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クリスマスは強盗と
作:リープ





「メリークリマス!!」
 みんなは言う
 でも私はそれを無視する。
 私の欲しい言葉はそんなのじゃないから……


 去年、私は女の子同士、友達と4人で騒いだ。
 そして今年――
 『ゴメンネ。みんなと遊びたいけど、やっぱりクリスマスは彼氏と過ごしたいし……。と、いうことでハッピーメリークリスマス!!』
 ほぼ同様のメールが3通来た。
 『ゴメンネ』は別にいい。
 『彼氏と過ごしたいし』も百歩譲って気にしない。(少しするけど……)
 問題は『と、いうことでハッピーメリークリスマス』の部分だ。

 なんで『誕生日おめとうじゃないの?』

 そう、私の誕生日は12月24日、クリスマスイヴだ。
 小さい頃からケーキや誕生日プレゼントはクリスマスと兼用、おめでとうもクリスマスのついでみたいに扱われる。
 25日に生まれたらしい「聖なる人」のせいで私の誕生日はメチャクチャだ。


 そして今日はクリスマ……じゃなかった、私の誕生日。
 時間は午前10時。
 すっぴんで部屋着のまま、テレビをつけてコタツに入り和んでいる私。だらだらコタツ机に頬杖ついて、テレビに映るクリスマス特集を眺める。
 くそっ、実家にいればこんな寂しい思いはしなくて済んだのに。大学生になって一人暮らしを始めたのは良いけど、こんな落とし穴があったとは気付かなかった。

 ……にしてもなんだろう、このいても立ってもいられなくなるやるせないこの気持ちは。
「あっ、きっとすっぴんのままでいるから緊張感が無いんだ」
 なぜ独り言? なぜすっぴんのせい?
 私はあえてその疑問をスルーして、化粧を始めた。
 一時間後、化粧をして部屋着のまま、テレビをつけてコタツに入り和んでいる私。
 やっぱりいても立ってもいられない気持ちは変わらない。
「うん、部屋着を着替えよう」
 もう、自分のくだらない発想に突っ込む余裕はない。
 そして私は化粧に勝負服で、テレビをつけてコタツに入り和んでいた……はずなのにどんどん私の中で焦りが出てくる。
「なるほど、最大の原因はテレビつけてコタツに入ってたことだったのか!!」
 んなわけがない。
 でも、実行しないと気づいてしまいそうになる。
 なにに気づくって?
 なんだろう?

 そしてお昼前。
 最終的に静かな部屋に化粧で勝負服の私が立っていた。
 片手で頭を抱えながら、もう一方は腰に手をあてこれからどうするか考える。
 時間は刻々と過ぎていった。私にとってそれはすごく都合がよい気がする。早くこんな時間過ぎてしまえ。
 とうとう30分間立ち続けて悩んだ末、「そうだ、外に出よう!」と口にした。
 なんてことない結論だった。

 外に出たら何があるというのだろう。
 何もない。(結論早っ)
 それでも私の足は何故だか賑やかな方へと進んでいく。
 途中すれ違う幸せそうな家族を見つけると、その中でも一際幸せそうな子供を睨みつけ、半泣きにさせた。

 でも何より幸せそうなのはカップルだった。
 『はんっ!! どうせクリスマス一人になりたくなくて付き合っただけの、にわかカップルのクセに調子こかないでよ!!』と心の中で街中に群がるカップルに毒づく私。
 勢い余ってカップルに向かって中指を立てる私。もちろん二人に見えないように後ろから。
 そして、中指を突きたてた手をゆっくり力なく下げた。強烈な現実感が私を襲い、体中が寒くなる。

 ――ふと立ち止まって考える。
 なんだ。私、一人じゃん……

 そう思うと冗談にもならない寂しさがこみ上げてくる。私はそれを隠すように、コートの襟を自分に引き寄せた。
 楽しい人たちが疎ましい、でももっと人がいる所へ行きたいという相反する気持ちが私の中で葛藤する。
 なるべく無害で悲しい気持ちにならない賑やかな所を探そう。

 そこで見つけたのは銀行だった。
 銀行なら15時までしのぐ事が出来る。銀行ならみんな考える事はお金の事だけ。しかも、やたら慌しくて妙な活気があって、人は絶える事がない。
 私は街中から逃げ出すように銀行へ入った。
 今はここぐらいしか私を受け入れてくれる場所はないのだ。

 あーあ、今幸せそうにしてる奴、みんな不幸になれっ!!





