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73,馬車道

 気付いたとき、ルーは一つの秘宝を持っていた。

 それが世界斧グランギニョル。ルーはそれを当たり前のように扱うことが出来た。はじめルーはそれが特別なことだとは思ってなかったが、他の人間にはそれはなまくらな斧としてしか振る舞わなかった。そして知った。それは秘宝で、ルーは秘宝を扱える特殊な力を持った存在だということに。


 それ以外の秘宝も、同じくルーはなんの苦労もなく扱うことが出来た。人間にとっては憧れと畏怖の対象であり、しかしどうすることもできない秘宝の力を自在に振るうルーはまさに神のごとき力を持っているように見えたのだろう。

 そしてルーは、世界斧の力で、世界に穴を開けた。

 その穴から、地上に満ちていた高濃度の魔元素は抜けていった。

 魔元素が薄まれば、強力な力を持つモンスターは地上にいられなくなる。

 あるものは弱り、あるものは死に、あるものはダンジョンの奥など、魔元素が残る場所へと避難していった。

 そうして、地上は力の弱い人間が残った。


 ルーは秘宝の力で王国を築くと、最後に世界斧を振るい時空を切り裂き、伝承に残る秘宝、神の座への道を開きそこへと登った。

 もちろんその空間、あるいは部屋、あるいは庭園のような秘宝の力も扱うことが出来たルーはまさに神となり、今日まで世界を見守っている。




「はあ……なかなか波瀾万丈な人生送ってたんだねルーって」

「そうだよ。人生経験豊富なんだからね」


 ふんぞり返るルーは得意げだ。

 たしかに、俺より人生経験はありそうだ。かなり特殊な経験値だが。


「しかしリサハルナさんも詳しいですね、ルーのことにも」

「そうでもないさ。まあ、細かい個人的なことは知らないが、彼女がモンスターを封じて、この地域を開拓し人間の王国を築く礎となったことは、それなりに有名な話だからね。もちろん、皆が知っているわけではないが、君も知らないようだし」


 そうだったのか。

 まあ、言われてみれば、信仰されてる神の逸話であり建国にまつわる神話ならメジャーでもおかしくはない。


 秘宝を自在に使えるとか、いつの間にか世界斧を持っていたとか、そういうことはルーしか知らなかったみたいだけどね。


 あらためて聞くと、ルーって結構凄い人だったんだな。元は神ではないと言っていたけど、神じゃないのにしてるってのはそれはそれで凄い。

 それに……秘宝ってたしか、制御が難しいんだったよな。アカシャの瞳も普通じゃ力を引き出せなくて、道具を使っても暴走してローレルで事件を引き起こしたし、魔槍ブラッディリコリスも、魔物化して暴走してたし、その前は吸血の力は暴走時より弱かったとリサハルナは言っていたし。

 そんな秘宝の本来の力を全て引き出し、さらにちゃんと扱える。相当凄いスキルをルーは持っているということらしいけど、そういう生得的なスキルってのもクラスで獲得する以外にもある人もいるんだな。俺のパラサイト・インフォはクラスしか見えないから実はいたのかもしれない。


 感心しつつ馬車に揺られていると――あれ?


「もしかしてだけど、世界斧で世界に穴をあけたって、それってもしかして――」


 俺はルーの耳元に顔を寄せ、俺がこの世界に招かれる切っ掛けとなった出来事と関連あるのではと尋ねた。

 ルーはノータイムで頷く。


「そうだよ。この世界は放っておくと魔元素の濃度がどんどん濃くなっていくの。つまり、ダンジョン深くにいるような強力なモンスターが地上にも姿をあらわすようになっちゃうってことだね。そうならないように、ある程度溜まってきたら、世界に穴を開けて、魔元素を別の世界に送って、空気の入れ換えをしてるんだよ」

「……あの時言ってた気の入れ替えってのは、そういうことだったのか」

「そうそう。どういうわけか、エイシの世界は魔法とかの力は全然ないみたいで、魔元素入れても入ってくる空気にはまったく魔元素ゼロ。濾過されるか、そういう魔法とかが存在し得ない世界なんだろうね」


 そういうことだったのか。

 あっちの世界が濾過装置みたいな使われ方をしていたとは。まあ、換気しないと空気が悪くなるのは俺の部屋も世界も同じってことだな、うん。


「……ってあれ、じゃあもしかして、今はその斧とか神の座とかって、ルーは使えないんだよね? 空の上にあって」

「うん、そうだよ」

「それって、魔元素を逃がすことできなくない? 溜まってく一方じゃない?」

「うん、そうだよ」

「モンスター強くならない? 世界やばくない?」

「うん、そうだよ」


 やっぱりそうなるよね、論理的に。

 これはまいった、俺の召喚で世界がやばい。




 俺はルーから顔を離した。


「どうしたらいいかな。世界斧がないと魔元素が溜まりすぎるってことだけど、他に減らす手段はないの?」

「あるかもしれないけど私は知らないなあ」

「じゃあ、神の座に行く方法は?」

「世界斧を使って時空の裂け目を作ればいいんだよ」


 ええと、つまり整理すると。

 魔元素を抜くには世界斧が必要。

 世界斧は神の座にある。

 神の座に行くには世界斧が必要。


「って、詰んでるじゃないか!」

 

