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『言いたいこと』シリーズ

言いたいことはそれだけですか?~アホの相手は疲れましたわ~

作者:柚月ネロリ
つい思い立って書いてみました。
設定など、ツッコミどころも多いかと思いますが、最後まで読んで頂ければ幸いです。

※後書きに登場人物について追記させて頂きました。 
「ヴィオラ・ルブス・ネクタル。お前との婚約は今この時を以て破棄する!」


フラーテル王国の第二王子、アンシス・レウィス・フラーテルが高らかに宣言する。

「そんな……」

婚約破棄を告げられた公爵令嬢、ヴィオラはその場に崩れ落ちた。

今日は、学園の卒業式で、今夜はそれを祝したパーティー、いわゆるプロムというものである。
当然、会場内には他にもたくさんの人間がおり、既に周囲には人だかりも出来て、もはや見せ物のような状態だ。


「アンシス様…。どうして…」


「どうして、だと?」

ヴィオラの一言に、アンシスの眉がピクリと動く。

「お前がこのレギア・ルース男爵令嬢にしたことを忘れたか!レギアへの嫉妬に狂い、身分の低さを嘲り、根拠もない言いがかりで罵倒し、取り巻きを使って嫌がらせを行うなど……!公爵令嬢という立場にありながら、己の愚かな振る舞いが恥ずかしくはないのか!」

アンシスが怒りを露わにしてヴィオラに向かって叫ぶと、それまでアンシスの後ろに隠れていたレギアもヴィオラに向かい、悲しげな口調で語りかける。

「ヴィオラ様…わたくしはあなた様に憧れておりました。身分にも容姿にも勉学にも秀でたあなたこそ、殿下に相応しい、本物の淑女だと。だからこそ、わたくしは悲しいのです……。心優しく、気高いあなた様が、わたくしの存在によって、嫉妬と憎しみに我を忘れてしまわれた今のお姿が……」

そこまで言うと、レギアは言葉を詰まらせ、俯く。顔を上げた彼女の目には大粒の涙が光っていた。



「レギア……!」

アンシスはレギアの小さな身体を抱き止めると、ヴィオラを睨みつけ、堂々と宣言した。

「公爵令嬢という身分をいいことに権力を笠に着て横暴に振る舞うお前より、傷つけられても、尚、お前を思って涙を流すレギアのほうが、ずっと心優しく気高い。レギアこそ、俺に相応しい女性だ」

勝ち誇ったような表情を浮かべるアンシス。

一方のヴィオラはその場に蹲ったままだったが……



「………言いたいことは、それだけですか?」

ヴィオラの言葉に、会場にいる誰もが固まった。
顔を上げた彼女は、アンシスとレギア、その取り巻きたちに凍てつくように冷たい視線を向ける。



「……な、何だ、その態度は!」

あまりの豹変ぶりに一瞬呆気にとられていたアンシスが慌てて叫ぶと、同じく我に返った取り巻きたちも口々にヴィオラを罵倒し始めた。

「開き直る気ですか、ヴィオラ嬢。ネクタル公爵家の名が泣いていますよ」と、メガネを押し上げながら呆れたように話す宰相の息子、シオン・マギステル。

「淑女として、素直に罪を認めて謝罪する程度の恥じらいはあるかと思ったが、それすらないとはな…!」と額に青筋を浮かべながら言ったのは、騎士団長の息子、ウィリアム・ミーレス。

