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黒の魔王  作者: 菱影代理
第11章:ランク1冒険者
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第165話 ゼロ・クロニクル

 初火の月の14日、空は夏らしい晴れ晴れとした青空が広がり、時折吹き抜ける風が爽やかさと涼しさを運んでくれる。

 このスパーダという都市は、改めてその街並みを眺めていると実に壮観だ。

 現代と比べても劣っているとは思えないような高い建物が整然と並び立ち、道路は石畳やタイルなどで綺麗に舗装され、魔力で光る外灯まで設置されている。

 文明レベルは中世かと思っていたが、これほど整備された都市を見れば、恐らく近現代に近いように思える。

 それでも貧民街のようなところもあるが、こうして表通りは現代のヨーロッパの街並みと比べて遜色無い美しさを誇っているのだ、やはり大したものだろう。

 きっと魔法の恩恵によって、科学オンリーの地球には存在しない建築技術や工法、システムがあるに違い無い。

 そんな夢とロマン溢れる素敵なスパーダだが、本日の目的は冒険者ギルドでのクエスト探しと、消耗した装備品・アイテムの補充と実にビジネスライクな予定だ。

 目的のギルドや道具屋といった施設は、宿から歩いて10分ほどにある広場の周辺に立地している。

 古代の遺物である巨大な黒い記念碑オベリスクが堂々と突き立つこの広場は、待ち合わせ場所としてはこれ以上ないほど分かりやすい。

 俺達『エレメントマスター』のメンバー三人は、待ち合わせしているワケではないが、とりあえず出発点として、この広場までやって来たのだった。

 イルズ村が最も賑わう祝日の中央広場と比べても尚、圧倒的な人の数が行き交っている。

 これでもスパーダの中堅広場だというのだから、中央広場まで行けばどれだけの人が賑わっているのだろうか。

 異世界に来てから、これほどの人で溢れている景色を見るのは初めてだ。

 流石に現代最強の過密都市東京と比べればまだマシなのだろうが、それでも異国情緒溢れる大きな建物の並びに、これだけの人数を前にすればどこか圧倒されてしまう。

「今更だが、スパーダは大都会だな」

「ねー」

 そんな田舎者丸出しな台詞を口にしながらリリィと一緒に、高さ10メートルはあろうかというオベリスクを見上げて感嘆の息を漏らす。

 一種のモニュメントであるオベリスクには、それなりに読みなれたアルファベット風の異世界文字では無い別な文字が刻まれており、仄かな白い光を放って存在を主張している。

 オベリスクが古代のものであることを思えば、現代の異世界文字と全く異なるこの字体こそ古代文字というやつに違い無い。

 勿論、俺に読むことなど出来ない。

「リリィは何て書いてあるか読めるか?」

「んー」

 目を皿のようにして、黒曜石のような光沢を持つ黒地によく栄える、淡く白い光の古代文字を見つめるリリィ。

 その目つきはまるで大人の意識が戻って理知的な光を宿しているように思える。

「わかんない!」

「そっか~わかんないか~」

 どうやら理知的な光云々は俺の勘違いだったようだが、頑張ったリリィへのご褒美に撫で撫でしてくれる、ふはは、可愛いヤツめ!

