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89,上級クラス

「彼は体験入学に参加している生徒ですが、その中で優秀な力を見せてくれたため、上級クラスの授業にも参加してもらうことにしました。とりあえずは短い間ですが、ともに学んでいきましょう」


 魔法学校の教師――クレイン=キンケ――が、教壇の横に立つ俺を紹介する。段になった教室にいる生徒達は、老若男女問わず物珍しそうな視線を俺に送っている。

 きっと、こういうケースは珍しいんだろうとこの態度からわかる。


「それでは空いている席に座ってください」

「はい」


 俺は後ろの方にちょうどよく空いている席に向かって行く。

 三十数人の視線を受けながら――。


 なぜこうなったか。

 それは、俺が体験入学者の能力を測る試験でよすぎる成績を出したことがきっかけ。

 それを見た教師が、体験しにきている新入生レベルと一緒に教えるだけでなく、入ったとしたら組み込まれるであろう、魔法学校の中でもトップクラスの生徒がトップクラスの魔法を学ぶクラスも体験してみないかと誘われた。


 当然俺は、二つ返事で了承。

 より高度な魔法が体験できるというのが一つ。

 そしてもう一つは――。


【錬成術師19】


 パラサイト・インフォの分析結果が生徒の一人のクラスを俺に示す。

 横を通り過ぎた際、誰にもわからないほど精妙な動きで触れ、パラサイトしたのだ。

 一瞬の【ステルス歩法】スキルや、感覚及び精密さの強化などを駆使し、何より今までの経験から、触れたか触れないかわからない、薄布一枚のシルクタッチを身につけた俺にとっては、通りがかりにパラサイトすることは容易である。


 もう口実を作ったり転ぶ振りとかする必要もない。事実、俺が寄生した十代後半くらいの女子生徒はまったく気付かず黒板を見ている。

 これはクラスで身につけたスキルではなく、俺自身が経験で身につけたスキル。真の俺のスキルだ。


 ……なんか全力で間違った方向にスキルを伸ばしてる気がしないでもない。

 まあ悪用しなければいいのだということで、俺は席につき、授業を受ける体勢になった。


 それにしても、一発目でこれとは幸先がいい。

 理由の二つ目もうまくいきそうだ。


 魔法を操るエリート達が集まる魔法学校なら、魔法系のレアなクラスをもっている人もいるのではないか、その中でも上級クラスならなおさらそういう人が多いんじゃないか、と俺は推測した。

 そういう人に寄生するというのが、上のクラスを目指した二つ目の理由だ。


 まずはうまくいったらしい。錬成術師、初めてのクラスだ。

 他の人にも寄生して魔法系クラスをのばし、そして寄生以外の魔法のおぼえ方も見つければ、一粒で二度美味しい。

 さてさて、それでは授業を受けますか。




 今日は座学だった。

 そこで話されたのは,魔法の効率的な取得方法。

 といっても、最初からではなくて、すでにある程度わかった上での発展的な話だったのでなかなか難しかったが、なんとか理解できた範囲だと、魔法を覚えるためには、いくつか方法がある。

 そしてその中の一つは実際に魔法を使う時にそれに触れること。

 魔法を使うときの魔元素の流れとか変化とか、そういうものを肌で感じ、それをまねることで使い方を覚えるというやり方だ。


 だが、言うはやすし行うはかたしで、人間の体内で起きているそういった現象を外部から感じることは至難の技で、感じられたとしてもそれを自分の体で再現するのもまた至難。一つの魔法を覚えるためにも長い時間がかかるという。

 魔元素を体の外と内でリンクする、とか広い範囲に拡散させる、とかそんなことをやると効率があがるとか言っていたけど、まだよくわからないね、そこまで進んだ話は。


 でも、やっぱり魔法を、スキルを覚える方法は一つではないということは確かになった。つまり、クラス的には覚えられないスキルを身につけることも可能ってことで、楽しみになってきた。


 ちなみに、長い時間ずっと他人につきあってもらうのは難しいということもあり、魔元素が感じやすいように作った魔法習得用の魔道具を使うことが多いらしい。

 それもこの魔法学校以外ではなかなかみない貴重品なので、魔法の習得をしようと思うなら他の場所よりはずっと効率がよいようだ。


 他にも座学をいくつか経験し、魔法の歴史や、魔法使いの社会的な役割や責任、魔道具についてなど色々な内容の授業があった。


 役に立つ、という意味もだけど、何より新鮮な話が聞けて面白い。元の世界の学校の授業じゃちょくちょく眠気に負けていた俺も集中して教師の話を聞いて、宿に戻ったあとまで復習しちゃうほどさ。


