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黒の魔王  作者: 菱影代理
第8章:アルザス防衛戦
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第116話 砲撃(2)

「一旦ギルドに避難しろ! 急げ!」

 防壁前へとギルドから降り立った俺は声を張り上げ避難命令を発する。

 ここにいるのはただの村人ではなく冒険者、この降り注ぐ火の玉攻撃のただ中にあっても皆冷静に指示に従い動く。

「おーい、何だよこの火の雨はよぉ、参るぜ全く」

 ヴァルカンが大剣を傘のように頭上に掲げながら、酷く面倒くさそうな面持ちでやって来る。

 何発目かの火の玉がヴァルカンのすぐ近くに落下するが、吹き上がった炎は瞬く間に大剣に吸い込まれ消え去る。

 『悪食』能力すげーな、あんなの持ってたらそりゃあヴァルカンの余裕ぶりにも納得だ。

「ヤツら遠くからチマチマ撃ってきやがる、パーっと行って蹴散らしてくっか?」

「いや、出来れば突撃は避けたい」

「じゃーどうすんだ? このまま黙って撃たれっ放しかよ?」

 火の玉攻撃は徐々に勢いを増してくる。

 一発一発は着弾点の半径数メートルほどに炎をばら撒く効果を持っているが、爆発力はそれ程でもない。

 果たして、この遠距離攻撃魔法はこれで最大威力なのだろうか、それとも威力を抑えて撃っているのか。

 もしもTNT火薬10キロトン級の爆発力を持つ攻撃魔法で絨毯爆撃を喰らえば、ここはひとたまりも無い。

 いや、向こうは昨日の一戦で撤退した以上こちらの防衛線を見た目通りのものだとは思っていないはず、だとすれば、二度目の攻撃となる今回は戦力の出し惜しみをする理由は無い。

「このまま撃たせておくしかないな、これは俺達が飛び出してくるのを誘っているんだ」

「はぁ?」

「ヴァルカンはすぐ俺に突撃しないかと言った、ってことは誰もがそう考えるってことだ」

「そりゃそうだろ、こんな舐めたことされて黙ってるヤツはただの腰抜けだろうが」

「そうだ、ヤツラは俺達が出てくることを見越して兵を連れてきたんだ、あれはこの砲撃をする魔術士部隊の護衛じゃない。

 きっと川の向こう側には昨日の仕返しとばかりに俺たちがやって来るのを手ぐすね引いて待っているに違い無い」

 こちらが川を渡って突撃を敢行すれば、今度は俺たちが渡河中を狙い撃ちされることだろう、それに相手は射手の数も魔術士の数も大量に揃っている、機関銃など無くとも100人程度は簡単に迎撃できる。

