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これはひどい短編集。

たとえばこんな観察者達

作者:笹の葉粟餅
破裂したボール、割れたカラーコーン、折れた平均台にカビ臭い体操マットといった不要品の廃棄場となっていた、私立鳳玲学園高等部の旧体育倉庫は、日当たり最低、北向き、狭小の外れ物件三大条件のうち、最後のひとつ以外をすべてクリアした、会室に飢えた一般公募枠組による妖怪会室おいてけ、またの名を同好会種籾勢も「ないわー」と真顔で拒否する不人気物件だった。
そう、「だった」。
そんな物件を、がらくたを発掘もとい整理整頓し、仕分け、不用品を廃棄し、同好会の会室へと匠も月まではブッ飛ばないけどそれなりに劇的にビフォアフターしたのは、「現代遊戯研究同好会」の五名の女子生徒である。
ちなみに活動内容は、エジプトのセネトから3DSの狩りゲーまで、とにかくゲームしようぜ、というもので、最近では夢のSAN値一桁でたのしい発狂生活、が合言葉の、ディープなテーブルゲームがプチ流行中だ。

閑話休題。

もとは化学室の備品であった、半分近くが焼け焦げた大きな机は、表面をサンドペーパーで削り、ニスを塗りなおされ、味のあるテーブルに大変身。
椅子は体育館からパチってきたパイプ椅子だが、そこはご愛敬ということで。
コンクリ打ちっぱなしの床には、表面を洗って天日干しした体操マットをテーブル周りに敷き詰め、寒さを緩和。
なぜそこにいたのか深く追及してはいけないカー○ルおじさんとサ○ちゃん人形、モツがいくつかと左脳がなくなった人体模型は丹念に洗浄され、コートかけやカバンかけとして大活躍している。
バレーボールネットを使ったハンモック式荷物置きには、人数分の寝袋がごろんとしているが、よりにもよって歩ける寝袋というのはいかがなものか。
ガラスのかわりにぶ厚いプラ板を入れた薬品棚には、芋けんぴにかりんとう(黒糖・蜂蜜・ピーナッツ)、ポテチ(のり塩・コンソメ・サワークリーム&オニオン)、歌○伎揚げ、柿○種(プレーン・梅・わさび)といったおやつの友と、クッキーBBAのラミネート加工済み特大バストショットがお札のように貼られた大きなブリキ缶(中身は当然チョコチップクッキー)、業務スーパーのお徳用ティーバッグ(緑茶・紅茶)、インスタントコーヒー、ココアが鎮座し、下段の引き戸を開ければコンビニやファストフード、某パン祭りのミニボウル、皿、カップ、百均ショップの土鍋、カトラリーが待機している。

「しっかしあれはマジねーよな。おぉう子供増えすぎて車に乗りきらねーのに養子マスに止まれない罠」
「ほんとそれな。……ククク、いくぜぬるりと……! ってまた何もイベントねーよ」
「蟹○船の朗読流したろか思ったわー。ってロールス買うのかよ。そんなん買うなら貯蓄しろよ」
「そこはチャ○レイ夫人かエ○ニュエル夫人にしとけって。てゆーか日常で迷い象が出るとかタイか。タイなのか。タイの通貨ドルじゃねーだろ」
「○ャタレイ夫人はまだえーけどエマニュ○ル夫人はあかんて工藤。そこはソドム百二十日やろ。牧場の跡継ぎとか言われても酪農関係って人手不足深刻じゃないですかやだー」

そんなカオスな会室で、おばあちゃんあるあるの木の菓子鉢に盛られたサ○ダせんべいとかっ○えびせんをぱりぽりかじりながら、まったりと人○ゲーム(復刻版)に興じるのは、現代遊戯研究同好会の会員たちである。
発言順に佐藤英子ひでこ、鈴木美子よしこ、高橋滋子まさこ、田中貞子さだこ、渡辺依子よりこ
彼女たちに共通するのは、ミックス犬あるあるの「知ってる犬かと思ってよく見たら犬違い」に通じる、可もなく不可もない最大多数の没個性な地味さと、そこはかとなく漂うヲタ臭と、何となく「あ、これ駄目な女だ」感だろう。
持ち込んだ私物のフリースブランケットを羽織り、寿司屋の湯飲みでずずーっと煎茶を啜る姿は、女子高生に淡い夢や幻想もうそうを抱いていた人間がそげぶされること請け合いである。
ブランケットが無駄に可愛い柄なのが、余計に残念感がひどい。
テーブルの端には、カセットコンロとベコボコのヤカン、保温ポットが置かれている。
会室内でのドリンクは、基本セルフサービスである。