「はあ……ヴィオラ、がっかりだよ。君がそんな人だなんて」これはヴィオラの幼なじみで従弟でもある侯爵家子息、ラクトル・ヨークスの言葉。

「……この状況で、まだ開き直るって……馬鹿じゃないの?」ポツリと告げる、無口な宮廷魔術師長の息子、ユーリ・シレント。

第二王子であるアンシスを筆頭として、取り巻きは有力者の息子たちばかりだ。


「開き直り、ですか……。身に覚えのないことで糾弾されれば、それも致し方ないかと思いますが」

そんなことも分かんないの?馬鹿なの?死ぬの?と目で語りかけるヴィオラの目はさらに温度を下げ、もはや絶対零度に達している。


「身に覚えがないだと……?!」


「ええ、ございません。それとも、何か証拠がおありですか?」

「物的証拠はうまく隠したらしいが、レギアは確かにお前に嘲笑われ、罵られたと傷ついている!」

「……なるほど。つまり、証拠はレギア様の証言のみということですね?」

「それがどうした!」

ヴィオラは次にレギアへと視線を向ける。

「では、レギア様。私には、いつ、どこで、どのように嘲られ、罵られたのですか?」

「そ、そんなの…多すぎて、覚えてません!」

「なるほど…。では、特に印象に残っているもので構いません」

「それは…ええと、先月の夜会で…泥棒猫とか、卑しい身分のくせにとか…」

再び顔を俯け、泣き出すレギア。

「おい!この姿を見てもお前はまだなんとも思わないのか!」


「ええ。私、先月はどこの夜会に参加していませんもの」


「「「「「「えっ」」」」」」


「お気づきになりませんでしたか?……ああ、あなた方はそこのレギア様に夢中で、夜会での交流や情報交換などされておりませんでしたものね」

「なっ、何だと!大体、お前が夜会に出ていなかったという証拠はあるのか?証拠を出せ!」

「証拠……ですか。ご両親にお尋ねになればよろしいかと存じます」

「なぜ、ここで父上と母上が……」

「……最近、我が国が隣国と和平を結んだのはご存じで?」

「馬鹿にするな!」

「これは失礼しました。てっきり、このことをご存じないのかと思いましたので。……和平のお祝いのパーティーにも、隣国の方の接待の外遊にも一切お顔を出されていませんでしたから」

「……っ!」

「とにかく、私はそれらのことでこの数ヶ月、夜会に出る暇すらありませんでした。それと……」

「……何だ」


「私はレギア様に嫌がらせなどしてはおりませんが、私がレギア様に嫌がらせをされた証拠ならございます」


唖然とする一同を前に、ヴィオラは水晶玉を取り出す。
それは、記憶魔法という、音や映像を記録することのできる魔法の媒体として使われているものだった。

「ご存知のとおり、この記憶魔法は捏造や加工などは一切できません。そのことをよくご承知の上で、こちらをご覧ください」

言うがはやいか、ヴィオラの記憶魔法が展開される。



『…いつまでアンシス様を縛り続けるおつもりですか?アンシス様はあなたに愛などないと仰っておられますわ!』

先ほどまでの様子とは180度違う、別人のように攻撃的なレギア。


『なんで、あの女は嫌がらせしてこないの?!……こうなったら……』と呟いて、周りに誰もいないのを確認すると、階段から自分で転がり落ちるレギア。


『ここだけの話ですけれど、ネクタル公爵家のヴィオラ様は夜な夜な屋敷を抜け出しては男遊びを……』『なんでも、大臣の弱みを握って脅しているとか……』『殿下がお気の毒で……』と、根も葉もないヴィオラの噂を吹聴するレギア。


他にも、レギアの悪行の数々が映し出される。

ついでに、その中には『アンシス殿下にはヴィオラ様という婚約者がいらっしゃるのに、強引に「俺のものになれ」と迫られていて……』と取り巻きそれぞれに縋るレギアの姿もあった。



「れ、レギア…?」



映像が終わると、アンシスと取り巻きたちは、疑惑と混乱のこもった目でレギアを見ていた。

「こ、こんなの嘘ですわ!デタラメよ!」

喚くレギアに、ヴィオラは再度静かに告げる。

「先ほども申し上げましたが、記憶魔法は捏造や加工はできません。ただ、見たまま、聞いたままを映すのみです……さて」


ヴィオラはまだ呆然としているアンシスに視線を向ける。

「アンシス殿下。私の愚かな行動とは何でございましょうか?権力を笠に着た横暴な振る舞いとは?」

「そ、それ、は…」

「私はもとより、私の友人たちも、決して人心に悖る発言も、家の名に恥じる行いも致してはおりません。……それとも、まだ愛するレギア様の発言を信用されますか?」

「……と、当然だ!」

「そうですか……。では、こちらの方々のお話もお聞きになるとよろしいかと」

ヴィオラがパチンと指を鳴らすと、観衆の中から四人の女性が前へと進み出る。彼女らの顔を見て、取り巻きたちはその顔を青ざめさせた。

「ま、マリア。なぜ…?」
「エレーナ?!」
「なんでメアリーがここにいるの?!」
「カメリア…?」

彼女たちは、それぞれ取り巻きたちの婚約者、妹、元恋人、幼なじみ……という、彼らにとって現在とても微妙な関係にある相手。


「こちらの皆さまも、見て頂きたいものがあるそうですの」

ヴィオラがにっこりと言うと、四人の女性はすっと水晶玉を取り出した。

そこにはレギアの悪行の数々が(ry



四人分の全ての上映が終わった時点で、既にアンシスと取り巻きたちはすっかり憔悴しきっていた。


「これでもまだ信じて頂けないのでしたら、証人は他にもおりますが…」

ヴィオラがそう言うと、さらに数人の女性が前に出る。

「彼女たちは、既にこの学園を退学しております。レギア様がアンシス様たちの存在をちらつかせ、この学園で気に入らない生徒に嫌がらせをしたり、横暴な態度をとっていたのは、周知の事実でしたもの」

