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78,鮎の塩焼き


 火がパチパチと音を立て、魚の皮から垂れおちた脂が火に入ると一瞬赤い光がマシ、じゅうじゅうと音が立つ。


「子供の頃は、ここで銛を使って魚を捕ってたんだ。パーティや演劇より、そっちの方が好きだった」


 ジャクローサは魚の焼け具合を確かめながら語っているのは、昔話。煌びやかな貴族の世界より、野性的なことの方が好きだったらしい。

 貴族はいい生活してそうだけど、なじめない性格だとむしろ大変そうだな。俺ならそういう社交界っていうのかな、そういうの絶対無理だね。


「エイシはどう」

「俺もどっちかというとそういう派手目なことは苦手だな。そこは似たもの同士かも。インドア派だからかわりにやることは逆だけどね。そろそろ焼けたかな?」

「ああ。もう十分」


 ジャクローサからもお許しが出たので食べることにする。

 ここの魚の食べ方から何から知り尽くしていて、内臓をとって串に刺して火をおこしてと上手にやって教えてくれた。


 さてと、それじゃあ食べますか。

 おおうまそうに焼けて折るわ。表面の皮がいい感じの焦げ目がついて、香ばしい香りをさせている。

 いただきます。


「あふっ、あつっ……うまい!」


 塩を軽く振って焼いただけ、なぜこれでこんなに美味しいのか。

 かすかな塩味が魚のうまみをひきたて、そして、皮。

 俺は皮が好きなんだよな。このちょっと焦げて香ばしくパリっとした皮。皮を食べるために魚を食べるといってもいいレベル。


 大満足しながら、俺たちはぺろりと平らげた。

 新スキルをテストできたし、うまいものも食べられたし言うことなし。ちょっと食休みしたら帰ろう。


 と、思っていたときだった。

 人の姿が目に入った。

 三十路すぎくらいの男で、腰には剣を差していて、こちらへまっすぐ歩いてくる。


 先に気付いた俺が立ち上がると、声をかけてきた。


「よう。プローカイの人か。二人とも」

「住んではいないけど、滞在中だよ。これから行くところ?」


 男は小さく頷くと、俺に遅れて立ち上がったジャクローサを一瞥しつつ尋ねる。


「コロシアムが有名だと聞いて、一つ行ってみようと思ってた。早いとこ見てみたいんだが、どの入り口から入ると早いとかそういうことはあるか?」

「この近くの街道を進んでけばそれで素直につくよ。街に入ったらでかでかと見えるからわかるはず。その入り口からならね。徒歩で来たんだ」

「歩きの旅も悪くない。馬車だと通り過ぎてしまうところにも気がついていける。この場所もなかなか悪くなさそうだ」


 河原を見渡す男。

 その目は、ここを物色していた時の俺と似ている気がする。


「その腰の剣の練習にちょうどいいって思ってる?」

「ああ。集中できそうだ。お前達もそういう目的か? 他にもよく使われる場所なのか」


 その質問に答えたのはジャクローサ。


「ここを使う人はそこそこいる。他にも街の周囲にはいくつか訓練に適した場所がある」

「ほう。それはいいことを聞いた。そこらも調べておかなければな。では私はもう行こう。調べは大事だからな。もしかしたら、また会うこともあるかもしれんが、その時はよろしく頼むぞ」


 不敵な笑みを浮かべて、男は立ち去っていった。

 あの人もコロシアムに興味があるのだろうか。どっちかというと、見物人と言うよりは参加者風だったな。

 それだと戦う姿を見ることもあるかも知れないな。


 そんなことを思いながら俺たちは食べた後始末をして、プローカイへと戻ったのだった。




 翌日、俺とリサハルナとルーの三人は闘技場の控え室にいた。それは、ルーがリサーチしたことを伝えるために。


「で、リサーチしたことって?」

「特別闘技の商品、あったでしょ。次元をも切り裂く剣って言ってたやつ」

「ああ、あれ」


 コロシアムの闘士として今度開かれる特別戦に出ると、優勝賞品としてもらえるって話だったな。それについて調べてたのか。


「そう、あれよ。あれ、結論から言うとね、まずどうやって知ったかというと、職員をとっ捕まえて――」

「結論から言ってなくない?」

「慌てんぼうだねえ、エイシは。ことばの綾だよことばのさ」

「綾ってレベルを超えてるだろう、その無視っぷりは。まあ、どっちでもいいけどさ。結論からでも過程からでも」

「じゃあ結論から言うけど、あれ偽物だったよ」

「結局結論からいうのか……ってええ!? 偽物!?」


 思わず椅子をがたっと鳴らしてしまった俺に、ルーがやれやれと首を振りながら続ける。


「うん。職員の人を捕まえて、見せてもらったんだけど、秘宝らしい力は感じなかったの。それで、これ本物かって聞いたら、時空を切り裂くほど鋭い剣ってことで、本当にそんな特別な力があるわけじゃないってさ」


 え。

 何その紛らわしい名前。


「武器マニアの中では有名で、だから力がないことも詳しい人は最初からわかってることだってー。だったら詳しくない人にも説明してよーって言ったら、笑ってごまかされた。まったく困ったものだよ、無駄に驚かせてさー。でもとりあえず、出る理由はもうあんまりなくなったね」


 ルーは手のひらに顎をのせてため息を一つ。

 たしかに、それが普通の剣なら狙う必要は特にないな。

 まあ、話が出来すぎだと思ったんだよ。そんな都合よく特殊な効果を持ったものがその辺にあるはずないしな。


「まったく、お騒がせなコロシアムだな。でもまあ、それなら出なくてもいいか。登録しちゃったけど保留にしておけばいいね。見るだけで満足、ね」

「いや。そうでもないさ」


 だが、リサハルナは首を振った。

 指を鳴らしながら、続ける。


「私は出るよ。せっかくだから」

「え、本気ですかリサハルナさん。というか何がせっかくなのかわからないんですが」

「そこは深く考えてはいけない。私も結構体が鈍ってしまっていることを痛感したからね、先の闘いでは。少し勘を取り戻そうかと思うんだ。それに、闘いというのは久しぶりにやってみるとなかなかに血がたぎるものがある」

「おー、熱いねリサハルナ! やっちゃえやっちゃえ。三人登録して誰もやらないんじゃ面白くないしね。応援しちゃうよ」

「ふふ、ありがとうルー。さて、それでは登録してくるか。商品はコレクションにするか、売って慈善団体の活動資金にあててもらってもいいな」


 本気か冗談かわかりかねることを言い、リサハルナは席を立つ。だがどうやら、使い方はともかく出るのは本気らしい。

 結構行動的なんだなあ。

 ちなみに俺とルーは出る気なしです。スポーツは観戦する派なんだ俺は。ルーもそっちの方が好きみたいだし。少なくとも今回のことは。


 そしてリサハルナが申し込み――あっという間に初戦が組まれた。

 まさかの当日である。

 特別戦以外も薦められ、そのまえに一度くらいは普通に戦うべきと言われて、やってみることにしたそうだ。


「それではいってくるよ」


 と言い残して舞台へ向かうリサハルナだった。



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