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黒の魔王  作者: 菱影代理
第15章:スパーダの学生
252/1046

第251話 黒魔法使いVS侍

 クロノ、と名乗った黒い甲冑姿の青年が、己の影より長大な鉈を取り出し構えた瞬間、ルドラの背筋に悪寒が走る――

(素晴らしい、よもやこれほどの使い手と見えることが出来るとは)

 と同時に、歓喜の念を覚えた。

 クロノが手にする鉈は、漆黒の刀身に禍々しい真紅のラインが血管のように光っており、武器全体には常に赤黒い不気味なオーラが立ち上っている。

 攫ってきた村娘でもこれを見れば「呪いの武器だ」と言うだろう。

 誰が見ても一目で「呪われている」と悟らせるほどの強烈な怨念を秘めている、それはすなわち、数ある呪いの武器の中でもかなり上位にあたることの証左に他ならない。

(それも、完全に呪いを御している)

 クロノは静かに大鉈を構えたまま、理性の光を宿す黒と赤の双眸を真っ直ぐこちらへ向けている。

 呪いの武器を手に狂った者を相手にした経験が過去何度かあるルドラだが、正気のまま呪いの武器を扱う者は初めてであった。

 それも、あれほど強力な呪いの武器を。

 一体どれほどの血を刃に吸わせたのだろうか、その数は十や二十では済まないだろうことが分かる。

 なぜなら、自分もそうだったのだから。

(我が愛刀『吸血姫「朱染」』も啜った血の量では負けぬぞ)

 ルドラは笑みが浮かびそうになるのを抑えながら、

(一太刀で終わってくれるなよ)

 音も無く、抜刀。

「朱薙」

 刹那、鞘より解き放たれたのは、煌く白刃――否、真紅に染まる血の刀身であった。

「っ!?」

 クロノの顔に驚愕の色が浮かぶ。

 その反応は無理もない、互いの距離は未だ数メートルはある、ルドラが腰に佩いた刀の長さを見れば、その場で振るって届かないことは一目瞭然。

 だが、現実に刃は彼我の距離をゼロにし、クロノの体へ届かんばかりに伸びていく。

(啜った血を刃に変え、間合いを無にするこの一刀、さぁクロノ、どう受ける!)

 速さに自信がある者は避ける、硬さに自信があるなら防ぐ、力量が足りない者は例外なく上下に胴が別たれることとなる。

 果たして、クロノの対応は、

「赤凪」

 鉈より振るわれる刃の色は、同じ赤。

 そして、同じ響きの名を持つ武技は、またしても同じように啜った血で構築された刃でもって迎え撃たれる。

 交差する真紅の剣閃。

 元が血で出来ているとは思えない金属質な音を響かせると、互いに赤い霞となって夜の闇に消え去った。

「まさか、同じ技を使うヤツがいるとは」

(驚いた理由はそこか、ふっ、面白い、この男は――)

 心底感心したような声をあげるクロノを見たルドラは、己の期待通り、いや、それ以上であることを確信し、

(本気で斬り甲斐がある!)