あなた達以外には、とヴィオラが付け足したところで、はじめてアンシス達は自らに向けられる視線の厳しさに気づく。


会場はしんと静まり返
「こんなの捏造よ!あたしを陥れるための陰謀だわ!大体っ、自分たちに魅力がないからって私を逆恨みして。あーあ、これだからモテない女の僻みは困るのよ」

……静寂を破り、ヴィオラ達に向かって叫んだのは、先程までとは打って変わって目をつり上げ、感情のままに声を荒げて喚きちらし、先ほどまでのか弱い令嬢とはまるで別人のように見える……そして、先ほどまでの映像の中の人物そのままのレギアだった。

彼女のあまりの変わりように、観衆どころかアンシスをはじめとした取り巻きたちすらドン引きしているが、それに気づく様子もない。

既に、彼女が被っていた特大の猫は逃亡したようだ。

恨み骨髄の令嬢達も彼女に応酬し、「この泥棒猫が!」「あんたのせいで!」「一生呪ってやる!」と叫び始め、もはや会場内は修羅場と化していた。

まずい。

私は、身の潔白を証明したかっただけなのに。

そろそろ流血沙汰に発展しかねない勢いでヒートアップするレギアと令嬢達に、さすがにまずいとヴィオラが止めに入ろうとした、その時。



「なんだ、この騒ぎは」



会場内に響き渡った厳かな声に、会場は今度こそ静まり返った。

煌びやかな衣装に身を包み、近衛兵を引き連れたその人物の姿に、誰もが息を呑む。


「フィサリス様ぁ」


先程までの攻撃的な態度はどこへやら、既に逃亡したと思われた猫を速攻で被り直して甘ったるい声を出しているあたり、ある意味さすがだと、ヴィオラは妙な感心をしてしまった。

……まあ、この国の第一王子であり、ボンクラとは違って優秀で、人当たりも良くて、身分関係なく誰に対しても平等に接し、おまけに容姿まで最高とくれば、この女はこんな状況でも擦り寄るチャンスと思うのだろう。

ちなみに、第二王子アホはいかにも王子然とした華やかな容姿なのに対して、第一王子も華やかな顔立ちではあるのだが、こちらはどこか憂いを帯びた儚げな美青年だったりする。

フィサリス第一王子も確かにこの学園に通ってはいたが、一年前に卒業している。それがなぜ、今日に限ってこの場所にいるのか。


「……フィサリス殿下、本日はどうしてこちらへ?」

「いや、なに、久しぶりに母校を訪れてみたくなったまでだよ、ヴィオラ嬢。……しかし、一体この騒ぎはどういうことなんだろうね?」

……にっこりと微笑むフィサリス様のお顔は、しかし目の奥が笑っていない。

「実は」

「あのっ、フィサリス殿下!実は、ヴィオラ様がわたくしを陥れようとっ……」

言いかけたヴィオラを遮り、レギアは目を潤ませてフィサリスにすり寄った。

「なるほど、それは大変だったね」

優しげに、慈愛をこめた笑顔を向けるフィサリス殿下。

……ああ、この方もなのか。
この方も、私ではなく彼女レギアを選ぶのか。


「フィサリス様っ」

「ところで、離れてくれないかな。それと、君には聞いてないよ?」


「「……へっ?」」


レギアだけでなく、ヴィオラまで思わず間抜けな声を上げてフィサリスを見ると、彼は凍りつきそうなほど冷たい目でレギアを見ていた。


「そもそも、私と君は初対面だろう?私をそこの尻軽な弟と一緒にしないでほしいな……。それに、私は今、ヴィオラ嬢と話している。少し黙っていてくれないか」

「は、はあ」


フィサリス殿下の冷たい対応に、さすがのレギア嬢も大人しく引き下がる。
フィサリス殿下は私の方に向き直り、こちらを真っ直ぐに見つめて、尋ねた。


「もう一度聞くよ、何があったんだい……ヴィオ」


ヴィオ、とその愛称で呼ばれたのは、いつ以来だろう。
懐かしい呼び名に、心から私を気遣ってくれる優しい瞳に、温かく穏やかな声に、ずっと張り詰めていた私の緊張が一気に解ける。


本当は、すごく恐かった。


『ヴィオラ嬢、先日の試験では遅れを取りましたが、今度は負けませんよ』
眼鏡をクイッと押し上げながら、不敵な笑みを浮かべ、私に向かって宣言するシオン・マギステル。彼は、私にとって良きライバルだった。

