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黒の魔王  作者: 菱影代理
第18章:怠惰の軍勢
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第340話 白き聖剣の魔剣士(ライトニング・ロードナイト)

 シャル曰く、グリードゴアはランク5級のモンスターに寄生パラサイトされているから、強力な雷属性を発揮するということらしい。

 この推測に関しては、俺も疑いはない。コイツの頭ん中には、モンスター軍団を生み出したパラサイトの親玉が潜んでるのは間違いねぇ。

 それなら、ネルに寄生パラサイトの回復魔法を使ってもらうのが一番なのだが、すでに『悪逆追放レディアンス・エグザイル』を発動させているから、残り魔力には不安がある。というか、あんな大魔法をぶっ放しても魔力切れで倒れないんだから、それだけで賞賛されるべき保有魔力量だ。

 だが、グリードゴアを自在に操り、あんなモンスターの大軍まで率いるパラサイトモンスターを駆逐するだけの高度な回復魔法を続けて放つのは無理だろう。ハイポーションで回復したとしても、限度ってもんがある。

 なんにしろ、ネルに頼るわけにはいかない以上、俺が一人でなんとかするしかねぇ。

 今回ばかりは、最初から全力でいくぜ。

 まだ効果を発揮し続ける『千里疾駆ソニック・ウォーカー』で駆けながら、腰に佩く愛刀――『霊刀「白王桜はくおうざくら」』を抜き放つ。

 俺とネルはスパーダに留学するにあたって、親父から国宝をそれぞれ一つずつ貸し与えられている。

 ネルは『白翼の天秤』、俺はこの『霊刀「白王桜」』を。

 けど、親父の持ち出し許可はあくまで名目、建前みたいなもんだ。俺はコイツをガキの頃から使い続けている。初めて手にした刀を、鞘から引き抜いたその時から。

 古代より伝わるアヴァロン国宝の一つ、『霊刀「白王桜」』は自ら使い手を選ぶとして有名だ。意思を持つ精霊の宿る刀、故に『霊刀』。

 選ばれなければ、鞘から刀は抜けない。親父は抜けなかったし、その親父も、そのまた親父もコイツを抜くことは叶わなかった。百もの代を重ねるエルロード王家にあっても、数えるほどしか使い手は現れなかったらしい。

 俺は数百年ぶりに現れた使い手、というわけだ。まぁ、俺自身にはそんな自覚は全くない、別に普通に引けば抜ける。特に刀から呪いの武器の如く声が聞こえる、なんてこともないしな。本当に精霊なんて宿ってるのか、怪しいもんだ。

 だが、流石は伝説的にして国宝を称される刀だけある。その武器性能は抜群。単純な切れ味は勿論、コイツには杖なんかメじゃないほどの魔法効果も秘めている。それも、誂えたかのように俺にピッタリなものを。

「刹那一閃」

 まずは軽く先制攻撃。

 光と風の両属性を合わせて繰り出す武技は、薄っすらと白く輝く斬撃となって刀身から解き放たれる。

 今のグリードゴアは黒い砂鉄の装甲が下半身だけ、それも尻尾の中ほどまでしか残ってない。クロノが削ったんだろうが、やるんなら全部削っとけ。中途半端なところで負けやがって。

