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鈍器系男子の運命論 作者:野谷トオル

3 振り向いてもらうためのハウツーを見ながら口説かないで

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11 計算式をみせないでください

「んー美味しい!」
「めっちゃうまーい!付いてきてよかったー!」
「おいしーよね!これこれ、コレが食べたかったんだよ!」
「昨日食べれなかったから思いも一塩だよね!!」

 千花、楓、雪路、絵里子はお洒落な店内にも関わらず、おいしさを精一杯表現していた。昨日から焦がれていたアイスが、自らの財布を痛めずに堪能できているのだ。
 チョコレートとピスタチオのアイスだけではなく、生クリームをトッピングしたのも真壁が居たからこそだ。トッピングするのも怖ず怖ずと頼んでいたが、真壁は顔色一つ変えずに了承してくれたので、案外良い人かもしれないと現金なことを考えた。
 遠慮がちに注文した千花に反して、ほかの四人は容赦なく生クリームとクッキーまでトッピングを要求していた。もっと迷惑かけていこうぜ!と言わんばかりの態度に、少し驚きを隠せない。
 当の本人はアイスの気分ではないらしく焼き菓子とホットコーヒーを飲みながら、はしゃいでいる千花たちを呆然と眺めていた。

「ふむ……アイス屋と聞いていたが、イタリアンジェラートショップだったんだな」
「電波はお金に糸目つけない割に、細かいこと気にするんだねえ」
「正式名称は、大切だと思うが……あと、金に糸目をつけていない訳じゃない。今日の分は詫びだ……」

 むっとしながら紀子に返す真壁は不機嫌な表情を浮かべていた。一見、鉄仮面に見えた真壁は案外、表情に出やすい男なのだと千花は驚いた。
 それと共に、あまり周囲に興味がないと話していた通り、視線は千花にだけ注がれており、とても居心地が悪かった。
 色鮮やかな若草色のピスタチオと、深い黒を模したチョコレートを一緒にすくい上げて口の中に放り込めば、繊細な冷たさが千花の心を癒してくれる。美味しい物を食べれば、なにもかもがどうでも良くなった。

「千花さんは幸せそうに食べるんですね」
「美味しいものを食べている時は幸せですから……」

 当たり前のようなことを関心したように言うのはやめてほしい。そして、人の食べているところをじっと見るのもやめてほしい。でも、それはアイスをご馳走してもらった身で言うのは、はばかられる。
 千花は真壁の言葉を流し、狭いイートインスペースでプラスチックの匙を規則正しく動かす。無視を決め込んだ千花に反して、弟の楓は真壁の言葉を聞き流す事をしなかった。

「美味いもん食ってる時の姉ちゃん、機嫌いいよ!だから、真壁!今度うちに来るときは、もっと美味いもんもってこいよ」
「そうか……なるべく、美味しいものを手土産にできるよう店を調べておく。楓君、助言、感謝する」
「ちなみに、オレは百貨店のアップルパイが食べてみたい!テレビで見た!」
「ふむ……千花さんはアップルパイ好きですか?」
「嫌いじゃありませんが、私より担当作家の手土産として考えてくれませんか?あと楓、真壁さんに食べたいもの要求しないの」

 口の周りにバニラとキャラメルをベタベタと付ける楓の口を、ウェットティッシュで拭いながら、叱った。楓は何処吹く風とでも言いたげに、真壁に絡んでいく姿は無邪気だ。
 真壁のなにがそんなに気に入ったのか、楓はニコニコと彼に話しかけている。ついでに、千花の情報を聞き出す真壁はちゃっかりしていて、千花は深いため息を吐き出した。
 そもそも、この前家に来たのは顔合わせの為だ。これからも打ち合わせの度に、真壁が家に来るとは思えない。
 しかし、律儀に楓の情報を端末のメモ機能に書き記していく真壁はどうやら打ち合わせの度に訪問しようとしている様子だ。千花はこの男は暇なのか呆れてしまった。

