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92,魔法と召喚獣と○○

「ハナ、これ食べる?」

「きゅ~」


 宿に戻った俺は、ハナに普通の野菜をあげる。ハナはもっしゃもっしゃとのんきに口を動かして小松菜的な葉野菜を食べている。


 ウォンバット形態。

 俺は今のハナを勝手にそう名付けた。

 まさにそういう姿をしている。ちょっと顔が間抜けっぽいところもまさにそんな感じだ。

 しかし、ステータスを見る限り。


【名前】ハナ

【クラス】狩人30

【体力】 250

【攻撃力】 220

【防御力】 294

【魔力】 184

【魔法攻撃力】 201

【魔法防御力】 336

【敏捷】 188

【スキル】変異 魔法の矢 魔道具マスタリ 魔法障壁 ホリ・ジョウズ 鷹の目 地形適応:森 弓マスタリ マジックアローレイン 特攻:獣 薬草の知識 特攻:植物 目利き(土)目利き(植物) 養分変換 促成栽培 農具マスタリ 成長:自分 不射の射 感覚ブースト 体力ブースト 命中ブースト ……


 相当強くなっている。

 スキルもてんこ盛りだ。

 変異した時点ですでにクラスレベル30ってところがなんかずるい気がするけど、俺がいったら罰が当たりますね、はい。


 見た目は正面から見ると若干ぶさいくなブサカワ系でのほほんとした動物なんだけど、前以上の能力値にスキル。召喚獣は見た目によらないってことだな。

 

 まあ見た目はいいとして、能力以外に大きく変わったことは、しゃべることが再びできなくなったということだ。

 以前のモップ形態の生物が喋っていたのは、スキルのような恒常的な特性ではなく、あの形態固有の種族特性で喋ってたってことらしい。以前に覚えたスキルは引き継いでるしね。

 このウォンバット形態は喋れない種族だから喋れないということなんだろう。


 しかし、喋れないとはいえこっちが言うことは理解できているようだし、表情や動作でなんとなく何が言いたいかは理解できるから、特に困りはしていない。

 鳴き声もかわいいしオッケーだ。


 御飯を食べ終わったハナの背中を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めてまるくなり、うとうとして眠りについた。


「ういやつめー、おやすみ」


 ハナを光に包み還すと、俺も床についた。




「ジャクローサ、調子はどう?」

「うん。簡単な魔法なら使えるようになった」


 体験入学授業の休み時間に話をしているとき、ジャクローサが槍に力を込めると、紫色の稲光が穂先に宿る。


 俺は上級クラスの体験もしているが、普通の体験入学の方も受けている。学校の全体的な説明とかは上級クラスではやっていないので、そっちもやらないとなかなかわからないこともあるからだ。


