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短編小説たち

みはる

作者: 津久美 とら

玄関を開けると、ふわりとあの人の香りがした。


「来てたんだ」


来てくれていたのに、間に合わなかった。

今日は残業が長引いたから。



あの人はいつも、連絡もしないでふらりと訪れる。

わたしが居ても居なくても、どちらでもいいみたい。

ふらりとやって来ては、香りだけ残して帰っていく。

それと机の上の書き置きと。


『美晴へ。来たよ。また来るね。』


知ってるよ。分かってるよ。でもあなたは分かっていない。



丁寧な字。

書き置きを残すくらいなら、電話なりLINEなりしてくれたら良いのに。

そしたら会えるのに。

だけど、その書き置きが嬉しくて愛おしくもある。

わたしも会えても会えなくてもどちらでもいい。



残していく香りも好きだ。

甘いような苦いような、たばこの香り。

机の上に置いてある灰皿を使わないところも。

あの人のために買ったのに。

几帳面な人。

ちょっとだけ無粋な人。



ふわりと漂うあの人の香りと気配。

わたしはそれを抱きしめて眠る。


次に会えたら、わたしの名前は『美春』と書くことを伝えよう。

几帳面なあの人は、次からはそう書き置きを残してくれる。


『美春へ。来たよ。また来るね。』


でも本当はどちらでもいい。

あの人がわたしを、『みはる』を想って書いてくれる。

それでいい。


ふらりと来ては、ふわりと香りと気配だけ残していく。

それでいい。

それで、みはるは充分。


きっとあなたはその事だけは分かっている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短くまとまっていて、また行間も、うまく活用されていで読みやすかったです。短い中でも、メッセージがしっかりしていていいなと思いました!!! [一言] これからも頑張って下さい!!
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