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黒の魔王  作者: 菱影代理
第15章:スパーダの学生
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第233話 七つの大罪

 まさかあの襲われていた女性が受付嬢のエリナさんだったとは……こういうのを世の中は狭いと言うのだろうか。

 思わぬ事実であったが、顔の知っている人を助ける事ができたのだ、結果としては文句のつけようも無い。

 しかし、その割にはあんまりフィオナの反応が芳しく無かったな、喜んで話している俺にむしろ冷ややかな視線を送ってた気がする。

 これはアレか、犯人を倒したのはフィオナなんだから俺がデカい顔すんなよ的なニュアンスがあるんだろうか。

 うーん、それにしては一緒に聞いてたリリィも冷めた反応だったし、何なんだ一体……いや、まぁ冷たい反応云々は俺が気にしすぎているだけかもしれないな。

 二人にとっては人を助けるなんてことは、このモンスターの闊歩する異世界の住人としては日常茶飯事で珍しくもないのだろう、一人興奮している俺がバカなだけか。

 それはともかくとして、俺はさっきエリナ嬢に聞いたとおり、解禁された新たなモンスター情報を入手するべく、ランク3以上専用の資料室へと足を運んできた。

 と言っても、四階のワンフロアが丸々資料室として利用されており、むしろ図書室と言った方が的確なほどの蔵書量を誇っている。

 これは全てモンスターだけでなく、武器や魔法など、冒険者に関わる他の情報も含まれる、実際その分類ごとに部屋が複数に分かれている。

 なので、俺はモンスターの資料を担当し、リリィとフィオナにはその他の情報収集を任せている。

 未だこの世界の常識に疎い俺は、意味のわからない固有名詞や独特の言い回しなどがあるため本の内容を理解するのに苦労する。

 モンスター情報は生態や生息地域を知ることが出来ればそれでOKだが、単純に読解力を必要とされる資料、特に魔法に関しての書物はお手上げの場合が多い。

 そんなワケで、こういう役割分担をしているのだ。

 まぁ、エリシオン魔法学院という魔法の専門学校に通っていたフィオナにとって、そこまで目新しい魔法の書物に出会える可能性は低そうだが。

「さて、必要な事はミアが教えてくれるのかな」

 俺はモンスター情報が記された書物が本棚一杯に詰め込まれた資料室に踏み込むと、右目を閉じてから周囲を見渡した。

「……当たりだな」

 最も利用頻度が高いだろう、ギルドが編集したモンスターリストの数冊の背表紙が、赤く発光してその存在を主張している。

 左目を閉じて、右目だけで見てみると、やはり赤い発光は消え、何の変哲も無い本へと戻った。

 魔法だとしても全く構造が不明の目玉であるが、まぁ便利なので良しとしよう。

 俺は光が示すリストを備えつけのテーブルに積み上げて、最初の一冊を開きながら椅子へ腰を下ろした。

 この資料室を利用しているのは、今は俺しかいないようで実に静かだ。

 自分がページを捲る音だけが響く室内は、なんだか高校の文芸部室を思い起こさせる。

 俺はそんな感傷的な思いに耽りながらも、資料に書かれた情報を白紙の上にペンを走らせてメモをといっていく。

 その情報とはつまり、ラースプンに続く新たな試練のモンスターたちの事である。

 少なくない時間をかけ、左目が赤く示すモンスターをリストアップしていく。

「あと六体、か」

 紙に書かれたのは六つの名前。

 グリードゴア。

 スロウスギル。

 プライドジェム。

 グラトニーオクト。

 ラストローズ。

 エンヴィーレイ。

「まるで、七つの大罪だな」

「その通り、罪の名を冠する魔物こそ、魔王の加護を受けるための供物に相応しい」

 なんとなしに呟いた台詞に、思わぬ応えが返ってきた。

 振り返り見れば、前に広場で出会った時と同じ神学校の制服に身を包んだミアが、そこに立っている。

「なんて、カッコつけすぎかな」

 あはは、と言ってはにかむミア、恥かしいなら言わなきゃいいのに。

 だが、それを指摘するのは可哀想だろう。

「相変わらず、いきなりの登場だな」

「えへへ、神様っぽいでしょ?」