『よう、ヴィオラ嬢。それ、重いだろ。職員室まで俺が運んでやるよ』
ウィリアム・ミーレスは、不器用だけれど優しく、私が重い荷物などを運んでいたりすると、すぐに気づいて代わりに運んでくれるような親切なクラスメイトだった。

『ヴィオラ~、また父上に叱られた~。お前は次期侯爵としてもっとしっかりしろ!だって』
ラクトルは、従姉弟として、家族ぐるみの付き合いもしていた。やんちゃで甘えん坊で、危なっかしい彼を、私は手のかかる弟のように思っていた。

『ヴィオラ嬢……珍しい魔道具見つけた……一緒に、見る?』
ユーリ・シレントとは、よく趣味の魔道具の話をした。第二王子の婚約者と決まってから息つく暇もないほど忙しかったけれど、だからこそ、趣味について語らえる友達との時間は癒やしだった。


『ヴィオ、僕のお嫁さんになって!』
まだ幼い頃、そう言って微笑んでくれた第二王子アンシスさま。二人で一日中一緒に遊んだこともあった。絵本で読んだお化けの話が怖くて泣く私の頭を『大丈夫だよ』と優しく撫でてくれたこともあった。帰り際は『ヴィオと離れたくない』とダダをこねることもあった。
そんな、小さな優しい王子様は……かつて、幼い私が恋した人は、もういない。



何もかも、彼女レギアが奪ってしまった。
私の大切な人はみんな、彼女に夢中になって、私を憎んだ。

辛かった。いっそ死んでしまいたいほどに。

苦しかった。何度も何度も、胸が締め付けられるような気持ちになった。

悲しかった。優しかった彼らとの思い出が脳裏に蘇るたびに泣いた。

今の彼らを目にするたびに、本当は自分が間違っているのではないか、無意識に彼らに嫌われるようなことをしていたのではないか、レギア嬢を害していたのではないかと不安にもなった。

いつの間にか、頬が濡れていた。ポロポロと、大粒の涙が溢れ出して、止まらない。……涙なんて、もう枯れたと思っていたのに。

「ヴィオ……もう大丈夫だよ。後は、私に任せて」

フィサリス殿下は私の涙を優しく拭うと、今度はアンシス様と取り巻き達のほうに向かって呼びかけた。


「さて……やってくれたね、アンシス」

「あ、兄上……」

普段穏やかなフィサリスさまの怒気を孕んだ声と表情に、アンシス様は思わず後退りした。


「そのうち目を覚ますかと思って様子を見ていれば……。実は、さすがにそろそろ目に余ると、私と陛下で話し合ってね。今度何か騒ぎを起こせば渡すようにと、陛下から書状を預かっている。ついでにそこの四人にも」


フィサリス殿下が目配せをすると、側に控えていた従者はすぐに懐から書簡を取り出し、アンシス様と取り巻き達に渡すと、まだ信じられないといった顔で内容を確認した全員の方の顔から、完全に血の気が引いた。


「アンシス第二王子は、王位継承権を剥奪の上、臣籍降下。領地はナトゥーラを用意してある。広大で肥沃な土地だ。嬉しいだろう?」

「な、ナトゥーラ……い、嫌だ!」


にっこりと微笑むフィサリス殿下を見て、アンシス様は逃亡を図った。


ナトゥーラ……確かに広大で肥沃な土地ではあるけれど、数年前から凶暴な竜が住み着いて、現在はかなり危険な地域になっている。何度か騎士団が討伐を試みたけれど、結果は惨憺たるもので、最近は事実上の立ち入り禁止区域の扱いだったはずだ。


「……シュゾン」

「はっ。皆の者、対象を速やかに捕らえよ」

フィサリス殿下に命じられ、近衛兵たちが即座にアンシス様と取り巻きの方々を素早く取り押さえた。

「他の四人は、シオン・マギステルはコウィンケレ古文書の全文解読を成功させる。ウィリアム・ミーレスはエギオーとの前線に赴いて私や陛下が認めるほどの武功を上げる。ラクトル・ヨークスはアウクシリアとの交渉をまとめる。ユーリ・シレントは新しく画期的な魔法を十以上開発する。これらの条件を達成するまで、王宮への出仕も、王都への一切の出入りも禁止……優秀・・な君達のことだ、そんなに難しいことじゃないだろう?」