 そうして授業を受けながらしばらく過ごしたある日の授業終了後。


「体験入学はどうですか、エイシ」

「充実してるよ、スウ」


 声をかけてきたのはスウという十代後半くらいの眼鏡をかけた男。名前はスウ。

 女の人からうらやましがられそうな、さらさらの髪をしている魔道師だ。


 俺の席の隣にいたので、自然に話をしている。元々面倒見がいい真面目なタイプなんだろうなとやりとりを通じて感じている。


「スウが教えてくれてるおかげで、学校のこともよくわかったし」

「たいしたことないですよ。誰でもそれくらいします。それに体験入学で上級クラスに来る人なんて滅多にいないし、珍しいもの見たさもあるんです」

「珍獣?」


 俺が自分を指さすと、スウはノータイムで頷く。


「おい」

「あはは、ごめんごめん、冗談ですよ。でも本当に驚きました、そんな人僕が学校に入ってからは一度もいませんでしたし。体験入学者の実力を測るテストで凄い力を見せたって話ですが、どんなことをしたんですか?」


 スウは身を乗り出してくる。

 スウはこんな感じで、いつも丁寧な言葉遣いで喋っている。別にいいと言ったのだけれど、誰にでもこうで、この方が楽でいいらしい。アリーみたいなこと言ってるなあと思いました。


「どんなことか。色々魔法を使って、ちょっと威力も高かったくらいかな」

「ふうん。なんかそれだけ聞くとそこまででも――」

「ええ。全然たいしたことない」


 突然、第三者の声が割って入ってきた。

 静かで、冷たく、でもしっかりと響く声。

 その声の出所を見ると――。


「体験入学してる人が上級クラスの授業受けることは一度も無かった。明らかにおかしい。昨日の実習では魔道具を使うのに苦戦して唸ってた。全然たいしたことない。エイシはコネかカネ。あるいは不正」


 淡々と辛辣なことを述べているのは、クラスメイトの少女だった。

 年の頃はスウと同じくらいだろうか、だから年下ではあるが、学校では俺よりもずっと先輩に当たる。

 名前はミナン。

 

 まじめくさった顔をしているミナンに、俺は反論する。


「そんなこと天地神明に誓ってしてない。珍しいのは、まあ多分そうだろうけど、でもやましいことはしてないよ」

「信じられない。それと、私が先輩だから、敬語を使うべき」

「何言ってるのミナン。ここじゃ全員が同じ魔法を学ぶ友。老若男女キャリア問わず対等ってのが鉄則じゃないか」

「うるさい、スウ。私が同じ友として納得してない。こっちは苦労を重ねてここに来た。それなのに妙なことしてふわふわハードルの上を浮かんで来られたら頭にくるわ。スウだってそうよね」

「いや全然」

「はあ。スウ、ちゃんと頭を使わないとだめよ。エイシ、私はあなたを同じクラスの友とは認めてない。認めて欲しいなら、力を示すのよ」


 びしりとミナンが俺を指さす。「示せないでしょうけど」と付け加えながら。

 俺はその指先を少しの間じっと見つめて。


「まー、別に認めてもらわなくてもとりあえずいいかな。それよりこれから図書館行くから、また明日。二人とも」


 口を開き、さらっと流して席を立ちドアへ向かう。

 とその瞬間、肩をむんずとつかまれた。


「待ちなさいよ、何その言い方。私に認められなくてもかまわないみたいに聞こえるわ」

「みたいというか、そのままのことを言っていたよミナン」

「スウは黙ってて」


 無表情なミナンに静かに怒られながら、ほっぺをわしづかみにされるスウ。 

 つかまれたまま、お手上げのポーズをとって俺に向けて苦笑い。


「まあまあ、それは今度機会があったらってことで、ね、ミナン。とりあえず今日は行くとこあるからさ。ってことだから、お二人さんさようなら~」


 これ以上絡まれたら厄介そうだと判断した俺は、手を振りながら早足でその場を去って行った。

 スウは残念ながら見捨てていく所存だ。

 そこは任せた先に行く。というやつだ。


「待ちなさい」という冷たい声が背中から聞こえてくるが、振り返らずに俺は教室をあとにした。





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