 私は相当、ついてないらしい。
 何で隣り合ってる人と手足を縛りあわなきゃいけないの?
「おい、お前!! ブツブツ言ってんじゃねえよっ!!!」
 そう言って私を脅した男は銃を持っている。

 私は銀行強盗に巻き込まれたのだ。

「はい……(ちっ)」
 とりあえず、文句を言うわけにも行かず黙って隣の人の手足を縛る。
 あー神様、皆の不幸をお願いしてごめんなさい。
 皆の不幸は私の不幸にも繋がってました。
 こんなときだけ一蓮托生、宇宙船地球号でした。
 っていうかこの銀行強盗、金を取ったらさっさと逃げればよかったのにっ!!



 一時間ほど前、長イスに呼び出しがかかるわけでもないのに待っている私。かなり混雑していたので、席を詰めて座っていた。軽く触れ合う感覚でなんだか人の暖かさを感じてしまい、私はウトウトしていた。
 ああ、ここでずっとこうしていたい。
 そして、15時少し前。
 もうすぐここを出なくちゃと思っていた私の目に早足で銀行に入る男が映る。
 男は順番待ちの紙を取ることなく、受付へと向かった。私はその光景をただぼんやり眺めていた。
 すると受付の銀行員に向かって男が何かを突きつける。
 さらに男が持っていた「何か」は刑事ドラマで見たことがあるような拳銃。その瞬間、銀行内に悲鳴が起こった。
 乾いた音を立てる発砲音。騒然とする行内。入り口になだれ込むように逃げる人々。
 私はぼんやりしていたせいで、皆よりかなり反応が遅れた。
 逃げなきゃと思い、立ち上がったときにはシャッターが半分以上降りた後。
 結局、私を含め20人近くの人が行内に残された。



そして現在、銀行強盗が用意したロープを二人一組になって私達人質がお互いを縛っている最中。
 シャッターを閉めているからハッキリとわからないけど、外からはサイレンの音が聞こえる。どうやら警察はもう銀行の前にいるみたい。
 なんでもいいから警察、早くコイツを逮捕してよ。
 人質全ての人が手足を縛り終わると、銀行強盗は私たちを並ばせた。
「よし、お前たち皆縛ったな。ゆるく縛って俺を隙あらば捕まえようとか、ここを逃げ出そうとか思うなよ」
 そして、強盗は満足げに私たちを見渡すと、今度は一番前にいる恰幅のいいオヤジに強盗が話しかけた。
「お前、今日の予定は?」
「え、え?」
 突然の質問にオヤジは戸惑っていた。
 あたふたしているオヤジに銀行強盗はしびれを切らし、拳銃を突きつける。
「『クリスマスイヴの予定はあるのか』って聞いてるんだよ!!」
「あ、あ、あ、か、か、家族で外食を……」
「ふうーん。すると、そのためにお金の引き出しに来てオレに巻き込まれたと」
「は、はい……」
 がっくりしたオヤジの反応を見ると、男はニヤリとしてジャンバーのポケットから錠剤のようなものを取り出した。
「コレを飲め」
「い、嫌です……」
「飲めって言ってんだよ!!」
 そういうと男はオヤジに銃をつきつけた。さすがにこの状況では飲まないわけにはいかないと思ったのか、オヤジは錠剤のようなものを飲み込んだ。
「ちゃんと飲んだかチェックするからな」
 男はオヤジの口を開けさせ、丹念に調べた。
「どうやら飲んだみたいだな。ところで、その薬なんだと思う?」「わ、わかりません……」
「青酸カリだよ」
 オヤジは青酸カリと聞いた瞬間、大きく目を開けおどろいた。
 その後、涙目になりながら命乞いをする。
「よし次」
 しかし、銀行強盗はオヤジを無視をして、隣に座っている次の人質に今日の予定を聞く。
「お前は?」
「子供にプレゼントを……」
「じゃあ、これを飲め」
「嫌だあぁぁっ!」
「暴れても無駄だ。無理やり入れてやる」
「ひいいぃぃぃぃっ!」
 こうやってクリスマスの予定を聞いた後、強盗はポケットから取り出した錠剤を次々と飲ませるのだった。

 それにしてもココに居る人質は、みんなこの後の予定がある人ばかりだ。
 私は少し“コイツ等いい気味”とか思った。
 しかし、そんなことを思うのも少しの間だけだった。
 とうとう私の番が来たからだ。
 