「あれ、黒歴史どころの話じゃなくね? おぉう、や、やっと養子に出せる!」
「輝かしい学生時代が厨二病最盛期の俺設定ノートですねわかります。結婚すらしてねーから、マジで何もありませんんわー」
「今でも十分セルフ公開処刑じゃん。痛さも過ぎると笑いの領域なのね。アイエエエエナンデ火事ナンデ!?」
「痛い通り超えて輝いちゃってるよな。うおっまぶしっ、ってヤツ? あーうん火災保険さん出番ですな案件の後に済まんが石油出た」
「まーでも気付いたところで完璧手遅れだべ? 諦めなさい試合終了ですよ。ついでに社会的にも終了ですよの予感に胸熱。炎上商法(物理)とか鬼だなてめえ。おっと子供生まれたんでご祝儀プリーズ」
「そーいやチャラ男会計と姫ちゃんがラブホ凸しとるとこ見たけど、ワンコ書記と凸ってたホテルだろあそこ。え、何それ。一人養子に出したら双子生まれるとか何なの? 何それいやがらせ? いやがらせなの?」
「チャラ男会計かー。あいつ性病持ちやでーソースはチャラ男会計が落としたジスロマック拾ったワイな。あーもうホント、ホンット何もないとか一周回って逆に凄くね?」
「それはすごい。てか、穴兄弟の生徒会全滅完璧アウトですやん。っておい火星からの使者って何ぞそれー。下手こいたら宇宙○争じゃねーか。独立記念日インディペンデンスデイ? 独立記念日なの?」
「仲良しセレブ五人組で畑共有して病気も共有とかバカ丸出しフル・フロンタルか。大丈夫地球の雑菌=サンがいい仕事してくれるから。せんせー! 大工道具にチェーンソーとホッケーマスクは入りますか!」
「生徒会顧問のホスト教師とも凸ってたからあいつもビョーキ貰ってるに百万ペリカ。それはクリスタルレイクの殺人鬼さんのマストアイテムです。ってぬぉおおおおお借金残して死んでんじゃねえクソ親父ぃいいいい!」
「姫ちゃんから貰うものなら淋病でも梅毒でもクラミジアでも嬉しいんじゃないですかー。養子マス来い養子マス……来ねぇしミイラのコレクションって何だよエジプトマニアかメドジェ様がみてるのか」
「生徒会役員どもの婚約者様方に緊急速報したけど、問題ないよね? 多分婚約者様経由でホスト教師の婚約者にも24逝ってるだろうけど。うわーいまたなーんもなーいアッハハハ」
「大丈夫だうちらにゃ関係ない問題ない。あー、だからか最近婚約者様方からえらくスカッとサワヤカ感漂ってんの。ウィリスさんかて男の価値は髪の量じゃなくてハート言うてるやんヅラに逃げんな! それでも男ですかこの軟弱者!」
「破談するにしても姫ちゃんファンクラブかっこわらの有責だし、扶養されてる十八歳未満の児童がセクロスで性病感染されましたーとか炎上の予感しかないし、婚約者様方の実家の笑いが止まらんな。あ、ひゃっほい株上がった!」
「大惨事の予感に胸熱でござるなデュフフ。あ、○びせん終了ー。不注意で出火……火災保険さんなんですぐ入るの忘れてしまうん……?」
「サ○ダせんべい食ってろ。そーいやもうじき元になるっぽい婚約者様ズからパー券貰ったけどこれどーすんの? 養子マス養子マス養子マス……物欲センサー仕事する場面ちゃう。男の子も女の子もこれ以上はお断りさせてくださいつか生はやめとけとモンティパイソンでもあれほどゆーとるやないかーい」
「ド庶民のうちらにゃ関係なくね? そもそも卒業したら制服着れないですやん。結婚もせず子供も作らず給料以外の収入もなくなーんもないまま上がりとか立川在住の聖人男性の人○ゲームも、こんな感じだったのかー」
「パー券ちゃうから。卒業祝賀会の招待状だから。卒業生の身内以外の在校生で貰えるって滅多にないレアだから。株価……株価が下落っ……! 逃げられないっ……逃げられない損失っ……!」
「うっわ何そのすっげーいらねえレア。どうせレアなら三部高校生組コンビメダルくれ。容赦せん虫歯の人とかマジイラネなんですけど。その後ろで株でもーけた私が通りますよプギャー」
「つか、そんなん出席したところで由緒もへったくれもないド庶民組のうちらにゃどこーにもーいばーしょなーんてなーいーと思いますが、ところがどっこいその後ろから仕返しの私がてめえのあぶく銭を毟りますよプギャー」

