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黒の魔王  作者: 菱影代理
第4章:滅びの兆し
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第50話 メディア遺跡

 俺は現在ギルドのロビーに座って、とある依頼書とにらめっこをしている。

 うーん、と考え込む俺を他所に、今日も隅のほうで太ったネコと戯れるリリィは実に楽しそうだ。

「随分とお悩みのようですね、クロノさん」

 振り向けばハーピィの少年、イルズ・ブレイダーの頭脳労働担当であるハリーが立っている。

 弓を背負ってないところを見ると、今日はクエストだけ見に来たか、飯を食いにきたかのどちらかってとこかな。

 他のメンバーは、道具屋なり鍛冶屋なりへ赴き、それぞれ新たな仕事の準備をしているのだろう。

「ああ、このクエストが気になってな、受けようかどうか悩んでいたところだったんだ」

「――メディア遺跡新区画の調査、ですか」

 俺の対面に座り、依頼書を読むハリー。

「先月あたりに新しい区画が発見されたって話は聞きましたね」

 メディア遺跡は、地上に古代の岩壁くらいしか残ってはいないが、その真価は地面の下にある広大な地下街だ。

 地下街は洞窟や空洞を利用したものでは無く、すべて人の手によって作られたジオフロントであるらしい。

 この異世界では、現代において眉唾モノでしかないオーバーテクノロジーを持つ古代文明が実在している。

 今ではジオフロントを建造する技術などパンドラ大陸には無いが、古代にはそれが存在したのだ。

 ちなみに、この古代文明は空飛ぶ車があるような科学の発展した文明では無く、異世界らしく魔法の発展した文明らしい。

 そこで、現代の異世界よりも魔法技術の進展していた古代文明の遺跡にこそ、俺が元の世界へ帰れるほどの大魔法を使用できるモノが存在する可能性があるのだ。

「そういえば、クロノさんは転移や召喚の古代魔法エンシェントを探しているんでしたね」

「ああ、もしかすれば目当てのモノが発見できるんじゃないかと思ってな」

 現在、メディア遺跡には転移や召喚を行う施設は発見されていない、だが、人跡未踏の新区画には、何があるのかは誰にも分からない、可能性はゼロでは無いのだ。

「それなら、受けてみればいいんじゃないんですか?」

「それはそうなんだが、募集人員がランク1でもOKってのが妙に引っかかるんだよな」

 メディア遺跡の危険度ランクは4、俺がこれまで立ち入ったことのあるダンジョンは高くても精々が3だ。

 もっとも、俺とリリィの冒険者ランクこそ1ではあるが、二人でならサラマンダーも倒せるので、危険度的にはそれほど問題は無い、しかし……

「まぁ、確かに怪しいですね」

「だろ」

 そう、ランク4のダンジョン、しかも探索されつくしていない(新区画の発見は先月なので、この依頼が一番乗りでは無いのだが)となれば、より一層危険度も増すというものだ。

 普通に考えるなら、荷物持ちでもランク2以上の経験者で編成するべきだろう。

 にも関わらず、ランク1,つまり誰でもOKというのは、些か不自然に思える。

「面倒事に巻き込まれるのはゴメンだしな」

「あはは、クロノさんは意外と慎重なんですね」

「意外とってなんだよ、そんなに俺は脳筋に見えるってのか?」

 これでも俺は魔法使いだぞ、それなら当然知的なイメージで見られるべきではないのか?

