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93,ゾンビ解放運動


 ***


「ちっ、蒸し暑いなここは」

「厳しい環境です、いつ来ても鉱山は」


 フェリペとアリー、ネマンを出た二人は近くの小さな町に来ていた。

 ネマンの衛星都市であるそこでは、特に希少価値の高い青霊鉄などの鉱石が採掘されている。

 その町外れにある鉱山の中に、二人はいた。


「今までは知られていなかった新たな坑道か」

「どんなものがあるか、何がいるか、楽しみですね」

「ああ。思わぬところでレアな素材が手に入るかも知れない」

「会いに行くなら手土産の一つくらいはもっていきたいですからね」


 エイシに会いに出発した二人だが、出発してすぐに乗合馬車の同乗者から新たに見つかった坑道の情報を得たのだった。

 そこはどうやら他の場所より魔元素が豊富に封じられた鉱石があり、同時にモンスターの脅威も高いということで、開拓したいができないもどかしい状況にあるという話を聞いた二人は、せっかくだからとそこに向かった。

 珍しい鉱物と未知の冒険をしたいという狙いもあり、また、再度エイシと行き違いになるのではという危惧もあり、探しに行くよりむしろここを探索しながら待つ方がいいのでは?という話になったからでもある。


「しつこいやつらめ――邪魔をするな!」


 フェリペの持つ紅い宝玉の埋め込まれた古木の杖から、魔力の衝撃刃が放たれる。 広範囲を同時に切断する刃は、前方から襲いかかってくる亡者の群れを薙ぎ払った。


 オォォオオ――。

 地の底に響くようなうめき声を上げながら、人の姿をした異形は倒れ、動かなくなる。


「ようやく力尽きやがったか。しぶといモンスターだ。何発魔法を撃たせるつもりだ」


 忌々しげに舌打ちをするフェリペを横目で見ながら、倒れた亡者に近づき観察するアリー。

 顔を近づけ、表面がところどころ土と融合したような人型モンスターを観察すると、頷いた。


「これはグールですね。こんなところにいるのは珍しいのですが」

「坑道に出るというのはあまり聞いたことが無いな」

「はい。元々ここに棲んでいるモンスターではなく、別の場所から来たのかも知れません」

「別? 最近まで見つからなかった場所なのにか?」

「それは人間が見つけていなかっただけですから。モンスターにとっては常識的な場所だったかもしれませんよ?」

「なるほど、それは正論だ。それで、どこから来たんだ」


 フェリペの問いに、アリーは顎に手を当てしばし考えていたが、やがてぽんと手を打った。


「アンホーリーウッドかもしれません」

「アンホーリーウッド……ああ、あれか」

「ご存じですか。あの不死者の巣窟であるダンジョンから来ているのかも知れません」

「だが、かなり距離があるぞ? たしか、あれはプローカイが最寄りだったと記憶しているが」

「ええ。ですがアンデッドモンスターをこの辺りで見かけることは基本的にありませんし、そこくらいしか思い当たりません。ですが、普通はダンジョンの外には出ないはずなのですが――」


 アリーは言葉を濁す、それが何を意味するかまでは現状はわからない。しかし、何かしら変わった事情が起きていることは推測できる。

 他の場所でもアンデッドが闊歩しているのかもしれない。もしかしたら、別の町を色々まわっているというエイシも会っているのかも――。

 そんなことを思いながら、より周囲への注意を厚くして坑道探索を続ける。


 ***


【パラサイト・ビジョン】。

 中庭に息を潜めながらスキルを発動した俺は、寄生している対象の視界を確認した。


 上級クラスのクラスメイトの目に映っているのは、教室内の一カ所に集められた生徒と教師、そして土気色をした、ドロのような皮膚をした人型のモンスター複数。そして、そのモンスターに拘束されている体験入学クラスの生徒だ。

 モンスター達は固まっている生徒達ににらみをきかせている。

 