 強盗は私の前にしゃがみ込んで質問する。
「お前、今日の予定は?」
「うっ……」
 私は答えられなかった。
 だって、予定なんてないんだもん。恥ずかしいじゃん。
「答えろ」
「でも……」
 私が言い渋ると強盗は無言で銃を突きつけてくる。私は自分の命と自分のプライドを秤にかけた。
 結果はアッサリと自分の命が勝った。
「特に……ないです」
 なるべく他の人に聞こえないようにボソッと呟く。
 考えてみれば嘘でも良いから何か予定を言えばよかったなぁ。
 しかし、強盗には聞えなかったらしく、耳に手を当てた。
「あぁ? 何だって?」
「特にないです……」
「聞こえねぇー」

 私は少しカチンときた。
 なんで私だけがこんな目に遭わなくちゃいけないわけ? 他の友達は男と上手くやってるのに!! 私は誕生日なんだよ!!
 拳銃突きつけられて、予定がないと告白したらきっと人質の皆に予定もない哀れな女として永遠に心に刻まれるんだ……
 するとなんだか怒りがこみ上げてくる。
 さらに今の今状況と友達の幸せ具合が私の中で混ざり合う。
 私だけなんで、なんで……なんでよ!!
 自然に握った拳に力が入る。唇が震えてきた。
「……わ、悪い?」
「なにが?」
「予定」
「はぁ?」
 とぼけた強盗の反応に私の怒りは頂点に達した。
「予定なんてないわよ!! 悪い?! えぇ?悪い?!」
「い、いや悪くない」
「はぁ? なにそのあいまいな言い方。やっぱり悪いんでしょ?  やっぱり悪いんだ! 私の誕生日が今日で悪い?」
「えっ、そうなの?」
「どうせ私なんか誕生日にこんな所へ暇つぶしに来て、こんな不幸な目に遭ってどうせ、どうせ死ぬんだからっ!!!!」
 今あげられる一番大きな声で怒鳴ってやった。どうせ言ったって言わなくったって変な錠剤飲まされて死ぬんだから!!
 私が睨みつけると強盗はしばらく動かないままこちら見つめる。
「なに? 誰とも会う予定が無いのにおしゃれしちゃ悪いわけ? こんな日に一人で街をあるいちゃ犯罪なわけ?」
「い、いや……」
 私の言っていることはかなり逆ギレかもしれないけど、この際構わない。言ったもの勝ちだ。
 すると強盗は気圧されたのか、何事もなかったように私の隣に場所を移し、次の人に質問をした。
 えぇ? 私には変な薬を飲ませないわけ?
 もしかして私、強盗を怒らせちゃった? 後で私だけ見せしめに銃で殺されるとか? という新たな不安を抱えると同時に言いたい事が言えたスッキリした気分半々で強盗を待つ事になった。

 数分後、ようやく人質全員へ質問が終る。結局、私以外の人質は皆薬を飲まされた。
 その後、強盗は私たちから少し離れた所で座り込んだ。
 強盗の目的がわからないまま無駄に時間が過ぎる。
 自分の感覚で2,30分経過したと思う。強盗はまだ座り込んだまま動かない。んで、私達も動かない(というか動けない)。
 そんな時「きゃあっ」と小さい悲鳴。
 と同時に何かが倒れたような音がした
 私は音のほうへ振り向く。
 すると最初に薬を飲まされたオヤジが倒れているじゃない。私は戦慄した。まさかさっきの薬のせい?
 ということはこれから私を除く全員がこうやって死んで――
「グーグー……」
 はい? 今なんか寝息のようなものが聞こえてきましたけど?
 よくみるとこのオヤジ、よりにもよって寝てるじゃない。
「睡眠薬が効き出したようだな」
 その声の主は強盗だった。
 すると他の人質も倒れ込むように……寝た。
 最後には皆寝てしまい、私だけが取り残される格好となった。
「そろそろいいだろう」
 強盗はおもむろに立ち上がると。軽く体を動かし始めた。そして、体が暖まったのだろうか? 何回か軽くジャンプした後、私のほうへ近づいてきた。
 とうとうこの時が来たのだ。きっと警察の前に人質として私が立たされるに違いない。または見せしめに殺されるのかな?
「こ、こ、殺すの?」
「さぁ?」
 ニヤリと笑う強盗に背筋が凍りつく。
 こんなところで死んでたまるか!!
 私が抵抗しようとすると強盗は力ずくで私を抑えた。
「大人しくしろ! すぐ終るから!!」
 え?マジで? ここでするの?
 いくら私が若い女だからって!
 え――っ!? 嫌――――っ!!





