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黒の魔王  作者: 菱影代理
第3章:十字軍来る
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第35話 七番目のプロローグ

「ようこそ、『白の秘蹟』第一研究所へ、アルス司祭長、いや、今は大司祭となったのだったかな、昇進おめでとう」

「……皮肉はやめていただきたい、ジュダス司教」

 私は、どうしてここにいるのだろう。

「大司祭となったのは事実であろう、それが、またしても上司の死によってもたらされたものであってもな」

「分かっているでしょう、私のような若造が大司祭になるしかないこの酷い現状が」

 二人の男の人が、何か話している。

 一人は知っている、ジュダス司教様、とても、偉い人。

 もう一人は知らない、でも、たぶん偉い人。

「この教区にはもう、次の侵攻を止められるだけの兵力は残っておりません。早急に教会からの支援が必要――」

「よい、それ以上は言うな。

 お主の担当する教区はすでに教会から見捨てられたと、分からぬほど愚かではあるまい?」

 何の話をしているんだろう。

 偉い人の話は、私には分からない。

「……我々に死ねと、あの忌まわしい異教徒の軍勢に、むざむざ殺されろと言うのですかっ!」

「分かっているではないか。

 それで、今更この儂に何の用で会いに来たか、聞かせてもらおうか?」

 なんだか怖い。

 死ぬとか殺すとか、よく分からないけれど、それはとても怖いことだと、私は思う。

「ジュダス司教、貴方は他の司祭達が逃げ出すこの状況下において、未だこの場所に留まり続けている。

 こんな何時異教徒が雪崩れ込んで来るか分からない危険な場所に、ただ研究の為だけに残っているわけではないのでしょう」

「ふむ、ふむ、それで?」

 異教徒……神様を信じない人、見たこと無い。

 いったい、どんな恐ろしい人達なんだろう。

「貴方は司教という、今の私よりも上の階級、それに、この施設にはかつて教皇聖下までおいでになられたことがある。

 貴方にはエリシオンにかなりのコネが、いえ、もっと率直に言うのなら、この辺一帯の安全を確保できるだけの、戦力のアテがあるのではないのですか?」

 教皇様がここへ来たなんて、初めて聞いた。

 なんだか凄い、でも、何が凄いのか、よく分からない。

「なるほど、儂を通せば教会から援軍が引き出せるのではないか、そういう期待かね」

「無理を承知で、お願いいたします。

 もしあの異教徒を撃ち払い、この教区に再び平和と神の祝福が得られた暁には、如何なる報酬であっても、貴方に支払うことを、神に誓ってお約束しましょう」

 男の人が、頭を下げている。

 大きな背の男の人、でもその姿は、とても可哀想に見えた。

「……うむ、まぁよかろう」

「お、おお、真ですかっ――」

 沢山ありがとうを言う男の人は、とても嬉しそう、ちょっと違う、こういうのはきっと、‘救われる’って言うんだ。

「サリエル」

「はい」

 突然、ジュダス司教様に呼ばれて驚く。

 でも、きっと誰も私が驚いたことは分からない、だって、私の顔は人形のようだと口をそろええてみんなが言う。

 笑うことより、泣くことより、黙っている方が私は得意だから、そう、昔から。

「ジュダス司教、その女の子は、一体?」

「お主が望む‘援軍’よ、さぁ、連れて行くが良い」

 男の人が、とても驚いた顔で私を見つめる。

 私は、その人の青い瞳をじっと見つめ返した。

「……笑えない冗談ですね、ジュダス司教」

「サリエル、彼はアルス大司祭、自己紹介でもしたらどうだ?」

「はい、私は――」

 少しだけ、考えた。

 私の名前はもう――では無く、サリエル。

 神様から加護を得た、特別な12人の内の一人。

「第七使徒サリエル」

 私はそう、初めてこの名を自己紹介した。

「馬鹿なっ!? 第七使徒は『銀断』のアリエル卿ではありませんか、勝手に使徒の名を騙るなど許され――」

「ああ‘アレ’はもう死んだ、これからは、このサリエルが新たな第七使徒だ。

 まだ正式に任命されたわけではないがね、故に爵位の授与もまだだ、‘卿’などつけず呼び捨てにすると良い」

「使徒が、死んだ……しかも、こんな幼い子供に加護が……」

「さて、もう用は済んだだろう、儂にはまだ研究することが山ほど残っているのでな」

 ジュダス司教様が立ち上がると、私に向かって言います。

「サリエル、お主の役目はなんだ?」

「はい、神の敵を殺すことです」

「うむ、それだけ分かっていれば良い、後の事はアルス大司祭の命に従え」

「はい、ジュダス司教様」

「ふっ、お主に‘様’付けで呼ばれるのもこれで最後だな」

 第七使徒になると、ジュダス司教様よりも偉くなるそうです。

 偉くなるとどうなるのか、それも分かりません。

「では、儂はこれで戻らせてもらおう。

 アルス大司祭、お主に神のご加護があらんことを」

 そうして、私の初めての‘役目’が始まります。

 私に出来るでしょうか、神の敵とは誰なんでしょうか、どうして、私はここにいて、私だけが生きているのでしょうか。

 分かりません、私には、もう、何も分かりません。

 でも、これだけは知っています。

 神様は、私を助けてくれません――


 ついに新章スタートです!

 今日は連続投稿します、引き続き黒の魔王をお楽しみ下さい!


 サリエルちゃーん、神様のコト嫌いなのー? そんな感じのプロローグでした。

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