「なるほどね……」


 これは、うかつなことはできないな。

 俺はミナンの耳に口を寄せてわかったことを話す。


「どうやら、体験入学の生徒が人質にとられてるみたいだ」

「人質? どういうこと」

「そのままの意味。ここの学校って、結構な実力のある魔法使いが多くいるでしょ」


 ミナンは頷く。


「それを制圧するっていうのはそうとう難しいはず。相当な使い手とか、強力なモンスターをたくさん用意しないといけない。でも、それができなくても抵抗させない方法はあるってこと」


 そういうと、ミナンは納得したように頷いた。


「ちょうどいいタイミングね」

「うん。学校全域がわかったわけじゃないけど、おそらく体験入学の生徒を分散させて、人質にして色々な場所にいる職員や戦える生徒に反抗させないようにしてるんだと思う。体験入学するくらいなら、戦力はさほどでもないはずだからね」

「エイシみたいな変なのをのぞけばでしょ」

「変なのはないよ、変なのは。……とまあ、それはいいけど、だから、俺たちは自由に動けるけど、派手に暴れるとまずいことになる」

「ならどうするの。このままここに隠れ続けるわけにはいかないわよね」


 俺は顔をそろりとあげて、廊下の様子を探る。

 曲がり角の奥に消えていくモンスターの後ろ姿が確認できた。教室にいるのとは別に、巡回している奴もいるということみたいだな。


「もちろん。さっきの放送主が首謀者だろう、あのモンスター達を指揮している。だったら、それを探して叩けばいい」

「でも、派手なことはできないんでしょう」

「ああ。見つからないように、見つける。できる?」

「エイシに言われて、いいえと言えるかしら」


 ですよねー。

 占拠したモンスターか、魔法学校関係者か、どっちかが痺れを切らして暴れたりしたらどうなるかわからない。

 今自由に動けるのは俺たちだけ。

 その前に、俺たちがなんとかする。


 なるべく騒ぎにならないためには、まずは見つからないこと。そして見つかったら敵に連絡させないことだ。

 そのためには、どちらにしても今の状況を知ることが大事だな。


 まずは【パラサイト・ビジョン】を再使用。

 他にこの学校内にいる相手の視界を見て、状況を把握したい。

 いるのは――ジャクローサか。

 

 廊下をゾンビにつれられて歩いている。人質として有効活用しようってことみたいだ。とりあえずおとなしくしているらしい、実力的には勝てるだろうけど、波風たてないことを優先してるんだな。

 しかしこの風景は――すぐ近く、真上だな。

 二人は階段を降りてくるもうすぐ曲がり角を曲がってやってきそうだ、何かアクションを起こすべきか。


「よし、ハナ」


 俺はハナを呼び寄せ、小声で指示を出した。

 その間に、ゾンビとジャクローサは中庭への出入り口のある廊下にやってくる。さっきの奴は通り過ぎていったが――こんどのモンスターは中庭へと続く扉を見据えている。


 来るか。

 人質を運ぶ次いでに確認か、何かいたときのための人質か、どっちのつもりかはしらないが、ここに来るなら隠れることは出来ない。

 ――連絡される前に、一撃で口を封じる。


 そして、ドアが開いた。

 と同時に、ドアの前をハナが大きな音と土煙を立てながら走り抜けていく。

 ゾンビがハナに目を向け、気を取られ、ただの動物かと弛緩した空気を漂わせる。


「強撃――」


 その瞬間を逃さず、一撃で胴体を切り裂いた。

 ゾンビは何が起きているか理解するいとまもなく、その場に倒れ込む。


「ふう」


 一息つき、ハナを呼び寄せ撫ででやる。

 そして自由になったジャクローサが口を開く。


「エイシ、ここにいたんだ。ありがとう、助かったよ」

「またまた、ジャクローサならなんとかできたと思うよ。騒ぎにならないように捕まってたんでしょ。だったら、俺たちと一緒に動こう――ジャクローサがいてくれればさらに心強い。やってやろう、学校開放」


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