「クロノさん、どうやらこのオベリスクにはミア・エルロードについて書かれているみたいですよ」

 リリィを飼い猫のように愛でていると、割と真面目な内容の台詞がフィオナから飛んで来る。

 いつの間にか、その辺の屋台で購入したと思われるライチのような小さいフルーツを口にほおばっている事については、特に突っ込まない。

「そうなのか? っていうか、フィオナはこれが読めるのか?」

「はい、もちろん読めますよ」

 二つの意味で驚きだ、何とフィオナは古代語の解読までできるとは、やっぱり魔女ってのはそんじゃそこらの魔術士とは格が違う――

「だってそこに翻訳が書いてあるじゃないですか」

 俺の驚きを返せ。

 フィオナの指す先には、このオベリスクに刻まれている古代語の要約や、由来の説明文が懇切丁寧に書かれている如何にも観光客向けといった看板が立っていた。

 勿論、それは俺でも読める異世界アルファベット文字で書かれている。

「えーと、それでミアについてってのは――ああ、確かにそう書いてあるな」

 ざっと説明文に目を通してみると、このオベリスクは偉大なるエルロード帝国皇帝ミア・エルロードの栄誉を讃えてナントカカントカ、といった内容である。

 ちなみに現代に伝わっている‘魔王’の表現は無く‘皇帝陛下’という表記で統一されている。

 それはそうか、魔王というのは後世でつけられた異名で、ミア本人は皇帝を名乗っていたのだから。

「どうやら、もっと大きなものが中央広場にあるようですね」

「ソレを読めば、もう少し具体的なエピソードが読めるかもな」

 約10メートル×3メートル四方の巨大な長方形の面積を一杯に使って書かれているのは、皇帝陛下を褒め称える美辞麗句がつらつら並べたられているだけであり、皇帝本人が実際に何をしたのかといった事は全く述べられていない。

「それにしても、『歴史の始まり(ゼロ・クロニクル)』とは、随分と大げさ名前をつけるもんだな」

『歴史の始まり(ゼロ・クロニクル)』とは、スパーダだけでなくパンドラ各地に散在する皇帝ミアについて書かれた黒いオベリスクのことを指す、と書いてある。

 しかし、ミア・エルロード皇帝がパンドラ統一して、初めて人の歴史が始まったと名乗るとは随分と傲慢なものいいに思える。

 それまでの歴史を無かったこと、いや‘認めない’と言うのはやはりそういうことなのだろう。

 なんて考えるのは、ちょっと穿った見方だろうか?

「不思議なものですね、アーク大陸では‘ゼロ・クロニクル’を‘歴史の終わり’を差す全く逆の意味合いを持つ言葉です」

「そうなのか――」

 と、ぼんやり考えるものの、ふとした疑問が頭をよぎる。

「そういえば、パンドラもアークも、現代魔法モデルの系統って全く同じだよな」

 それだけじゃない、みんな当たり前のように同じ言語を話し、同じ文字を使用している。

 考えてれば、それはとてもおかしなことじゃないか?

 だってアーク大陸の連中はつい最近になってパンドラ大陸へやってきたのだ、そこに文化交流など無い。

 まさか別々の地域でたまたま同じ文化が形成された、というのは、あまりに無理な解釈だろう。

「それはそうですよ、今の文化は古代文明を元にしてあるのですから。

 古代にはパンドラもアークも同じ文化圏だったようです、私たちの言語が普通に通じることがその証明になります、多少の差異はあるようですけれど」

 さらに言うなら、実際にアークとパンドラの遺跡系ダンジョンを比較してみれば、一目瞭然であるとフィオナは続けた。

「私はパンドラの遺跡系ダンジョンはメディア遺跡しか入ったことがありませんけど、恐らく他の遺跡も同じ古代文明のモノでしょう」

「そうか……」

 納得すると同時に、様々な疑問が新たに沸いてくる。

 そもそも古代文明ってなんだ? 何千年も前の文明が、そこまで現代にまで影響を及ぼすというのか?

 だが、その知的好奇心は一旦脇においておくとしよう。

「あまり悠長に観光してる場合じゃないんだよな」

 そうだ、今の俺達は1日でも早い冒険者生活の復帰を目指して活動しているのだ。

「そうですね」

「おー!」

 と、二人は俺の意を汲んで元気の良い返事をくれるが、気づけばリリィまでライチ的南国風フルーツを美味しくいただいている姿を見ると、全く説得力に欠ける。

「ずるいぞ二人とも……俺も買ってくる」

 芳しいフルーティな香りの誘惑に負けた俺は、コレを食べ終わったら本気で行動を開始することを堅く心に誓った。

 果たして、三歩歩けば決意を翻す俺にとって、固い決心など如何ほどの意味があるのか、甚だ疑問であるが……


 クロノはスパーダ観光にうつつをぬかしている。

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