「電波さん、随分と熱心だね」
「どういうつもりなんだか……」
「能面の変な電波と思ってたけど、背も高くてお洒落だし、大手出版社務めだし、結構な優良物件じゃないの?」

 それに顔も千花好みじゃない?
 ニンマリと顎で真壁を指した絵里子は、実に楽しげだった。絵里子の言うとおり、肩書きだけはとてつもなく立派な男だ。女子高校生の憧れを詰め込んだかのような真壁に、少し良いなと思わなくもないが……中身が中身なだけに拒否反応が凄い。
 千花は絵里子がどういうつもりで真壁を薦めてきたのか理解できず、口の端がヒクついた。
 絵里子の言葉にどう反応したものかと、思案しているとむっすりと不満を顔に出した紀子が身を乗り出してきた。

「え~、絵里ちゃん見る目なあい。どんなにイケメンでも、紀子は認めないからね!」
「アンタはどんな男でも認めないでしょ。で、千花はどうおもう?」
「どう思うって……なんていうか、意志の疎通ができない人はちょっと……」
「確かに」「それはある」

 美少女二人が一斉に真顔になる機会なんて早々無いと思う。
 そういえば……こういう話題になると、必ず絡んでくる雪路はどうしているのかと彼の席を見れば、どうしてか楓に絡んでいた。あの、脳内花畑は一体なにをしてるんだ。
 本当にあの男は、身振り手振りも、声も大きい。店員が、微笑ましそうにこちらを見ていてなんだか恥ずかしくなってくる。

「楓ぇ!なに敵に情報流してるんだよ!」
「雪路はうるさいなあ……オレ、真壁派だもん!!敵じゃないし」
「そもそも、雪路派じゃないからな」
「雪路泣いちゃう!!もう楓君にお菓子作らないんだから!!」
「オレの分無かったって、姉ちゃんに言いつけるからいいもんね」
「おまっ、それはズルいぞ!!絶対にやめてください!オレの好感度のためにも」

 最初から好感度なんてあってないようなものじゃないだろうか……
 そう思うのは、このテーブルにいる人間の総意だと思う。ほら、絵里子も紀子も、真顔だ。
 千花はいつも通りの騒がしい光景を眺め、どこか安堵した。この人たちに、真壁という電波が入っても、変わらずいつも通りに見えてしまう。
 それが、変化が苦手な千花にとってはどうしようもなく、良いものだった。
 人は変わる、それでも、空気は、味は変わらないでほしい。そんなことを口に出せば、人は我が儘だと、怠慢だと、声をそろえて言うだろう。
 それでも千花は、変わらないままで居てほしいと考えてしまうのだ。

「千花さん?どうかしましたか?」
「いえ、なんでもありません。みんな、食べ終わりましたし……そろそろ帰りましょうか」
「そうですね。この人数で長居するのは、店にも悪いですし」

 ええ~!と残念そうな声をあげる高校生と小学生。本来なら、千花も此処に混じって非難の声を上げるべきなのだが、どうにも性格が許してくれない。
 そして、何より先ほどから千歳からのメッセが鳴り止まないのだ。恐らく、楓も帰ってこないので、一緒にどこかに出かけているのはバレている。
 千花たちは後かたづけもそこそこに、お洒落な外観の店から出た。喋り足りない紀子と絵里子が、せっかくだからとファストフード店を指さしてくれたのだが、今日は楓を連れていることもあり断る形となった。

「夕飯の買い物して帰らないといけないから、ごめんね」
「そうだよねえ……仕方ない。それがないと千花じゃないしね」

 快活に笑いながら、残念そうに言う絵里子はやはりつきあいやすいと思った。
 そして絵里子の隣にいるじっと千花を観察する真壁は、気持ち悪いと思った。一体、なにを考えているのだろうか……真顔なところが余計に恐ろしくて仕方がない。
 千花は顔をひきつらせながらも、いつも通り楓の手を取る。
 ランドセルを背負った楓は、千花の腕を元気いっぱい振り、意識をこちら向けようと必死だ。可愛い仕草に顔を緩ませ、なあに?と声をかければ元気いっぱいの声を出す。

