81,辻斬りを捜せ!
スタッフが慌ててやって来て、ジャクローサを医務室へと運んでいく。俺たちも医務室へとついていく。
「大丈夫、ジャクローサ」
「エイシ、うん。死にはしない。痛いけど」
相変わらずの調子で答えるジャクローサ。
たしかに命には別状はなさそうだ。ただ、かなり足は痛んでいて、すぐには治りそうにない。
闘技場で戦うことはしばらくは無理だろう。
ジャクローサは俺たちを見回して言う。
「誰かが、僕らを狙ってるから、気をつけて」
「誰か? 誰かって?」
「わからない。面をつけていて、顔は見えなかった。声も、反響してくぐもっててわからなかった。男だとは……思うけど」
正体を隠して、ジャクローサを狙う。
いったい何が目的……。
俺以外の人も、手当をしながら状況を尋ねている。
それによると、その男は剣を使い、襲ってきたという。ジャクローサも当然抵抗したが、しかしジャクローサの防御の腕をもってしても防ぎきれず、重傷を負ったらしい。
男は、なかなか見所がある。やはりこの町はいい。というようなことを言って、去って行ったということだった。
そのアタリまで聞いたところで、俺たちは治療を本格的にするからということで、医務室から出された。
部屋の中から「うう……」とか「浸みるけど我慢してくださーい」などと声が聞こえてくる医務室の前で、俺達は今のことについて話しあう。
「どういうことだろう。ジャクローサがやられるって相当なもんだよ」
「うん、かなりやばい奴がいるね。私の目から見ても闘技場四天王の一人間違い無しだったもん」
ルーは情報通気取りである。
すっかりコロシアムにはまってるな。
「ケーネっていう人をやったのも、もしかして同じ人なのかな?」
「可能性はあるんじゃないかなー。そもそも、闘技場の強者にあんな目にあわせられる人なんてそうそういないはずだもん。そんでもって、誰彼構わずそんな人を襲いまわるいかれた奴なんて二人いたら困るよ」
「たしかに。だとしたら……やっぱりわざと狙ってるんだよな。ジャクローサの台詞からすると、見所がなかったらやられたみたいな言いっぷりだし。闘技場の闘士を狙って、わざと強い奴と戦おうとしてるんだろうか?」
変な奴である。
金やらなにやらが目的ではないようだし、かなりかかわりたくない相手だ。触らぬ神に……あっ。
俺はリサハルナの方を向く。
リサハルナも、わかっているようで頷いた。
「私の身も危険かもしれないな。なかなか、面白くなってきたじゃないか」
「いや面白がってる場合じゃないですよ」
「大丈夫さ、私は不死者だよ」
「不死身なんですか?」
「寿命がないだけで刺されたり切られたりしたら死ぬさ、そりゃ」
ダメじゃん。
「まあ冗談はさておき、実際これは結構まずいよな。うーん、どうするか」
「簡単なことだよ、エイシ。私たちで見つけてとっ捕まえればいいのだよ!」
ルーはちっちっ、と指を振る。
………………。
意外とありか?
魔道師学校の校門前には、大人から子供まで大勢の人がいる。ここは中学校や高校のような学校と言うよりは、塾のような場所らしい。
その人波を見つめているのは、俺とルー。
「本当にここでいいの、エイシ」
「魔法使いといえば、色々な知識を持っていると相場が決まってるんだ」
「本当にぃ?」
「まぁ、どっちにせよ他にあてがあるわけじゃないし」
俺とルーは、謎の通り魔らしき者の正体を探して聞き込みをすることにした。リサハルナの身に危険が迫っては困るし、他にも知り合いが危険な目にあっている。
それに、うぬぼれるわけじゃないが、今じゃ俺もそこそこ強いつもりだ。何かの切っ掛けで不意打ちされてはたまらない。
それなら、先に正体を知って、大勢でやっつけてしまうほうがいい。
ということで、ルーと俺とでこんなことをはじめたわけだ。リサハルナは次の闘技のために調整するので不参加。
なんか真面目にやり過ぎじゃないでしょうか?