「おお、雷魔法」

「とりあえず体験入学中に一つだけでも覚えようと思った。なんとか間に合った」


 ジャクローサはいつもの静かな調子で言う。

 その声が紫電の放つ音と相まって、なんだけねむけが……。


「……っは、いかんいかん。ゴホン。それなら来た甲斐あったね」

「うん。やっぱり俺は槍で戦うのが一番いいと思うけど、こういう補助とか強化に使うのは悪くないと思った」

「刃が通じにくい相手とかもいるだろうしねー。そういう相手に弱点つけるのを軽くでも手段があるのは悪くないと思う」


 ジャクローサは満足げに頷き、槍をしまう。

 そして俺に向けて、そっちはどうだという目を向けてきた。


「こっちも収獲有り。色々知れたし、新しい技も得たし、あと召喚獣を成長させることも出来た」

「召喚獣?」

「うん。実はそういうのも使えるんだ。今は結構ずっと召喚状態にしてる。新しい形態に馴染ませるために。今もその辺散歩してるんじゃないかな」

「へえ。召喚獣、召喚獣」


 なんだか召喚獣に食いつくなあと思っていると、ジャクローサが召喚獣について質問を連続で投げかけてくる。

 名前は。姿は。強さは。アピールポイントは。

 実は動物好きらしい。


「やあ、エイシ。今はそっちの授業が休み時間?」

「あ、スウ。うん、そう。ダブルの授業もなかなかハードさ」


 喫茶室に入ってきたのはスウ。

 スウも休み時間に息抜きに来たらしい。

 ジャクローサを認めると、挨拶と自己紹介をして、もしかして闘技場のジャクローサ?とやはり驚き、もう一度自己紹介していた。


「魔法を学びに。さすが闘技場のトップクラスにいる方は常に強くなるための努力を怠らない物なのですね」

「それくらいしか、とりえないから。初めて来たけど、勉強になる」

「有名人にそう言われると、ちょっと誇らしくなりますね。何かあったら、いつでも相談に乗りますから、遠慮せずどうぞ」


 スウの言葉にジャクローサが頷く。

 今後のシーズンはジャクローサが圧勝するかもなーと思っていると、スウがこちらに目を向けてきた。


「エイシにも驚きました。まさかジャクローサと知り合いだなんて。やっぱりその実力があって知り合いになったんですか」

「まあ、そんなところ。闘技場でね」


 スウは感心した様子で俺とジャクローサを交互に見る。


「やっぱり、エイシは凄いんですね。彼のような友人がいるなんて。クラスメイトや教師にスキンシップをとっていたのもそのためなんですね」

「え?」

「さりげなく触ってませんでした? 触れるか触れないか微妙なところくらいでしたけど。何をやってるんだろうと訝しんでいたのですが、肩を叩いて声をかけて、ということをしようとしていたのかなと今思いました」


 なっ、気付かれていたのか。 

 馬鹿な、他の誰にも見やぶられたことないのに、スウ、油断ならない。恐るべき目をもっている。これからは注意しておかないと。


「あ、ああ。そうなんだ。でもちょっと人見知りで、せっかくの機会だから話しかけようと思って、そのためらいがあって、直前で手を引っ込めちゃうんだよね」

「ああ、やっぱり。遠慮しないでいいのに」


 ぎりぎりのソフトタッチのおかげで、触るのを直前でためらったように思われているようだ。危ないところだった。ガッツリ触ってたら言い訳できないところだった。


 俺はスウの顔を見ながらほっと胸をなで下ろした。

 ――だがその瞬間、スウの眼鏡の奥の目のさらに奥が、笑っていないように見え――こいつ、達人だ。


 スウとジャクローサと共に過ごす休憩時間を、俺は慄然として過ごすことになったのだった。




 休憩を終え、それから体験入学クラスの授業も終わった。

 俺はそれから、上級クラスの授業を受けに教室を移動するが、そこでも少し時間がある。

 今日はいい天気だし、はじまるまでのんびりするのも悪くないと、俺は中庭に向かった。


「きゅ~、きゅ~」


 お、この鳴き声はハナ。

 前と同じように好きに放し飼いしてその辺を歩いてていいよと言ってあるけど、学校の中庭にいたか。

 様子を見に行くかな――と思ったその時。


「キュー、キュー」


 もう一回聞こえたけど、この声は……なんか微妙に違うぞ。

 ていうか人間の声だ――え?


 中庭で俺が見た光景、それは、ハナのお腹をくすぐってじゃれているミナンの姿だった。


「よちよち、こしょこしょ」


 凄く楽しそうに、見たことのない屈託ない笑顔でハナと遊んでいる。

 俺はその場に立ち尽くし――。


「ぷっ」


 思わず吹き出してしまった。

 いや、だって、ミナンが。イメージと違いすぎるっていうか。ねえ。


「っ!」


 瞬間、もの凄いスピードでミナンの顔がこちらに向く。


「あ……あ、あ。……見、た? 見てた? 聞いてた?」


 ミナンがろれつがまわらない調子で言う。

 地面を這うように、足下をフラフラさせながら向かってくる。


「ああ、うん。見ちゃった」

「ど、どこ、から、よ」

「……きゅーきゅー」


 迫真の演技で物まねをしてみると――あ、真っ赤になった。

 クールなミナンがこんな風に羞恥に拳を振るわせ、俯いてるとちょっとからかいたくなってくる気持ちが鎌首をもたげてくる。


「よちよーち、かわいいでちゅねー。ナデナデ~」


 調子に乗って、歩いてきたハナのお腹をわしゃわしゃしつつ、裏声でそんなことを言ってみる。

 さらにミナンが羞恥に震え――あれ? ミナンの様子が?