 人生どうなる判らないものだ。
 私は今、とんでもない事をしようとしているのだ。
「じゃあ、お前にはコレだ」
 そういって渡されたのは小型の拳銃だった。

 結論から言うと、強盗が私を押さえつけようとしたのは手足に結ばれたロープを解くためだった。
 私は手足が自由になり、2,3度手首や足首を回した。だからといって、自分の身が安全になったわけでは全然ない。
「今からお前に手伝って欲しい事がある」
 そう言うと強盗は持参していた大きなスポーツバックを漁りだした。
「あの、私はどうすれば……」
 すると男はこっちを見ずに言った。
「警察と銃撃戦」
「はぁ?」
「お前どうせこのままやってても何も予定がないんだろ? だったら手伝え」
「うぅ、意味わかんないんですけどぉ」


 すると強盗は外を指差した。
「街を見てみろよ。幸せなヤツがゴロゴロしてる」
「はぁ……」
「そいつらに風穴を開けてやるんだ。不幸せな人間がココにいるぞって表現するんだ」
「そんなの違う事ですればいいじゃない?(何も私を巻き込まなくてもいいじゃない!!←心の声)」
「俺、銃撃戦が好きなんだ」
「いや、そういう問題じゃあ……」
 私の意見完全無視。
 呆然とする私に強盗は困ったような顔をした。
「って説得力ないか。まぁ、お前に言っても判らんとは思うけど、俺、ちょっとした失敗をしちまってな。今では命を狙われる身さ」「はぁ……」
 確かによく分からない話だ。分からないなりに自分の中の想像力をめぐらせてみる。
 この人はヤクザ者で鉄砲玉かなんかになって、敵対する組長を殺そうとしたんだけど、失敗して逆に狙われている設定っと……なんて、ありえないか。
「昨日は工事中の土管の中で一夜を過ごしたんだ。震えながら聞こえてくるのは何だと思う? 地上から聞える楽しげなクリスマスソングさ」
 土管の中ですごした話はやっぱり分からないけど、最後の言葉でなんなく私の状況に近づいた気がした。
「こんなにオレは震え怯えているのに世間の奴らは楽しげに過ごしてるんだぜ? 惨めな気持ちにもなるさ。だから俺は思いついたんだ」
「何を?」
 すると強盗はすごく楽しそうな表情を見せる。私は人質なのにその表情にワクワクした。
「こんなに楽しいクリスマスに参加しない訳にはいかないだろ? 世間の奴らが喜びでクリスマスを祝うならオレ達は……この鉛の弾でクリスマスを祝ってやろうじゃないか」
「ええっ!? って、もしかしてその『オレ達の』中に私も入ってる?」
「もちろん」
「そんなぁ……」
 私まで巻き込まないでよって思ったのが伝わったのか、強盗は視線を下げて、少し残念そうな表情をした。
「お前もオレの気持ちがわかるかなと思ったんだけどな」
「なんでそうなるの!?」
「だって、お前……独りなんだろ」
「えっ……」
 私は思わず言葉に詰まってしまった。
 だって、強盗の言葉に頷きそうになったから。

「いや、ダメならお前も寝たフリでもすればいいだろ……」
 私に背を向けブツブツと小声で文句を言う強盗の丸くなった背中を見ているとなんだか変な気持ちになってしまう。
 少しぐらい楽しんで良いじゃん。
 だって、私。今日誕生日なんだよ。
 誰も祝ってくれないんだったら……自分で祝おう!!
「私、一度拳銃撃ってみたかったんだ」
「えっ!? マジで?」
 私は黙って頷いた。
 すると、曇っていた強盗の表情は一気に晴れて満面の笑みになる。
 私たち人質と強盗の関係だよね?
 でも、なんだか可笑しい。
 だってこの強盗も独りが嫌になってここに来たのだから。
「よし、決まりだ。じゃあ、拳銃を渡すから後よろしく」
「アナタ、変。人質なんかに銃を渡してただで済むと思ってるの?」
「だったらオレを殺せばいい。そうすればお前は自由になれる」
「自棄になってる?」
 すると強盗の表情は真顔に戻る。
 そしてため息混じりに私の質問に答えた。
「……かもな。どうせ死ぬんだし」
 私は何もいえない。
 さっきの追われてるって話は本当なの?
「それに外を見ろよ警察の奴らはバリケード作って完全防備だ。こんな拳銃を発砲したところでどうにもならんさ。お前には迷惑かけない。全部オレがやった事にするから」
 私は強盗の気持ちは理解できない。
 でも1つだけ判るとすれば……独りだろってところ。
 この強盗が寒さに震え、殺される恐怖に怯えながら、楽しげなクリスマスソングを聴きいて一晩を過ごしたんだと思うと(他人事ながら)なんだか哀しかった。
「私はあなたに脅されてやった。それでいいんでしょ?」
「おぉ、ありがとう!!」
 こうして強盗と私の短い銃撃戦が始まった。
 こんな聖なる日に……。


