が噴出した!
「ガアアアァッ!」
人狼はそのまま雪に叩きつけられ炎に巻かれ、腹ばいのまま憎憎しげに怒号を上げ操を睨み付けた。水干姿の男達も目を閉じ、何やら唱え続けている<
「人狼は斬っても打っても死ぬことはない。こやつを殺すには火で燃やし尽くすしかないのじゃ。さあ!そのまま灰と化すがよーーー」
ーーーガタン!紅い輿が先程よりも大きく揺れた
「あーーー」
その鋭い音に操の集中力が途切れ蔦の拘束が緩みーーー人狼は怒号を吐きながら地に手をつき蔦を引きちぎり飛び上がった。だが苦痛から均衡を崩し黒い体毛に炎が燻るその巨躯が落下したのは、先程の音を発したあの紅い輿の真上だった
「しまった!」
紅い輿は人狼が落ちてきた衝撃で横に倒れた
「み・・・操様!」
操は呆然と立ち尽くすーーー
「いけませぬ・・・あの輿は・・・!」
ーーーチリン!
その輿から何か小さいものがずり落ちて来た
「撫子!」


読んで下さってありがとうございました
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もしくは「やまとなでしこ シャオレン」でもすぐ検索できると思います











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