 とりあえず、狙いは防御が一枚剥がれた頭。レンガのような赤褐色の甲殻に覆われた眉間に、魔力の刃が甲高い音を立ててぶち当たる。

 ランク3程度のモンスターならまとめて両断できる威力だが、このデカブツ相手では僅かに頭部を揺らす程度の効果しかない。

 それでも、さっきと違って無傷ではない。岩の甲殻には、確かに一筋の切れ痕が刻み込まれている。

 よし、砂鉄がなければ斬れる。一刀両断とまではいかないが、それでも、この『霊刀「白王桜」』と俺の剣技があれば、切り伏せることができる。

「おっと、自慢の甲殻に傷がついてお怒りか?」

 城に背を向けて、俺と正面から対峙するグリードゴアは、グルルと唸り声を上げると共に、俄かに攻撃の気配を醸し出す。

 下半身を覆う砂鉄が剥がれて霧状に広がった、かと思うと、次の瞬間には空中で幾つもの剣型に変形した。

 シャルから『雷紅刃ライトニング・スパーダ』をパクった巨大な砂鉄剣の攻撃だと聞いていたが、これらは普通の長剣サイズ。

 紫電を迸らせながら空中浮遊する何百もの剣先が、全て俺の方へ向けられているのを目にすれば、どっちにしろ良い予感はしないがな。

 バチン、と一際大きく弾ける音が響くのが、一斉発射の合図となった。

 殺到する剣の雨。狙いは大雑把なものだが、その数からいって回避できる隙間は完全に埋められている。

 なら、自分で隙を作ればいいだけだ。

「疾っ!」

 駆け抜けるままに、前方を一閃。

 黒一色のロングソードはまとめて弾かれる。それでも真っ二つにならず、ただ幾許かの砂鉄が散ったのを見る限り、この剣がかなりの高密度で構成されていることが窺い知れる。

 この刀じゃなかったら、弾いたこっちの方が折られていたな。

 そんな事を思う頃には、黒い剣戟の範囲攻撃は通り過ぎている。残った砂鉄を全部つぎ込んだ渾身の一撃だったろうが、残念だったな。

「――っ!?」

 だが、第六感が危機を告げる。

 俺にかすり傷一つ負わせずに虚しく空をきった剣は、そのまま大雨でぬかるんだ地面に深々と突き刺さってその動きを止めた――はずだった。

「ちっ、撃ちっぱなしじゃねぇってことかよ!」

 見えない兵士が一斉に剣を引き抜いたかのように、再び砂鉄の黒剣は宙に舞い戻る。狙うは当然、俺の背中。

 このテの能力は一度撃ったら操作能力消失ってのがセオリーなんだが、流石はランク5ってところか。

 いや、感心してる場合じゃねぇ。こっちも、相応の返しをしなけりゃこの攻撃は防げないからな。

 その場で反転。刀を右手に、空いた左手を前に掲げる。

 唱えるのは、俺の原初魔法オリジナル

「――咲け、『雪月花』」

 左の手の甲に青い光の魔法陣が浮かび上がる。

 その直後、瞬く間に形成されるのは、凍てつく冷気をまとった氷の剣。その透明度からいって、氷というよりもクリスタルといった方が相応しいか。

 長さは刀と同じだが、刀身は細くレイピアに近い形状。

 この魔法で作り出した剣、現代魔法モデルでいうところの光刃フォースエッジと、『霊刀「白王桜」』の実体剣マテリアルブレイドを両手にする二刀流こそが、俺の真のバトルスタイルだ。

 闇以外、全ての属性に適正のある俺は、この左手にする二刀目を自由自在に各属性に変化させることで、どんな相手にも対応できる。

 そして、この『霊刀「白王桜」』は全ての属性を大幅に強化してくれるという効果を持つ。これがあるからこそ、俺は魔法の杖を装備する必要がないのだ。

「氷封閃」

 再び迫り来る黒剣を、今度はこの氷剣でもって迎え撃つ。

 俺の我流武技に魔法の剣は反応し、その刀身にまとう凍結のオーラを増大させる。傍から見れば、この瞬間だけ剣の大きさが倍になったように映ったことだろう。

 振るった氷剣『雪月花』は、先と同じく俺の体にあたる軌道の剣を複数本まとめて弾き飛ばす。

 氷の結晶と砂鉄の塊、だがぶつかり合う音は鋼が奏でる剣戟と同じく甲高い。青白く輝く軌跡が、虚空に残る。

「そのまま、とまってろ」

 この凍てつく刃と打ち合った剣は、もう二度と振るわれることはない。

 弾いた黒剣は全て、分厚い氷に覆われ地に落ちる。この雨で地面もずぶ濡れだ、その水分もまとめて氷結させ、砂鉄の剣は完全に地面へと氷の戒めに閉じ込められた。

 斬ったものを氷で封印する、それが『氷封閃』だ。

 光刃フォースエッジを用いるのは、基本的に剣士ではなく魔術士。接近戦を強いられた時の緊急手段というのが主な使い道で、実戦じゃ使われることは少ないマイナーな攻撃魔法だといえる。