 赤くなって俯いていたミナンが顔を上げ、俺の目を睨み付けた。

 震えているが、それは羞恥だけでなく、あの、やばい目つきになってるんですけど、これは怒りで……。


「お前を殺す」

「ちょっ!?」

「見られたからには生かしておけない。お前を殺す。たとえ差し違えてでも!」


 高速で収束する魔力。

 ってちょっと待って、差し違えてでもって悲壮な決意すぎるでしょ!


「ごめん! ちょっとからかいすぎた! 誰にも言わないから、俺の心の奥底にしまっておくから!」


 両手を合わせて平身低頭謝り続ける。

 やがてなんとかたしなめて落ち着いてもらえて、ミナンは険しい顔をしつつも、拳からは力が抜けていってくれた。


「……絶対よ。言ったら今度こそ本気で殺す」

「うん、わかった。言わない。言わないで心の奥底にしまっておいて、たまに取り出して思い出し笑い――って冗談、冗談だから槍をしまって、ミナン」

「次茶化したら本当に刺すから」

「は、はい」


 いやー、怖かった。

 あまりからかいすぎるのはよくないね。反省です。


「それに、エイシの物まねみたいに過剰にはかわいがってない」

「はい、ごめんなさい」

「……でも、たまに召喚獣こういう風に放し飼いにして、かまってもいい?」


 少し恥ずかしそうに、でも我慢できないというように頼んだミナンを、さすがに俺ももうからかいはしない。

 命は惜しい。闇討ちとかされたら怖いし。

 それに、俺の召喚獣はかわいいからな。そうなるのも仕方ないね。


「いいよ、いつでも遊んであげて。その方がハナも喜ぶから」


 満足げに頷くミナン。

 なんとか丸く収まり、ハナを再び散歩に行かせて、俺たちはそろそろ授業に行こうかと、校舎の中へ入ろうとする。


 ――そのときだった。


『あー、あー。聞こえてる? うん、ちゃんと動いてるな。……皆さんすでにわかってると思うけど、この学校は我々が制圧した』


 ……は?


 俺とミナンは顔を見合わせる。

 互いの瞳に?マークが浮かんでいる。


 これは、校内放送に用いられてる音声通信魔道具からの音声だが、なんだこの内容は?


『君達を抑えてるのは、私の仲間のアンデッド。無駄な抵抗はしないように。別に君達に怪我させに来たわけじゃないから、おとなしくしてれば何もしないし、仕事が早く済んで私たちも助かる。だからお互いのためにしばらくじっとしてちょうだい、私が捜し物を見つけるまでね。もちろん、抵抗したり逃げようとしたら容赦しないよ。怪我させに来たわけじゃないといってもそこまでお人好しじゃない。ゾンビ君達の仲間になりたくなかったら、素直に従いなさい。そんじゃ、終わったらまた連絡するからいい子にしてなー』


 そこで放送は終わり、再び静寂が戻った。


「なに、これ。悪ふざけしてるのかしら」


 ミナンが怪訝な表情を浮かべる。


「伏せて、ミナン!」


 その瞬間、俺はミナンの肩を押さえて一緒にその場にしゃがみ込んだ。

 何か抗議しようとしたミナンにたいし、指を自分の口元に当てて黙るように促す。


 直後、引きずるような足音が聞こえ、通り過ぎていく。

 二人でそっと腰を浮かせ、中庭に面した廊下の窓を一緒にそっと中庭側から見ると。


「あれは――」

「今の放送、本気らしいね」


 ゾンビが、廊下を巡回していた。


 プローカイ魔法学校は、アンデッドに占拠された。



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