「ねえねえ、お面被った危ない奴知らない?」
「え? お面? というかあなたは?」
と、早速ルーが生徒の一人に声をかけている。
あんのじょう適当な説明で相手を困惑させているが、まあなんとかなるだろう。手分けしておれも情報を集めるとしよう。
ええと……あの人にしようかな。
俺は壮年の男性に声をかける。
教師っぽい雰囲気がしたので、生徒より詳しいかもと思ったのだ。
「すいません、ちょっとうかがいたいことがあるのですが、お時間よろしいですか」
「なんでしょうか? ここプローカイ魔道学園の教師に話しがあるなら、聞きましょう」
ちょび髭を撫でながら、男は頷く。
ラッキーとばかりに俺は今回の事件について何かしら無いか尋ねた。
あいても事件のことは知っていて、話はサクサク進んだが――。
「大丈夫ですよ、我が魔道学園は万全です。ここには古の魔道具も含め、数多くの貴重な魔道具が、数多くあります。それらは教育用や研究用、そして侵入者撃退用と用途は色々です」
得意げに演説するように、男は話し始める。
それは凄い。さすが魔道具だなあと相づちをうって本題かと思うと、さらに話し続ける。
「さらに、私たち教師陣は一流の魔道師。たしかにここでは闘技場が注目されていますが、私から言えばまだまだ甘い。もっとも大きな力を持った場所は、闘技場ではなくこの学校です」
「はぁ」
「ですから、どんな凶悪犯がいようがなんの心配もありません。生徒も教師も教材も、全て安全安心。学びに集中できますよ。もし興味があれば、あなたも体験入学、いかがですか? 我がプローカイ魔道学校は、常に新たな魔道師の卵を歓迎しています。近々あるので、是非参加してみてください。あ、これ要綱です。どうぞ」
「え、ええ。ありがとうございます」
チラシのようなものを受け取って、俺は男と別れた。
なんか学校に勧誘されただけのような気がするんですが……。どこの世界も生徒獲得に躍起になってるんだなあ。ここも少子化だったりするんだろうか。
「って、違うだろ! 情報収集だよ情報収集。他の人にも聞いてみないと――」
俺は、再び情報収集を再開する。
「役に立たないよねー、魔道学校って」
「まあ、そういうな。ほれ、チラシ上げるから」
「いらないよ、そんなの」
俺とルーは、冒険者ギルドの前で、愚痴を言っていた。
なんの情報も得られませんでした、はい。
俺の目論見はあっさり外れ、今度はルーが主張する冒険者ギルドへと来たのだ。
「ふふふ、ここにこそ真の情報があるってものよ。見てなさい、エイシ。頼もうー!」
バン!
と勢いよくドアを開けると、中の冒険者達の視線がルーと俺に集中する。
「闘士を狙った辻斬り野郎の情報を集めてるんだよ! 私たち! 情報知ってる人がいたら教えてちょうだい!」
バーン! という効果音がでそうなわかりやすい情報収集をやるルーである。こんな風なのは俺には絶対無理だな、一人ずつにしか聞けない。性格の勝利か。
ルーが言うと、俺たちを見ていた冒険者達の目つきが鋭くなった。じりじりとにじりよるように俺達に近寄ってくる。
さらに顔は険しくなり、大勢が俺たちを囲んでくる。
あ、あれ、何この雰囲気、やばくない?
「あ、あのー、何かご用時のお邪魔してしまったら帰りますので、その、皆さん――っ!」
言い切らないうちに、冒険者ギルドの冒険者達が雪崩のように俺たちに殺到する。そして――。
「あんたら、ハルエロちゃんと同じ闘技場にいる闘士だろ! 大丈夫なのかハルエロちゃんは!」
「危ない辻斬り野郎から護ってやってくれよハルエロちゃんを!」
「ううっ、心配だハルエロちゃん! ああっ。こうしているうちにも魔の手が!」
押しくらまんじゅうに俺とルーの周囲を囲み、顔を突き出す冒険者の群れはそんなことを次々に言う。
俺とルーは顔を見合わせ、同時に口を開いた。
「ダメだな」