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黒の魔王  作者: 菱影代理
第4章:滅びの兆し
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第47話 夏の始まり

 イルズ村含む、パンドラ大陸東部の地方には、新陽の月の30日に『夏越しの祭』というお祭りが行われる。

 ‘夏越し’という単語は聞きなれないかもしれないが‘年越し’ならば日本人なら誰でも聞いた事はあるだろう。

 年越しは、大掃除をして一年の汚れを払い、新年を迎える事だ。

 この夏越しも、年越しとほぼ同じ意味合いを持ち、大掃除をして、夏を迎えるのだ。

 元々は、この初夏と年末に大掃除することで、衛生環境を保つために行われた。

 医学や薬学もそこそこ発達し、回復や治癒の魔法もある異世界ではあるが、現代日本ほど医療が進んでいるわけではない、こういった日々の暮らしの中で、あるいは行事で、衛生環境を改善し、疫病の発生を予防するのは非常に重要なことである。

 そんな大事な一面もあるのだが、お祭りはお祭り、元の世界でも異世界でも人々がお祭りで盛り上がるのは共通。

 30日までに大掃除を終え、当日は村の総力を挙げたお祭りを開催するのだ。

 という話を、ギルドのロビーでいつものように昼食中、ニャレコから聞いた。

「祭りと聞いちゃ黙ってられねぇな!」

「私も毎年楽しみなんですよー」

 異世界で初のお祭りイベント、俺は勿論だが、ニャレコも楽しみにしているようだ。

 娯楽の少ない異世界だ、やっぱりお祭りは一大イベントなのだな。

「リリィさんも毎年来ていますよ、怪我人が出たら回復してくれるんですよね」

「そうなのか、以外と大人な対応なんだな……」

 てっきり歳相応、じゃない、外見相応にはしゃぎまわっているのかと思いきや、どちらかといえば運営側だったとは。

 そんな大人なリリィは、ロビーの隅っこで丸まっている妙に太った猫の相手に夢中であった。

 あんまりじゃれ合うと折角のエンシェントビロードのお高いワンピースが毛まみれになっちゃうぞ。

「今年はクロノさんも居ますし、リリィさんも屋台を回ったりしてのんびり過ごすんじゃないですかねぇ」

「そうだな、二人でゆっくり――っと、そういや屋台とか出るのか?」

「何言ってるんですかクロノさん、お祭りといえば数々の出店じゃあないですか!

 あ、ひょっとしてクロノさんの故郷ではそんな感じじゃなかったりします?」

「いや、俺の故郷でもお祭りに屋台の出店はつき物だったぞ。

 やっぱり歩きながら手軽に食えるようなモノを売ってるのか?」

「はい、串焼きとか、お酒を売るところが多いですね~

 お祭りだと、皆さんお財布の紐が緩くなるので、結構な稼ぎ時なんだそうですよ。

 私も分かっていながらついつい使っちゃうんですよねー、道具屋のアタリが混ざってるか怪しい籤引きとか!」

「ああ、キッシュのオッサンならすげぇやりそうだな……」

「でも、やっぱり出店巡りはいくつになっても楽しいんですよね~今年は私もついに大人買い解禁です!」

「子供の限られたお小遣いで如何に多くのモノを買うかってのも楽しかったよな」

 まぁ、元いた世界では現役で子供だったんだけどな。

 文芸部やってたし、バイトもしてなかった俺が、まさか初めて経験する労働が異世界で冒険者とは、人生ってな何があるか分からんものだな。

「いいですよね、私も子供の頃は出店で売る魅惑のお菓子を全種類制覇するのを夢見ていました、今年は実現できそうです~ふふ~」

「やってみたら以外とあっけないモノだったりするかもな」

「んも~そういう現実っぽいコト言わないで下さいよっ」

 和やかにニャレコとの談笑が続く、多分今日も先輩職員のピーネさんが現れるまで雑談し続けることだろう。

 やめないニャレコもニャレコだが、止めない俺も俺か、最初にニーノがケチをつけてきた「ニャレコの仕事の邪魔すんな」というのは案外当たっているかもしれない。

「それにしても、夏越しの祭が始まる前には、もうすでに夏って感じじゃないか、最近急に暑くなってきたぞ」

 恐らく日本よりは低緯度に位置するだろうイルズ村、夏には猛暑日が続くだろうことは今からでも予想できる。

 果たして炎天下の中、愛用の『悪魔の抱擁』を着続けて大丈夫なんだろうか?

「そーですね、冷たいモノが飲みたくなっちゃいますよね」

 魔法が普及する異世界において、氷はそれほど高価なものではない。

 ランク1の魔術士でも、氷だけなら相当量作り出すことができる、アテンの氷結大盾アイズ・アルマシルドを削ってカキ氷にすれば一体何人分できるだろうか。

「あーカキ氷食いたいな、アイスも捨てがたい――」

 魅惑の氷菓に思いを馳せていると

「カキゴーリとかアイスって何ですか?」

「え、知らないのか?」

「聞いた事ないですね、クロノさんの故郷の食べ物ですか?」

 食べ物に関しては、ジャンクフード以外は大体揃っている豊かなイルズ村だったので、アイスくらいあるだろうと思っていたが、そうか、この世界で、少なくともイルズ村周辺ではカキ氷もアイスも開発されてないのか。

「ああ、暑い夏には定番の氷のお菓子なんだけど、そうか、無いなら自分で作るしかなさそうだな」

「おお、クロノさんの郷土料理ですね! これは気になりますねぇ」

 果たしてカキ氷とアイスを郷土料理と呼んでいいものか……

「よーし、明日も暑くなりそうだし、今日はクエスト受けるのやめてアイスでも作ってみるかな」


 4章のプロローグをすっ飛ばして掲載してしまいました、昨日の更新で読んでしまった方は話が前後して申し訳ありませんが、45話『月夜のプロローグ』をご覧下さい。

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