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鈍器系男子の運命論 作者:野谷トオル

鈍器系男子の純情論

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序論 魔法使いは、王子様にはなれない


 魔法使いになりたかった。
 灰被りをお姫様にしてしまうような、カボチャの馬車でも何でも生み出せる魔法使いに幼い頃は夢見て過ごしていた。
 王子様になりたい。お姫様と結ばれるハッピーエンドが確約された王子様になりたい。
 キラキラとドレスに彩られた愛おしい子を携えて、幸せの笑みをこぼして、王子様になりたい。
 目の前にいる俺の作った花冠をつけた女の子を見た時に、魔法使いから王子様へ進路希望が変わった。

「ちかね、ゆきじくんが作ってくれたお花のかんむりつけてね、真っ白なドレスきてね、お姫様になりたい」

 可愛らしく声を上げながら千花(ちか)ちゃんは幸せそうに笑って、お姫様になりたいと言った。
 きっと前会ったときに一緒に見た、結婚式のことを彼女は言っていたんだと思う。
 千花ちゃんも俺も子供だったから、そのときはお姫様が王子様と結ばれたのだと思った。

「じゃ、じゃあいつかボクがドレスも作ってあげる」
「ほんとう?」
「うん、だから…その、ボクとけっこんしてくれる?」
「うーん、できたらね!」

 あのころから彼女は思わせぶりだった。
 それでも子供の俺は舞い上がって王子様にも魔法使いにもなれると思いこんだ。
 千花ちゃんがいれば、俺は魔法使いだけじゃなくて本当に王子様になれるのだと思えたんだ。

*** 


 時は流れて、高校生になった。
 俺はそのまま成長して、魔法使いもとい手芸男子になっていた。
 フリルとレース。
 バラとリボン。
 甘い甘い世界が、今も変わらずに大好きなのは、きっと幼い頃の彼女のおかげだったのだと思う。
 記憶は薄れてしまったのだけれど、そういう思い出もロマンチックで大好きだ。
 高校に入ったら堂々と手芸部に入ろう。
 今回こそ女子から白い目で見られても気にしない。
 ここの高校は手芸部に何人か男子もいると聞いていたから、大丈夫だろう。そんなことを考えながら俺は入学式の流れに乗っていた。

「千花ちゃーん!こっちだよ、こっち」
「ご、ごめん。人がいっぱい居てわからなかった」

 最初こそ聞き間違いかと思った。
 それでも期待を込めて、俺は声の聞こえた方へ振り向いてその子を見た。
 忘れもしない面影はそのまま残して、俺のお姫様はそこに存在していたのだ。
 嗚呼、千花ちゃんだ。
 気がつけば、声をかけてしまっていた。

「千花ちゃん!覚えてる?俺だよ、雪路(ゆきじ)諏訪(すわ)雪路(ゆきじ)!」
「……え、あの……どなたですか?」
「え、お……覚えてないの!?」
「ご、ごめんなさい。その……覚えてないです」

 彼女は困惑気味に視線をさまよわせた。
 たしかに千花ちゃんが俺を覚えていないのも仕方ないのかもしれない。
 数回あったぐらいだし……いや、それでも結婚の約束までした仲なのに!!あんまりだと思った。
 なんとか思い出してもらおうと。彼女に自分のことを伝えようとすれば、強い視線を感じた。
 強靱な意志を持った大きな瞳が、姉の持っている人形を彷彿とさせる。桜色の愛らしい唇は、一文字を結んでいた。

 あれ?なんかお友達に超警戒されてる!?嘘!?

「何、その前時代的なナンパ!そんなんで紀子の千花ちゃんに声かけないでよね、チャラ男!!」
「ナンパじゃないし!!一条(いちじょう)千枝(ちえ)さんの幼なじみの諏訪道之と幸恵の息子!!の諏訪雪路です!」
「えあ……なんとなく?覚えている気がする……かも。お久しぶりですネ」
「まるで他人!!」

 絶対に覚えてないパターンですよね、わかります。
 ここまで解説してもクエスチョンマークが顔中に現れていて何ともいえなかった。
 ああ、ショックだ……再会した初恋の女の子に、クエスチョンマーク向けられるなんて思わなかった。
 今、この子がどういう女の子なのかはわからない。
 恋愛感情は持っていないけれど、初恋の女の子に忘れられた衝撃で、つい構い倒してしまう。

「もう!アンタみたいな派手な奴と、千花ちゃんじゃ雲泥の差だよ!ふさわしくないんだから離れて!!」
「うるさい!お前も千花ちゃんと並ぶには結構派手だよ!?こんなに清楚な女の子の横にギャル!?ってなるわ」
「ハァ!?むかつく!紀子のどこが野蛮なギャルと一緒なわけ!?紀子、ちょう上品だし!清楚だし!!」
「おい!そこの一年生、入学早々喧嘩か!?ナメてんのか!!アァ?」

 千花ちゃんにまとわりついているギャルと戦っていると、三十代くらいの強面の教師がやってきて、すぐさまお互いに黙った。
 この女……出来る。

「ちかちゃん!俺のこと思い出してね、絶対、絶対!」
「え、はあ……その、努力します。でも、あんまり昔も事は、思い出したくないんだけどな……」
「絶対だから!!とりあえず自己紹介から俺は諏訪雪路!!今日から友達、よろしくお願いします!!」
「あ、その……、一条千花です……」

 困惑した顔のままの千花ちゃんは、昔の千花ちゃんとはまるで違っていた。当時の俺は、それも思い出というものだと納得させた。
 その時の俺は、未だに千花ちゃんに恋することなんて全く思いもしなかったのである。
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