フィサリス殿下が口にした条件は、ほぼ不可能ともいえるものだった。
コウィンケレ古文書は、もう何十年も学者たちが研究しているが、全文どころか序文すら解読できていない。
エギオーの軍団は屈強で、数年に渡る戦いは熾烈を極め、現在はこちらが劣勢と聞いている。
アウクシリアとの交渉も、向こうの外交官が曲者で、ここ数ヶ月、交渉は難航しているそうだ。
新しい魔法は二、三年に一つ二つ開発されるが、本当に使える魔法は十年に一つ開発されればいいほうといえる。

屈強な近衛兵たちに取り押さえられ、もう逃げられないと悟ったのか、全員、絶望の表情を浮かべていた。


「あとは、レギア嬢…だったかな?」

「は、はいっ」

「君にも、書状を預かっている」

「わ、わたくしにも……?」

「ああ、読んでみるといいよ」


書状を受け取るレギア嬢の手が、カタカタと震えている。……これは、演技ではないだろう。ようやく自分の置かれている状況を理解したらしい彼女は、書状の内容を見た途端に真っ青になった。


「そ、そんな……!」

「君はルース男爵の死後に遺言によって庶子と認められたが、その遺言書は君の実母によって偽造されたものと判明した。
また、レギア嬢、君は8月生まれとのことだったが、実際は12月生まれで、しかも本当の年齢は私と同い年。その時期、ルース男爵は他国へ留学していたはずだ……つまり、君はルース男爵の子ではない。
よって、ルース男爵家から籍を抜いて平民とした上、君と君の実母は国に虚偽の申告をした容疑で身柄を拘束させてもらう」

「わ、わたくしは何も……」

「知らなかったとは言わせないからね?」


レギア嬢は、観念したようにその場に崩れ落ち、すぐに近衛兵に連れて行かれた。
たしかに、彼女がルース男爵家に引き取られてから、そんな噂がまことしやかに囁かれてはいたが……まさか事実だったなんて……。


「さて」

フィサリス殿下は、私に向き直り、頭を下げた。

「ヴィオ、今回のことは、本当に申し訳ない。愚弟の暴走を止められなかった」

「フィ、フィサリス殿下。どうぞ、頭をお上げください。殿下が私ごときに謝罪など……」

「いや、謝らせてほしい。私は、アンシスが婚約破棄をするのを待っていたんだ」

「それは……どういう意味ですの?」

自分の中の何かが聞いてはならない、と言った気がしたが、私は思わずフィサリス殿下に尋ねてしまった。


「勿論、私が君に結婚を申し込むために決まっているだろう?」


……やっぱり、聞かなければよかった。

私は逃がさないからね、と微笑むフィサリス・ウィリデ・フラーテル第一王子に、ヴィオラ・ルブス・ネクタル公爵令嬢は『この人からは逃げ切れない』と直感した。







ランキングを見たら自分の書いた作品の名前があって本当に驚きました。
予想外に反響があったようでとても嬉しいです。

各キャラについて説明不足な部分がありましたので、蛇足かもしれませんが補足説明をさせて頂きます。


ヴィオラ・ルブス・ネクタル(主人公)

18歳とは思えない妖艶な美貌の持ち主。学園での成績もトップクラス、第二王子の婚約者としての教育も順調にこなしている……と周囲には見えていたが、実際は何度も挫けそうになりながら頑張っていた。
公爵令嬢としての体面を保つべく、令嬢らしい振る舞いを心掛けていたものの、本当は少し抜けたところがあり、争いも出来れば避けたいと思っている。
レギア達の動向を探っていたところ、不穏な動きがあったので、一念発起して証人と証拠を集め、対抗することにした……が、途中から本来の性格が出てしまった。


フィサリス・ウィリデ・フラーテル

フラーテル王国の第一王子。
幼い頃から優秀で手がかからなかったため、両親からはあまり構ってもらえなかった。
昔からヴィオラが好きだったが、弟の婚約者であり、またヴィオラの気持ちも知っていたので、諦めようとしていた。
ヴィオラの本来の性格を知っており、だからこそアンシス達を許せなかった。


アンシス・レウィス・フラーテル

フラーテル王国第二王子。
優秀な兄にコンプレックスを持っている。
実はヴィオラのことが今でも好きだが、兄同様に優秀な彼女にもコンプレックスを抱いており、素直になれずにすれ違いが増えていた。何とかしたいと思いつつ、悶々とした日々を送っている時にレギアと出会う。


レギア・ルース

自分がヒロインだと思いこんでいるビッチ。実母と共謀してルース男爵家に取り入るものの、フィサリスによって不正を看破される。
アンシスのヴィオラへの気持ちにも気づいており、それを利用して婚約破棄をそそのかした(その隙につけ込む予定だった)。


もしかすると続編を書く……かもしれません。

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