 そうか? と思うが、どこか誇らしげなミアを見ていると、そういうことにしといてあげようと譲歩する気になる。

 もっとも、今の段階ではもう神様というより、ただのミアちゃんという子供相手にしている感じだが。

「残りの試練は、この六体のモンスターの討伐で全部ということでいいのか?」

「うん、でも理由は言わなくても分かっているようだね」

 炎の力を持つラースプンを倒し、俺は黒色魔力を炎に変化させる能力を得た。

 そして、今調べた六体のモンスターはそれぞれ単一の属性に特化した力を持っていると記載されている。

 火、水、氷、土、雷、風、光、闇、これら八つが、魔法における属性であり、八つ全てを扱えれば真の意味でエレメントマスターを名乗れるのだ。

 俺の試練として残されている六体のモンスターには、火と闇を除いた全ての属性が揃っている。

「黒色魔力の全属性への形質変化、それが加護の力だな」

「そうだね、最低でもそれだけの力は得られるよ」

 ミアは俺の正面の席へと腰を下ろすと、一体何処から取り出したのか、大きなランチボックスを机の上へと置いた。

 これから昼食なのだろうか、俺はそんなミアの私用よりも、その意味有りげな言葉について追求する。

「最低でも、てことは、それ以上に何かがあるのか?」

「力をどう使うのかは君次第、上手に使ってよ、ということさ。

 あ、でも試練を全部達成すると、それ以上のものもあるよ!」

 だから頑張ってね、と激励すると同時に、ミアは開いたランチボックスから取り出したやけにデカいサンドイッチをパクつき始めた。

 柔らかい白パンに挟み込まれている厚切りのベーコンから食欲を刺激する肉の香りが届く、やたら美味そうに見えるから困る。

 そんなことよりも、使い方次第ってのは目的の事ではなく、どう能力の応用を利かせるか、ってところかな。

 モルジュラ討伐のクエストで、『イフリートの親指』を強化した炎の山刀マチェット『ラースプンの右腕』を通して黒炎を単純に放出するだけでも結構な火力が出ることが証明された。

 いや、普通に『ラースプンの右腕』のスペックが想像以上に高かったというのもある、ストラトス鍛冶工房は本当に良い仕事をしてくれた、これからも贔屓にしようと思う。

 さておき、これからもう少し力の扱いに慣れていけば、刀身だけ高熱化するなど利用の幅が広がってくるはず、ああ、他の形質変化も習得できるなら、組み合わせてみるのも面白いかもしれない。

 もっとも、今の段階では捕らぬ狸の皮算用に過ぎないが。

 しかし、それとは別に試練を全部達成すると得られる‘それ以上’ってのは、恐らく、

「神名を唱えて発動する加護、ってヤツか?」

 ピク、と小さな手と口が止まった。

「もう、なんで知ってるのさ?」

「なんでって、みんな神様の名前唱えて加護使ってたからな」

 リリィは『妖精女王イリス』、ヴァルカンは『孤狼ヴォルフガンド』、スーさんは『影渡ハンゾーマ』、それぞれ口にして加護の効果を発揮させていたのを、俺ははっきり目撃している。

 あれを見て分からないはずがないだろう。

「えーそっかぁ、知ってたのかー」

 やけに残念そうな表情で、食事を再開するミア。

 なんだよ、秘密にしたかったのかよ……いや、でも気づかない方がおかしいし。

「あー、でも、あれだな、なんて呪文を唱えるのか、今から楽しみだなー」

 俺は何を神様のご機嫌取りなんかしてるんだか、と思いながらも、沈んだ表情でサンドイッチを頬張るミアの姿に居た堪れなくなって、こんな台詞を口にしてしまっていた。

「え、ホント? むふふー、でもダメだよ、まだ秘密だからね!」

 だが、効果は抜群だったようだ、今度は一転してニコニコと笑顔になるミア。

 なんだか、神様というよりも、本当に見た目相応な子供にしか思えないな。

 まぁ、可愛いからいいけど。

「ところで、ミア」

 しかしながら、神様にルールがあるように、人の世にもルールというものがあるのだと、この子には教えておかねばならない注意点が一つある。

「え、なに?」

 気がつけば一つ目の巨大ベーコンサンドを消費し、次のタマゴサンドへ手を伸ばしているミアへ、俺は図書委員にでもなったような気持ちで注意した。

「資料室で飲食は禁止だぞ」

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