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黒の魔王  作者: 菱影代理
第7章:迎撃準備
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第88話 アルザス村


 ダイダロス領内の西部、西北街道沿いにある村は東のイルズ村から順番に数えると、クゥアル村、ヘジト村、ワト村、そして最西端のアルザス村となっている。

 クロノは選抜した20名ほどの冒険者を連れて、防衛線となるアルザス村を目指した。

 その途上にあるヘジト村、ワト村の冒険者を加え、目的地であるアルザス村の冒険者達も加えると、最終的に冒険者同盟の人数は103名もの人数に上った。

 すでにクゥアル村より各村へは非常事態を告げる使者が出されていたので、リリィがナハド村長達をわざわざ説得した時のような手間はかからなかった。

 また冒険者同盟のリーダーであるクロノに対しては、この辺では名の知れたパーティである『ヴァルカン・パワード』を始めとしたランク4冒険者達がみな協力している事実によって、特に反発などは無く大人しく指揮下に入ったのだった。

 むしろ問題だったのは冒険者達では無く、

「なぜ貴様がアルザスに居る!? 冒険者の役目は殿だろう!!」

 クロノが冒険者のリーダーとなったように、各村合同の自警団のリーダーとなったナキムであった。

 クロノがアルザス村の冒険者ギルドへ足を踏み入れた瞬間に、ナキムの声がロビーに響いた。

「さては貴様、怖気づいて自分だけ逃げ――」

 そのまま口を挟む余地がないほどクロノを罵倒する台詞が続いたが、

『うっさい黙れ、10秒だけ待ってやるから今すぐこの場から失せろ』

 リリィが精神感応テレパシー固有魔法エクストラでその言葉をナキムの脳に叩き込んだ。

「は、はい、それでは御機嫌ようリリィさぁん!」

 ナキムはどこか幸せな表情を浮かべながらギルドを出て行った。

「なんかあの人、俺を目の仇にしてないか?」

「うふふ、そうかもね」

「……なにか‘言った’のかリリィ?」

 突然態度を変えて退出したのは、リリィがテレパシーで何かしたのだろうと察してはいたが、

「うん、構っている暇なんてないし、丁重にお引取りを願ったの」

「そうか、ありがとな」

 どんな台詞を彼に聞かせたのかまでは知らなかった。

「けど、自警団ともそれなりに連携とれてないと色々拙いだろうしな、どっかで話つけておかないと」

 冒険者の役割とは殿、つまり一番後ろで敵と戦い足止めすることである。

 対して、自警団は避難する村人達の道中を警護、また治安維持がその仕事だ。

 基本的に両者が一緒になることはないのだが、村人全員がアルザスを後にするまで、下手に仲違いして余計なトラブルを招くのは当然避けるべきである。

「まぁいいや、今はここのギルドマスターに話を通して、ギルドの要塞化に協力してもらわないとな」

 クロノはアルザスに来た目的を果たす為、ギルドマスターが待っているであろう会議室へと歩みを進めた。




 村人達の避難は、今のところは順調である。

 なぜなら、イルズ~アルザスまでの区間は街道がそれなりに整備されているので大人数でも進みやすく、また各村の間隔も大人の足ならちょうど1日歩けば辿り着く程度の距離しかないからだ。

 しかしこれから行くアルザス村の先、ガラハド山脈を越えスパーダへ至る道のりはそう簡単には行かない。

 国境をまたぐアルザス・スパーダ間は街道の整備がされていない悪路であることに加え、人の生活圏から離れている為、モンスターの出現頻度も格段に上昇する。

 また1日歩いても休憩できる村など無い為、野営をする必要がある。

 野営をする場合、その準備は日が沈む前には始めなければならない。

 安全や水場の確保、野営するのに適した地形を探すのにある程度時間がかかってしまうなど諸々の理由によって、夕方から準備を始めたのであっては到底間に合わないのだ。

 これまでは村があるので夕暮れ近くまで歩を進めることができたが、これからは移動に割ける時間が大幅に制限されてくる。

 こうした状況下では、人間が1日に進める距離はおよそ20キロであると言われる。

 常人を想定してもたったの20キロしか進めない、まして子供や老人、病人なども抱えて進むとなれば、その距離は大幅に落ちるだろう。

 実際のところ、どれだけの時間を稼げば十字軍から逃れるに十分なのかは誰にも分からない。

 クロノは一分一秒でも長く、ここで十字軍を足止めする必要に迫られているのだ。

 そして、その為の策が先日クゥアルのギルドで決めた防衛計画である。

「――そういうワケで、冒険者同盟はこの村で防衛線を敷き、村人達が避難する時間を稼ぎたいと考えています」

 冒険者ギルド二階にある会議室にて、クロノはアルザス村のギルドマスター、ビーンへ防衛計画の概要を語る。

 中年のドワーフであるビーンは、鬱蒼と生い茂る顎鬚を撫でながら快く返答した。

「うむ、うむ、相分かった、協力は惜しまんよ、何でも言っとくれ」

「ありがとうございます」

「とは言っても、本当にこんなオンボロギルドを砦にするつもりかね?

 ある程度の補強はできるだろうが、元々が木造建築だ、根本的な耐久力は低い、あまり期待出来そうに無いと思うのだが」

 ビーンの言う事はもっともである、だが、それを踏まえた上で、クロノは断言する。

「大丈夫です、一晩でこのギルドを石造り並みに硬くします」

「面白い、何やら策があるようだ」

「はい、ですがソレ以外にもギルド周辺に守りやすいよう色々と手を加えなければなりません。

 大工や工事のできる者に要塞化の協力をして欲しいのですが」

 高ランクの冒険者は何人かいるが、流石に土木建築のスキルを持つ者はいない。

 工事を計画、指揮、監督する専門的な人物、いわば工兵の役割を担う者が必要なのは当然と言えた。

「ワシもドワーフだ、そういったことが得意な知り合いには事欠かん、任せてもらおう」

 ビーンは二つ返事で快くクロノの申し出を受けた。

 ギルドマスターを務めるだけあってか、要塞化工事によって自分の避難が遅れることに対して一切気にするような素振りを見せない。

 それこそがきっと大人の責務というやつなのだろうと、クロノは頭が下がる思いであった。

「よろしくお願いします。

 ただ、敵の本隊がここへ到着するまでの時間は最短で3日だと予想されます」

 なぜなら、クロノがクゥアルからここアルザス村へ到着するのに丁度3日かかったからである。

 騎馬を所有する冒険者だけが先行してやって来て3日、ということは敵もまた騎兵のみで進撃すれば同じ時間でここへ辿り着くことができるのだ。

 敵が歩兵を待たず騎兵のみで乗り込んでくるとは考えにくいが、万が一ということもある。

「それを過ぎたら、もういつ敵が雪崩込んできてもおかしくありません」

 3日目までには、何としても敵の騎兵が現れても迎撃できるだけの防備を最低限整えておく必要があるのだ。

 クロノの説明をビーンは理解し、また快い返事を大声で返した。

「良かろう、新陽の月28日までに、このアルザス村を難攻不落の大要塞にしてやるわい! がっはっは!」



 さり気無く、クロノの配下が100人越えてます。随分と偉くなったものですね。

 ちなみに、規模がやや大きいクゥアル村には冒険者が約50人。その他の農村には20人弱の冒険者が滞在しているという計算になります。田舎でも結構な人数がいるものですね。

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