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黒の魔王  作者: 菱影代理
第7章:迎撃準備
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第94話 突撃! シモンの研究室(2)


 そこに建っていたのは小屋、というよりも物置だった。

「ど、どうぞ……」

 シモンがバツの悪そうな表情で扉を開いて中へ招いてくれる。

「これが研究室、か」

「そうだよ! こんなのが研究室だよ!

 でもしょうがないでしょ! ランク1の冒険者が広い部屋を借りる余裕なんてないんだから!」

「いや、分かってる、分かってるから落ち着け」

 この宿へついた時、正面扉に入らず真っ直ぐ庭先に足を向けたのは、この物置がシモンの宿泊場所兼研究室だからだと、今更気づく。

 考えてみれば、寝泊りする以外の目的に宿の客室を使うのは拙いだろうし、またランク1冒険者の収入では宿以外に利用できる部屋など確保できない。

 シモンがこの物置で研究し、寝泊りしていることはある意味当然の結果だと理解はできるし納得もいく、だが、

「不憫だ……」

 俺は聞こえないようにストレートに心情を吐露した。

「座って」

 普段使っているであろうデスクから小さな木の椅子を俺へ勧めてくれる。

 他に椅子は無く、シモンはベッドへ腰掛けた。

 ってよく見たらアレ、木箱を並べた上にシーツをかけただけでそもそもベッドですらない!

 ヤバいぞ、シモンちゃんは世界名作劇場に登場する不幸な生い立ちの主人公みたいな生活してんのか、ホントに不憫だ。

「お兄さん、今ちょっと失礼なコト考えてたでしょ」

「いや、そんなことないって!

 それよりも、確かにここは研究室って感じがするな――」

 ぐるりと部屋を見渡せば、最初に出てくる感想は「物で溢れてる」だ。

 デスクの上には年季の入った辞典のような厚い本がうず高く積み上げられ、種々の工具が散らばっている。

 造りかけの機械カラクリ、原色が目に眩しい怪しげな液体、鱗や牙といったモンスターの素材、そんなモノが机、テーブル、棚、床、至る所に雑然と並んでいた。

 うん、いかにも研究室といった感じだ、何もこんなところまでファンタジーイメージじゃなくてもいいのにと思えるくらい見事な散らかりっぷり。

 確かにコイツは錬金術師の研究室だぜ! と違和感無く思える、まぁ他の錬金術師がどうなのかは分からんが。

「――とりあえず、あんまり時間も無いし早速本題に入ろうと思う」

「え、うん」

 俺の真面目な雰囲気を察したのか、若干緊張といった面持ちのシモン。

 確かに、ここから先は俺個人では無く冒険者同盟のリーダーとしての話だ。

「まず確認しておきたいんだが、君は緊急クエストを受けるか?」

「勿論、僕だって冒険者の端くれだからね、クエストの受注に否やはないさ」

 淀みなく即答するシモン。

「今回のはかなり危険だぞ、命の保証はできない」

「冒険者に向かって言うセリフじゃないね、僕じゃなかったらキレる人もいるよソレ。

 でもここは素直に忠告と受け取っておくよ」

「スマン、一応確認しておきたくな」

 ほとんどの冒険者は強い者に従う理論で俺についてきてくれるが、どうにもシモンはそういうタイプには思えなかったので、前線で戦わせる以上意思確認はしておきたかった。

「それで、シモンには特別に協力して欲しいことがある、如何せん時間が無いから出来るかどうかは分からないが――」

「何さ?」

「機関銃を造ってほしい」




 リリィとフィオナが姉妹のように仲良く並んで階段から一階ロビーへと降りてきた。

「ポーション作成は目が疲れますね」

「うーん、しぱしぱするぅー」

 量を正確にするため秤とにらめっこを続ける調合作業を終え、二人は一旦休憩兼食事のために降りてきたのだった。

 ちなみに、リリィの調合は目分量だが、なんとなく調合素材を凝視しながらやっているので、彼女の目も無駄に疲労していた。

「お疲れさん、休憩するんかい?」

 二人に声をかけたのは動く白骨死体改めスケルトンの闇魔術士モズルン。

 共和国なら真っ先に討伐対象となる死神を思わせる邪悪な髑髏の風貌だが、フィオナにとってはすでに慣れた顔見知りである。

「はい、お腹が空いたので」

「あっはっは、いっつもソレやなぁ、戦う前に兵糧食い尽くしたらあかんでぇ」

「善処します」

「ねークロノークロノどこー」

 リリィがキョロキョロとロビーを見渡すが、お目当ての黒い長身は見えなかった。

 リーダーであるクロノは多忙だ。

ヴァルカンのようなタイプであれば、ただ敵が来るまで黙って待ち構えているだけなのだが、事前準備に全力をかけるクロノは、敵が来る直前こそ最も忙しいと言えるほど。

 冒険者の配置、パーティ間の調整、工事の進行状況、物資の確保、やらねばならないことは山ほどある。

 その為クロノは常にギルドに留まっているわけでは無く、村のあちこちを東奔西走している。

「会議室にいるのではないでしょうか」

「あーちゃうわ、旦那はさっき出て行ったで」

 フィオナの予想をすぐにモズルンが覆す。

「そうなんですか」

「えーどこいったのー?」

 という幼い問いかけに、モズルンは骨を不気味にカタカタならしながら懇切丁寧に答えた。

「えらい可愛らしいエルフのお嬢ちゃんと仲良う出て行ったで、コレは今頃お楽しみ中に違いないでぇ、まぁ旦那はえらい頑張ってはったし、これくらいの息抜きは許され――」

「許さない」

「「っ!?」」

 膨大な魔力が瞬時に膨れ上がったのを魔術士であるフィオナとモズルンが即座に感じ取ったのと同時、

「そんなの許さない」

 目の前には、いつの間にか真の姿へと戻ったリリィ。

 先ほどまでにこやかで愛らしい表情を浮かべていた幼子の面影は最早無く、能面のような冷たい美貌があるのみ。

「……リリィさん?」

 リリィの急変振りに、珍しく冷や汗を流すフィオナ。

 触れれば大爆発を起こしそうな光の原色魔力を感じる。

 お陰でモズルンはリリィの光で浄化されるのでは無いかと戦々恐々といった様子。

「ちょっと、クロノを連れ戻してくるね」

「え――」

 目が合うが、その瞳はフィオナを映していない、彼女はもっと遠くの‘何か’を見ているに違い無い。

 フィオナが何か返事をする前にはもう、リリィの姿は視界から消えていた。

「……大事にならなければ良いのですけれど」

「旦那ぁ、どうか、どうか無事に帰ってくるんやでぇ……」

 フィオナとモズルンは高速飛行で文字通り飛び出していったリリィを見送った、というか、見送ることしかできなかった。



 ハイパー修羅場タイムの予感!

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