「少なくとも生粋の魔術士って感じはしないですね、だってクロノさん、人間の中じゃ結構大柄じゃないですか、やっぱりそういう体つきの人は剣士や戦士が多いですからね」

 横に目線をやれば、縦にも横にも大きい体の戦士が仲間の冒険者とワイルドにお茶を飲んでいる姿が目に入る。

「俺は特別体を鍛えてるわけじゃないんだけどな」

 むしろ魔法の研究に勤しんでいる方だ。

「けど、やっぱ見た目か、あーあ」

「そんなに嘆かなくてもいいじゃないですか、ほら、強面だと舐められませんし」

「いーや、俺もハリーみたく細身の方がいいね」

「僕はハーピィだからこれで標準体型なんですけど」

 空を飛ぶのが前提の種族だからか、ハーピィには細身の体型が多い。

 人間と比べると筋肉や脂肪がつきにくいのは確かだ、種族の違いは見た目意外にもそうした性質にも現れている。

 ついでに風属性の魔法が得意だ、ハリーの弓は風魔法のアシストによって威力や連射、同時撃ちを可能としている。

「話を戻すけど、ハリーはどう思う、このクエスト」

「うーん、僕はクロノさんなら大丈夫だと思いますよ。

 それにリリィさんもついているなら、騙される心配も無いですし」

 妖精は決して悪人には懐かないとされているが、それはただの伝説では無く、相手の心や感情をある程度読む、精神感応テレパシー能力が備わっているから、妖精は本当に初対面でも人を選ぶことが出来るのだ。

「そうだな、最悪依頼主がトンズラしても、一応ギルドは通してあるから報酬は払われるし」

 ヤバいモンスターが出ても、何とか逃げるくらいのことは出来るだろう、もっとも落盤事故などの場合はどうしようもないが、そこまで気にしていては危険な冒険者稼業なんてやっていない。

 俺は僅かな望みを託して、メディア遺跡探索のクエストを受けることに決めた。

「あ、でもクロノさん、気をつけなきゃいけないのはクエストだけじゃありませんよ」

「ん?」

「メディア遺跡のある場所は知っていますか?」

「ああ、行くのは初めてだが、たしか――」

 確か地図によれば、首都ダイダロスの近辺にメディア遺跡は位置していた。

「そのダイダロスなんですが、最近出入りが制限されているみたいです」

「どういう事だ?」

「詳しい事は分かりませんけど、アーク大陸からやってきた人間の軍隊と揉めているらしいですよ」

「何だ、ヴァージニアって街に封鎖して出て来れないようにしてあるんじゃなかったのか?」

「そのはずなんですけど、どうしたんでしょうか」

「まさか、形勢が変わったとか?」

「それこそまさかですよ、ダイダロスには遠征に向けて精鋭の軍隊が訓練中、それに竜王様がいるとなれば、これを破るにはそれこそ同じドラゴンを連れてこなきゃ太刀打ちできませんよ」

「ドラゴン……」

 俺の実力はランク4のサラマンダーを僅かに上回る程度、国王になれるほど凄いドラゴンとなれば、そこからさらに1つ上のランク5、しかもその頂点に近い強さを持っていることだろう。

 それがどれほどのものか分からないが、少なくとも俺と同等の力を持つヤツが100人集まってもどうにもならないくらいには強いんじゃないだろうか。

「恐らく、何かの交渉をしているのだと専らの噂ですけど」

 交渉ってのは対等な者同士じゃないと成り立たないものだ。

 ダイダロスに人間を立ち入らせてまで交渉をする、噂が事実だとすれば、それは人間がダイダロス軍に匹敵する力を持っているってことなんじゃないかだろうか?

 本国の武力を後ろ盾にしたか、いや、それだけでビビって交渉するっていうなら、攻撃してきた半年前にケリがついているだろう。

 だとすれば、その半年前と現在では、ヴァージニアの、あるいはダイダロスの状況が変わったとしか思えない。

 その変化がどういうものかは、そもそもここへ来て日の浅い俺が分かりうるはずもないが。

「兎に角、今のダイダロス周辺はあまり良い雰囲気ではないようです。

 一体何が起こっているのかは分かりませんが、気をつけるべきなのはクエストよりも寧ろこっちでしょうね」

「なるほどな、忠告ありがとう。

 俺も出先で何か状況が分かれば教えるよ」





 メディア遺跡調査のクエストを受けることに決めた俺は、その日の内に準備を整え、翌日にイルズ村を出発する。

「――はい、それでは頑張ってくださいねクロノさん」

 ギルドのカウンターで正式にクエストを受注し、ニャレコから証書を受け取る。

 遠隔地からメンバーを募集するクエストなどはこうして証書が発行される。

 俺はこのテのものは初めてだ、証書は大事に保管しようと思うが、どうせ影空間に放り込んでおくだけなので、他の物品と扱いは結局変わらない。

「でもメディア遺跡は遠いですよね~しばらく村に帰って来れませんね」

「ああ、下手したら帰るのは月が替わってからになるかもしれないな」

「それはダメですよ、夏越しの祭までには帰ってきてくださいね?」

「ん、そうだな、俺も祭には参加したいな」

「そーですよ! 一緒に屋台の全メニュー制覇を目指しましょう!」

「俺にたかる気か?」

「失礼ですねっ! 私は割り勘の出来る女ですよ!

