第13話:夢月が望んだ光景
私は知りたかった。
奇跡の起こし方を。
どうしても会いたい者がいるのだ。
愛している者がいるのだ。
会える、そのためなら、この命をささげてもいい。
神よ、どうか私に奇跡を!
「よし、そこまででいいぞ霧島。じゃあ続きを・・・石田、頼む」
今のは鬼頭が担当の3時間目
現代社会という授業で、俺が音読させられたのだ。
それにしてもこの文は授業の内容に関係ないと思うのだが・・・
そのせいで先ほどからずっと腹を抱えながら
声を出さずに笑っている、そんな圭吾の姿に腹が立つ。
だが、鬼頭の授業ではあまり騒がない方がいい。
騒ぐという事、すなわちそれは死に繋がるからだ。
よって静に窓の外を眺める事にした。
ちなみにあのシャンプーは
効果が切れるのが予想以上に早かったため
現在は元の髪に戻っている。
本当によかったぁ・・・、と喜んでいると
突然、後ろから背中をペンのような何かで突かれた。
仕方なく後ろを振り向くと
朔夜が申し訳なさそうな顔をしていた。
「あの、朝は失礼な事をしてしまってすいませんでした・・・」
「いや、気にするなって。悪いのは全部アイツなんだから」
そう言って俺は離れた所にある圭吾を睨みつける。
すると圭吾は俺の視線に気付いたのか
また腹を抱えながら声を出さずに笑い出した。
アイツ、反省という言葉を知らんのか?
土下座ぐらいするべきだ。
「――それで、お願いがあるんですけど・・・」
朔夜が何か言い出したので、また向き直す。
「またあの髪形で来てくれませんか?」
「断るっ」
俺、即答。
「そうですか・・・」
朔夜もまた本当に残念そうな顔をする。
頼むからそんな顔をしないでくれ・・・
本日二度目だ、無駄に申し訳なくなったのは。
「――ほう、私の授業で私語とは、いい度胸だな霧島。
今度はもっといい文を読ませてやろうか?」
俺達が話しているのが見えたのか
少々怒りのこもった声で脅してきた。
「あ、すいません・・・」
とりあえず謝っておく。
もうあんな文を読まされるのは嫌だしな。
「まぁ、わかればよろしい。では授業を進めるぞ」
そう言って鬼頭は黒板へと向き直す。
鬼頭の機嫌をこれ以上損ねないためなのか授業が終わるまでの間
この教室では、鬼頭の声とチョークの音しか聞こえなかった。
4時間目終了のチャイムが鳴った。
それは同時に昼休みの始まりを意味する。
「よっしゃー飯だぁ!
夢月ちゃんの手料理弁当だぁぁ!!」
教室中に圭吾の子供がはしゃいでいるような声が響き渡った。
ってまた弁当目当てなのかよ・・・
久々の夢月特製弁当なんだから、無理もないか。
すると突然、教室の入口が勢いよく音を立てて開いた。
俺を含めて教室内の全ての視線がその方向へと注がれる。
そこにはみたことのある一人の少女が立っていた。
「あれって葵ちゃんじゃないか?」
圭吾は何故か小声で俺に言ってきた。
「俺はそんなに視力は悪くねぇぞ、わざわざ言わなくてもわかっている」
葵は教室内を見渡すようにキョロキョロした後
俺を見つけたのか手を振りながら走ってくる。
「やっほー、龍馬ー!」
「なんど言ったらわかるんだ、俺の名前は亮だ」
「そんな事どうだっていいよぉ、
それよりあれのお詫びにパン買ってきたよー」
そう言ってパンを差し出す。
少し間をあけ、俺は一度パンに人差し指を向け、その後に自分に向ける。
"これを、俺に?"って意味だ。
葵はそれがわかったのか笑顔で頷く。
「・・・すまん、俺、今日は弁当なんだ」
「うにゃーん!?」
葵の笑顔は一瞬にして絶望一色となってしまい
妙な声を出して固まった。
そして葵の手から今にも落ちそうなパンを貰っておく。
だが葵はビクともしない。
これは俺のせいなのか?
もちろん俺のせいだよなぁ・・・
「・・・なんならお前も弁当食うか?
たくさんあるから一人ぐらい増えても気にする事はないしよ」
その言葉を聞いた瞬間、葵の表情が一気に変わる。
「本当に!?やったー!それじゃあいただきまーす!」
すごい変わりようだな・・・
「一本とられたな」
「うるせぇ」
圭吾から逃れるように後ろを向くと
朔夜が一人で寂しそうに弁当を食っていた。
もしかして朔夜、いつも一人で食ってたのか?
そんな考えが脳内を過ぎる。
そうだとすると俺達だけ楽しく食ってるわけにはいかねぇな・・・
気が付くと、俺は朔夜に声をかけていた。
「なぁ、お前も一緒に食うか?」
とりあえず誘ってみる。
「・・・え?」
朔夜は俺の言った事が理解出来ないのか、ポカーンっと口を開けている。
「いや、だからお前も一緒に弁当食うか?」
「・・・い、いいんですか?」
少し戸惑いながら聞いてくる。
「もちろんだ、俺の弁当は無駄に多いからな」
「あ、ありがとうございます!!!」
感激の声を出した後、朔夜は俺達の所まで椅子を持ってきて座る。
「そ、それでは遠慮なく・・・いただきます」
朔夜は箸で弁当から野菜炒めを少し掴み、口へと運ぶ。
「――ッ!!おいしい!!」
「あったりまえさ、なんせ夢月ちゃんの特製弁当だからね!」
圭吾は自分が作ったわけでもないのに、何故か勝ち誇った顔をしている。
皆が笑いながら弁当を食べている。
そんな光景を見ながら俺はふと思った。
夢月がいつも弁当を多く作る理由だ。
それは、たくさんの友と一緒にこの弁当を食べながら
笑顔でいるこの光景になるようにしたんじゃないか、そんな感じがする。
夢月には、感謝していかないとな。
そんな決心をして弁当の方を見て驚く。
あと半分も残っていなかったのだ。
「・・・ってお前ら!俺の分も残しておけよ!」
俺は急いで参加し、久しぶりに騒がしい昼食となった。
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