わいわいとボードゲームに興じる姿と会話の齟齬がすさまじい彼女たちは、私立鳳玲学園高等部の一般公募枠に滑り込んだ、骨の髄どころかアデニン、グアニン、シトシン、チミンの組み合わせレベルで庶民が染み込んだ、先祖代々由緒正しい庶民の中の庶民、鉄筋コンクリート製でスカイツリーも真っ青な耐震仕様の庶民オブ庶民である。
大名華族や公家華族の末裔やら何やらの、やんごとないお血筋の御令息御令嬢が通われる、私立鳳玲学園の高等部が一般公募で外部生を入れるのは、背負う家名も何もない、しかし社会の最大多数の目に自分達がどう映っているのか、持たざる者である彼ら彼女らだからこそ持つ集団の力がどれほど恐ろしいかを学ばせるためであるが、そんな学園側の上から目線な計算を読めていない公募組はひとりとしていない。
そもそも、彼女たちが滑り込めたのも、一般公募枠に応募する外部生の数が年々減少しているためで、その公募枠に入る生徒の実に9割9分9厘の志望理由が「壮大なネタ学校に入学してみた」という「○○してみた」のノリであるし、彼女たちに至っては某大型掲示板サイトの安価の結果である。
お前ら人生ナメてんのとキレられても仕方がないが、彼女たちは「若さゆえの過ちは若いうちにしかできない」と主張して憚らない。
そして、二十歳になったらバーで「認めたくないものだな」までがセットである、とも。

「いやーシンプルだけど燃えるよな○生ゲーム。で? そのパー券が何ですと?」
「それがじゃなオンナスキー、晴れの門出を私らにも祝ってほしいそうなのじゃよー」
「誰がメガネボーズか張っ倒してカラチャイ湖に投棄すっぞパンイチ宇宙人。して真意のホドは?」
「ワタクシ達とは縁もゆかりもない下々にしてはよく働いてくれました、褒美にワタクシたちの世界を垣間見せてさしあげますから感謝しておいでなさい」
「何それ学内のアレコレをリークされて炎上させられてーの? こちとらてめえらのアレコレも握っとんのやでー? 庶民ナメんなや」
「庶民ナメてっから婚約者様方のご実家も軒並み業績低迷してんだろ。なあ、次はどこが炎上すっか賭けね?」
「出てる、英国面出てるから! それいらん子だから!」
「なんでや工藤! パンジャンドラムさん最高やろ!」
「待て貴様ら、ドイツさんを忘れるな。パリ砲さんとかドーラさんとかいらっしゃるだろ」
「ロマンとエゲレス病一緒にすんなし。ギガントさんなんてジ○リデビューしていらっしゃるじゃねーか」
「ゴリアテな。ロシアの皇帝爆弾もロマンだよねえ。ツァーーーリ……ボンバッァァァァァ!!」
「アマッカスは世界の迷惑です、帰れください」