 でもここぞという時に奢ってくれると好感度を荒稼ぎすることができますのでお忘れなく」

 俺にニャレコの好感度を上げてどうしろと言うんだろうか、懐き度が上がるとお手をするようになるとか?

「このクエストが上手く行ったら、一杯くらいは奢るよ」

「流石クロノさん、話が分かる! 約束ですよっ!」

「上手く行ったら、な」

「大丈夫ですよ、クロノさんなら調査クエくらい余裕です!」

「だといいけどな。

 それじゃ、リリィも待ってるしそろそろ行くか」

「はーい、いってらっしゃーいクロノさーん」

 今日も元気なニャレコの声を背中に受けながら、俺はギルドを出て行く。

 扉を開けると、これからクエストを受けるのかイルズ・ブレイダーの面々と鉢合わせた。

「これからクエストかクロノ?」

「ああ、メディア遺跡までな」

「今回は珍しく遠出だな、何かあんのか?」

 美味いクエストがあるなら教えろよ、とニーノの目は暗に語っている。

「個人的な探し物だ、しかもクエスト自体ちょっと怪しい、俺も事情が無ければ見向きもしなかったさ」

「そうかい、んじゃ精々気をつけるこった。

 祭までには帰ってこれんのか?」

「そのつもりだ、祭でニャレコに一杯驕らなきゃいけない約束もしてしまったしな」

「そうか――って待てよオマエ、それじゃあ祭でニャレコと一緒になれるってコトなんじゃねーのかっ!?」

「あ……スマン」

 言われてから気がついた、いかん、これじゃあ俺がニーノを出し抜いてニャレコを誘ったみたいじゃないか。

「バカヤローー!」

 悔し涙の男泣きをするニーノのネコパンチを、俺は甘んじて顔面で受け止めた。

「済まない、ニャレコのことは、まぁ自分で上手く誘ってくれ」

「先約あったら誘いづらいわ!」

「もし断られたら、当日俺が協力して上手く引き合わせてやるから」

「……本当か?」

「任せろ」

 俺達は握手を交わす、これでもお前の恋を応援してるんだぞ。

「はー、相変わらずニャレコの事になると情けないわぁ。

 まっ、そんなヘタレなんかよりクロノ、ウチにも何か奢って~」

「ヘタレとか言うなやアテン」

「クロノお願ぁ~い」

「無視すんなっ!」

 突っかかってくるニーノを長杖で押しのけつつ、俺へ上目遣いに視線を向けるアテン、その目は結構マジだ。

「……一杯だけだからな」

「やったー♪ 約束だかんねー!」

 満面の笑顔、だが騙されてはいけない、アテンは今この村で一番高い酒の銘柄を脳内検索中に違い無い。

 早まったかな……

「クロノさん、あのクエストに行くんですね」

「ん、ああ、そうだ」

 ヘタレなリーダーと現金な紅一点と違い、割とマジメな顔のハリー。

「メディア遺跡はこの辺にはいない、高ランクのモンスターがいる、気をつけろ」

 と、忠告してくれるクレイドルもマジメな顔。

 ハリーとクレイドルの二人が良識派な所為か、ニーノとアテンは戦闘以外でマジんなることがあまり無い。

 これはこれでバランスが取れてる……と言えるのか、いや、言えるということにしておこう。

「それじゃまたな」

「おう、頑張ってこい」

「クロノー約束忘れんなやー!」

「はいはい」

 振り返らずにヒラヒラ手を振って、俺はリリィが待っているであろう村の門へ向けて歩き出した。


 クロノはついに首都ダイダロスへ向けて出発! 果たしてその先に待ち受けるものとは!?


 ようやく話が動きそうな気配です、ここまでで随分と長い話になってしまいましたね。

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