 ここ何年かは高ランクモンスター相手にしか尽くすことの無かった全力を、この呪いの武器使いの青年に出そうと決めた。

 それはすなわち、真の姿を相手に晒すという意味でもある。

「クロノよ、勘違いせぬよう先に言っておこう」

 瞬間、ルドラの感覚は爆発的に膨れ上がっていく。

 数メートル先までしか見えていなかった視界は、陽の光輝く真昼の如き明るさをもって周囲の景色を映し出す。

 血の刃が砕けるほどの音しか拾わなかった耳は、今や相対するクロノの鼓動すら感じ取ろうかというほど鋭敏に。

 草木と土の幽かな匂いをかぎ分ける嗅覚、空気の流れをありありと感じられるほどの触覚、そして、殺気、魔力、目で見えない様々な気配を感じ取る第六感。

 世界そのものが広がっていくほどの感覚、だが、クロノから見ればそんな内側の変化よりも、外に現れる変化しか感じることは出来ない。

 青い瞳の眼球は充血し白目が赤に染まり、歯の一部は獣人が持つような牙へと変形していく。

 多様な種族が存在するパンドラにおいて、ルドラの変化など人間とそう変わらない僅かなものであるが、だからこそ、人間にとってその些細な違いも際立つ。

 真の姿、つまり、種族本来の姿をとったルドラを目にしたクロノは、それが何者であるのかを即座に悟っただろう。

「私のクラスはあくまで剣士、いや、刀を使う以上は『サムライ』と言うべきかな。故に、私の攻撃は全てこの刀一つ、魔法を使うことは無い――」

 なぜ、わざわざそんなことを言うのか。

 それは例えば、魔法に長けたエルフが剣のみで戦う、という宣言に近い。

 ルドラの種族は、エルフに並ぶほど魔力に優れるというのが広く知られているということである。

「――つまり、吸血鬼ヴァンパイアの魔力を全て、武技に使うということだ」




吸血鬼ヴァンパイアか……」

 これまで色んな種族を目にしてきたが、ヴァンパイアを見るのは初めてだ。

 充血した赤い眼球に、口から覗く二本の牙、なるほど、言われて見ればそうとしか思えない姿である。

 だが、そんなことより気にするべきなのは、ヴァンパイアという種族がかなり強力な身体能力を持ち得ているということだ。

 あの病人のようにやつれた体でありながら、人間を優に越える腕力を誇る、しかもヴァンパイアの特性上、最も優れたステータスは魔力だ。

 エルフに迫らんばかりの高いレベルで持ちえる魔力は、一般的にヴァンパイアは魔術士クラスが多いと言われる一因、だが、それと同時に併せ持つパワーもあって、総合的に見ればエルフの魔術士よりもずっと厄介と言える。

 そんな圧倒的な能力を誇るヴァンパイアだが、これも自然の摂理なのか個体数が絶対的に少数、故に街中でもあまり多く見かけることはない。

 俺もまさか、こんなところで出会うことになるとは、ツイてないと言うべきか。

「参る」

 だが、相手がヴァンパイアだろうと俺に逃げるつもりはないし、向こうも許してはくれないだろう。

 ルドラはすでに、抜き放ったままの赤い刀身の刀を両手で構え、真っ直ぐ突っ込んできている。

「黒凪っ!」

 踏み込みが早い、あの狂ったジョートを越えるほどに。

 魔弾か魔剣で迎撃するよりも、そのまま手にする鉈を振るった方が早い、というよりも、それしか打てる手は無い。

「朱一閃」

 ルドラの刀は、呪いの鉈と同じようにオーラ、と言っても血霞のような鮮やかな赤一色だ、それを纏い、どうみても普通の武器には見えない。

 もしかすれば呪いの武器かもしれない、だとすれば、互いの武器に絶対的な性能差は無い。

 勝負を決めるのは、互いの実力のみ――


 ガキィインっ!


