表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の魔王  作者: 菱影代理
第6章:スパーダへ
82/1043

第81話 冒険者VS斥候部隊(1)


 ギルドの屋上に身を伏せて、敵が村へ入るのを待つ。

 相手は7人、こちらは全員ランク3以上の冒険者で数も勝っている。

 戦力の詳しい内わけは、

『エレメントマスター』・黒魔法使い、妖精、魔女、3名の魔術士で構成される俺のパーティ。

『ヴァルカン・パワード』・ヴァルカン率いる戦士3名、射手1名、魔術士1名、全員獣人族で構成されたランク4のパーティ。

『三猟姫』・エルフの女性射手三名で構成される、同族、同性、同クラスの珍しいパーティ、しかも三人は姉妹、ランク3。

その他に単独行動ソロのオーク戦士二名、スケルトン魔術士一名、スライム盗賊一

名。

 以上の総勢15名だ。

 敵の詳しい実力などは不明だが、通常の斥候部隊だとするならば、どう高く見積もってもランク3冒険者パーティには及ばない程度の戦力。

 上手く奇襲をかければ、一人の犠牲も出さずに十分相手を全滅させることは可能だ。

 俺達全員は一時的に協力関係にあるだけであり、チームワークを発揮するほどの連携はとれないだろうが、今回のように数、実力、先制攻撃、の好条件が揃っている前では作戦失敗を懸念するほどの問題ではない。

 すでに冒険者達は配置済み、敵が来るのを今かと待ちわびている。

「上手くいけばいいんだがな」

「みんな頑張ってるよ! 大丈夫なの!」

 今回、俺の果たす役割は後衛、なんと言っても頼れる前衛が何人もいるのだ、ここは魔術士のセオリー通り後ろから援護射撃をさせてもらう。

実のところ後衛というよりは狙撃手スナイパーを意識している。

なので、隣にいるリリィは観測手スポッターということだ。

 ハリウッド映画とかだと孤独なスナイパーが一人で大活躍だが、基本的には狙撃手スナイパー観測手スポッターの二人一組で行動するもんだ。

「ああ、俺らも頑張って作戦成功させないとな」

 気を引き締める、ここで上手く斥候部隊を始末できれば、多少は俺への信頼感も生まれるだろう。

 そもそも銃の普及していない異世界の住人にはスナイパーといっても、動物やモンスターを狩猟する際に待ち伏せする猟師の姿以上には想像が出来ていない様子、戦場から遠くはなれた位置に陣取る俺に不信の目がちらほら。

だが口で説明するよりも、ここでスナイパーの有用性を示すのが一番早い理解への道だ。

 十字軍は一目で階級の違いが分かることから、特に狙撃への対応がなされていないように見える。

 要するに偉いヤツから狙い撃ちができるってことだ。

 そして俺の魔弾バレットアーツと命中精度なら、スナイパーライフルなんて上等なモノがない世界でも、現代並みに強力な狙撃を可能とする、はずだ、まぁやるのはこれが初めてだし。

 それに、リリィも俺の狙撃を快適にサポートする便利な固有魔法エクストラを持っている。

 その一つが俺の目の前に浮かぶガラスのように透明な光球。

 これを通すと遠くの景色を拡大して見る事が出来る、まんま望遠鏡みたいな、いやこの場合は狙撃銃のスコープ代わりと言っておこう。

 いくら改造強化で視力2,0オーバーでも、スコープの望遠能力には及ぶはずもない。

鷹目ホーク・アイ』など視力を強化する魔法を身につけていない俺にとって、こうした支援は実にありがたい。

 あとついでに、本来の観測手スポッターが担う、周囲の状況把握や命令伝達、場合によっては接近する敵の排除といった役割をリリィは全てこなせる。

 このスコープの他に、精神感応テレパシーで伝令は即座に可能、さらに応用で、リリィが見たものをリアルタイムで俺へ映し出すこともできる。

最悪、敵に後ろから迫られてもリリィならサブマシンガンの如くレーザーを乱射して相手を蜂の巣にしてくれる。

「……リリィは前線に投入した方が良かったか?」

 今更考えても仕方有るまい。

 俺は思考を切り替えて、目前に迫ってくる敵部隊を睨む。

「来たな」

 敵の斥候部隊は予想通り西北街道を逸れる事無く進み続け、最初の襲撃で破壊された門を通って村へと侵入してきた。

 スライム盗賊のスーさんが言っていた通り、確かに人数は7名。

 あの白いサーコート姿は紛れも無く十字軍兵士のもの、だがその基本装備をしているのは6名だけ。

「ん、なんか一人だけ変なヤツがいるな」

 ソイツは金髪ツインテールの少女で、普通の女の子にしか見えないが、一応弓を背負い胸当てを装備している以上は、十字軍に雇われた傭兵か冒険者の類なのだろうと予想できた。

