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黒の魔王  作者: 菱影代理
第8章:アルザス防衛戦
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第107話 戦士の役目

「あかん!? 銃身が全部焼きついてもうたわ! しばらく冷やさんと撃てへん!!」

 というような旨の伝令を受け、クロノはついにこの時が来たか、と高まる不安を表情にまで出ないよう押し殺す。

 最初から十字砲火を続けるのは無理なことは分かっていた、そして、ソレが途切れれば圧倒的な数で押し寄せる十字軍を押し留めることはできず、必ず何人もの兵が無傷のまま頼りない防壁まで到達するということも。

「了解、モっさんは銃身が冷却されるまでその場で待機、冷却が完了次第、すぐに十字砲火を再開する」

 伝令役の冒険者がクロノの指示をモズルンへ届けるべく走り出す。

 それを見届け、クロノは自分も『魔弾掃射ガトリングバースト』を一旦撃ち止めると、大きく息をつく。

 呼吸を整えると同時に、クロノは覚悟を決めて叫んだ。

「開門しろ! これより打って出る!!」

 その声は防壁前に詰めている冒険者達は勿論、ギルド内に立て篭もる射手達にも聞こえた。

「「ウォオオオオ!!」」

 冒険者達の雄たけびがクロノの命に応える。

 特に、防壁前で使い慣れない弓を撃ちつつ、敵と斬り合うことを待ち望んでいた戦士達はより一層沸き立った。

 彼らは今まで経験したことが無い大規模なこの戦闘、迫り来る数多の敵を前にして、怖気づくどころか、返って戦士の血を強烈に刺激されているようだった。

「はっはっはっはぁ! ようやく俺らの出番ってワケだなぁ!!」

 正門前にはヴァルカンを筆頭にランク3以上の剣士や戦士を始めとした近接戦闘に特化したクラスを持つ冒険者が勢揃い。

 彼らこそ、あえて門から飛び出し敵を切り伏せに行こうという命知らずの突撃部隊である。

 人間をはじめ、獣人、エルフ、リザードマンなどの他に、オークやゴーレムといったクロノがこれまで見慣れない種族も含まれ、部隊の種族構成は見事にバラバラ。

 だがその心は同じ、みな一様に門が開くのを今か今かと待ちわびている。

 クロノはいつの間にか取り出していた『呪怨鉈「腹裂」』を手に、戦意向き出しの彼らの前まで歩み出た。

「いいか皆、ここが最初の山場だ。

 十字砲火が再開できるまでの時間をなんとしてでも稼ぐ、その間は絶対にこの防衛線を守りきる」

 単純に銃身を冷却するだけなら水と氷の魔法があるのでそれほど困難な作業ではない、だが一番問題なのは射撃の高熱によって歪む銃身、それを最低限射撃に耐えうるよう再調整するのだ。

 このメンテンナンスは致命的ともいえる隙を生じさせるが、今日の一戦だけで機関銃を使い潰すわけにもいかない、クロノ達は明日も明後日も戦い続け、敵をこの場で足止めしなければならないのだから。

