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64,久しぶりの世界

 散々俺の体をガラガラみたいに揺らしたあと、ようやく女神ルーは少し落ち着いた。

 息をととのえ、ルーが俺に尋ねる。


「エイシ、一つ聞きたいのだけれど、それって今だけじゃなくて、将来的にも帰れないんじゃないの」

「ええと……いやまあ、その、俺ができないだけで、戻る方法自体はきっとあるよ」

「本当~? たとえば?」


 疑いのまなざしのルーに睨まれながら、俺はしばし考える。


「俺の知る限りでは、召喚された場合魔王を倒すと帰る方法がわかるっていうセオリーが」

「魔王なんて聞いたことないけど、いるの?」

「それは新参者の俺にはわかんないけど」

「おい、エイシー? ……はあ、こうなったら魔王でも作ろうかな」

「いや早まるな、ルー。女神が実は邪神で魔王を裏で操ってたとか結構ありそうで洒落にならないから」

「誰のせいですかねえ? だ、れ、の」


 う。

 そう言われると弱い。


 ……というか、ルーと話してるとシリアスになり辛いんだけど、実際申し訳ない。


「ごめん、ルー。軽い気持ちで使ってこんなことになるとは思わなかった。なんとか調べてみるよ、戻れる方法」 


 俺はまっすぐに頭を下げた。

 しばらくそのままでいると、ルーが肩をとんとんとつっつく。

 顔を上げると、しょうがないなあという笑顔のルーが俺を見つめている。


「まあ、いいよ。私もエイシを無理矢理この世界に呼んだし、おあいこってことで許してあげる。まあ別に慌てて帰る必要も無いし、何も急いで調べる必要もないさ。久しぶりの地上、見物するのも悪くないかもねー」


 ルーは俺から手を離すと、うーんと伸びをする。

 風を受けてさらさらと桃色の髪が揺れる。

 どうやら許してもらえたらし――。


「ふん!」


 その刹那、ルーの拳が俺のみぞおちに向かって繰り出された。


「うお!」


 だが俺は超反応し、それを手のひらで受け止める。


「な、何するんだいきなり!」

「あー! なんで止めるの。このパンチ一発で全部チャラにしてあげるっていう流れじゃない、今のは!」


 ルーは俺の手のひらの中の拳にぐいぐいと力を込める。

 必要以上に強い力に俺は本気で止める。


「いやおかしいだろ! お互い無理矢理呼び寄せたからおあいこだねって話なんだからそれやられたら俺殴られ損だろうと」

「神と人だから重みが違うの。拳の重み分ね」

「それはそれで軽すぎると思います、神と人の違いが」


 にらみ合う俺たち。

 やがてルーは手を引っ込めると、はあと一つ嘆息した。


「やれやれ。エイシにも困ったものだよ。風流がないんだから。さてさて、それじゃあ案内してもらおうかな」

「案内って?」

「地上をだよ。久しぶりだから楽しみってのは嘘でも冗談でもなく本当。しばらく満喫させてもらうから」


 今度は拳を俺の顔の前に伸ばしてくる。

 俺もそれに拳を合わせると、にっとルーは笑った。


「よろしく、エイシ」


 なんか妙な感じだけど、まあ、俺も無理矢理来させられたこの世界結構楽しめてるし、なんとかなるさ、多分。




 というわけで、俺は久々にルーと再会したわけだが、まさかこんなスキルがあるとは、本当驚きだね。

 異世界に召喚されるんじゃなく異世界で召喚することになるとは。


 ま互い様ってことで、仲良く前向きに楽しもうとポジティブすぎる結論に達したルーと俺は、ローレルそばの草原を前に向かって歩いている。

 ルーは呼び出されたときの慌てっぷりはどこへやら、むしろテンション高く、草を引っ張ったり、花の香りをかいだり、虫を追いかけたりして草原を凄い満喫してる。

 

 思いかえしてみれば、あの神のいる場所は真っ白で味気ない場所だった。ずっとあそこにいると、こういうところが面白く感じるんだろうな。


「見てみてエイシー、大きいトンボが!」

「はいはい……ってでかっ!」


 ルーが草むらを揺らすと70cmくらいあるトンボが飛び立っていった。

 そうだ、異世界トンボはどでかいのだった。


 そんな風にはしゃぎながら草原から町へと向かって歩いて行き、町にたどり着いてからは、俺はルーと一緒に町をまわって歩いた。


 ルーは草原以上に目を輝かせて町を見てまわっていた。

 特に神殿に行った時は、自分の像を見てにやにやしていた。参拝に来ていた人に向かってさりげなく存在をアピールしていたけど、残念ながら本人だとは思われてなかったね。そりゃ普通はそっくりさんだとしか思わない。


 そんなこともありつつ、ぐるっと俺たちは町を一周した。

 ルーは満足げに俺に話しかける。


「いいね、いいね。来てみると楽しいもんじゃない、ぐっじょぶだよエイシ」

「喜んで貰えて幸いです」


 これは実際本心。

 無理矢理呼んじゃって、辛い辛いと思われたら申し訳ないからなあ。

 ルーも同じ気持ちだったのかな、俺を送り出したとき。


 そんなことを思っていると、日も暮れてきたので、俺たちはひとまず俺の世話になっている宿で休憩することにし、ルーを俺の泊まっている宿に招いた。


「今日は私はここで寝ればいい感じ? ベッド一つしかないけど」

「さすがにそれはまずいでしょ。部屋は空きがあるみたいだからそっちで寝てルーは」

「りょうかい。でも宿代どうする?」


 そう、その問題がある。

 着の身着のままといっていたとおり、ルーは何も持ち物を持っていない。俺に最初に渡したように色々なものを所持はしているらしいのだが、身にはつけていなかったので、こちらに持ち込めたのは服だけなのだ。


「とりあえず、これで」


 俺はスペースバッグから、貨幣をざらりと取り出した。

 金貨や光銀貨など、色々な種類の貨幣がベッドの上に小山を作った。


「おおー」


 ルーの目が輝く。

 さすが神様、賽銭には敏感だ。


「これくれるの?」

「うん。何も持ってないんじゃ困るだろうし、俺はまあ結構あるというか、勝手に増えてくから。これを自由に使ってくれ」

「つまり……手切れ金ね、やらしい男だ」

「違うわ! いらないならしまいます」


 と金貨に手を伸ばした瞬間、猛スピードでルーが俺の腕をつかむ。


「ごほん。信者からの供え物を遠慮しては可哀想だから、きっちり全部もらっておこう。覚えておくぞ、君の信心」


 そしてルーは、貨幣をかき集め、俺たちは宿の食堂へと夕食を食べにおりていくのだった。


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