 とりあえずブラインドから覗いてみる。外はすでに機動隊の盾がビッシリ並んでいた。
「うわぁ、隙がない」
「隙がないから良いんだ。とりあえず撃つべし!!」
 そういうと強盗は外に向けて発砲した。
 締め切りの窓もから撃ったので、ガラスの割れる派手な音ともに意外と淡白なパンという音がして機動隊へ弾が飛んでいった。
 すると、着弾したと思われる付近がにわかに騒ぎ出し、いままで一糸乱れず並んでいた盾がガタガタ動き出した。
 あわわ、慌ててる……
「おもしれー!! お前も撃ってみろよ」
「う、うん」
 こうなったらやるしかない。あれだけの盾だもん、大丈夫だよね。
「よ〜し!」
 思った以上に重量感のある拳銃を持って適当に当たりをつける。
 一般市民なのにどうしてこんなことを……なんて今は考えない。
 とにかく撃つべしっ!!
 私は強盗に頷き、拳銃を構え発砲した。
 再び、ガラスが割れ機動隊がやたら慌てていた。
「親指の付け根が痛―い」
 親指の付け根に強烈な発砲の衝撃が襲い、私はあまりの痛に拳銃を落とす。
「バカだなぁ。撃ち方にはコツがあるんだよ。お前みたいな撃ち方したんじゃあ、親指に負担がかかるだけだぜ」
 そういうと、強盗は見本を見せた。私は手の痺れが取れると強盗のまねをして発砲した。
「あっ、あんまり痛くない」
「だろ?」
「それにしても、警察は撃ち返してこないね」
「日本の警察だからなぁ。アメリカだったら今頃どうなっていた事か」
 私たちは引きつった笑みを浮かべ顔をあわせる。
 ……ここが日本で本当によかった。

 その後、私達はただ夢中で発砲していた。
 何だか凄く気持ちいい。
 全部忘れられそうな気がした。
 嫌な事も良い事も全部。
「オレだって好きでこんな生き方してんじゃねぇーっ!!」
 いつのまにか強盗は何か叫びながら発砲していた。
 それがあまりにも気持ちよさそうで、私も真似がしたくなった。 大きく息を吸い込み一気に声と共に吐き出す。
「イ○スのバカヤロー!! アンタのせいで私は一人になった気になるじゃない!! それから、くたばれこのバカップルー!!聖なる夜の『せい』の字を勘違いしてんじゃねぇよ!!」
 そして発砲。
 さらに強盗も声を上げる。
「お前等に言っても判んねぇだろうけど、オレだって死にたくねぇんだよ!! 真っ暗な土管で震える気持ちが判るのか? 判るわけなぁよなぁ!!」
 二発発砲。
「アホ!! アホ!! アホ、由紀子!! あのメールホントはゴメンが言いたいんじゃなくて自分が彼氏と過ごすんだってアピールしたいだけじゃない!! いままでコソコソとバレない様に付き合ってんじゃねぇよ!!」
 わからないぐらい発砲。
「『鉄砲玉なんてやくざ冥利に尽きますねぇ』だぁ? ふざけんな!! てめぇの心内なんてバレバレなんだよ!! くだんねぇおべっか使ってんじゃねぇ!!」
 堪らなく発砲。
「みんな、みんな、私を置いてとっとと結婚して子供つくって孫出来て、『あ〜シワセダナァ』とか言って愚にも付かない家族生活送ればいいじゃない!! あぁ、お前らメデテエナァ!!」
 わけも分からず発砲。
 とにかく私達は色々な意味で発砲した。





