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黒の魔王  作者: 菱影代理
第6章:スパーダへ
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第72話 避難開始(1)


「おぉ、ウチは無事で良かったな」

 約一週間ぶりに妖精の森に建つ我が家へと帰宅する。

 もしかしたら光の泉を目指して侵攻した十字軍部隊に小屋が発見され、焼き払われているんじゃないかと思いはしたが、杞憂で済んだようでなによりだ。

 イルズ村での避難準備は粗方終わり、今頃は住民達が荷を引いてクゥアル村へと移動している頃。

 ここまでくれば俺が手伝えそうなことは無いので、今度は俺達が自宅を引き払う準備に帰ってきたわけだ。

「ただいま」

「ただいまー!」

 俺の声と、元気の良いリリィの声が小さな室内に響く。

「お邪魔します」

 そして、後に続く少女の声、その正体は謎の魔女フィオナ・ソレイユである。

 何故彼女がウチに? と思うが、何となく流れ的について来てしまったのである、逆に断る理由も無かったのだが。

「そういえば、ここを訪ねた客人第二号ってことになるのか」

 その客人第二号は、リリィがゴロゴロ転がっているベッドにいつの間にか腰を下ろし、真剣な目で俺を見つめた。

「クロノさん、とても大切なお話があります」

「俺に話?」

「はい、リリィさんが子供状態に戻ってしまったので、約束を果たせるのがクロノさんしかいません」

 ああ、そういえばフィオナさんはリリィと約束がどうとか言っていたな。

 手伝いからギルドに戻った後は、持ってきたパンとスープを無心で食べていただけだったので、詳しい事情はまだ何も聞いていない。

 それよりも気になるのは、リリィが‘子供状態’と言ったことに対してだ。

「もしかして、大きい姿のリリィと会ったのか?」

「はい、まさかあの娘がこんなに純真無垢な幼子になるとは思いませんでしたが」

 何だ、別に少女リリィだって無茶苦茶カワイイじゃないか、正しく今のリリィがそのまま美しく成長しましたって感じの容姿、どこに驚く要素があるんだろうか。

 まぁいい、重要なのは少女リリィとフィオナさんが一体どんな約束をしたかということだ。

「それで、リリィとの約束ってのは?」

「はい、それは――」

 もしかして、助けてもらった謝礼として俺が破産するレベルの代金請求とかされるんじゃないか、と若干不安になる。

 一体どんな約束をフィオナさんとしたって言うんだリリィ!?

 ちなみにそのリリィ本人は俺の心配など他所にベッドの上で大きな枕にフランケンシュタイナーを仕掛けて遊んでいる。

「それは?」

「それは、私にアイスキャンデーを好きなだけ食べさせてくる、と」

「……なんだって?」

「私にアイスキャンデーを‘好きなだけ’食べさせてくる、と」

 好きなだけ、という部分を強調して、大事な事だから二回言いましたとばかりに念を押すフィオナさん。

「食べさせてくれますよね?」

 何だよそのノーと言ったらこの小屋燃やしますよと言わんばかりの鋭い視線は。

まぁ俺のことを助けてくれたわけだし、アイスキャンディーを作ってやるくらい全く構わないから良いのだが。

「今はそんなに材料無いから沢山は作れないぞ?」

「そうですか、ではお願いします」

 そんなワケで俺は、荷造りの前にアイスキャンディー作りをしなければならないのだった。




 緑風の月4日から新陽の月20日まで暮らした、僅か三ヶ月ばかりの住居であったが忘れられない思い出がいっぱいの小屋を引き払い、クゥアル村へ到着したのは日も沈みきった時刻であった。

 あらん限りの材料を使って作ったアイスキャンディーをフィオナさんにくれてやった後、彼女は寝床としているクゥアル村冒険者ギルドへと帰っていった。

 同じく冒険者である俺とリリィも宿泊場所はギルドになるのだが、俺達には先にやらなければならない事があった。

「うーん、話をマトモに聞いてくれればいいんだけどな」

 俺は出来るだけ多くの人にダイダロスで知りえた、『竜王の死』と『ダイダロス陥落』という二つの情報を、村長を始め村人達に伝えなければならない。

 その為にクゥアル村長の自宅前へやって来たのだが、村の意思を決定する集会所としての役割を持つ村長宅は、多数の避難民が発生した緊急事態に際し、その対応を協議する為に多くの人がごった返している。

 彼らも詳しい状況が分からず対応に苦慮していることだろう。

 だが十字軍の存在を知る俺からすれば、今は議論をすっ飛ばしてすぐにでもスパーダへの避難を始めなければならない状況だというのが分かっている。

 早く伝えて行動を起こさなければ、全て手遅れになってしまう。

 ただ問題なのは、クゥアル村の村長と一切面識が無い為、ランク1冒険者でしかない俺の話を信用してくれるかどうかという点だ。

 不安要素はあるものの、まずは話してみないことには始まらない。

「よし、行くぞリリィ!」

「うんっ!」

 覚悟を決めて、俺は村長宅へと踏み込んで行った。


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