 車のキーを車内に閉じ込めちゃったみたいな状況だよ。なんでこんな面倒なことに。いや俺が変なスキルで呼び出しちゃったからだけど。

 と、煩悶する俺にリサハルナが声をかけた。


「詳しいことは知らないし、秘密にするなら尋ねる気も無いが、魔元素を減らしていた手段が使えなくなったのかい?」

「そうだよ、リサハルナ。困ったことに」


 あまり困ってなさそうにルーが答える。

 リサハルナはおかしそうにお腹を抱えている。


「あはは、それは傑作じゃないか。私が力を取り戻す日も近いかな?」

「いや笑い事じゃないような……」

「まあ、笑い事だよ。私的にはね。そろそろかなって思ってたし」

「そうだな。私も同感だ」


 ルーとリサハルナは二人で頷いている。

 え、なになに。年の功組でなんか納得できることがあるの。


「昔の脆弱な人類とは違い、今の人間なら強力なモンスターにも対抗できるさ、おそらくね」

「そういうこと。私もタイミングを見計らってたんだよねー。人類の守護者なんて呼ばれてるけど、いつまでも私があれこれやるのもどうかなあと思ってたんだよ。自分達でなんとかできるなら、その方がいいし。多分、頃合いだと思うんだ。神眼とかで見てても、ずいぶん力ついたと思うしね」

「はあ、なるほど。じゃあ別に大丈夫ってことか。まあ俺も結構強化したしな、冒険者。ほっとしたよ」

「そもそも魔元素が濃くなるまで、時と場合によって変わるけど十数年~数十年くらいかかるからね。慌てることはないってことだよ。……でも、私の私物が色々あそこに置きっ放しになってるんだから、そこについては反省しろ! エイシ!」

「う……。はい、すいません」


 ほっぺを指でぐりぐりやられながら謝る俺であった。

 まあ、世界が大丈夫ならとりあえずいいか。

 でも、神の座にいける方法が見つかれば、ちょっと意識しておこう。前に行ったときは余裕がなかったけど、そんなたいした所だと知ってれば、色々もっと見てみたいし。

 好奇心が動くよね、神の住む場所って。RPGならラストダンジョン一歩前って感じ。むしろ神がラスボス系ならラストダンジョンだ。

 

 しかし、ルーに歴史ありだな。世界に歴史ありとも言えるけど。

 リサハルナも同じくらいの時期にはすでに存在してたみたいだし、なんだこの高齢パーティ。


「まあ、色々知れてよかった――」


 そうして、俺たちはまたしばらく馬車に揺られていく。




 プローカイまではすぐ……のはずだったが、そうはならなかった。

 大都市プローカイの衛星都市とでもいうか、小さい町があって、そこで名物の果物を食べ放題などしながらしばらくまったりと過ごしたのだ。

 とりたてて大きな出来事も起きず、十日ほど滞在してその町を発ち、プローカイへと再び向かった。

 今度の今度こそ本当に向かいました。


 そして馬車に乗ってから数時間後――。


「お客さん、つきましたよ。プローカイです」


 御者の声にうたた寝していた俺は起こされ、馬車を降りた。

 ルーとリサハルナも先におりていて、そこには、未知の町が広がっていた。


「おお、ここがプローカイ」

「ローレルとはまた少し違う雰囲気だね」

「久しぶりに来ると、やはり空気が違うな」


 三者三様の感想を述べ、俺たちはプローカイの町を歩き始めた。

 少し違う雰囲気、とはいえ街道や建物はローレルと大差ない。道行く人々も、まあ同じ国で近くの町だからそこまで変わらない。

 ただ一つ、大きく違うことがあった。


「あの白いのがコロシアムか」


 大きな円形競技場が、奥の方に見えている。

 この町の象徴とも言えるコロシアムだ。

 白く太い柱が幾本も聳えている様子は遠くからでもなかなかに迫力がある。


「是非行ってみないとね、あそこには」


 俺の言葉にルーとリサハルナも同意する。

 完全に単なる観光客だなあと思いつつ、俺たちはまず宿を探すことにした。


 中級クラスの宿をとり、身軽になって俺たちは早速コロシアムへと向かった。

 コロシアムは町の北部にあり、その前は広場のようになっている。そこには老若男女問わず多くの人がいて、賑わいで満たされていた。

 広場には出店もたくさんでていて、食べ物や、装飾品、あとは武器まで売っている。


「よっ、お兄さん達、武器はどう? この槍はあのジャクローサ=テトラが使ってるのと同じモデルだよ! 持ってりゃあ自慢できますぜ!」


 武器を並べている出店の男が俺たちに声をかけてくる。

 買うつもりはないけど、ちょっと見てみようかなあと近づいて行った。


「ジャクローサって誰? おじさん」


 ルーが尋ねると、店員は嬉しそうに手を打って答える。


「お嬢ちゃん、ジャクローサを知らない!? それはいけねえ、いけねえなあ。ジャクローサって言ったら、ここの闘士でもナンバーワンの美男子闘士。流れるような槍捌きと美貌に女も男もクラッときちまうこと請け合いだ。さてはあんたら、ここははじめてかい?」

「うん、これから中も見ようと思ってるんだよ」

「やっぱりな。てことは、俺がいくら言ってもわかんねえよなあ。よし、じゃあまずは中を見てきな! 見てきたら必ず欲しくなるぜ、うちの武器が。ジャクローサ以外にもケーネやハルエロのモデルも取りそろえてるから、忘れんなよ!」


 店員はサムズアップをして、俺たちを送り出し、次の客に声をかけた。勢いのある人だなあ。でも有名闘士? らしき人を教えて貰えたし、いい人そうだ。


「じゃあ、あの人も言ってたし、見に行っちゃいますか?」

「うん、見に行こ!」


 やっぱり一番美味しいところから最初に行くべきだな。

 ということで、俺たちは闘技場へと向かっていく。

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