 故に、この魔法の剣である光刃フォースエッジで、武技を発動できる者は少ない。少なくとも、俺は今まで一人も見たことがない。

 教えを請える者がいない、だから、自分で編み出した。俺の原初魔法オリジナルは、この武技まで含めるのだ。

 火、水、氷、風、雷、土、そして最も得意とする光。この七つの属性の光刃フォースエッジと、それに応じた専用武技。

 全て合わせて原初魔法オリジナル、その名は『聖剣ブレイドスキル』。

 剣と魔法を併せ持つ、いや、魔法を剣術に組み込んだからこそ、俺はこのクラス名を名乗る。『魔剣士ロードナイト』と。

 スパーダに来てからは、高難度クエストじゃない限りは『聖剣ブレイドスキル』を人前で見せることもなくなったが、アヴァロンにいた頃は、まぁ、色々と人目に触れることが何度かあった。

 お陰で『白き聖剣の魔剣士ライトニング・ロードナイト』なんて、恥ずかしい二つ名が通ることになったが……どうでもいい話だ。卒業してアヴァロンに帰る頃には、みんな忘れるだろ。

 さて、そんなことよりグリードゴアである。

「コントールが利かなくなって、焦って防御に戻したか」

 黒剣の嵐は三度俺を襲わず、グリードゴアの鎧として帰っていく。しかし、剣数本分の砂鉄を失い、その装甲面積はさらに縮小している。

「そんなんで防ぎきれんのかよ――刹那一閃!」

 さっきと同じ眉間狙い。この二撃目によって岩の額に十字傷が刻まれるはずだったが、ちっ、防がれたか。

 スライムが這うように、乏しい砂鉄が高速で頭まで移動し、直撃の場所を重点的にガードしたのだ。血潮のように黒い飛沫が散るのみに留まる。

 なるほど、精密かつ高速での操作も可能ってか。なかなか優秀な固有魔法エクストラだ。

「けどな、甘いんだよ――氷翔封閃!」

 左手の『雪月花』を投擲。

 俺の手から離れた氷の魔法剣は、そのまま上級攻撃魔法『凍結氷柱アイズ・フォルティスサギタ』に匹敵する威力の遠距離攻撃となって放たれる。

 封印の冷気をまとう氷剣は、投擲武技の効果でもって矢のような速さで一直線に目標へと迫る。

 疾走する空中には大粒の雨で満ちている。進路上にある雨粒を瞬間的に凍りつかせながら、『氷翔封閃』の軌跡が白く彩られた。

 そうして、狙い違わず氷剣は砂鉄で覆われる額に命中。真っ白い冷気が爆発の華を咲かせる。

 これで最後の砂鉄は封じた。

 頭部は黒い装甲ごと氷漬けにされ、さらに散った冷気がグリードゴアに薄っすらと雪化粧を施している。黒かったり茶色かったり白かったり、忙しいやつだな。

 まぁ、最後は赤に染まって、終わりだ。

 砂鉄の防御が固まっている頭以外は、俺の『霊刀「白王桜」』から繰り出す渾身の武技なら、どこでも切り裂ける。手間はかかって面倒なのだが、とりあえず、グリードゴアはこれで詰みだ。

「孤閃」

 放った武技は『刹那一閃』と同じように遠距離攻撃用の技。一拍の溜めを要する予備動作があるため、コンマ一秒を争う速攻向きじゃない。

 だが、隙を補って余りある威力をこの『孤閃』は発揮してくれる。

 刀身より放たれる斬撃の光は『刹那一閃』よりも遥かに巨大、かつ、眩しく輝く。虚空を断ち切るような一筋の閃光は、ガードを固めた頭部ではなく首元に襲いかかった。

 苦悶の鳴き声をそのデカい口から漏らしたようだったが、岩の甲殻が白い光にガリガリと削り飛ばされる破砕音にかき消される。

 激しい光の明滅はすぐに納まり、後には首筋に刻み込まれた亀裂だけが残る。

 まだ出血を強いるには至らないか。けど、お前はあと何発この技に耐えられる?

