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72,ルー

「さて、行きますか」

「おう、行こ行こ!」


 翌日、俺とルーはエイゲンを発つ準備を始めた。

 密林や鉱山やに行って斬ったり掘ったりと今までにやってないことができて、結構楽しかったね。

 次はどんな新しいことができるかなと思いつつ、宿を出る。


 その、瞬間だった。


「おや、ここにいたか、エイシ君」


 聞き覚えのある声がした方向を見ると、金髪に青い目の、独特の妖艶さがある女性がほほえんでいた。


「リサハルナさん? どうしてここに」




 俺たちはお互いの事情を伝え合った。

 奇しくも同じ目的を持って旅をしている――つまり目的が特にない旅ということだけど――ことがわかり、旅は道連れということで、プローカイへと一緒に向かうことになった。


 この村は週に二度しか馬車が来ないことに、荷造りしてから気付いた間抜けな俺とルーは、もう一日留まることにし、それから馬車に乗ったというわけ。

 そんなわけで、現在は俺とルーとリサハルナが、一つの乗合馬車に一緒に乗って、街道をのんびりと進んでいる。


「それにしても」


 リサハルナが感慨深げな声を漏らした。


「まさか、エイシ君が彼女と一緒にいるとは思わなかったよ」

「彼女? ルーのことですか?」


 どういうことだろう。

 知り合い……ではないよな、最近地上に来たばっかりだし。

 

「そうさ。まさか女神と一緒に寝泊まりしているとは。よくよく規格外な男だ」

「めっ……!」


 俺は身を乗り出す。

 女神って今、言ったよね? リサハルナ。


「知ってるんですか? ルーのこと、リサハルナさんは」

「ああ。もちろん。そこの彼女が、人間に奉られている女神その人だということはね。だいたい、そっくりじゃないか。神殿の石像と。いや、石像がそっくりによくできていると言うべきかな」


 まじかよ。

 たしかにリサハルナは普通の人間じゃないけど、女神のことまでわかるなんて。

 と俺が驚いていると、ルーが感心したような目でリサハルナを見返した。


「へー。私のこと知ってるなんて珍しい人間もいるんだね。だいたい、ただのそっくりさんだと思うのに」

「知っているさ、人間じゃあないからね。女神に封じられたモンスターの一人だからね。忘れるはずもない」


 女神に封じられた?

 え?

 どういうこと?


「あ! モンスターだったの。どうりで、しかももしかして長生き?」

「ああ。数百年は生きているよ」

「おー。なるほど。ということはあの時も……大丈夫かなあ」


 ルーが目を細め、リサハルナの顔色をうかがうようにじろじろと見つめると、リサハルナは、おかしそうに吹き出した。

 

「もうはるか昔の話だ、いちいち恨んでなどいないさ。もっとも、当時から私にとっては些末なことだったけれどね」

「ほほう、いい心がけ。さすが年の功がある」


 二人はなんとなく打ち解けた様子であれこれと話している。

 話している……が、まったくついていけないんだけど。

 超年長者トークされても新参者の俺にはわけがわからない。

 というかあらためて思うと、ルーって何者だ。

 神の力が、神の座という空間によるものだって話は聞いたけど、そもそもなんでそんなものの中にルーはいることができてたんだ。

 それに神と呼ばれるようになったのも、人々に知られるようになったのも。

 これは是非聞かなければ。


「ねえルー――」




 馬車に揺られることしばらく。

 ガタガタと車体の立てる音と共に、俺はルーとリサハルナから、彼女が神となった経緯を聞いた。そしてリサハルナとの関わりも。


 始まりは、正確にはわからないほど昔の話。

 まだライン王国が存在していない頃の時代にさかのぼる。

 その頃、地上には今よりはるかに強力なモンスター達が跋扈していて、人間は森の奥や洞窟の中など、モンスターの目につかない場所で、ひっそりと寄り集まり暮らしていたらしい。


 当然国家など作れるはずもなく、人々はバラバラだった。

 だがあるとき、地上からモンスターが姿を消し始めた。そして、安全になった地上に人々が気付いた頃、一人の少女が姿を現した。

 彼女は手にした斧で森を拓き、岩場を均し、平原を作った。その過程で様々な資源も人間にもたらされた。人々は彼女に続き、人間の住める場所は大幅に拡大していった。

 そして誕生したのが、ライン王国である。


 人々が王国を築き繁栄すると、少女は安心したように微笑み、姿を消した。以来人間が建国するまでを暁の時代と呼ぶようになり、人々は彼女を女神として奉るようになった。

 そして、人の世は現代まで続いている。


「なるほど、そういういきさつで神に――」


 だから開拓大好きだったのか。

 斧とかツルハシとか、ある意味天職というか。

 しかし――。


「どうして説明の大半をリサハルナがしたんですかね」

「いやあ、だって昔のことだし。そこまで詳しくないというか、リサハルナよく覚えてたね」

「私たちモンスターにとっては一大事だったからな。我が世の春を謳歌していたら、突然地上にいられなくなり、勢力が衰えたり、ダンジョン深くに姿を消したり」


 リサハルナが言う。

 つまり、そのころから生きているってことか。

 なんだこの馬車の平均年齢やばい。


「でも、それだと凄い恨んでてもおかしくないような」


 俺が尋ねると、リサハルナは首を振った。


「モンスターってものは、たいていは飽きっぽいし刹那的なんだ。数百年も昔のことなんてもうどうでもいいって者がほとんどさ。まあ、一部は根に持つものもいるかもしれないけれど、私はこれでいいと思っている。人間の世や文化を楽しんでいるし。人と魔のどちらが繁栄しようが、私はどちらでもやっていけるからどうでもいいとも言える」

「ふう、よかったよかった。いきなり噛みつかれるかと思ったよ」


 ルーが笑って言う。

 おそらく、そんな古代にリサハルナはルーを見たんだろうな、地上で。見たけど止めなかったということは、本当にどうでもいいんだろう。


 ……にしても、どうやってそんな芸当をやってのけたんだ?

 ルーの今の力は地上からモンスターを一掃できるほどではないとではないと思うし、建国とかもそんな凄いパワーが実はあるのか?


「私はね、どんな秘宝でも完全に制御して使用できるんだよ。そういうスキルを持ってるの。それが人から神と呼ばれる由縁。ふふ、凄いでしょ」


 ルーは腰に手を当て、ふんぞり返って彼女らしく、とんでもないことをさらっと言ってのけた。


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