62,帰還
「すまな、かった」
グラエルが腰を深く曲げ、頭を下げた。
マリエは驚いた顔で固まっている。
俺とコールとグラエルが来ているのは、俺の泊まっている宿。
そう、畑のことをマリエと宿の親父に謝罪させているのだ。
グラエルは、素直に頭を下げた。
今回の失敗でさすがに反省したのか、それとも俺とコールがにらみをきかせているからかはわからないが、ともかく、頭を下げさせた。
「あの、その。もういい、です。謝ってくれれば、それで。畑は元に戻しましたし、野菜は、また世話をすれば育ちますから」
「もっと責めてもいいんだよ、マリエちゃん。それくらいしてもバチはあたらない」
俺が隣で言うが、マリエは首を振る。
この子、聖女だ。
しばらく頭を下げ続けていたグラエルは、マリエに促されて顔を上げると、力なく畑を宿を去って行った。
まあ、少しは溜飲がおりた。
あの虚栄心の塊に頭を下げさせることができたのだからな。
あとは規定の処罰を受けることになるだろう。これ以上は俺の関する所じゃない。
少しコールと宿の親父が話をしたあとに俺はコールを宿の外まで見送る。
外で待たされていたグラエルに、宿を出たコールが言った。
「今回のこと、全てが己の手の内にあると考えた傲慢さにあると心得よ、グラエル殿。どのような罰が下されたとしても真摯に受け止めるのだ」
「……はい」
グラエルは力なく頷く。
コールはその様子をため息をつきながら見ると、続ける。
「エイシ殿に感謝するのだな。エイシ殿のおかげで、被害が町に及ばずに済んだ。もし町に被害が出ていたら、知り合いではあるが、この町に封ぜられているものとして、君の命に決断を下さねばならなかっただろう」
「……すまなかった」
俺に向かって放たれたその言葉が本音かどうか、知る術はない。
そしてうなだれるグラエルとともに、コールと付き人は宿から去って行った。
グラエルは、これから処遇が決まるまで拘置されることとなる。
それからは事後処理が行われた。
けが人の治療や、残っているモンスターがいないか森を見回ったり、今回の事件の真相の調査で神殿や神官に手が入ったり、あれやこれやと行われた。もちろん俺も手をかした。
それらが一段落すると、コールは今回大きな働きをした冒険者達をねぎらうための夕食会を催した。
それも事後処理のうちの一つと言えるかも知れない。
俺も当然参加をしたんだけど、いや-、美味しいものをたっぷり食べられて満足です。ミミィやゲオルグやヴェールも来てたし、楽しい時間を過ごすことが出来た。
さすがコールがセッティングをしてくれただけあり、それは豪華なものだったよ。
そうして楽しい時間はすぐに過ぎた。
俺はパーティ会場から帰ろうとしていた、その帰り際。
「エイシ様、パーティは楽しみましたか?」
アリーに声をかけられた。
ホールを出る少し前のところで。
「うん、最高だったよ。料理もおいしかったし、音楽の演奏まであったしね。あれよかったな、最近聞くことがなかったから」
「ええ、本当に素晴らしい演奏でした。エイシ様が楽しめたなら、よかったです」
アリーはにこりと上品にほほえむ。
日常感が戻ってきて、なんかほっとするな。
……あ、日常と言えば。
「そういえば、ドレスとかじゃなかったんだね。ちょっと意外」
「今日は私は、貴族ではなく町を守った冒険者としての参加ですから。皆様と同じ」
「なるほど。ドレスもちょっと見てみたいかも」
「本当ですか?」
アリーが目を輝かせ、俺に一歩ずいと近づく。
「それなら、いつでもご覧に入れます。ネマンにきていただければ、家にはいくつもありますから」
「へえ、楽しみにしておくよ。また色々なところに行きたいと思ってるし」
「はい! 是非いらしてください私の生まれ育った町にも」
「おお、エイシ殿。アリーもいるか」
とそのとき、コールが声をかけてきた。
こちらは正装をしている。人のいいおっちゃんって普段は思うけど、こういう格好をしていると、やはり貫禄があるなと思わされるね。
「コールさん。ありがとうございます、こんないいパーティを」
「いやいや、君のしたことに比べれば些細なことだよ。本当に、ありがとう。エイシ殿のおかげで、町を守ることができた。あらためて礼を言わせてくれ」
コールは俺の手をがっしりと握る。
俺も強く握り返した。
「それにしてもエイシ君、腕が立つだけでなく、事件や不正も見抜く力があるとはたいしたものだ。しかも、今回のような町の危機に備え冒険者達をひそかに成長させていたとか。まったく、頭が下がるよ」
なんか事実化してる!?
