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74,コロシアムの闘士達

「ふむ。これはうまいな」


 リサハルナが出店の果物を食べて感心した表情を見せている。そんなにうまいのかと俺も葡萄を食べてみると、たしかに、食べられる皮を歯で破った瞬間、爽やかな甘さのある香りが口内に広がった。

 うん、おいしい。と思っていると、リサハルナは出店の他の所からも小さい桃や産毛が生えたサクランボなどをぱくぱく食べる。


「リサハルナって、果物好きなんだ」

「果物というより、食べ物はなんでも好きさ」


 リサハルナはサクランボを摘まんで揺らしながら答える。


「昔から、うまいものには目がなくてね。人間はゾンビやリッチより料理や食材に力を入れるから好きだ」

「そりゃあアンデッドが料理をするところは想像できないですね」

「そういうこと。それに、以前来た時――だいぶ昔だが、その頃より食べ物がうまくなっている気がする。品種改良などしているのだろう。今回の放浪は楽しめそうだ」


 へえ。ここでもそういうことやってるんだな。ファーマーのクラスのレベルが高い人が頑張ってるのかも知れないな。


 ……そうそう、クラスで思い出したけど寄生だ。

 闘技場があって、闘士がいるなら実力のある相手に寄生するチャンスも相当あるに違いない。

 あの土産物屋のおっちゃんが言ってた三人とか、他にも実力者はいるだろう。できれば俺より強ければいいな。その方が寄生の効果も高いってもんよ。


「でも、せっかくだしもうちょっと食べてから行こう……っと、わっ。すいません」


 人波に押され、近くにいた人にぶつかってしまった。

 それは金髪の男で、槍を背負っている。


 って、この槍どこかで見たような……あ、さっきのじゃないか。

 もしやこの人がジャクローサって人か?

 いやそんなわけないか、ああいうところでレプリカの記念品買った人だろ多分。


「あ、あそこにいるのジャクローサ様じゃない?」

「本当だ、いつ見ても涼しげな目元……あっ、今あたしの方に流し目を!」

「いや気のせいでしょ」


 なんか聞こえてきた。

 ちらっと流し目を俺も声の聞こえた方へ送ってみると、若者三人組が遠巻きにはしゃいでいる。

 どうやら、本物らしい。


 これから試合に行く前の腹ごしらえだろうか。

 この大チャンス、寄生するしかないな。


 ということでさっそくさりげなくタッチしてみる。

 ん、ちょっとパリッと来たな。どうやら状態異常を防ぐ装備かスキルかを持っていたらしい。でも俺にはアンチディスペルのお守りがあるのです、作っておいてよかったー。

 ではさっそく情報を。


【パラディン50】【神官25】


 ……なんか凄いの見えたんですが。

 パラディン50って、50レベルって。

 俺より強い人いたらいいなーとは言ったけど、いきなり未知の高レベルが来たぞこれ。しかも神官も持ってるし、回復スキルと盾で超鉄壁って感じの戦闘スタイルがもう見えるようだ。


 なんにせよ、いきなりいい成果をゲットできた。

 これは幸先がいい、この先も期待できるな。


 とほくほく顔の俺の前に、先ほどの三人組が近づいてきた。いや、もちろん俺ではなくジャクローサ=テトラの前だ。


「あ、あの、今日の試合、頑張ってください」

「……ああ」

「あの俺、すっげえファンで、握手してもらえますか」

 

 三人の中の男に、ジャクローサは無言で手を握る。男は感動した様子で、手を布で包んだ。なに、酸化でも防ごうってのか。


「ごめんなさい、友達がどうしても話したいって! 本当は試合前の闘士の人に余計なことしちゃいけないのに」

「別にいい。気にしない」


 ぺこぺこ謝る残る一人に、ジャクローサは静かに淡々と答える。

 慣れっこなのかな、それとも素の性格? 無愛想なのか握手に答えるし、なんともつかみ所のない人だ。


 様子をじっと見ていると、ジャクローサは去って行き、コロシアムへと向かっていった。一瞬、俺のことを振り返って見たような気がしたが、気のせいだろう。別に何も変なことしてないし。


 しかし、やっぱり強者がいるんだ、ここには。中にも早速行こう。

 俺はルーとリサハルナに声をかけ、コロシアムへと入る。




 コロシアムに入るとロビーがあり、そこで金を払って観客席へと入場する仕組みになっていた。内部は結構雑然としているが、案内のものもいて、はじめてだというと丁寧に案内してくれて助かった。

 有名な観光名所でもあるらしいから、俺たちみたいな人も多いんだろう。ロビーから階段をのぼっていくと、観客席へとたどり着く。

 これは階段状になっていて、いい席ほど値段が高いのはよくある通りだ。個室になっている特等席もあって、そこでは高級な飲食物なども提供されるとか。まあそこまで本格的に見るわけではなくお試しなので、普通の席で見ることにした。


 なかなかの人が入っている。本当に人気の娯楽らしい。


「凄い賑わいだね! エイシ!」

「うん! 思った以上だ!」


 まわりの音もかなりのもので、怒鳴るようにしないとなかなか声が聞き取りがたい。熱気は最高潮って感じだ。


「早くはじまらないかなー! あ! 来たよ!」


 円形の闘技場に、闘士が入場してきた。

 さらに大きくなる歓声。

 観客席は低い位置にある闘技場をぐるっと取り囲むようになっている。闘技場は何もない均された土のフィールドとなっている。

 だが、説明を聞いたところだと、必要に応じてオブジェクトを置くらしい。単に戦うだけでなく、シチュエーションのあるバトルをすることもあるとか。


「お、これはさっきの」


 あらわれたのはジャクローサ=テトラだった。

 長槍と丸盾を手に取り、静かに入ってくると名前を呼ぶ声なども聞こえてくる。

 相手はローブを着た魔道師風の男。

 