「行くぞ――」

 クロノはローブを翻し、ヴァルカンへ背を向け、今にも開かんとする門へと向き合う。

「突撃っ!!」

 門が開く音と、戦士達の鯨波が同時に響く。

 総勢24名の突撃部隊は、檻から解き放たれた猛獣の如く目前にまで迫る十字軍兵士達へと飛び掛っていった。




 クロノの突撃指令は、ギルド屋上に陣取るシモンとスースの狙撃組みの耳にも入った。

「もう突撃が始まるのか……時間さえあればもっとマトモな銃身を作れたのに」

 シモンはこの突撃が十字砲火を再開させるための時間稼ぎであることを理解している。

 逆に言えば、機関銃さえ撃ち続けることができれば、危険を冒して突撃する必要はないのだ。

 この時間稼ぎを作戦に組み込まねばならなかったのは、自分が耐久性のある銃身を仕上げることが出来なかった所為だとシモンは一人悔やんでいた。

 機関銃を完成させた際、「よくやってくれた」とクロノは感謝と労いの言葉をかけたが、その言葉に応えられるだけの成果を出せたとは思えなかった。

「けれど、今は後悔する時間すら無い、さぁ、次の仕事にとりかかろう」

 シモンの心中を察したような台詞を言いながら、スースはそれまでスコープ代わりにしていたスライムの手を再び人間の腕へ擬態させる。

「はい!」

 シモンは『ヤタガラス』のグリップから手を離し、狙撃体勢を解いて立ち上がる。

 本来なら、このまま梯子をつたって台座から降りるはずだったのだが、

「急いだ方がいい、このまま降りるよ」

「へっ?」

 いつの間にかシモンはスースに抱えられ、何が何だか分からない内に台座の上から一緒にダイビングしていた。

 高さは3メートルほどしかない為、シモンが何か声を挙げる前には屋上の床へと二人は降り立っていた。

 あっという間すぎて、着地の衝撃が全く感じなかったことにすらシモンは気づかなかった。

「あ、ありがとうございます……」

 とりあえず、お礼だけは言っておくことにした。

「これからは別行動だ、気をつけるんだよシモン、特に天馬騎士にはね、もしかしたらここまで抜けてくるかもしれない」

「いえ、スースさんこそ」

「なに、私のことなら心配いらない。

 何と言っても盗賊だからね、私はあの最前線にいても敵の注意を引くことは無いのさ」

 それは盗賊というより暗殺者のスキルなのでは、とシモンは思うが、ここで言うべきことでもないと胸の内に留めておく。

「それじゃあ、また後でね」

「はい」

 そう言い残し、ス-スは屋上からその身一つで飛び降りていった。

 彼女は姿こそ人間の女性であるが、その正体はスライム、手足を元の状態に戻せば壁へ張り付くことなど歩くのと同じくらい簡単に行える。

 だからロープも武技も魔法の補助も無しにあんな真似が出来るのだと、シモンは飛び降りたスースを見て思い出していた。

「よし、僕もお兄さん達を援護しないと」

 シモンは銃を担いで走り出す、目指すはあらかじめ決めておいた、村の正門を見下ろせる絶好の狙撃ポジション。

 これまでは対岸に姿を現す魔術士にターゲットを絞っていたが、今は味方の突撃を支援する援護射撃が彼の役割だ。

 狙い撃つ敵はギルドのすぐ下、距離は近いためにスコープ、つまりスースのサポートも必要ない。

(敵の部隊長は下級魔法も行使する、優先的に排除……)

 突撃支援時のメインターゲットを頭に思い浮かべ、シモンは屋上から再び『ヤタガラス』を構える。

 これから狙い撃つ相手は対岸では無くすでにこちら側へと到達した者。

(こんな近距離、外す気がしない)

 躊躇無くトリガーを引くシモン、放たれた弾丸は敵の頭部へ吸い込まれるように飛んでいった。




 接近戦はイルズ村で司祭を斬った時以来だ。

 未だに剣で斬りあうような近接戦闘は得意では無いと思っているが、

(斬、斬――殺――斬、血、殺――死、殺、斬、斬斬斬――)

「お前は相変わらずだな」

 右手から伝わってくる『呪怨鉈「腹裂」』の強烈な殺意のお陰で緊張感は無い。

 呪いでリラクゼーション効果を得ているとは果たして妙な話だが、今はそんなことを気にしている場合では無い、敵は槍を掲げてすぐ目の前に迫っているのだから。

 川を個別に渡ってきている為、十字軍兵士は最初に突撃を仕掛けてきた重騎士のように列を組めずバラバラになって川岸に展開している。

 だが、その数はイルズ村を占領した部隊と戦った時とは比べるべくも無いほど圧倒的。

 対岸からここまでの距離を白い影で埋め尽くさんばかりの勢いだ。

「いいぜ、もう一度進化できるほど血を吸わせてやる」

 とりあえずは、一番前にいるヤツラから順番に斬っていくより他は無い。

 すでに相手の顔がはっきりと認識できるほどにまで距離を詰めたところで、筋力と魔力を足に篭めて一気に跳躍。

 前方へ突き出された槍を飛び越え、頭上から斬りかかる。

「黒凪ぃいいい!!」

 空中で武技を放ち、兵士の頭を3つほど斬り飛ばす。

 頭部もチェインメイルで覆われているはずだが、鎖のような硬い物を斬った感触はほとんど感じられない、相変わらず凄まじい切れ味だ。

 1週間ぶりに味わう血に刃が喜びの声を挙げるかのように不気味な共鳴音、今宵の虎鉄は血に餓えているとでも言わんばかり、今はまだ午前中だけどな。

 背後で3つの首なし死体が倒れるのと同時に地面へと着地、集団のど真ん中目指して飛び込んだ為、前後左右と隙間無く全方位が敵によって囲まれている。

 兵士は俺との距離が近すぎると判断したようで、即座に長槍を手放し、腰から下げたブロードソードを引き抜く。

 だがその動作は俺にとっては酷く緩慢に思える。

 思えばあの施設を脱走した時点で、すでに数十人の兵士を難なく殺害できているのだ、魔法も武技も習得していない一般兵士、いわゆる‘ただの人間’が武装を整えた俺に、数以外のアドバンテージは無い。