「いや全然そんなことないです、たまたま一緒に依頼を受けただけで……」
「またまた謙遜をして。そんな偶然がそうそうあるものか」
それがあるんだよなあ。
しかしパラサイトのためというわけにもいかないし、まあそういうことにしておくしかないね。
「並の冒険者と違い、ギルドや町全体のことを考えられる。……エイシ君には冒険者もいいが、この国のためにその力を発揮してもらいたくもあるな。どうかね? 騎士団とか興味ないかい?」
え。
と思っていると、コールが俺に顔を寄せてくる。
「いや、僕はただの旅人ですのでそういうのはちょっと無理かなあ……と」
「そんな謙遜しなくてもいいじゃないか、もう実力は皆が知るところなのだから。君なら貴族と同様の地位や権限が与えられてしかるべきだよ。その慧眼、実力、実績、全てにおいて」
コールは真顔でそんなことを言ってくる。
勘弁してくれ、俺には絶対向かない。
それに過大評価です、間違いなく。
「とはいえ……なかなか簡単にはなるのは難しいだろうな、貴族には。実力的には十分でも、なかなか実力がそのまま地位に反映されないのが世の中だ。すぐなれるとしたら……そうだ、結婚する予定はないかい?」
「へ?」
「君は年齢的にも悪くない。貴族の家に婿入りして家を継げば、お手軽に貴族の仲間入りだ。おお! これでバッチリ問題ないではないか。はっはっは」
なんということを言い出すんだこのおっさんは。
婿入りして相手の家族と一緒に暮らすなんてコミュ力を要求されること俺に出来るはずないじゃないか。
しかも貴族とか、なんか色々面倒な仕事も私生活も多そうだし、俺は自由に静かにくらしたいんだ。
「伯父様、な、なにを突然言っているのです」
無理無理と思っている俺の横で、アリーが慌てた様子でまくし立てはじめていた。
「いくらなんでも気が早すぎます、私もさすがにまだ心の準備が――」
「なぜアリーが慌てているのだ? 別にデュオ家の話をしていたわけではないぞ。一般論で語っていただけだ」
「はっ……! は、あぅ」
アリーは言葉にならない謎の音声を出すと、アルコールでほんのり赤くなっていた顔をさらに赤くし、機能停止した。
俺とコールはそろって笑い声を上げる。
妙な勘違いをするな、アリーは。結構おっちょこちょいなところあるよね。
ともあれ、俺はまだそんなことを考えるには早すぎる、自分には自由なのがあっていると言い、二人に別れを告げ会場をあとにした。
そして俺は自分の部屋へと帰っていく。
その途中、夜道に見慣れた表示があらわれる。
パラサイト【36→38】スキル【クインティプルパラサイト】取得。
おお、久しぶりにパラサイト系のスキル覚えたな。スキル名的に、これからはパラサイトを五人同時にできそうだ。
今回はがっつり経験値獲得したからな~。
俺自身も戦ったし、寄生してる人達もたっぷり強敵と戦った。
これで、いっそうますます寄生が捗るってものよ。
そんなことを考えているうちに宿に到着。
そして俺は、いつもの自分の部屋の扉を開いた。