第319話 白翼のプロローグ
クロノくんには、私がついていないとダメなんだと知りました。
クロノくんは強くて、かっこよくて、優しくて、素晴らしい男性だという事は知っています。
学校では皆、クロノくんのことを悪く言いますけど、本当の彼を私は知っています。私だけが知っています。いいんです、他の人が知らなくても、いっそ知らないままでいい。
でも、クロノくんはダメなんです、だって――
「すまないネル、かなりの重傷だ」
凄く、無茶をするんです。
ダメです、止めてください、危ないです、ハイドラの魔眼なんて恐ろしい相手と戦わないで下さい。
だから、ほら、私が止められなかったから、クロノくんの右腕が――私は恐ろしい、もし次も同じような事になったらと。
私の見えないところで、私の手の届かないところで、またクロノくんが無茶をしたら、今度こそ……
不安で、ただ不安で、治してみせた彼の右腕から、私は手を、腕を、体を離せなかった。
とっくに治療は終わってるのに、まだ治療中だと嘘までついて。
耐えられない、私はこの不安に、恐怖に、クロノくんが一人で危険な戦いに身を投じることに。
彼は決して戦うことを止めない。冒険者だからではありません。
「俺には、どうしても殺さなきゃいけないヤツらがいるんだ」
私には話してくれなかったけれど、そこには確かな、絶対に譲れない理由がある。
それはきっと、私が言って、いいえ、他の誰が言っても、決して翻すことのない決意。
だから、私も一つの決意をした。
クロノくんが無茶をし続けるなら、私が助けてあげるのだ。
「……クロノくん」
大闘技場の医務室、二人きり、ベッドの上で身を寄せ合って座っている。
言うなら、今しかない。
「あの、私――」
クロノくんの、パートナーになります。
パーティメンバーではなく、パートナー、二人コンビの冒険者は、互いをそう呼びます。
『エレメントマスター』というパーティを組んでいるようですが、クロノくんを見捨てて勝手に別行動しているようなパーティメンバーなんて、たかが知れます。
どうせ臨時パーティ程度の信頼関係なのでしょう。
だから、私がパートナーになるんです。
ウイングロードは辞めます。
何の未練もありません。あそこは私の居場所じゃない、これまではただ、‘居させてもらっていた’だけです。
お兄様に保護されて、シャルに心配されて、カイさんとサフィさんに気遣われる。
だからもう、いいんです。
私は、本当に私を必要としてくれる人の為に、これから戦います。
クロノくんの為に、尽くします。
私が、クロノくんの、一番です。