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94,最後に一つはたいていさらにもう一つくらいある件

「それ、僕も協力します――!」


 ガタガタガタっと音が廊下から聞こえてきたと思うと、ドアが開いて見慣れた顔と声があらわれた。

 俺より先に口を開いたのは、ミナン。


「スウ。教室にいたんじゃないの?」

「あはは、それが、ちょっとありまして」


 照れたように頭をかくスウの姿があった。




「というわけで、ジャクローサに助けられて、逆に助けるチャンスをうかがってたんです」

「そう。ジャクローサって言ったわね。ありがとう」

「うん。どういたしまして」


 ミナンが感謝の意を示すと、ジャクローサは穏やかな表情でそれを受け止める。

 スウから手短に話を聞いたところによると、今日の昼、ジャクローサとスウは一緒にいたらしい。この前のことで結構意気投合したみたいで、魔法のことを教わったりしていたようだ。


 そんなとき、校内にゾンビ達がなだれ込んできた。

 慌てるスウをジャクローサは素早く隠れさせるとともに、自分があえて姿をさらして人質に。

 スウは身代わりになったジャクローサを救うタイミングを探っていて、そして、ここに来たということらしい。


「本当に、ありがとうございます、ジャクローサ」

「ん。たいしたことじゃない。多分スウぐらい魔法が得意なら、捕まっても大丈夫だったと思う」

「いいえ、そんなことありません。内心怯えていましたし。でも、大丈夫です、もう。やりましょう、学校の他の生徒を僕がしてもらったみたいに助けるます」


 スウはすっかりやる気になっている。

 顔をかすかに赤くして、熱気が伝わってくる。

 この異常な状況に興奮しているようだ、普段の態度とは違い、結構熱血漢タイプなのかな、と俺は思った。


 いずれにせよ、都合がいい。

 人数が増え、ジャクローサもいる。これなら動きやすい。


「それじゃあ、やろう。あくまで、第一は隠密で。特にスウとミナンは無理しないで。見つかったら素直に捕まるくらいでいいからね」

「はい、エイシ」

「私も倒せるわ」


 ミナンは相変わらず強気だ。

 まあ、今の相手くらいなら倒せるだろうなたしかに。

 俺はスウ達の足下にいるハナに「二人のこと頼むよ」と声をかけると、「きゅうー」と力強く鳴いた。

 うん、頼りになる。見た目は愛らしい獣だけど、レベルはそんじょそこらの冒険者を軽く凌駕するレベルだからな、もちろんこの二人よりも強い。


 俺たちは二手に分かれて首謀者を探すことにした。もちろん素早く探すためである。俺はジャクローサと組み、ミナンとスウとハナが組む。戦闘力を考慮して、三人組にしたが、基本的には見つからないで行く予定だ。

 学校のことをよくわかってるものどうしで組んだ方が無駄が無くていいだろう。

 探索重視と戦闘重視。役割分担で効率的に。もちろん、俺たちも必要がなければなるべく見つからないようにするし、状況把握にもつとめるつもりだ。


「さあ、作戦開始」


 そして俺たちは行動を開始した。


 それぞれ主に東棟と西棟をメインに探っていくことにした。

 俺たちは東が受け持ちだ。


「こっちはまだ安定してないから危険だな」


 東棟は、研究室や実験室などが多くある、普段授業を受けるのは逆の棟だ。大部屋に生徒がまとまっているということがないので、ゾンビ達が色々な部屋をまわって中にいる人を出して一カ所にわざわざまとめているらしい。

 それだけに、まだ隠れている人がいるかもしれないと、巡回や警戒中のモンスターが多い。


「うん。見つかりそうだけど、大丈夫?」

「俺が先に行ってみて、安全か確認する。それからジャクローサも来て」


 ジャクローサは何も言わずにこくりと頷く。それなりに実力を信頼してもらっているようで嬉しいね。

 俺は【鷹の目】スキルを用い、周囲の様子に対して感覚を鋭敏にする。


 ――っきた。

 ゾンビの接近を察知し、近くの人気の無い用具室に隠れる。

 そして、【ステルス歩法】によって、やりすごしてからゾンビのあとをつけていく。

 ジャクローサにはしばしまってもらい、しばらくあとをつけていき、【精霊の声】も用いて周囲に気を配る。

 しばらく歩いていると、ゾンビが他のゾンビと接触した。


 俺は物陰に身を隠し、様子を探る。

 すると、やりとりをする声が聞こえてきた。

 コミュニケーションをゾンビもとるらしい――ってこれ、人間と同じ言葉だ。見た目が人間っぽいけど、言葉も同じものを操れるのか。


「そっちはどうだ?」

「異常なし。問題なし。文句なし」

「そいつはよかった。こっちもだ。エピ様はそろそろ見つけた頃か?」

「そろそろだろうな、左手があれば一番いいとは言ってたけど、それ以外でもかまわないとは言ってたし、見つからないことはないだろうよ」


 エピ様。

 そいつが首謀者か?

