ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
ソーダの星
作者:宇飼純生
「退屈な日常の繰り返しは、己の大事な、大事な感性を錆びつかせる…」
 シャープペンシルを指の間で踊らせながら、詩人のようなことを考えてみるが、言いようのない漠然とした気分は晴れなかった。
 教室の重鎮である黒板には、教室の最高権力者である『教師』の書いた教科書通りの思想や歴史が並べられている。僕はそれとクラスメート諸君を交互に見てみる。『浮かない顔』『退屈』『セックスしてぇ…』『弁当まだかよ』大半がこのようなくだらない思念を抱きつつもノートをとっている──ように見える。僕と同じってわけか。
 はあ、と小さくため息をついて僕も一応、形式上、流れに沿うようにノートに書き写すことにした。

1.他の星との干渉は禁じられている。
2.だが一部の文化交流は認められている。しかし、政府はその交流を公開することはない。
3.宇宙はひとつ。

 毎度毎度ご苦労さん。宇宙論理科学の授業である。
 ふあ、と控えめなあくびをしながら、黒板の内容を一字一句間違えることなく書き写したノートをぱたんと閉じた。
 宇宙なんて僕が産声をあげた頃にはすでに身近なもので、海外旅行とほとんど大差なかった。『なんとかロケット』の量産に成功して、『なんとか燃料』が無限に溢れて、それらを発明と研究をし発表した『なんとかって科学者』はノーベル賞をもらった翌日に暗殺された。暗殺したのは「人類の宇宙侵略を防ぐ! 愛する宇宙を守る!」という「よくもまぁそこまで事を飛躍できるなぁ」と正直苦笑してしまう団体の一味だった。あっさり逮捕された暗殺犯は言った「俺を死刑にしろ。そして俺の骨を愛する宇宙に流してくれ」。それは宇宙にデブリを流すこととなり問題になる為、当然却下されて、暗殺犯は現在も囚役中だ。…ちっとも可哀想じゃない。
──これが僕の宇宙論理科学の授業で学んだ知識。ロケットなどにはちゃんとした正式名があるが、僕のレンコンのような脳みそには記憶されていない。
「さっさと授業終わらねぇかな…」ぽつんと本音を漏らしてしまった。しかし、教室には軍隊が行進するように一定のリズムでシャープペンシルとノートのしゃかしゃか音が響いていた為、一度怒るとねちっこく学期が終わるまで執拗に絡んでくる通称『納豆教師』の岡部には聞こえなかったようだ。間一髪。ぎりぎりセーフ。
 チャイムが『いい加減ほかの仕事もやってみてぇよ』なんて思っているかも知れないが、一応…といった感じに授業の終わりを告げた。
 クラスメートの間抜けな伸び、文字にならない疲労の言葉、教師の起立を求める声、椅子が軋みながらぶつかる音。この世の混沌を感じた…大袈裟かな?
 僕は空腹をずるずると引きずりながら、教室を出た。手には弁当を持って。

 屋上には誰もいなかった。それもそうだ、枯葉の舞う季節だし、肌寒いし。好き好んでこんな場所で一息つこうとするやつなんて僕ぐらいなもんだ。
 無数の鳥の糞をおぼつかない足取りで避けて、枯葉のつもった一角に座る。きしきし、と僕を歓迎するように音をたてる枯葉に愛嬌のよさを感じた。
「今日の弁当は何かな」棒読みで独り言。「…うん、普通だな」
 箸でつまんだ唐揚げを口の中に放り込み、よく噛みながら、学生ズボンのポケットをまさぐりイヤホンと携帯電話を取り出した。
 ごちゃごちゃと携帯電話をいじり、イヤホンを両耳に挿入すると、ほどなくして軽快な音楽が僕の中に侵入してきた。この瞬間は一種の快感だと僕は思う。平穏で退屈な暮らしがちょっとした刺激に犯されるような…。
「ふふんいっとっび〜」適当に口ずさみ、セッション。
 秋風が顔に柔くぶつかって、反射的に目を閉じる。「えっと、こういうのを何ていうんだっけ…『ナイスミュージック』だっけ」すこし格好をつけた片言な独り言。
 弁当を食べ終えると同時に曲も終わって、次の曲が僕の暮らしの先っぽを犯し始めた。夜の次に朝がくるように当然の流れで。
 面倒なことばかり、しなくちゃいけないことを面倒なことと呼んでしまう年頃の僕を包み込み、そっと微笑かけるバンドのボーカルである”ジョン”はもうこの世にはいない──と思う。僕がこの音楽に出会ったときの年齢を考えると…残念だけど。
「新譜はまだかな」期待薄だけど、願うことはやめられない。
 屋上の柵からすこし身体を乗り出してみる。秋風をいっそう強く感じる。空にはまだ昼過ぎだというのに、薄ぼんやりと星が見える。その中でひとつ綺麗な水色の星がある。
「あ、ソーダの星だ」
 ソーダの星を見上げながら、手を合わせる。「君も退屈だろうけど、お互い頑張ろうな」その遠い星から贈られてきたであろう音楽に満たされながら、名も知らない同級生に語りかけた。
「あの星に行くまでどれくらいの費用と時間がかかるのだろう…」
──もうすこし勉強して大人になって、『プライベート円盤』を買おう!
──そしてソーダの星にあるであろう”ジョン”の墓参りに行こう!
 何度目かの昼休みに、何度目かの目標をたてた。
 チャイムが聞こえ、僕は屋上を去る寸前にイヤホンから流れ込む音楽がぴたりと止んで、耳元で、でも遠くからだと感じる、言葉が聞こえた。
──「君も退屈だろうけど、お互い頑張ろうな」
 今日の目標は守れそうな気がした。ソーダの星に住む僕と同じく退屈に犯されている君に誓おう。


―終―
最後まで読んで頂きありがとうございます。
さっさと書き上げて投稿しようと思っていたのですが、あら不思議こんなにも遅くなってしまいました。反省しています。

内容についてですが、平たく言うと地球(らしき星)に憧れる宇宙人の話です。僕は宇宙人の存在そのものを信じていませんが、もしいるのであればそれはエイリアンやらE.Tのような無機質な姿(生活)をしているのではなく、ぼくら人間に近いと考えています。
ですのでこのような小説を書きました。派手なものではなく身近にあるような地味で何にもない暮らしを未知なる生物目線で…。

ではでは。ほかの小説も読んでいただければ幸いです。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。