「姉ちゃん!!今日、オレはハンバーグが食べたい!!」

 目を輝かせて元気いっぱい宣言する楓は大変可愛い。ハナマルだ。
 今からハンバーグか……結構手間がかかるな。そんなことを、ぼんやりと考えれば、目を輝かせた二人が勢いよく手を挙げた。
 なんとなく言動が察知出来てきた千花も、もしかしたら同類なのかもしれないと思った。少し、落ち込みそうだ。

「はいはーい!紀子も、千花ちゃんのハンバーグ食べたい!!」
「はいはいはーい!雪路は、千花ちゃんの旦那さんになりたい!!」
「一人、趣旨が違う奴が混ざってるんだが……」
「これから、電波さんが毎回遭遇する伝統芸だから、慣れときなって」
「伝統芸とは、また別なんじゃないのか……?」

 恐らく伝統芸じゃなく、どちらかというと恒例行事だと思う。
 二人の勢いを無視して、楓に今からハンバーグは面倒である旨をやんわりと伝えると、テンションを駄々下がりにしながら、千花から手を離した。そこまでなのだろうかと、弟の成長に少しばかりショックを受ける。

「ハンバーグにしない位で、手離すことないじゃない……」
「理由がめんどくさいだからじゃない?」
「返す言葉もございません」

 絵里子の指摘が的を得ていて、余計に落ち込んだ。自分の未熟さが憎い。
 悶々としながら、何を作ろうかと頭を悩ませる。色々な事があり過ぎて、ご飯をつくることが面倒なのだ。

「解ってはいるけど、今日は作るの面倒なんだよなあ」
「千花ちゃんが面倒なら俺が作りにいってもいいよ?通い妻ってやつだよ!」
「いつから諏訪は、女子になったの?ヤバいね?」
「君は、一体千花さんの何になるつもりなんだ……?」
「その前に、気軽に家に来ようとしないで……千歳さんがめんどくさいんだから」

 酷いよ~!とへらへら笑いながら、後ろをついて歩く金髪は心底明るい。このウキウキパッションピンクが家にやってくると、いつも面倒な千歳が百倍面倒になるのだ。
 今日は気持ちのいい気分のまま過ごしたいので、是非、家にやってこないでほしい。

「もう来ちゃったー!じゃあ、私たちこっちだから」
「紀子も、千花ちゃんと一緒の道が良かったー!」

 千花は相変わらずな雪路の言動を聞き流して歩いていると、分かれ道がやってきた。此処でいつも、駅方面にいる絵里子と紀子と離れることになる。

「へっへーん、悔しかったら引っ越してみろ!」

 うるさいウキウキパッションは、千花のマンションの隣に住んでいるので、残念ながら続投だ。
 紀子達に対して小学生のような言動をしている雪路に、現役小学生の楓も可哀想なものを見る目で雪路を眺めていた。彼にかける言葉も無いようだ。

「その煽り方、いくつなの?諏訪の頭は可哀想なの?」
「紀子、諏訪の頭が可哀想なのは百も承知なんだから言って差し上げないの」
「言ってみただけの言動に、そんなに返されるとは思わなかったんだけど」
「水野さん、桐生さん、それ以上は彼が可哀想だから止めてやってくれ……」

 二人を窘める真壁は存外良い人なのかもしれないと、千花は少しだけ彼を見直した。分かれ道で、悪ふざけをしていては迷惑なので別れの挨拶をさっさと始めることにした。

「真壁さんも、アイスありがとうございました。」
「いえ、構いません。あと、俺もこっちに行きます」
「えっと、あの、真壁さん……駅は反対側ですよ?」
「荷物持ちは必要じゃありませんか?」