 あの放送した奴だよな、おそらく。


 見つけたってのは、やっぱり何かを探してるのか。

 そしてこの魔法学校ということは――。


 とりあえず、ジャクローサの所へ戻ろう。

 俺は再び、杖やチョーク、石版や繊維質の紙など色々なものがおいてある、若干かびくさい用具室へと戻る。


「エピ。その人がこれをやってるんだね」

「うん、多分ゾンビの話だと。そして左手っていうのを探してるらしい」

「左手。もしかして、触れざる左手のことかな」

「あ、それか!」


 そういえば、そんなものがあると言っていた。

 闘技場でそのコピーが使われてるっていう。


「でもゾンビがなんでそんなものをほしがってるんだろう?」

「それは、僕にもわからない。けど、ここにある左手と言ったら、それくらいしか思いつかないな」


 たしかにその通りだ。

 だとすると、狙いはそういった貴重な魔道具の保管庫ということになる。


「ゾンビって、どういう奴なんだろう、わかる? ジャクローサ」


 ここにいるモンスター達のことがわかれば、狙いもわかるかもしれないと思い尋ねると、ジャクローサはしばし考えてから口を開いた。


「ここにいたのは、ゾンビとかグールとか、あとはスケルトンもいたけれど、皆アンデッドみたい。特徴としては、ただの獣よりは頭がよくて、しぶとい。くらいかな。ゾンビはそうでもないけど、上位アンデッドはモンスターの中でも屈指の強敵」

「エピってのが、その上位アンデッドの可能性もあるわけだ」

「うん。気をつけた方がいいかも。ちゃんと統制して動いてるから、普通のモンスターより厄介だろうし」


 たしかに。

 ばらばらなら怖くなくても、統率して協力したら強いってこともあるしな。やっぱり見つからないで魔道具保管庫に行くのが最良――っ!


 そのとき、スキルで強化された俺の感覚器が、叫びのようなものをとらえた。いや、雄叫びか。あるいはそういった凶暴な気配か。


「ジャクローサ、行こう」


 用具室を飛び出し、気配の元へと走る。

 なるべく静かに、しかし急いで。

 そして、気配が一番濃いところに向かうと――。


「いた……いくしかないか」


 棍棒を持ったスケルトンと、鋭い爪のゾンビがいた。

 魔法の研究者らしき人に対して、襲いかかっている。


「ジャクローサ、あれは?」

「スケルトンソルジャーと、ハイグールだと思う。強いよ、かなり」

「そっか。こっちだ!」


 声をかけると、研究者とモンスター二体が同時に此方を向く。

 剣は今日は元々戦うつもりでもないのでもっていない。

 が、早速この魔法学校で身につけたスキルが役に立つ。


 【マジッククラフト】。

 ミナンにパラサイトして身につけたスキルによって、剣を作り出し、それによってハイグールに斬りかかる。


 振り下ろされる爪をかわし、斬撃を一撃。

 返す刀で二撃。

 一発ケリを入れてバランスを崩してから、とどめの一撃を入れると、うめき声を上げて倒れ伏した。


「ふう、そこまでじゃないな。二発直撃して耐えた耐久力は結構な物だけど。ジャクローサ、大丈夫?」

「うん。平気だよ。これくらいなら」


 肋骨が折れた骨がジャクローサの隣に転がっていた。

 さすが、並のモンスターじゃ相手にならないな。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。モンスターが来たから、やっつけてやろうとしたんだが、反撃にあって危ないところだった。ありがとう」


 尻餅をついていた魔法研究家の手を引きながらとうと、片眼鏡をなおしながら冷や汗をふきながら、魔法研究家は礼を言う。

 俺は少し渋面になりながら言う。


「危険ですから、隠れていてください。そして見つかっても抵抗しないでください。あのモンスター達は、おとなしくしてればとりあえずは攻撃しないようですし、十分勝算が無いのに刺激すると、逆に危険です」

「ああ、痛感したよ。一応魔法は少しはおさめているのだが、実戦になるとまた別だな、本業は魔法を使うより魔道具の研究だし、君の言うとおりどこかに隠れてるよ」


 酷い目にあったという顔の男に、俺はさっきまでひそんでいた用具室の場所を伝えると、這々の体で向かって行く。


 あ、待てよ。


「すいません、最後に一つだけ」


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