「……じゃあ何か、大人しくギルドに引きこもってるしかねえってのか」

「ああ、偵察くらいは出すべきだろうけど、基本的にはそうなるな」

 発射地点から見て、かなり川に近い場所に潜んで撃ってきている、上手くいけば奇襲で魔術士部隊を片付けることができるかもしれない、多少リスキーではあるが。

「いいのかよ、敵が昨日みてぇに突っ込んでくるかもしれねぇぞ」

「見ろ、火の玉は河原の方にもかなりの数が落ちてる、正確な狙いがつけられないんだ。

 ヤツラが突撃してくるとしたら、この砲撃が止んでからだろう」

 そうじゃないと、かなりの数の歩兵が味方の攻撃で吹き飛ぶことになる、流石にそんな事態は十字軍も避けるだろう。

「歩兵が突っ込んでくるだけなら、俺とモっさんが出ればすぐに足止めは出来る」

「ちっ、仕方ねぇな」

 渋々と言った表情のヴァルカンと共に、俺もギルドへと退避することにした。




 ギルドに戻った俺をリリィが出迎えてくれる。

「クロノ! だいじょーぶ!?」

「ん、起きたのかリリィ、俺は大丈夫だ」

 火の玉攻撃の音で目が覚めたのだろうか、少なくとも俺が起きた夜中にはぐっすり眠っていた、何故か同じベッドで。

 兎も角、この様子を見ると疲労は十分回復したようでなにより、リリィは天馬騎士が来なくともテレパシーの通信や治癒魔法など、やれる仕事はいくらでもある。

「フィオナはどこにいる?」

 とりあえず今すぐに用があるのはリリィではなくフィオナだ。

「あっちでご飯食べてるよ」

 リリィの小さな指先が指し示す方向には、ついさっき屋上で俺が食べていたのと同じパンが山と盛られた皿に挑む魔女の姿があった。

 敵の砲撃に気づいてないわけではあるまいに、呑気に食事とは本当にマイペースだよなこの人は。

「フィオナ」

「おやクロノさん、おはようございます」

 金色の瞳をちらりとこちらに向けるが、その口はもしゃもしゃとパンにかぶりついて頬をいっぱいにしている、ハムスターかよ。

「おう、おはようさん。

 優雅に朝食ってことは、連中の攻撃は大したことないと思っていいってことか?」

「ん、そうですね――ごくごくっ」

 応える前に、コップというよりジョッキというべき大きなグラスに並々と注がれたミルクを飲むフィオナ。

 このタイミングで「フィオナってレズなのか?」と聞いたら俺のように華麗に噴出してくれるのだろうか。

 何だか後が怖そうだから言わないけど。

「ぷはっ――アレの威力は『火矢イグニス・サギタ』と同程度、『遠投カタパルト』術式を組み込んだだけの単純な砲撃です。

 クロノさんが私の下へ来た時点で、心配はいらないですね」

「突撃はしなくて正解だったってことか」

「はい、こちらが単純な思考の‘魔族’と考えて、ちょっとつついて炙り出そうという作戦でしょう。

 それで出てこなかったとしても、ギルドに火が点いて炎上すれば儲け、といったところでしょうか」

「なるほど、俺の予測は凡そ当たりってことか」

 ギルドにいる限り騒音を伴ういやがらせ程度の効果しかない砲撃だが、下手に外へ出れば火傷じゃ済まないダメージを負う危険性はある、止められるなら止めたいものだ。

「何か対処法はあるか?」

「こちらも撃ち返せば良いのではないですか?」

「それが出来る魔術士がウチに何人いるよ……」

「そうですね、いくら単純な魔法と言っても、複数の魔術士が組んで発動する複合魔法ユニオンですから、こちらがまとまった砲撃が出来るとは思えませんね」

 複合魔法ユニオンを行使するってことは、チームとして訓練を積んだ者しかできないはず。

 ウチの魔術士クラスの冒険者だって個々の技量はそれなりだが、その基本は個人プレイ、ただ集っただけで強いチームが組めるとは限らない、まして複合魔法ユニオンなんて一朝一夕で習得できるもんじゃないだろう。

「大砲でもあればいいんだけどな」

 それは望みすぎか、流石に天才錬金術師のシモンでも今すぐ大砲を造るのは無理だろう、そもそも材料も設備も無い。

「リリィさんだけ突撃させて空から襲うというのは?」

「その30分後に天馬騎士部隊が来たら、恐らくここは落ちるだろう」

「ですね」

 一人で天馬騎士部隊を相手できる脅威の戦闘能力を誇る少女リリィだが、その真の力を発揮するのは30分という時間制限付き、無闇に前線に出すわけにはいかない。

 というより、天馬騎士に対する有効な航空戦力がリリィ以外に無いため、天馬騎士部隊が現れるまで出撃させることは出来ないのだ。

「っていうかリリィを便利な駒扱いするなよ」

「クロノさんが頼めば喜んで突撃していきそうですけど」

「ちょっとリアルに想像できるからそういうこと言うのやめような」

 俺の頭の中に神風と書かれた鉢巻を巻いて出撃してゆく幼女リリィの姿が浮かんだ。

 あまりに素直なリリィのこと、頼めば本当に疑う事無くやってしまいそうで恐ろしい。

「とりあえず、敵が突っ込んでこないかの監視と、防壁とか施設が破損した場合の補修、後は、敵の魔術士部隊が潜んでいる場所が正確に判れば、奇襲をかけてみるのも手か」

 機動力が高いメンバーのみで行ってくれば、出来ない事も無さそうな気がする。

 しかし、ああして森の中に潜んでいるのは、昨日の戦いで対岸に展開した魔術士達がシモンの狙撃で脳天ぶっ飛ばされまくったから警戒しているのもあるんだろう。

「奇襲は危険性が高すぎるのではないですか?」

「俺もあまりやりたくは無いが、冒険者達に不満が溜まれば決行も止む無しかな、と」

「なるほど、部屋の中でじっとしているのが苦手そうな方ばかりですからね」

「まぁ、明日か明後日になれば敵もまた突撃してくるだろうから、そんな心配はあまりないけどな」

「何故、今日突撃しないと言えるのですか?」

「昨日あれだけ川に阻まれたんだ、次に来る時は橋か船か、最悪イカダくらいは用意してくるだろう」

「……なるほど、確かにその可能性は十分ありますね」

「ただの歩兵だけで来るってんなら、昨日と同じように迎撃すれば済むだけの話だ。

 ただ、渡河する手段を用意されれば次の戦いは厳しいものになる、魔術士や重騎士も渡ってくることになるだろうからな」

 一度目は敵が勢いで突撃してくれたから、首尾よく撃退できた。

 次こそ、敵も油断無く攻めてくる本当の戦いとなるだろう。

「結局、今すぐ出来ることは限られてしまいますね」

「そうだな、敵が来るまで大人しく待ってるとしようか」


 なんだかフィオナが軍師ポジションみたいな感じですが気のせいです。あくまで十字軍の戦力・戦術を知っているので、クロノが確認程度に聞いている、といったところですね。

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