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黒の魔王  作者: 菱影代理
第9章:初火の月6日
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第120話 再攻撃

 初火の月6日。

 目覚めたのは夜中、砲撃は早朝から始まり日が暮れる頃には撃ち終えるので、この時間帯は火の玉が降り注ぐことは無い。

 ギルドの屋上で、現代日本では見られない満天の星空を眺めながら、俺は夜明けを待つ。

 昨日が何も無かった為、向こうが仕掛けてくるなら今日だろう、そう予想していた為、日の出と共に現れた十字軍の大集団を見ても、ついに来たか、としか思わなかった。

「全員戦闘配置につけ、敵は今日こそ一歩も退かず、本気でここを落としにかかってくるぞ」

 命令を伝えるため屋上から走り去ってゆく冒険者の慌しい気配を感じながら、朝日に照らされて浮かび上がる、十字軍の白い長蛇の列を眺めた。

 鋭い穂先の長槍を構える歩兵、煌く魔石が埋め込まれた長杖を抱く魔術士、白銀の甲冑に身を包む重騎士、朝日を背に悠然と飛行する天馬騎士、彼らは全員、あの象徴的に翻る十字の旗をこの地へ突き立てんが為に、真っ直ぐ迫ってくる。

 恐らく、今日はこれまでにないほど血が流れる、一つでも下手を打てば全滅になるかもしれない。それほどのプレッシャーを、彼方から迫り来る白い軍団から感じる。

 だが退かない、退くわけにはいかない。そうさ、俺は一人でも多くの人を助けるために、一人でも多くの悪魔を殺すために、この場にいるのだから。

「――行くぞ」




 アルザス村へ続く西北街道を、4日前と同じように意気揚々とノールズは進む。

「おい、上流の様子はどうだ?」

「はっ! 敵魔術士の姿は見えません、また、何らかの工作の跡も見つかりませんでした」

 ついさきほど戻った斥候部隊からの報告を、満足そうにノールズは聞いた。

 最初の攻撃では、橋を落とされ水攻めという罠にまんまと引っかかったのだ、また上流から鉄砲水を流されては堪らない。

 ただ、多くの兵を一挙に葬ることの出来る水攻めは、当然あの日から警戒はしており、今の報告も念には念を入れた、という程度の意味しかない。

 本日は晴天、突然の大雨で川が氾濫という心配をする必要がないほど晴れ渡っている。

 そんな爽やかな青空に向かって、そこだけ未だ夜が去っていないかのように、黒々と聳えて建っている黒のブラックボックスは、徹底抗戦する魔族の意思を象徴しているように見える。

 下級攻撃魔法程度の威力とはいえ、4日間におよぶ砲撃にほぼ無傷で耐え切った高い防御力を発揮したのを、ここで知らない者はいない。

 だが、ノールズを始め、十字軍兵士は誰もが思う、その忌々しき黒の館(ブラックボックスは、確実に今日をもってこの地上から消滅するのだと。

「敵には策など無く、渡河の準備も整った」

 目の前に開けるローヌ川の川岸には、重騎士部隊と魔術士部隊が展開している。

 前回の戦いにおいて、対岸に展開させた魔術士が敵の精密な遠距離攻撃によって頭部を撃ち抜かれて即死させられる被害が多かった。

 今はそれを警戒して、上手く防御魔法で安全地帯を確保しながら、迅速にローヌ川へと部隊を進ませた。

「これで、我々の全力を発揮できる」

 橋が落ちてしまった以上、どちらも渡河させることのできなかった部隊だが、今はイカダが川面に浮かび、彼らを確実に対岸まで送り込むことを可能としている。

 イカダは急ごしらえの見栄えが良いものでは無いが、少なくともこのローヌ川を横断するくらいは問題なくこなせる最低限の性能を持っている。

「今こそ、あの邪悪な魔族共に、目にものを見せてくれるっ!!」

 響き渡る突撃の号令。

 ここに再び、十字軍と冒険者同盟の死闘が幕を開けた。




 眼前に広がる十字軍は、思った通り渡河準備を整え、満を持してやって来たようだ。

「分かっちゃいたが、とんでもねぇな……」

 そう、こうなることは予想していたさ。

 だがしかし、川に浮かぶイカダは、対岸まで埋めるつもりなんじゃないかと思うほどの数。

 そしてそれに乗り込むのは、初日に見た以来の重騎士部隊と、今日までチクチクと砲撃くれやがった魔術士部隊だ。

 どちらも橋が無い状態で渡河させるには無理な部隊、しかしイカダという足が完成すれば、こちらへ渡ることが出来る。

 希望的観測でいえば、最初の橋爆破トラップで全滅させたのが相手の保有する全ての重騎士部隊であって欲しかったが、当然のように期待は外れた。

 見た限りでは、あの規模の重騎士部隊をまだ2つか3つほどはありそうだ。

「どうするの? あれ相手じゃ弓と下級魔法程度じゃ止めきれないわよ」

 イリーナの言う通り、あの鎧は見た目以上の防御力があるだろうし、魔術士部隊とくれば、広範囲の防御魔法を幾重にも展開されれば、かなり接近しなければ攻撃を加えられない。

 これまでは、魔術士部隊が対岸よりこちらへ近づけなかった為、川の向こう側半分ほどまでしか防御魔法で突撃する歩兵を守ることができなかったが、イカダに乗ってくれば、この防壁まで魔法の効果範囲に治めることができる。

 流石に何重にもシールドで固められたまま前進されると、十字砲火でどれだけ止められるかどうか分からない。

 逆に言えば、重騎士部隊と魔術士部隊さえどうにかできれば、何とかなるということだ。

 流石に騎兵はイカダ程度じゃ部隊全てを輸送するのは不可能だし、天馬騎士部隊はリリィが一人で抑えてくれる、30分という時間制限付だが。

「とりあえず、向こうが重騎士と魔術士を前面に押し出して来るようだし――」

 俺はギルドの屋上へちらりと視線をやる。

 この防壁前からではその姿は見えない、だがそこに確かに彼女はいる。

「――最初に倒せるだけ倒させてもらおうか」

 今日もギルドの一室で頑張るリリィによってもたらされるテレパシーの通信ネットワークを通して、俺は本日最初の攻撃命令を下した。

「フィオナ」

「はい、なんですかクロノさん?」

「一番強いのを頼む」

 一拍おいてから、返事が返って来る。

「了解しました、みなさん、ヤケドしないよう気をつけて下さいね」


 ちょうど120話とキリのよいスタートですね。今回は新章突入で話も短いので二話連続更新です。

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