 と、甲高い音を響かせ黒と赤の刃は互いに火花を散らしつつ弾かれた。

「くっ」

 強い、というより重いと言うべきか。

 細身の刀身から繰り出される一撃は、バスターソード並みの大鉈の刃と拮抗するほどの威力だ。

 それでいて剣速は日本刀のイメージ通り、こちらを上回る速さと鋭さ。

 純粋な剣術勝負になれば負ける、なら俺が勝てそうなところと言えば、パワーか。

 人間の腕力を超えるヴァンパイア、だが、それは俺とて同じこと、すでにこの体は人間を止めてしまっている。

「はあっ!」

 武技を打ち合った直後だったが、互いに体勢はほとんど崩れず、そのまま近距離での斬りあいに続く。

「疾っ!」

 黒い剣閃と赤い剣閃は刹那の間にいくつもの軌跡を描き、時にぶつかり合って火花と魔力を散らす。

 体感的には永遠にも思えるほどだが、実際に時間は十秒も経ってないだろう、攻防の最中で即座に感じたのは、やはり剣だけでは勝てない、ということだ。

 俺の繰り出す斬撃、回避されるのはまだいい、だが確実に相手の体を捉えた時、必ず刀でもって滑る様に受け流される。

 この術理を押し切れるほどのパワーが俺には無いのだ。

 恐らく、純粋な腕力では僅差で俺の方が上、だが、その些細な差などあっさり凌駕する剣術の腕前がルドラにはあるのだ。

 そしてなにより、俺の体にはもう何度も際どいところを刃がかすめていっている。

 もしいつものように見習いローブだったら致命傷とまではいかずとも、それなりに出血を強いられただろう、グリードゴア対策で全身鎧を装備しておいたお陰で、どうにかまだ無傷でいられるのだ。

 流石、ヴァンパイアでありながら剣一筋というだけある、このまま斬り合いを続ければ鎧を断ち切るほどの一撃を喰らうのも、そう遠い未来の話じゃないだろう。

 けど、これは剣術の試合じゃない、勝負は剣の腕だけでは決まらない。

影触手アンカーハンド

 両手で柄を握りながらも、俺の手を包み込むもう一つの呪われた武器、いや、防具と呼ぶ「メイドですぅー!」メイドと呼ぶべき『黒髪呪縛「棺」』、その手の甲の部分から黒髪の如き細さのワイヤーを作り出し、ルドラへ絡ませるように操作する。

 この高速の攻防の中では、強力な装備メイドであるグローブの効果を使わなければ、鉈を振るうのと同時に魔法を行使するだけの思考と集中を割く事はできなかっただろう。

「むっ!?」

 ルドラの反応は早かった、それが純粋な反射神経によるものか、それとも第六感によるものか、あるいは両方か、黒髪の呪いが襲い掛かるより前に、一歩飛び退いて間合いを脱する。

 しかも逃げただけでは終わらない、俺の次なる行動を防ぐべく、ルドラは刀を横に振りかぶり、

「朱薙」

 間合いの外から一刀両断するべく武技を繰り出した。

黒盾シールド

 だが、すでにして俺の身を守る盾の材料となる黒色魔力の繊維は目の前にあり、尚且つ、武技を放つための溜めを要した僅かな時間、それだけあれば、再び鉈を振るわずとも防ぐことが出来る。

 俺の全身を覆い隠すほどの大きさ、およそ2メートル四方の黒い盾が、黒髪のワイヤーを編みこみ構築されると同時、先にも見た血の刃が届く。

 鮮血の刃が硬質な魔力繊維を切り裂いていくが、完全に両断することは叶わず半ばで止まってしまう。

 武技の発動が終わり赤い刀身が霧散するのと同じく、黒盾シールドも切断面から急速に消滅していく。

「俺も一応、自分のクラスを名乗っておいた方がいいか」

 だがこの一撃を止められただけで十分、すでに、反撃の準備は整った。

 それは、俺の姿を一時的に隠していた盾が消失したことで、ルドラにも見えたことだろう。

「俺は剣士じゃない――」

 『絶怨鉈「首断」』はすでに俺の手にはなく、その代わり、左手に『ラースプンの右腕』、右手には装填済みの『銃』。

 そして、俺の体をぐるりと囲む幾千の弾丸の帯と、背後に翼のように浮かぶ10本の黒化剣。

「――黒魔法使いだ」

 さぁヴァンパイアサムライ、俺の全弾発射フルバーストを受けてみろ。

 ルドラの中二レベルが半端無いと思いきや、我らがクロノも負けてはいません!

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― 新着の感想 ―
[一言] ルドラのフロム感
[良い点] メイドですぅー!
[気になる点] 何度か出てきましたがバスターソードではなくバスタードソードです。
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