 首を傾げて問えば、首を傾げて返された。なんなんだ、この人家までついてくるつもりなのだろうか……
 絵里子も紀子も、真壁の言動に違和感を持ったらしくじっと彼を見つめている。現場には、やけに静かな空気が流れていた。
 しかし、このなんとも言えない空気を打ち破るのは、やhり、ミスター空気を読まない諏訪雪路だった。

「俺が千花ちゃんの荷物持ちだから!!電波は帰れ!!」
「雪路君はともかく、その……駅は家からも逆方向なので」
「せっかく近くまで来たので、先生にご挨拶をしておこうかと思ったんです」
「すごい最もらしい言い訳してるね」
「千歳さんのこと利用してるの本人聞いたら怒るんじゃない?」

 真壁は頑なに来ようとしている。笑顔の一つもない真顔で迫ってくるので、少し恐ろしさもある。美人の真顔は恐怖映像にもなるのかと、千花は感心した。
 このまま彼を荷物持ちとして家に連れていっても、千歳の暴走が始まるだけだ。千歳は真壁を面白がっている節もあるので、もしかしたら晩酌が始まってしまう可能性がなきにしもあらず。

「叔父には私から伝えておきますので……来ないで下さい。」

 千花は迷わず両手をあげ、結構です。来ないで下さい。のポーズを取った。
 結構ですと言うと、言質をとって別の意味で言ってきそうだと思った。悪徳セールスを断るときは、いいです、結構ですと使ってはいけないと、ワイドショーで言っていた。
 頑固拒否のポーズを見つめ、三回ほど瞬きをゆっくりした真壁はゆっくりと頷いた。

「そうですか……それは、残念です。次回までに別の方法を考えておきます。」

 お前は一体、何を考えておくつもりだ。
 満面の笑みを浮かべた真壁をみた千花の額には少しの青筋が浮かんだ。あの手、この手を使おうとしても、千花は徹底抗戦をする姿勢でいきたいと思う。

「嗚呼、それならご連絡先をいただいてもよろしいでしょうか?」
「私と連絡をとる必要、ありませんよね?」
「また校門に押し掛ける形になりますが、いいですか?」
「…………」
「そんなに嫌なんですか?」

 激しく嫌そうな顔をする千花を見て、真壁はひどく泣きそうな表情を浮かべていた。

「姉ちゃん、連絡先ぐらい教えてやれよ……なんか可哀想で仕方ない」

 あまりにも哀れに思ったのか、自称真壁派に寝返った楓が千花に折れることを促した。
 楓に言われ、渋々鞄から端末を取り出せば、真壁はパアアっと表情を明るくさせて、手帳型ケースに入った端末を千花に向けてくる。そのまま渋々、連絡先の情報が入ったQRコードを液晶に表示させれば、即座に読みとり、千花の名がかかれた液晶を確認のために見せつけてくる。この行動に、一体なんの意味があるのだろう。

「なんども見せないで下さい。ちゃんと入ってますよ……」
「これから、千花さんに逐一ご連絡を差し上げます。とりあえずは、朝昼晩で大丈夫ですか?」
「やめてください。ブロックしますよ……」

 もし、来たとしても返信するわけがない。
 千花が心底やめろと言った表情を見せれば、真壁は不思議そうに端末をいじりサイトを開いた。アイス屋で開いていた恋愛ハウツーサイトだ。

「しかし、此処には女性は連絡がマメな男が良いと書いてあります」
「そのサイト見ながら行動するのやめなよ、電波」
「ていうか、サイト見てる事は隠しときなよ、電波」
「そもそも、千花ちゃん口説くのにサイトに頼るなよ、電波」
「なあ、真壁……女心はそんなサイトじゃ攻略できないんだぞ」
「楓が一番まともなこと言ってるね……」

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