 かなり距離をとったところでいったん留まり、太鼓の音を合図に戦いが始まった。

 

 試合は一方的なものとなった。

 魔道師は魔法の矢や、弾丸、それに氷を巧みに操るという魔法を使用して遠距離から攻めたが、ジャクローサはそれらを盾で完全に受けた。

 そしてじりじりと間合いをつめていき、魔道師は壁際に追い詰められていき、移動をしようとしても左右と後ろには動けても前に進み横に抜けることはできない。

 そしてついに後がなくなり、ジャクローサの槍の間合いに入ってしまう。


 だがジャクローサは慌てない。

 退路を断ったまま、相手の魔法をしっかりとガードしつつ、一撃ずつ着実に槍を入れていく。

 攻撃を受けてから、自分が槍を振るい、そして盾を構え直す一連の流れは一コマですんでいるように素早く滑らかで正確。基礎能力も技術も磨かれていることが一目でわかる。

 そして数発の攻撃がヒットしたところで、太鼓が激しく鳴らされ、魔道師は膝をつき闘技は終了した。


「本当に強かったね、あの人!」

「ああ。人気だけではないということだな。速くて重い。一撃あたりの耐久値の減り具合も大きかったな」


 リサハルナが言った耐久値、それは前方にある石版に表示されている。

 俺たちが見ている自分のステータスと似たようなもので、ゲージとパーセンテージによって表されているものが、闘技場の壁に設置されている表示板に表示されているのだ。


 耐久値――それは、この闘技場での勝敗を決める値だという。

 ここで戦う者は、バリアのようなものを張る魔道具を装備することになっていて、攻撃を受けるとその耐久値が減っていく。

 それがゼロになると負けと言うことだ。

 なので、大怪我をすることはないらしい。

 そういう意味では安全安心、子供が見に来ているのも納得だな。


 しかし便利な魔道具があるもんだなあと思っている間にも他のカードがすすんでいく。


「おおおおおお!」

「ハルエロちゃーん!」


 と、急に歓声が大きくなったぞ。

 いったい誰が出てきたんだ?


 と、闘技場に注目すると――。

 俺たちのいるがわの扉から、奥へと歩いて行く女の後ろ姿があらわれた。茶色い髪のボブカット、割と小柄な姿が見える。

 歩いて行く途中、こちらに振り返った。愛嬌のある顔に満面の笑みを浮かべて、大きく手を振ってくると、さらに歓声が大きくなる。

 中には立ち上がるものもいるほどだ。

 凄い人気だ、サービスいいしかわいげもあるし、ていうかストレートにルックスいいし。納得の人気。


「だがルックスはパラサイト出来ないのだ。大事なのは腕前のほう」


 そっちも凄かった。

 ハルエロは曲刀の二刀流で戦う戦士だった。相手も同じ剣を扱う戦士だったが、攻撃を紙一重で回避し、剣で受け流しながら、舞うように相手に切りつけていく。流れるようなその動きは、戦っているよりまさに踊っているようであり、相手を無理矢理踊らせているようだ。

 そしてまったくの無傷でハルエロは勝利した。

 勝ったハルエロは今度は剣を持ったままその場で踊ってみせてから退場していった。その間の歓声といったら凄かったね、もう。

 コロシアムが大人気のここプローカイじゃ、強い闘士はスターみたいなもんなんだな。


 他にもいくつか試合を見て、満足して俺たちは観客席をあとにした。


「いいね、いいねえ。やっぱり生で見ると臨場感が違うよ。熱気が伝わってくるってものだよ」

「結構血の気の多い女神だな。でもたしかに、迫力あったな。なにより観客の数が多いと凄いね」

「ああ。これはなかなか面白い。どうだ、君も出てみては」


 リサハルナが俺の目を見てくるが、なにを言い出すんだ。


「いや、ただの一般人がそんなの無理ですよ」

「そうでもないさ。先ほどロビーで見てみたが、常に無条件で闘士を募集しているという話だ。適性検査に通れば誰でもなれるらしい」

「めざといですね。でも別に闘士になりたいわけでもないですし」

「そうか。残念だ。だが私は興味があるから少し見てこよう」


 リサハルナはロビーを歩いているスタッフの元へと向かって行く。意外と好戦的なのかなあ……いや、待てよ。


 ふと気付いた。

 あそこで戦っていた闘士、さっきは偶然会えたけどそうそう都合のいいことはないだろう。だけど、闘士に登録して同じ立場になれば、会える機会もあるんじゃないか?

 今日見た彼らだけでも相当の実力者、俺より上を行くかも知れない、少なくとも一分野においてはそうだし、それより上の人もいるかもしれない。

 登録したからといって、すぐに絶対戦わなきゃならないわけじゃないかもしれないし、とりあえず様子を探るくらいならアリだな。

 よし。


「俺たちも行こう」

「え? 私も?」

「うん」


 ルーも情報収集に使えるかも知れないしね。

 リサハルナに続き、ロビーにいるスタッフに声をかけに行く。



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