 堂々と先頭を行く部隊長と思わしき人物と轡を並べて歩む姿は、彼女がダイダロスの人間で捕虜になっているわけではないことを示している。

 気にはなるが今更作戦に変更はできないし、するつもりも無い。

 予定通り、ここで全員始末させてもらう。

「作戦開始だ」




 クロノはギルドの屋上から、遠距離狙撃用に作り出した魔弾を、列の先頭を歩く部隊長の頭部へ向けて発射した。

 部隊長は下級だが魔法も武技も両方習得している優秀な兵士であるとフィオナから聞いていたが、狙撃という全く予期せぬクロノの攻撃を防ぐ手立てなど彼には一つも無かった。

 本物のスナイパーライフルと同等の威力を持つ黒き弾丸は、見事に寸分違わず部隊長の額をぶち抜いた。

 それが周囲に潜んでいた冒険者達へ、作戦開始の合図となる。

「いくぞテメぇら、一人も逃がすんじゃねぇぞぉ!!」

 大剣を担いだヴァルカンが唸りをあげて先陣を切る。

「敵襲だっ! 気をつけろ、待ち伏せされてるぞ!!」

 部隊長を失ったが、この斥候部隊はよく訓練された上に経験も豊富な兵士で構成されているようで、奇襲に驚きこそするが、全員が即座に馬を下り戦闘態勢をとった。

 相手がただの人間や力押しの盗賊などであれば、相手をする事無くそのまま馬を走らせて突破するのが一番の解決策だったが、

邪心防壁デス・ウォルデファン

 前方の大通りを、スケルトンの魔術士が中級範囲防御魔法で封鎖し、

石盾テラ・シルド

 後方をフィオナが塞いだ。

斥候部隊の前後に、大通を完全に塞ぐ形で防御魔法の壁が出現したのを見て、この場で応戦するしか彼らに選択肢は残されていなかった。

 クロノが初めて見る現代魔法モデルの闇魔法である邪心防壁デス・ウォルデファンと、フィオナの強大な魔力で一段階効果が強化されている石盾テラ・シルド、どちらも易々と突破できるものでは無い。

 前方を塞ぐ黒々とした凹凸の無い一枚壁も、後方を塞ぐ崖のように聳える岩壁も、どう見ても馬で飛び越せる高さではないし、また防御魔法を直接破壊するのも今すぐには困難であると兵士達は判断し、この場で奇襲部隊を返り討ちにする覚悟を決めた。

(コイツら、イルズを襲った腰抜け共と違って、よく訓練されてやがる)

 ヴァルカンは奇襲に動じる事無く、即座に応戦体勢をとった十字軍兵士を見て密かに感心する。

 楽に始末はできそうにないとは思うが、それはあくまで‘楽’じゃないというだけで、彼らが全滅の道を辿る運命が覆るとは露ほども考えなかった。

(しっかし、あのガキはなんなんだ?)

 視界の端には、未だ馬から下りず、武器も構えない少女の姿が映っている。

「わわっ! 何かいっぱい来たっ!?」

 突然の襲撃によほど慌てたのか、少女はうっかり手綱を引っ張ったようで、馬が暴れた拍子に彼女はあっさりとその背から放り出されてしまう。

「うぎゃ! 痛ぁ~い頭打ったぁ~」

 そんなランク1の冒険者でもするかどうかという無様な姿を見て、

(とりあえず、捕虜にするのはあのガキで決まりだな)

 ヴァルカンは考える、同時に他の冒険者達も全く同じ感想を抱いていたようで、彼女に密かな注目が集っていた。

 クロノは「全員始末する」と言っていたが、それは一度の戦闘で皆殺しでは無く、捕虜をとって、情報を得た上で殺害するところまで含めて始末と言っているのだ。

 荒事を生業とする彼らにクロノの言葉は当然理解できるものであったが、一切躊躇せずに用済みの捕虜を殺害する意思を見せた点でいえば、最早彼は‘普通の高校生’の精神では無いといえる。

