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88,そして(体験)入学へ

「ええ!? エイシさんが体験入学!? なんでですか? そんなこと必要ないレベルじゃないですか」


 少年が背中を反らして驚きを示す。

 まあ、いい大人がいきなり勉強したいって言ったら多少は驚かれることもあるかもしれない。でも生涯学習が今の時代は大事なのだ。


「いや、さっきも言ったとおり僕はレベルアップ以外の魔法を知らない。でも、それとは別ルートで魔法を覚える方法があるなら是非知りたい。僕に出来るかどうかはわからないけど、もし覚えられたら幅が広がるから」


 話を聞いていて思った。

 いや、魔法学校のことを知ってから少し思っていたのだが、クラスとは別の方法で魔法を身につける――魔法が身につけられるということは他のスキルもいけるのではないかと推測している――ことができるのなら、俺のできることはこれまでとはまた別の広がりを見せることになるはずだ。


 それなら、そこに行ってみるのも悪くない。

 魔法学校って響き、中で何やってるか気になるし、せっかくそんなものがあるなら体験してみる他はないね。

 本当に入学してずっと通うのはさすがに自由がなくなりそうで嫌だけど、体験くらいならね。


「さすがですね、エイシさん」


 考えていると、少年が目をキラキラさせていた。


「あんなに強いのに、それに飽き足らずにさらに学ぼうだなんて。自分より力がない人にも、学ぶところがあれば素直に教えを請える。僕なんか躊躇しっぱなしだったのに。見習わなきゃなりません」

「そんな大げさな」

「大げさじゃないですよ。でも、はい、わかりました。僕が魔法学校について調べたこと、お話しします」

「ありがとう。あ、そうそう。あらためてよろしく――ええと、名前は?」

「あ、すいません。まだ名乗ってませんでしたっけ。タルクです。よろしくお願いします、エイシさん」


 俺とタルクは、握手をしてともにプローカイ魔法学校へ入学することを誓った。




 プローカイ魔法学校。

 それなりに歴史のある魔法を教える学校で、魔法使いとしての教育や魔道具作成方法や知識など、魔法に関わる様々なことを教える学校である。

 学校とは言っているが、内容的には塾と研究所をあわせたようなもので、年齢制限などの条件もなく、年齢一桁から老人まで色々な生徒が学んでいる。


 一ついえるのは、かなりレベルが高い授業が行われれていて、レベルの高い生徒が多くいて、そして出ることも入ることも難しく、多数の優秀な魔法使い達を排出しているということだ。


 俺はそこに体験入学をすることにし、そして、体験入学一日目が訪れた。


 期間は二週間。

 まず体験入学者が教室の一つに集まり、オリエンテーションからスタート。

 そこにはきっちりタルクの姿もある。


 三十人程度がおとなしく座っている教室へ、いつか見た宣伝をしていた教師が入ってくる。


「どうも皆さん、体験入学をしていただいてありがとうございます。どのような授業を行っているか、また我が校では魔法の研究にも力を入れていますので、そちらについても知っていただければと思います」


 相変わらず営業スマイルで話す人だなあと思いながら、基本的な説明や諸注意を聞いていると、教師がドアの外を示した。


「集まっていただいてすぐで恐縮ですが、皆さんには移動していただきます。やはり何をするにも自分の状態を知らなければなりません。魔法の力がどの程度あるのか、それを測りましょう」


 そう言って教室から出て行く教師。

 俺たちもそれにぞろぞろとついていった。




 教師は細身の体をくねくねさせながら、よく整えられた髭をなでている。

 俺たちは教師に続いて歩いて行く。


 学校の中は、俺が思っていたより学校だった。

 特別変わったところもなく、普通に教室が並び、廊下があり、特別教室がたまにあり、保健室や教員室があり、というごく普通の現代の学校と大差ない造りだ。


 しかもコンクリートに近い素材でできているようで、そこも似ている。古代ローマにもコンクリートはあってコロッセオなどがそれで作られていたと聞いたような覚えがあるし、これくらいの文明水準の世界にもコンクリートがあってもおかしくはない。


 てくてくとついていくこと少し、俺たちは校舎の裏に到着した。


 そこはグラウンドのような広い空き地になっていて、他の職員達が既に何人かいて、用途のよくわからないものがいくつかおいてある。

 

