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68,密林紀行

 俺たちは意気揚々と先に進んでいく。

 ちょっと鼻をぶつけるアクシデントはルーにあったが、それからは根をまたぎ、蔦を避け、ヒルをはがしながら進んでいった。


「ところで、探すのは霊木? やっぱり」


 ルーがふくらはぎに飛びかかってきたバッタを避けながら尋ねる。俺は食べられる木の実を採取しつつ、答えた。


「血樹ってやつがあるらしい。赤い樹皮をしていて、傷をつけると血を流す樹木があるらしい。杖の素材として非常に貴重だとか」

「ふうん。にしても血を流すって、それ本当に木? 木に擬態したモンスターじゃなくて?」

「まあ、実際は血じゃなくて赤い樹液だろうね。森の奥まで行かなきゃ見つからないかもだけど」


 南部の方に、ここよりも色々資源が豊かな場所が見つかったらしく、それもここが見捨てられた理由の一つらしい。

 まあ、危険だから見捨てられたってよりは安心でいいけど、簡単には見つからないだろうってのは困りものだな。


「まあ、モンスターだらけよりは――」

「のおおおおっ!」


 と、思った瞬間だった。

 ルーが空中に浮かび上がった。


 もちろん、空を飛べるわけじゃない。

 足をつるに掴まれ、持ち上げられているのだ。


「ぬかったわ!」

「ちっ、噂をしなきゃ良かった!」


 それは、巨大な花だった。

 地面に直接一メートルほどもある花弁を広げている花が、がくを変形させたような伸縮自在のつるを地面に張っていたらしく、テリトリーに踏み込んだルーを一本釣りしたのだった。


「ふーりーまーわーすーなー」


 戦勝品を自慢するかのように、巨大花はルーを掴んだつるを振り回す。

 ルーは髪を振り乱しながら、「ひぃっ!」や「こんにゃろう!」などと叫んだり悪態をつきつつ、周囲の木にぶつからないよう身体をよじる。


 ……てか、器用だな。

 よく掴まれたまま、周りの木の直撃をかわせるものだ。

 さすが女神。……らしくないざまだけど。


「うおっと」


 暢気に感心していると、俺の足元にもつるが襲いかかってきた。

 幸い、ルーの犠牲で俺は警戒モードに入っていたのでかわすことができ、すかさず剣を抜き蔦を切る。

 宙吊りになったままルーが拳を握る。


「ナイス! エイシ! そのまま私も救出してちょうだい!」

「はいはい」


 素早くルーを捕獲しているつるに向かっていく。

 と、巨大花に動きが起きた。


 掴んでいたルーを放りなげ、空いたつるを使って俺を殴りつけてきたのだ。

 だが、そこまでたいしたスピードじゃない。

 蜘蛛の巣みたいに罠を張ってなければ、そうやられはしない。俺は花へと向かうスピードを遅らせずにつるをかわし、本体の巨大花を切り裂いた。


 断末魔の叫びこそあげなかったが、つるを震わせ、巨大花は沈黙した。

 まあ、モンスターいるにはいたが、たいしたことはなかったな。


「………………って、ルーだ。大丈夫!?」


 思い出して慌てて飛ばされた方向を見ると、木の枝に干されていた。


「よかった、無事だったか」

「いや、あんまり無事じゃないから」


 ないないと手をふるルーを、それから助け、俺たちは先に進むのだった。




「まったく、私も耄碌したものだよ」


 ルーがやれやれと嘆息しながら、木の根をまたぐ。

 鼻の頭の赤みはひいてきているが、今度は耳が赤くなっている。

 ドデカいカナブンに特攻されたのだ。


「昔は凄かったみたいな言い方だね」

「凄かったよー。もうね、本当に」

「……というかさ」


 思い出した。

 というか、思い付いた。


「ルー、そういやさ、神のスキルでなんとかすればよかったんじゃないか? 神眼とかあっただろう。他にも色々凄いの使えるだろうし」


 あれは戦闘向きじゃないけど、神っていうからには他にも凄いスキルとか持ってていいはずだ。

 なのにやられるがままってのはどういうことさ。


 と訝っていると、ルーがじろーと俺を睨んできた。

 え、何か悪いこと言ったっけ、俺。


「使えないんです」

「え……? 使えないって? 他のスキルを?」

「じゃなくて、そのスキルも含めて神のスキル全部!」

「まじで? どうしてまた」


 驚き尋ねる俺の鼻に、ルーが指を突き付けてきた。


「エイシのせいでしょうが! 私が神の力を使えるのは、あの白い空間の中だけなの! 地上に降りた時点でもう何も無し!」


 え。

 まじですか。

 呆気に取られるている俺に、ルーはなおも続ける。


「【神の座】っていう秘宝なんだよ、あの空間自体が。あの空間が私の力の源泉。あそこを離れたら、神眼とかクラスを引き出す力とかも使えないし、あの空間に私の秘宝もおいてあったけど、それも地上に持ち出せてない。つまり、【神の座】にいたときに使えていた神の権能は一切合切ありません」


 ええと、ちょっとまて。

 それってつまり、ルーが神というよりまるで。


「もしかして、ルーって秘宝を使ってただけの女の子……だったり?」


 まさかな~という風に聞いた俺に、あっさりルーは首を縦に振った。


「まあ、どちらかというと、誰かが神というよりは、【神の座】にある者が神と呼ばれるってところだろうね。だから私はそう、神の力を操るただの女の子」


 ルーは事も無げに言った。

 俺は確かめるように、その身体に触れる。

 その感触は確かに俺と変わらず、そして、人間と同じようにパラサイトもできた。

 

「本当に、人間なのか」


 驚きながら、パラサイト・インフォを半分手癖で使った。



 ルー

 クラス【バーサーカー25】【木こり24】【鉱員28】


 ……。

 …………。

 ………………えー。


 なにこのガチムチなクラス構成!?


 俺の中の女神像が一気に音を立てて崩壊しすぎていきましたとさ。


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