 外においてあるパトカーのガラスも殆ど割れ。警察は乱れ飛んでくる弾に動く事もできず、私達はただストレス発散の為に撃っていた。
「っていうか、アナタ本当にヤクザだったの?」
「あはは、それも今日終わりだ、この野郎!!」
 またもや発砲。
 とにかく、こんな体験は滅多にできない。
 自分の誕生日がクリスマスで拳銃を発砲してるのはこの世で私だけ!!
 私だけの特別なクリスマス。
 少しだけ私は神さ……いや、強盗に感謝した。
 しかし、その終わりもあっさり来た。

 いくつかの銃声の後、誰かの叫ぶ声が聞こえたからだ。
「おい、しっかりしろ!!」
「きゃあああっ」
「早く救急車を呼べ!!」
 発砲した弾がとうとう人にあたったらしい。
 まさか弾があたるなんて、狙いも定めず撃ったんだよ……
 外がにわかに騒がしくなり、倒れた人の周りに群がる人々。
「あ、あたった?」
「そうみたいだな」
 腕をおさえた人がタンカに運ばれていく。
 その光景にようやく私に現実感が戻って来た。
 ……手が震えてる。
 私、私、なんてことをしてしまったの!?
 取り返しのつかないことを……
 いつの間にか私は体全体を震わせ、その場に座り込んでしまう。
 そんな状況に強盗はため息を一つ付くと頭をかきながら私に言った。
「祭は終わりだ。お前は寝てるフリをしろ」
「……え?」
「他の人質と一緒にいましたっていうフリをするんだ」
 すると強盗は私から拳銃をもぎ取ると身支度を始めた。
「で、で、でも撃ったのは私だし……」
「言ったろう?お前には迷惑かけないって」
「でも!! でも……」
 私は目に涙を溜め、今にも泣きそうだった。
 その瞬間――
「誕生日おめでとう」
「え?」
 私の頭にふわっと強盗の手が乗せられた。
 突然のことに私は強盗を見上げた。
 強盗は柔らかく微笑んでいた。
「誕生日なんだろ? お前」
「う、うん……」
「悪いな。このセリフを言うのがオレなんかで」
「ううん、そんなことないよ……」
 この言葉はウソなんかじゃない。
 だって今日初めて私へ『おめでとう』って言ってくれたんだもん。

「お詫びにオレが天国にいるかもしれないクリスマス生まれの聖なるオッサンに文句言ってやるから」
「えっ、なんの話?」
 そういうと強盗はポケットから人質に飲ませた薬と同じ形のものを取り出し、自らの口に含む。
「それって……」
「ん? 警察の取り調べは退屈だからさ、眠ってやろうと思って」
「もう……」
 私に拳銃を撃たせたり、最後まで人を食ったようなことをする人だ。
「じゃあいってくる」
「まってよ、私も行く」
「こなくていい!」
 私は立ち上がろうとするけど、上手く体が動かない。
「あれ、あれ? どうして?」
「あはは、腰が抜けて動けないし」
 強盗はそれを見てすこし笑った。
「んじゃあな、メリークリスマス。最後に言えたのが女の子でホント良かった」
 きわめて軽い挨拶を交わした強盗は銀行のシャッターを開け、警察に投降した。
 私は一緒に行くことができない自分の情けなさに、唇を噛み締めた。



 その後の事はしばらくよく憶えていない。
 大勢の警察官が銀行へ入ってきて、私達人質は保護された。毛布にくるまれながら私はただ呆然としていた。
 一体、彼はなんだったんだろう?
 たいして分かりあう暇もなった。
 でも……どこかで分かりあえた気もする。

 座り込んでいる私に偶然、刑事の話が耳に入ってきた。
「おい、あの強盗いつの間にか口に青酸カリ飲んでて、今さっき病院に運ばれたが手遅れだったらしい」
「えっ!?」

 脳裏に強盗が去っていく間際に言ったことを思い出す。
『お詫びにオレが天国にいるかもしれないクリスマス生まれの聖なるオッサンに文句言ってやるから』
 私の目の前は霞んでゆき、いつのまにか涙が溢れていた。
「……どうせアナタは地獄逝きじゃない……バカ……」
 そして私は声を上げて泣いた。

 すると近くを通りかかった婦警さんが私へ近づく。
「よっぽど怖い思いしたのね。さあ、コレでも飲んで落ち着きなさい」
 そう言って温かいココアを差し出してくれた。
 私は湯気をたてているコップをもらうと泣きながら飲んだ。
 ココアは甘く私を温めてくれた。


短編ながら長いお話に付き合っていただき、ありがとうございました。













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