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95,地下保管庫突入

 慌てて呼び止めると、速く逃げたいんだけどなんだよという不満げな顔で魔法研究者がこちらに振り返る。

 助けたんだからちょっとくらい協力してくれと思いつつ、俺は続ける。


「魔道具の研究をしているなら、触れざる左手の場所、わかりますか? どうやらそれが狙いらしいんです」

「あの秘宝を……? どうしてモンスター共が?」

「そこまではわからないのですけど、聞き耳立てたらそういってたんです。其の場所を教えて欲しいんです、首謀者をとらえるために」

「そうか、君たちならここでも自由に動けそうだ。わかった、教えるから早くなんとかしてくれ」


 研究者から左手のある魔道具保管庫の場所を聞き出した。

 いくつかそういった場所はあるが、東棟の地下の保管庫が特に貴重なものの保管庫になっているらしい。


「よし、ジャクローサ、行こう」

「うん!」


 俺たちは急いで向かう。

 思いっきり一戦交えたし、こうなったらこそこそするより相手が次の動きを起こす前に決めてしまう方がいい。


 途中でゾンビにあったが、弱ゾンビだったためあっさり切り伏せ、足を止めずに一気に地下の保管庫まで向かった。


「さすがに、見張りがいるか」

「スケルトンアデプトが1体に、ハイワイトが2体だよ」

「強い?」

「かなり」

「ジャクローサなら――」

「時間はかかるけど、勝てるとは思う」

「なるほど。よくわかるね」

「ダンジョンで修行した時に、戦ったから。結構たくさん」


 へえ、アンデッドがたくさんいるダンジョンがいるのか。

 落ち着いたら詳しく聞きたいね。


「だったら、ここ任せてもいい? 俺は、奥にいる首謀者のところへ行く」

「うん。それが合理的だと思う。エイシの方が強いから」

「よし、じゃあ行動開始だ」


 ジャクローサが、物陰から飛び出した。

 すぐさまモンスター達がジャクローサに近づいて行く。

 ジャクローサは闘技場で使っていたものよりは小型の槍と盾で――これは普段から持ち歩いているようだ――応戦しつつ、入り口から引き離す。


 その瞬間、俺は隠れていた場所を飛び出して、保管庫に飛び込んだ。

 同時にジャクローサが立ち位置を変え、見張っていたモンスター達が入り口に戻れないように進路を塞ぐ。


 さすが、頼りになりますジャクローサさん。


 保管庫は、非常にひろい空間だった。

 研究者から少し聞いたが、魔道具同士が万が一干渉することを防ぐために、スペースを開けているらしい。

 体育館くらいの広さがある空間に鍵付きの箱がおかれていて、それをこじ開けている者が一人。


「あなたが、学校を占拠した首謀者か!」


 地下に声が響く。

 その瞬間、ガチャガチャと箱をいじっていた者が動きを止め、顔をこちらに向けた。


「なに、お前。ゾンビじゃなさそうだけど」

「人間だよ。学校を解放するために来た。悪事もここまでだ」


 魔道具の光が照らす地下室では、ものも人もよく見える。

 驚いたようにこちらを向いているその首謀者が、犬歯を見せて笑った瞬間、俺ははっとして足を止めた。


「へえ、ここまでやってくるなんてやるじゃない、人間」


 か、かわいい。


 そこにいたのは、俺と同じくらいの年に見える女だった。

 灰銀色の髪は二つにくくられ、それぞれきれいに巻かれている。

 尊大な表情の源となっている目の中心、瞳は朱色に燃えていて、偉そうに腰に手を当てているポーズが、まるで写真撮影かなにかみたいに様になっている。


 その表情を、その目を見ていると、吸い込まれるような――はっ!


 俺は慌てて目をそらし、自分の頬をパンパンと叩いた。

 この感覚、そしてアンデッドの首領。

 これは――ヴァンパイアだ。


 のまれないよう、意識を強く持ちながら近づいて行くと、ヴァンパイアは手を伸ばし、撫でるような動作をする。


「このエピ様が褒めてあげる。えらい、えらい」

「それはどうもありがとう。でも偉いと思うなら、褒美にここを解放してもらいたいな」

「ええ、いいよ」

「え?」


 思わず間の抜けた声をあげてしまった。

 いいのかよ!


「だって、目当てのものは見つけたから。秘宝、たしかにいただいた。そうとくればもうこんなところに用はない。おさらば!」


 俺が呆然としている間に、保管庫を出て行こうとするエピ。

 だが、俺はなんとか我を取り戻し、進路を防ぐ。


「ちょっと待った! 出て行くならその手に持ってる箱を置いていくんだ」

「そんなことできるわけないでしょ、なんのためにここに来たのかわからないじゃない。ちょっとはものを考えて言うべきよ、人間」

「考えてるよ!」


 というかなんなんだ、この緊張感のないヴァンパイア。

 一応俺という敵が来たのに、こんなにとぼけてるというか、自然体というか、全然焦ってない。

 暢気なのか?

 それとも――自分がやられるはずないと自信を持ってるほどの実力がある。


「ふう。とにかく、そんな大事なものをこんなことしでかす相手に渡すわけにはいかない。どんなことに使われるかわからないし、そもそもドロボウだし」


 立ちふさがった俺は、手を広げ、マジッククラフトで剣を広げた手で握る。

 エピは、口をとがらせ考えるような表情をしていたが、はぁと息を吐き出して、ポケットから何かを取り出した――これは、スペースバッグだ。


「別にお前とやりあってもいいんだけど、時間を無駄遣いしたくないんだよね。だから見逃してくれれば早いと思ったんだけど、だめなら仕方ない。偉大なるヴァンパイア、エピ様の力、思い知らせてやろう」


 威圧するよう牙をのぞかせ、スペースバッグに手を入れる。


 何が出てくる?

 俺はいつもの自己強化スキルをかけ、身構える。


 ゆっくりとスペースバッグからエピの白い手が引き抜かれ――。


 眩い閃光と煙が周囲一帯を覆った。


「なっ!」

「なんてうっそー、ひっかかったな! じゃあね、人間!」


 視界が奪われた俺の耳に、遠ざかる足音だけが聞こえる。


「くそっ、やられた!」


 あれだけ自信満々な態度をとってたくせに、煙幕張って逃げるのかよ!


 悪態を胸の内でつきながら音を頼りによろよろと歩いて行き、保管庫を出ると、その前の廊下にも煙が充満していた。


「ごほっ、ごほっ」

「ジャクローサ、大丈夫?」

「エイシ君、何か出てきたと思ったら、光と煙が――」

「それが首謀者! 先に追っていく!」


 精霊オンディーヌの力で自分の周囲に水球をいくつも発生させ、煙をすいとらせて最低限の視界を確保、眩んだ目もなおってきた。

 強化魔法でスピードが強化された体をもって、俺は全力でエピに追いすがる。




 相手の足音や痕跡を追っていくと、どうやら予想どおり入り口へと向かっているそうだ。

 目当てのものを手に入れたから、さっさととんずらしようというのだろう。

 俺は全力で追いかけ、校舎を出る。


 背中が見えた。


 校門をまさに出た瞬間の、エピの後ろ姿が目に入る。

 エピは走って逃げ――え?


「止まった?」


 何が起きたんだ?

 

 俺は足音を殺し、慎重に校門を出たところでなぜか不意に足を止めたエピの背後に迫っていく。


「こんなところで会うとは、さすがに私も驚いたよ。久方ぶりじゃないか、エピ」


 聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

 直後に声を発した者の姿が目に入る。


 え、リサハルナ?


 リサハルナとエピが、校門の外でじっと見合っていた。


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