 それを分かっているのかいないのか、ただ今のクロノは冒険者として、冷静に己の成すべき事、すなわち次の標的に魔弾の狙いを定めているのだった。

「おう、テメぇが一番強そうだ、相手しやがれ」

「くそっ、舐めやがって低脳な魔族がぁっ!!」

 ヴァルカンは部隊長が倒れ、捕虜候補の少女を除いた5人の兵士達の中で最も腕の立つ者を瞬時に見抜き、猛然と襲い掛かった。

 ヴァルカンは己の身の丈ほどもある巨大な剣を振り上げ、対する兵士は迫り来る巨躯に抗うべく自身に『腕力強化(フォルス・ブ-スト)』をかける。

「「一閃スラッシュ!」」

 人狼の冒険者と人間の兵士、互いに繰り出す武技は同じ、剣による斬撃の威力を飛躍的に上昇させる『一閃スラッシュ

 しかし、同じ魔法でも術者によって威力に差が出るように、当然同じ武技でも差は出る。

「はっはぁ! よく一撃耐えたな、やるじゃねぇか!」

 結果はヴァルカンの圧勝、1秒たりとも鍔迫り合いは拮抗せず、兵士は数メートル吹き飛ばされ地面を転がった。

 いくら『腕力強化(フォルス・ブ-スト)』で力が強くなっているといっても、非力な部類の人間とパワーに優れる狼獣人ワーウルフ、それも飛び切りガタイの良いヴァルカンが相手となっては、その差を覆せる道理は無かった。

 その上さらに、一般的に用いられるタイプより1グレード上という程度の長剣で、ランク4であるヴァルカンが最も金と労力をかけた愛用の大剣では、武器としての性能差もありすぎた。

 兵士は彼の言うように、よく一撃耐えたと賞賛されるべきであろう。

「バケモノめ――」

「早く立てよ、このまま終わりなんてこたぁ無ぇんだろ?」

 大剣を肩に担ぎ、悠然と兵士の前へ歩みを進めるヴァルカンは、この圧倒的に優勢な状況から、速やかに殲滅という目標よりも、少しでも強い者と刃を交える自分の楽しみを優先していた。

 時に目標を蔑ろにする彼の悪い癖の一つだが、そこはパーティのメンバーがしっかりサポートしており、それが分かっているから存分に‘楽しい戦い’が出来るのであった。

「その余裕が命取りだっ!

رعد السهم بيرس――『雷矢ライン・サギタ!!』」

「おっ!?」

 兵士は詠唱を瞬時に終え、未だ数メートルの距離にあるヴァルカンへ向けて攻撃魔法を放つ。

 が、いくら短いとはいえ1秒以上はかかる詠唱、それだけの時間があってランク4の冒険者が単発の、しかも下級攻撃魔法を防げないワケが無い。

「なんだオマエ魔法も使えんのか、へへっ、器用貧乏ってヤツだな」

 一枚の板のように幅広い刀身を持つ大剣を瞬時に盾にして、ヴァルカンは雷を防ぎきっていた。

「言ったろうが、その余裕が命取りだってなぁ!」

 すでに立ち上がっていた兵士が、手にするモノを思い切り投擲する。

 ヴァルカンは真っ直ぐ飛んでくる赤い石つぶてのような飛来物を見て、ソレが何なのか即座に理解した。

「死ねぇ! 『火炎葬イグニス・オーヴァブラスト』!!」

 兵士が叫んだ瞬間、爆炎が轟く。

 爆心地から放射状に広がった炎がヴァルカンの巨体を飲み込み、爆風と黒煙が吹き荒れる。

 中級範囲攻撃魔法『火炎葬イグニス・オーヴァブラスト』は、いくら優秀とはいえ斥候部隊の隊員が習得しているような魔法ではない、そうであるならば彼は魔術士としてクラスを改めねばならないのだから。

 彼が投げつけて使用したものは、ただの石でも無ければ手榴弾でもない、『火炎葬イグニス・オーヴァブラスト』一発分の効果を秘めた魔法具マジック・アイテムである。

 このような一回限りの魔法効果を発揮するアイテムはさして珍しいモノではない、だが大量に入手できるほど安価でもないし、使用するにもそれなりの技術と僅かばかりの魔力を必用とする。