 俺はついにグリードゴアの目の前にまで間合いを踏み込んだ。この近距離で『孤閃』を叩き込めば、今度こそ甲殻はぶっ飛ぶぜ。

 すでに刀を振りかぶり、発動に必要な溜めは今、完了した。

「これで終わ――」

「――クロノくん!」

 その一瞬、何が起こったのか分からなかった。意味不明。

 ネル、どうしてお前が、そこにいる?

 俺はグリードゴアの真正面、ネルは今、その巨躯のすぐ後ろ、いや、もう足元まで駆け寄ってきている。

 ありえない。ネルのクラスは治癒術士プリースト、立ち位置は常にパーティの最後尾。だから、まかり間違っても敵のすぐ傍まで出てくるなんて行動はありえない。

 どうしてだネル、お前は確かに戦いに向かない優しい性格だが、それでも戦いのイロハってのは十分すぎるほど理解していただろう。今までの冒険者生活が、それを証明してくれている。

 お前は戦いの中で我を見失わない冷静さを、持っていたはずだろう。

 それがどうして、治癒術士プリーストが最前線に飛び出すなんて愚かな真似を――

「クロノくーんっ!」

 いや違う、本当に信じられないのは、ネルがその男の名前を口にしていることだ。

「ネル、お前……クロノに何を――」

 バチリ、と電撃の弾ける音が、呆然としかけた俺の正気を取り戻す。

「なっ――」

 全身を覆う白い薄氷を吹き飛ばしながら、グリードゴアは首をもたげる。大口を開けて、胸元が大きく膨らむ深呼吸。

 ブレスの予備動作。

「ネル、逃げろっ!」

 ネルはグリードゴアの股下を潜り抜け、正面へ出ようとしている。

 もう俺のすぐ目の前まで駆けてきているネルに、この叫びは届いているはず。

 だが、俺の声も、まして、背後でブレスを吐きかけようとしているグリードゴアの殺気にさえ、まるで気づいていない。

 お前の目には、俺の後ろで無様に倒れている、あの男しか見えていないのか。

「ちくしょう――『雪月花』!」

 左手に再び氷剣を呼び出すと同時に、右手の刀を鞘へ納める。

 ネルは完全に我を忘れている、俺がブレスを防ぐしかない。勿論、トチ狂った妹を止めるのも、俺の役目だ。

 俺の方など見向きもせずにすれ違おうとするネルを、刀を手放した右手で捕まえる。

「ネル、そのまま動くなっ!」

「いやっ! 離して、離してよっ! クロノくんがぁ――」

 まるで魅了チャームにかかったような狂いぶりだ。

 俺はネルの腹部を右腕一本で抱え込み、そのまま肩まで一気に担ぎ上げる。

 激しく手足をばたつかせて、必死に拘束から逃れようとするが、それでも離すわけにはいかない。

 ガリガリと爪で頬が引っかかれる。白い翼をばたつかせて、強かに俺の頭を叩く。

 それでも、離すわけには、いかねぇんだよっ!

「يمنع الجليد العملاقة الجبل――『氷山巨盾アイズ・アルガレアシルド』っ!」

 発動するのは、氷属性の上級防御魔法。

『雪月花』を地面に突き刺すと、大地が隆起するように氷の巨大盾が出現する。

 純粋な略式詠唱ショートスペルに加え、『雪月花』を利用して発動させることでさらなる時間短縮と、略式による防御効果の減少も抑える。

 二重防護デュアルシールドまでは無理だ、これが今この刹那の間に可能な、最大限の防御。

 完了と同時に、グリードゴアの口腔からついにブレスが放たれる。

 俺に見えたのは、透明な氷の盾越しに迫り来る、眩い紫色の閃光だけ――

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[一言] ネロって加護なしでランク5以上のモンスターと戦えるってエグい強さだよね
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