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黒の魔王  作者: 菱影代理
第16章:天使と悪魔
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第270話 腕力強化(フォルス・ブースト)

 それから二日後の白金の月13日、ついにリリィとフィオナの旅立ちの時がきた。

「やだぁああーーいぎだぐないぃいいいーーー!!」

「ではクロノさん、いってきます」

「お、おい、めっちゃリリィが泣き叫んでるんだけど……」

「いってきます」

「……いってらっしゃい」

 そうして、親元からムリヤリ幼子を連れてゆく奴隷商人のように容赦の無い態度で、手足と羽をバタつかせて絶叫するリリィを抱えたフィオナは愛馬のマリーを繰り去っていった。

 去り際の「クロノぉおおおおお!!」と俺の名を呼ぶ悲痛なリリィの声が、その日は一日中脳裏にリフレインされた。




 その翌日、白金の月14日には、シモンとウィルが野外演習へと出立した。

「ふぁーはっはっはっは! この『撃ち滅ぼす黒鉄バスターライフル』という新たな力を手にした我が、神話を再現するが如きの大戦果をもたらしてくれよう。さぁいざ行かん、イスキアの地へ!」

「じゃあ、いってくるよお兄さん」

 と、こちらは特に問題無く、あっさりとした別れを済ませ、二人を見送った。

 いや、正確にはウィルの後ろを影のようにつき従うメイドさんも含めれば、三人である。

 野外演習も護衛メイド付きとは、流石は王族だ。




 そしてさらに翌日、白金の月15日、ついに俺は一人になった。

 13日の夜からして、いつも一緒に寝ているリリィがいなくなったことで相当寂しかったが、この日の朝に、無人のラウンジで一人黙々と朝食をとった時、凄まじい孤独感が俺を襲った。

「こ、これはホントに寂しいな……」

 何を言っても独り言。可愛く頷いてくれる妖精もいないし、ちょっとズレた返しをする魔女もいない。勿論、真っ当なツッコミをしてくれる錬金術師も、もういない。

「……いってきます」

 諸々の準備を整えた俺は、呟くような言葉を残して寮の玄関を去った。

 一人になっても授業はある、ちゃんと出席しなければ。




 本日は、珍しく朝から夕方まで授業があった。

 燦々と降り注ぐ陽の光の下で、ベンチに座って一人黙々とサンドイッチを食べた昼休み以外は、授業に集中できて大いに寂しさが紛れたのは僥倖と言える。

 さて、全ての授業が終わったからといって、今日のお勤め終了ではない。

 リリィ達はここを離れてみんな頑張っているのだ、俺だけのんびりとしているわけにはいかないだろう。

 差当たり、俺はイマイチ目立つ威力を発揮しない最初の加護である黒色魔力の炎をより有効活用する方法の模索にあてる。

 今のところ、この炎で一番期待しているのが、

腕力強化フォルス・ブースト!」

 この炎の原色魔力を利用しているという、筋力上昇の支援系魔法『腕力強化フォルス・ブースト』の習得を目指しているのだが、どうにも上手くいかない。

 元になる魔力が黒色魔力ではあるし、現代魔法モデルの術式をそのまま模倣しているワケでもないので、正確には『腕力強化フォルス・ブースト』とは別な、腕力を上昇させる黒魔法となるのだが、まぁ、とりあえずそのまま呼んでいるのだ。

「ちくしょう、何がダメなんだよ……」

 グリードゴア討伐に行く前と、帰ってきてからのここ数日は、この寮の裏にある人気の無い寂しい林で一人「腕力強化フォルス・ブースト!」と叫んでは不発に終わる虚しい練習を続けている。

 フィオナに教えられながら、


「クロノさん、もっとこう、ブォワーっと、燃え上がれーっという感じですね――」


 お、教えられながら……うん、まぁ、一応の理論は頭に入っているつもりだ。本当に‘つもり’だが。

 なんにせよ、理解と実践ではまた別の問題があるのは確かなようだ。

 俺の体内では黒色魔力を加護で属性変化させた黒い炎が渦巻いている。だが、それで体に熱が帯びるのを感じるだけで、筋力が上昇するあの感覚にまで届かない。

 これまでのクエスト経験で何度もフィオナから『腕力強化フォルス・ブースト』はかけてもらっているので、発動した際の感覚はしっかり覚えている。

 だからこそ、それに至っていないとはっきり分かってしまうのだ。

「くそ、俺じゃあ現代魔法モデルを全く使えないってのか」

 俺がこれまで現代魔法モデルの習得が不可能と思われた最大の理由は、それぞれの属性を操る原色魔力が全くない事だ。

 だが、加護のお陰で炎を操れるようになった、あくまで黒色魔力を転化させた擬似属性とはいえ、理論的には炎を用いた魔法と同じ効果を発揮するのに問題はないはずである。

 あまり効率的ではないが、一応は爆発する炎の塊を撃ち出すことはすぐに出来たわけだし。

 それでも、一向に成功の兆しが見えないという事は、

「俺、やっぱり才能ないのかな……」

 いや、ダメだ、ちょっと上手くいかないくらいでネガティブになってんじゃねぇよ、情け無い。

 落ち着け、まだ焦るような時間じゃない。

 リリィが情報屋から仕入れたネタによると、十字軍はまだ特別目立った動きは無いという。向こうもスパーダという強国を相手にしっかり準備を整えているのだろう。

 どちらにせよ、まだ時間的余裕がありそうなのは幸運である。加護の試練は勿論、こうした魔法の練習も含めて、やらなければならないことはいくらでもあるのだから。

 焦らずじっくり、出来ることからやっていこう、諦めるなんて論外だ。

 そしてなにより、

「リリィとフィオナに負けてられないだろ! うぉおおお『腕力強化フォルス・ブースト』っ!!」

 そんな調子で完全に陽が沈むまで続けたが、結局、一度として発動に成功はしなかった。




 白金の月17日。

 今日は一つしか出席する授業が無かったので、ほとんど一日を『腕力強化フォルス・ブースト』の練習に費やした。

 昼休み、気分転換に外食しにいったら、隣の席で人間の男と猫獣人の女のカップルが激しくイチャついていた。

 大人しく寮で昼食をとればよかったと心底後悔した。

 勿論、『腕力強化フォルス・ブースト』は発動しない。

 体の中に巻き起こる熱の温度が高くなっているように感じられた以外に、変化は無い。




 白金の月18日。

 スパーダの歴史の授業中、隣のグループが私語で注意されるという如何にも学生らしい出来事があった。

 そういえば、この学校にきてからウィル以外に友達が一人も出来ていない事に、俺は改めて気づかされた。

 『腕力強化フォルス・ブースト』はどんどん熱くなってきている以外、変化は無い。

 これ、自爆したりしないよな?

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