「さあ、ここで見せていただきます。特に決まったやり方はありません。自分の得意な魔法を得意なようにみせてください」


 教師が言うと、ぱらぱらと生徒達が散っていく。

 そしてタルクは俺の方に来て、言う。


「やってみます、エイシさん。まだだめだけれど、それを知られるのをいやがっていてはだめですよね。はい!」

「うん。頑張って」


 俺がタルクに声援を送ると、タルクは力強く頷き、何か水が溜まった大きな桶の方へと歩いて行った。

 その足取りは力強い。どうやらもう開き直ったようだ。

 これなら、体験入学中に色々と得ることが出来るだろう。

 俺も安心かな。


「……さて、そうなれば俺は俺の目的のためにあとは動くとしよう。でも、その前に――」


 俺は一人の生徒の元へと歩いて行く。

 背が高く、どこか儚げな整った顔の金髪の男。

 その男も、俺を認めて歩いてくる。


「なんでここにいるの、ジャクローサ」

「……そっちこそ。エイシ」


 なんとジャクローサ=テトラが生徒の中に混じっていたのだ。

 いや、俺も気付いてたんだけどね。

 三度見くらいしたんだけど、教師がいるし私語はちょっとやめとこうかなと思ってチラチラ見ていたんだ。お互いに。


「俺は魔法の勉強をしに。ちゃんと教わったり調べたりしたことってないから、そういうのをやったら色々わかるかなって。ジャクローサは?」

「前、負けたから」

「負けた?」


 ジャクローサは小さく頷く。


「刺客――イサクザに。槍を使ったけれど、かなわなかった。だけど、エイシは剣と魔法とを使いこなしてあいつに勝った。僕はずっと、戦う時は槍だけで来たけれど、それで十分だと思ってたけど、他のことを知っていれば、もっとうまくできるのかもしれない」


 なるほど、前回の敗戦がきいてるのか。

 色々と思うことがあったんだな。


「でも、一つをガッツリ究めるのもいいと思うけどな」

「うん。それも思う。でも、知るのはいいことだと思った。知らないで進むのと、知った上で選ぶのは違うと思うんだ」

「たしかに。じゃあ、お互い未知の世界に飛び込んだってわけだ。んじゃ頑張ろう、お互いに」

「……うん、エイシも」


 そして俺たちは測定に行く。


「って、怪我はいいのか!?」


 やいなや、俺は足を止め声をかけた。

 そうだ、ちょっと前まで大怪我してたはずなんだけど、何普通に学校来てるんだジャクローサ。

 しかしジャクローサはけろっとした顔で答える。


「もう治ったよ。9割くらいは」

「ええー」


 人間ってそんなにすぐ怪我がなおるものだったっけ。

 しかし見てみても、ジャクローサの体にどこも傷はないし、かばったりしている様子もない。

 なんなのこの回復力。

 防御力高いタンク系だからリジェネ能力も高いの。


「人間って凄い、そう思いました」

「? よくわからないけど、行ってくる」

「うん、俺もやってくるよ」


 人体の脅威を思い知りつつ、俺はいよいよ試験を受ける。

 さて、どれがいいか。

 グラウンドにある道具を使って力を示すという。

 俺が得意な魔法って言ったら、やっぱりよく使う呪術か魔法の矢かな。

 呪術はなんかはっきりと他人に見せてもわかりにくそうだし、魔法の矢が一番いいかな。


 と、グラウンドの隅の方にある、的の前に向かう。

 そこを受け持っているのは、案内していた教師だった。


「おお、的を狙うタイプの魔法を見せてくださるのですね。さあ、どうぞ思いっきりやってください」


 早速進められる。

 周囲には、すでにやったらしい生徒が数えるほど見ている。

 他の場所では、回復魔法や、自然を操る魔法を使っている人がいるようだ。


 さて、それじゃあやるか――と思ったところで、俺は魔力の集中を止めた。


 よく考えてみたら、俺の強みは色々な魔法を使えるところだ。個々の力は、かなり高い水準程度。

 だったら、それを見せる方が一番得意なことを見せるってことになるんじゃないか?


 しばらく考え、向きを変えた。


「どうかしたのですか?」

「いえ。的ではなく、あれを狙ってもいいですか」


 グラウンドの隅にある、ブロック。

 無造作に重ねられている、石かコンクリート製のブロックだ。


「いいですが――」

「わかりました」


 髭を摘まみながらの教師の答えを聞くやいなや、俺はまず自分にマジックエンハンスの補助魔法と、ブロックに防御を下げる呪術をかける。

 そして、魔力を十分引き絞った魔法の矢を放つと、ブロックが貫かれた。 

 さらにそこに、オンディーヌの力で水弾を飛ばすと、魔法の矢によって綻びが生じていたブロックは粉々に砕け散った。


「こんな感じです」


 髭をなでていた教師の手が止まった。

 周囲で見ていた体験入学の生徒達が口をぽかんと開いていた。

 しばらく、そのまま固まっていたが、教師は砕けたブロックの方へ歩いて行き、拾い上げ、俺の方を見る。


「今、最初に補助魔法も使っていましたか?」

「お気づきになりましたか。はい。四種の魔法を」

「なっ!?」


 教師は目を見開き、口を小さく素早く動かし、小声で独り言つ。


「それほどの種類の魔法を、これだけの威力と精度で――」


 そしてブロックをうち捨てると、立ち上がり、俺をまっすぐに見て。


「君、ええと名前は」

「エイシです」

「エイシ君、体験授業が終わった後、時間いいですか。少し――少し、上級者コースを見てみたくは?」


 俺は内心でガッツポーズを取りながら、表情は余裕を持って小さく会釈する。


「是非、お願いします」


 スカウトの場を兼ねているなら、特異な力を見せれば、より詳しく深く魔法学校について知らせてくれる、魔法について知る機会を与えられる、そう思ってちょっと頑張ってみたけど――成功だ。


 これで、体験入学でも魔法学校の深いところを見ることが出来る。ふっふふ、面白くなってきた。 


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