茶を飲み菓子を食べながら笑いあう姿は、どこにでもいる普通の女子高生のものだが、会話の内容はかなりひどい。
父親が聞いたら膝から崩れ落ちて号泣するレベルだ。

「けどま、これで脳味噌にまでナイセリア属グラム陰性双球菌回ったアホがまとめていなくなると思うと、スッキリするわー」
「待て、生徒会顧問のホスト崩れが残ってるとゆーおっそろしい事実がだな」
「大丈夫だ青少年保護以下略条例とかの淫行処罰規定で前科持ちになるから問題ない」
「純粋に愛し合っているんだキリッとか言い出したらどーすんだよ」
「純粋に愛し合って生徒会役員と顧問全員に股開きますたなんつーたら、会長狙いの姫ちゃんアウトじゃん」
「つか、あいつら穴共有してんの気付いとらんの?」
「珍渦虫にゃ脳も目玉もありませんてか」
「珍渦虫さんディスんなや、あの方たちは生命の進化の不思議の体現者様やで?」
「で? パー券どうすんの?」
「どーせうちら大学外部行くんだし、縁切れっから無視していーんじゃね?」
「だな」
「とりあえず棚ん中どーするー?」
「ある分全部消費して、あとは黒猫さんでいいんじゃね?」
「賛成」
「異議なし」
「よーしそれじゃパパ、プ○ングルいっちゃうぞー」
「芋けんぴに手ぇ出したらコロス」
「ころしてでもうばいとる……柿○種そいつを寄越せぇえええ!」
「な、なにをするきさまー、でも残念! それは私の歌○伎揚げだ」
「それじゃかりんとうは私がもらいますね」

そう言って席を立ち、戸棚に群がりわさわさと目当てのブツを朗らかな笑顔で漁る姿には、狩りを成功させ、獲物を巣に持ち帰る肉食獣の風情が漂っている。
抱えた獲物を自分の縄張りに置いた彼女たちが、マグカップにお茶を汲んで席に戻ると、黒いモノリスに道具を教わる前のヒトザル……は大袈裟だが、割と偏見に満ちたヴァイキングの宴会風景に切り替わった。
カロリー? ダイエット? 知らない子ですね、とばかりに菓子を貪りながら、部外者が小耳に挟めば沈痛な面持ちで頭を抱えること間違いナシのドス黒い話題を、今日の天気やコンビニの新作スイーツの話題感覚で転がしている。
学園内の、いわゆる「やんごとない身分」の方々の醜聞について、手持ちの札から見せられるものを交換しながら、隠した札の価値を吊り上げ、欲しい札を誰が持っているのか探り合う姿は、お前らのような女子高校生がいるか、の一言に尽きるだろう。
このまま磨いていけば、内調や公安を国境ごと越えて、国家安全保障局からラブコールが来るかもしれないと思わせるだけのナニカが漂っている。

「あ、そう言やジェンガしまったっきりじゃね?」

しゃくしゃくとポテチを咀嚼し、番茶で流し込んだ鈴木美子が、次のポテチを運ぶ手を止め、薄く笑った。

「んあ?」

芋けんぴをカリコリしていた佐藤英子が、うわあコイツ趣味悪ぃ、とばかりに嫌そうな顔をするが、

「ありゃやるもんじゃなくて見るもんだし」
「禿同」

残り少ないピーナツかりんとうを大事そうにちびちび食べていた高橋滋子と、歌○伎揚げをハイスピードで消費する渡辺依子は、実にあくどげにニヨニヨしている。
それを横目に、こだわりのピーナツと柿○種を黄金比率でポリポリしている田中貞子が、

「崩れる瞬間を見るゲームだしね、あれ」

さらりと言ってのける。
表情こそ豊かだが、彼女たちの目にあるのは、実験用のマウスの解剖をする科学者の冷徹だ。
可もなく不可もない最大多数の没個性な地味さと、そこはかとなく漂うヲタ臭と、何となく「あ、これ駄目な女だ」感も、確かに彼女たちの本質だが、冷徹もまた、本質の違う側面と言える。
その冷徹さをもって、彼女たちは、卒業までの短い時間を、目を見開き耳をそばだて口を閉じて過ごすのだ。
権力者の栄枯盛衰を見続けた庶民として。

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