 この魔法具は兵士がお守り代わりに個人的に持っていたものであり、十字軍兵士に支給されたものではない。

 由来はどうであれ、ヴァルカンは投げつけられたモノが即座に攻撃魔法を秘めた魔法具であることを見抜いた。

 しかし、分かることと、それを防ぐことはまた別の問題である。

 兵士は圧倒的に腕力で劣ることは最初の一撃を受けるまでも無く分かっていたことだが、この奥の手とも呼べる魔法具を使えば倒せると確信していた。

 彼にとって幸運に思えたのは、ヴァルカンが機動重視で厚く重い鎧を纏っていないことである。

 全身ガチガチに固められれば、一般的な鋼鉄製でも致命傷を与えられる可能性は減少する、防御魔法効果が追加された高価なモノならほぼ確実に防ぎきることだろう。

 しかしヴァルカンの纏う衣服と薄手の片胸鎧だけでは、あの全身を隙間無く包み込む炎熱を耐え切るのは不可能である。

「これで止めだ、バケモノめっ……」

 兵士は先の一撃で皹の入った長剣を構えて一歩踏み出す。

 この攻撃で強靭な生命力を持つ魔族を殺しきったとは彼も考えていない、しかし戦闘力を奪うには十分なダメージは与えたと確信している。

 だが、不幸にして彼は知らない、ヴァルカンという男が如何にして冒険者のランクを4まで上げることが出来たのか。

「中々いいモン持ってるじゃねぇか、で、これで終わりか?」

 黒煙の内より、先と同じように大剣を担いだヴァルカンが歩み出た。

 服と鎧が多少煤けているだけで、その体はどう見ても無傷であった。

「な、何故……まさか、治癒魔法かっ!?」

「半分正解だ、けど秘密はそれだけじゃあねぇんだぜ」

 ヴァルカンの持つ固有魔法エクストラ自動回復オート・ヒールは、彼に「不死身」を名乗らせるだけの効果を持つ。

 だが、今この時ヴァルカンを襲った炎熱を防いだのはその回復力では無く、

「コォオオオオ――」

 不気味な唸りを挙げて魔力を‘喰らう’大剣であった。

 「秘密」とは言うもののそれなりに熟練した冒険者ならば、その大剣の正体はすぐに分かる。

 少なくともこの白い板状の大剣が、鈍い光沢を宿す鋼では無く巨大なモンスターの牙で出来ていることに気づけば、生前元になったモンスターの能力を宿す武器なのだと理解できるだろう。

 この大剣の銘は『牙剣・悪食』、素材となるモンスターの正体は『悪食魔獣カオスイーター』、幼体ならランク4、成体ならランク5にもなる、強力なドラゴンに匹敵する力を持つ魔獣である。

悪食魔獣カオスイーター』は、その名前と同じ『悪食』という、魔力ならばどんな形態でも‘喰らう’すなわち吸収してしまう固有魔法エクストラを持っている。

 つまり攻撃魔法によって倒すことは事実上不可能であり、またその攻撃も防御魔法で防ぐことが叶わない、下手をすれば治癒魔法すら一息で吸い込まれてしまうほど。

これを討伐する方法は、自分の肉体に直接作用する強化魔法を使い、己の物理的力のみを用いて攻撃するより他は無い。

攻撃方法が純粋な力に限定されるが故にモンスターの危険度ランク5という最高位に分類されるのだ。

 ヴァルカンの大剣は、死して牙一本となって尚その固有魔法エクストラを宿し、一振りで中級魔法程度なら完全に効果を打ち消すことの出来る魔法武器なのである。

 戦士として高い実力を持つヴァルカンが、『牙剣・悪食』による魔法無効化能力を併せ持つことで、彼はランク4という高位の冒険者となれたのだ。

「面倒だから秘密の説明は無しだ、あの世でゆっくり考えな」

 そうして、人狼の俊敏さを生かした高速の踏み込みで迫り、奥の手を破られ呆然とする兵士をそのまま一刀両断した。



 クロノは奇襲を仕掛けた!


 ランク4冒険者とそこそこ強い人間の兵士の実力差がどれほどのものか伝われば良いかと思います。ただ今回のバトルに関しては少し説明的すぎたかもしれません、申し訳ないです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