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80,風雲急を告げる

「エイシ! 早く早く!」

「わかったから、腕を引っ張らないでルー」


 俺はルーに手を引かれてコロシアムに駆け込んだ。

 プローカイで過ごすようになって数日、ついにリーグ戦が始まるときが来た。結局時空を切り裂く剣は、ただの時空を切り裂くほど凄く鋭い剣でしかなかったけれど、リサハルナは単純にコロシアムにたいしてやる気満々だったので、特別リーグ戦に参加することにしたのだ。

 俺たちはその応援に、第一試合を見に来ている。

 俺はもちろん、出ません。

 強くなるのが目的だし、戦うにせよこんな目立つとこはちょっと。


 ルーもやる気はないようだが、応援する気は万全のようだ。

 朝から張り切っている。


「誰が優勝すると思う? エイシ」

「んー、強い人もたくさんいるからなー。リサハルナさんは応援するけど、ジャクローサ=テトラがかなり手強いんじゃないかな」

「ほほう、エイシもなかなか目が利く。私はケーネだね」

「ケーネ。その名前も聞いたことあるな。結構強いんだっけ」


 ルーは数度続けて頷いた。

 なんでも、ルーは何度かコロシアムに来ていて、その時に見てこいつはやると思ったらしい。


「他にも見所のあるのは魔法剣士の――」


 ルーはさらに勝利予想を俺に講釈していく。

 いつの間にか通になっていたらしい。スポーツはやるより見るのが好きなタイプっぽいな。


 そうこうしているうちに、第一回戦が始まった。

 最初のカードには早速ハルエロが登場する。ハルエロは皆に手を振って、今日もファンサービス満点だ。

 と、その途中俺と目があった……ような気がした。

 そして一瞬止まってにこっといい笑みを浮かべる。


「ルー、今こっち見て笑った、ハルエロが」

「何はしゃいでるのエイシ。それ明らかに勘違いだから。皆に笑顔を振りまいてるだけだから」

「そんなことないと思うけどなー、明らかに俺に向けていたと思う」

「はぁ。典型的な勘違い~、もう少し利口になった方がいいよエイシ」


 ルーが呆れたようにため息をつく。

 ぐぐぐ……でもたしかに、明らかに勘違いしてるファンっぽい反応のような……俺がそんなことしてしまうなんて、ハルエロ恐ろしい子!


 俺が戦慄している間に、あっさりと一回戦は終わった。

 ハルエロの勝利である。やっぱり強いんだな、ハルエロ。

 それから数試合後にリサハルナが出てきたが、こちらも楽勝。結構大きい歓声を受けていたけど、なかなか人気があるようだ。


「いやあ、いいねあの新人。美人なのに戦い方が無造作なパワー押しなギャップがたまらない」

「クールで余裕たっぷりなところが素敵だと思います」


 など観客の反応も上々だ。

 さすがのカリスマ性ってとこだろうか。

 ともあれ、特別リーグの初日は、順当な星取り表となったようだ。リサハルナも勝利してよかったよかった。

 明日の目玉であるケーネもきっと最初だから順当に勝利だろう。

 ケーネと言えば、数少ないAランク冒険者兼闘士。俺も注目している。


 そして俺たちはリサハルナをねぎらいにコロシアムの観客席からスタッフルームへと向かった。

 しかし、なんだろう。妙に慌ただしいな。


 どたばたと走っている人がたくさんいるし、なにやら怒鳴っている人や、廊下で座り込んでいる人もいる。


「どうしたんだろ、エイシ。何かあったのかな?」

「さあ、俺も知らないけど、でもちょっと変な様子だ」


 怒鳴り声に耳を澄ます。

 ざわめきに満ちていて、判別が難しかったが、しかし、少しだけ聞き取ることが出来た。


「ケーネが出られなくなった!? おいおい、本気かよ! 明日の目玉だろう!」


 ケーネが出られない……?

 どういうことだろう。

 俺とルーは、ともに立ち止まり、特に言い合わせたわけでもないのだが、同時に聞き耳を立てていた。


「どういう……なに? 襲われた? おいおい冗談だろ、ケーネを襲って怪我させられる奴なんて――冗談じゃないのかよ。剣士だと? それで、ケーネの容態は! まだ意識を失ったままだと? どうなるんだよ、おい! 俺に怒鳴るなって言われても知るかそんなこと!」


 俺とルーは目を見合わせる。

 闘技場の中でも有数の実力者が何者かに襲撃され、重傷をおった。つまり、それ以上の強者がこの町に潜んでいる。


 なんか、やばそうだな。


「リサハルナに伝えた方がいいかもね」

「うんうん、行こ行こ」


 俺とルーは、リサハルナの元へと足を早める。




 リサハルナはすでに情報を知っていた。

 その場にいたハルエロも知っていて、何かわからないけど気をつけようということになりその日は別れた。


 そしてリーグ二日目。

 ケーネはさすがに欠場だが、それ以外は何事もなく闘技は進んで行く。

 この日こそ本当に波乱はなく、平温に闘技は進んで行った。


 初日に起きた事件で不穏な空気が広がっていたが、意外にもその後は何事もなく進んで行った。

 そして予選リーグが終わり、決勝トーナメントが始まった。

 残ったのは16人。リサハルナ、ジャクローサ、ハルエロの三人もしっかり残っている。

 これ本当にリサハルナ優勝しちゃうんじゃないか?

 とちょっと思って来た。

 そしていよいよ決勝トーナメント当日。

 第一回戦はジャクローサvsハルエロの好カード。

 果たしてどちらが勝つかとコロシアムの前の広場で、人々が食べ物を食べたり土産物を買ったりしている中、俺たちもまた広場に来ていた。


 そしてそろそろ時間だと思いコロシアムへ関係者用入り口を使って快適に入った時、それは起きた。


 広がる悲鳴。

 空気をつんざくその音に、そちらに目を向け――俺は、目を見開き、駆けだした。


「ジャクローサ!」


 血を流す足を引きずりながら、槍を支えにするように、ジャクローサが、コロシアムに入ってきた。

 


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