 正面に位置する兵士目掛けて鉈を一閃、鞘から剣を引き抜く途中の彼らを纏めて切り払う。

『呪怨鉈「腹裂」』はその名の通り綺麗に腹を裂き、血と臓腑を撒き散らして兵士達が倒れる。

 俺が一撃与えた終わった後、漸く左右と背後の兵は剣を抜き放ち、

「死ねぇえ悪魔っ!」

 それぞれ気合か恨みの言葉を吐きつつ一斉に斬りかかって来る。

 流石にこの鉈でも同時に襲い来る何人もの兵士を一振りで止めることは出来ない。

 さらに前方からは俺へ向かって穂先を向ける別の兵も現れる。

 圧倒的な数の有利を生かした同時攻撃――だが、そんな‘基本的’な攻撃の対処法など機動実験の時に学習済みだ。

影空間シャドウゲート開放、魔剣ソードアーツ――」

 俺の足元に広がる黒々とした影と同化するような漆黒の刃がその切先を除かせる。

「――貫け」

 合わせて10本の黒化剣が同時に影空間より射出され、左右と背後から迫る敵に目掛けて一直線に飛んで行く。

 視界にいれずとも、それぞれの刃が俺へ向かってくる全ての兵士を貫いた事が分かる。

 手を触れずとも剣を操っているのは俺自身、刃が敵を斬る感触ははっきりと頭で認識できるのだ。

 左右と背後の敵を魔剣で一掃し、俺はそのまま前より槍を繰り出す兵の相手が出来る。

 一振りで突き出された槍の柄を中ほどから鉈で切り飛ばし、返す刀で兵士の胴を袈裟切り。

 終わってみれば、着地から10秒もせずに四方から襲い来る兵達を斬り捨てた、次に控える兵士達が勢いで斬りかかるのを戸惑わせるほどのインパクトはあったようだ。

 兵達は槍の先を向けはするものの、俺から数メートル離れて取り囲むだけの膠着状態に陥る。

「この、悪魔め――うぉおおお!」

 僅か数秒の沈黙を破り、俺の真後ろから一人の兵が槍を突き出す。

 だが先ほどの魔剣は10本とも健在、俺の後方を守るように浮遊させているため、背後からの攻撃にも瞬時に対処できる。

 俺は振り返ることもせず、ただ黒化剣の一本を操って敵へ飛ばすだけ。

 槍の穂先が俺の背に到達するよりも、剣が敵の胸を貫く方が早い。

 断末魔の声を挙げ、また一人敵が倒れる。

 その様子に怖気づいたのか、取り囲む兵が包囲の半径をさらに広めた。

「来ないのなら、こちらから行くぞ」

 右手に鉈を、左手にタクト、そして背後を守る10本の黒化剣を携えて、一歩を踏み出す。

 防御魔法ごと切り裂く『呪怨鉈「腹裂」』、サブマシンガンのように連射が効き、かつショットガンのように広範囲に弾丸をばら撒く『魔弾バレットアーツ』、死角を10の刃でカバーする『魔剣ソードアーツ』、この3つを併用することで、武術も剣術も碌に習得していない俺が、多数の敵と同時に戦うことを可能としている。

 俺はすでに魔法使いの身、ならば接近戦も魔法で行うのが道理。

 サリエルには通用しなかったが、ただの歩兵相手なら魔力と集中力が続く限りどれだけ相手にしても遅れをとることは無い。

「破ぁああああああ!!」

 今はただ、最前線で敵を食い止める戦士としての役目を果たそう。

 白いサーコートを纏う十字軍兵士の死体を踏みつけて、恐怖の顔を浮かべる兵士達に向かって、俺は持てる全ての刃を向けた。


 クロノが魔弾バレットアーツを最前線でぶっ放さないのは、味方が周りで戦っているからです。

 また、掃射ガトリングバーストしている間は他の攻撃が出来ないので、接近戦においては通常の魔弾バレットアーツを併用するに留める方が安全に立ち回れます。

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