71,鉱山にて
エイゲンの鉱山。
俺、ルー、ドライの三人は何かを求めさまよい続けるが、まだ何も見つからない。
キィ! キィ!
「うおう! コウモリか!?」
「しかもたくさん!」
歩いていると、突然天井からコウモリの集団が飛来してきた。俺たちは頭をおさえてかがみこむが、やりすごさせてくれない。
むしろ攻撃を仕掛けてきたんですけど。
「散れ! 散れ!」
ダメージはほぼないが非常に鬱陶しい。
俺は魔法の矢を乱射し追い払おうとする。
キィ……。
あ、撃ち落としてしまった。
無意識に狙って当ててしまったらしい。モンスターとの戦闘が体に染みついていて、ちょっと危ない人になりかけているぞ。注意注意。
とはいえ、仲間がやられて恐れをなしたのか、生き残ったコウモリ達は奥に逃げていった。一応功は奏したようだ。
「おおエイシ、やるぅ」
「ふう、こんなにたくさん寄ってくるなんて珍しいです。エイシさんかルーさんの血が美味しいんでしょうか」
「あはは……」
「ここのコウモリは食べられるんですよ」
言いながら、ドライはコウモリをさばきはじめる。
だが俺はそれを見て嫌な予感が背中に走るのを感じた。たしか、コウモリって雑菌だか寄生虫だかたくさんいなかったっけ?
「食べられない種類もいます。でもこれは昔から食べられてる種類ですから」
俺の心を見透かしたかのような言葉を発したドライ。もしかしたら、この村に来た人がよくそういうことを言うのかもしれない。
そんなこんなでコウモリの焼き肉はできあがった。軟骨っぽいコリコリした食感でなかなか美味しかったね。
そうして少し休憩して再び探索を始めた俺たちだが、なかなか見つからない。どうすべきかと考え――あ、そうだ。俺にはうってつけのスキルがあるじゃないか。
スキル【石囓り】【目利き(土)】この二つを持つ俺ならば、大地を食することでこの辺りの土の情報を得ることが出来るのでは?
思いついたらやってみるべし。と俺は早速綺麗そうな場所を選んで壁の土を抉って食べてみた。
ふむ……ほのかに甘く、ミントのような爽やかさも感じる。思ったより悪くない味だ。
「え、エイシ、何を……? コウモリだけじゃお腹いっぱいにならなかったからって、さすがに土を食べるのは……」
声に振り向くと、ルーがどん引きした目になっていた。
「ち、違う! これはそうじゃなくて!」
「すいません、気が利かなくて……あの、干し肉も持ってきてるのでどうぞ……」
「ドライさん、そんな真面目な対応しないで! むしろつらいから!」
って、違う!
そうじゃなくて!
「スキルだよスキル! 鉱物の場所を知るためのスキルなんだ! 嘘じゃない、本当に。そう、珍しい鉱物の気配は――あっちからしている!」
俺はスキルの説明をし、感じた方向へと突き進んだ。しばらくすすむと行き止まりに突き当たったが、しかしそこはごくうすい岩の壁となっているようだった。
叩いてみると、音がよく響く。
自然にできた空間がこの先にあるらしい。
「回り道をすればいけるかもしれないけど――」
「これくらいなら探すより掘った方が早いって! 私に貸して」
言うが早いか、ルーはツルハシをドライから受け取る。そして、うりゃーとたくましいかけ声をあげて壁に打ち付けた。
い~い音を立て、壁が削れ、あっという間に人が入れるサイズの大穴が空いた。
「あいかわらず凄い力だな」
「ふふ、力こそが正義だよ」
神的にその台詞はどうなんだと思いつつ、穴をくぐって新たな部屋へ。その途端、ドライが声を上げた。
「あっ! ありました! 黒銀に、マギサファイアまであります!」
指さした方を向くと、そこには黒く光る石のような塊と、壁に埋め込まれた淡青色の石があった。
俺たちは先を急いでかけより、よく眺める。
間違いなく、宝石だ。
「本当にありました、凄いですねエイシさん!」
「やるじゃない、エイシ」
二人の賞賛を受けると……いー気分だ。ははは。
「うむうむ、もっと賞賛してもいいよ」
「よし頑張って掘るぞー」
「はい!」
と返事をした頃には二人は見つけたレア鉱石を掘る作業を始めていた。くっ、現金な。……まあ、俺も掘るか!
「ふー、結構とれたね」
「はい。ありがとうござます!」
あれから近くを捜索し、さらに鉱物をいくつか見つけた。とはいえ、そこまで大量ではない。まあ、一日の分量としては上出来だろう。
そんなことをまた数日続け、初日ほど収獲があったときはなかったけれど、ある程度の【実績】が溜まったので、ドライは再びチャレンジした。
素材を土産に協力を募って協力者を増やそうと。
が、しかし――。
「やっぱり、そんな簡単にはいきませんね」
ドライは肩を落す。
ドライは手にした素材を片手に酒場や広場で宣伝したり、知りあいに声をかけたりしたが、まったくだめだった。
たまたま少しだけあるものが見つかっただけだろ、そんな都合いい話があるはずないとまともに取り合わなかった。
ようするに、この前と同じである。
何も変わらない。
「まあ、これで変わるなら苦労はしません。ですが、お二人のおかげであることははっきりしました。希望を失わずやっていきます」
「ドライさん――はい、頑張ってください」
「まあ、また気が向いたら開拓しに来るよ。それまでに進展しとけばいいねー」
酒場の前で俺とルーはドライに別れを告げ――ようとしたときだった。
少年が、ストンがやってきた。
ルーが威嚇するような目つきになる。根に持つタイプだなこいつ。
「ストン君、今日はどうしたんだい」
ドライが身を乗り出し、尋ねると。
「――えろ」
「え? 何?」
「今度行くとき、教えろ! 俺も行くから!」
「え――」
ドライが驚いたように目を見開き、何かを言おうとしたが、その瞬間にはもうストンは走って俺たちの前から去って行った。
なるほどねえ。
憎らしい態度は、内心一番関心を持ってたってことなんだな。他の人よりもずっと、ドライのしていたこと……この村を再度もり立てることに。
「よかったですね、ドライさん。ある意味一番頼もしい味方じゃないですか」
「……ええ。ありがとうございます! お二人がいなければストン君に希望を見せることもできませんでした。そろそろ行くと言ってましたけれど、いつでも来てください」
俺とルーはともに、もちろんと頷く。もしかしたら、次来た時には様子がすっかり変わってるかもしれないな。
なんだかんだで結構長い間過ごした俺たちは、無事協力者の跡継ぎも見つかったことだし、素材も手に入ったし、そろそろエイゲンを発ちプローカイへ向かおうとルーと話した。
そして、いつもの宿で眠りについた。